犬の老衰・老化のサインや症状は? 対応策や安楽死の考え方を獣医が解説

犬と暮らしていれば必ずやって来る「老化」。子どものように思っていた我が子(愛犬)も、いつの間にか飼い主の年齢を追い越して……。できれば健康に過ごし、苦しまず寿命を全うして眠るように最期を迎えてほしい。家族であれば誰もが願うことです。しかし、実際には病魔や老化による身体の不調を避けて通ることは簡単ではありません。いざという時に慌てないためにも、心の準備をし必要な事を知識として覚えておくと安心です。今回は犬の老化・老衰のサインや症状・対応策について、ペットの往診・在宅ケア専門サービス「にくきゅう」代表で獣医師の立石が解説します。

犬の老化(老衰)のサイン

犬が年を取ると、睡眠時間が長くなったり、散歩を嫌がるようになったりといった日常的な変化から、白髪が増えたり、口臭が強くなったりといった身体的な変化まで、さまざまなサインが出てくるようになります。飼い主さんは、それが正常な老化なのか、病気によるものなのか、早く気付けるように愛犬をよく観察してあげてください。

犬の老化のチェックポイント

犬の老化のチェックポイント

それでは犬の老化の代表的な症状を紹介していきます。

食事量は減っているのに、太りやすくなった

老犬の体重増加の原因として、食事量と運動量の低下のバランスがとれていないことと、身体の代謝が落ちているために痩せにくくなっていることが考えられます。

甲状腺機能低下症
特に去勢済みのオスの老犬に多いのが「甲状腺機能低下症」です。代謝が極端に落ちる病気で、太りやすく痩せにくくなります。病気によって活発さが無くなるので歳のせいと思われがちですが、短期間で体重が増加した場合は病気を疑ってください。この病気は治療によって改善できる可能性がありますので、早く気付いてあげることが重要です。

ドーベルマンなど一部の犬種では、身体がむくんでブヨブヨするため太っているように見える症状「粘液水腫」が出ることがあります。これは昏睡状態から死に至る恐ろしい病態ですので、早期発見・早期治療が必要です。皮膚の代謝にも異常が出るため、脱毛や皮膚の黒ずみ、かゆみ、皮膚炎などが起こりやすくなり、老化による免疫力の低下が加わると、ニキビダニ症などを併発することがあります。

若い頃と比べて、明らかに寝ている時間が長くなった

人間も年を取ると1年があっという間に感じますよね? 犬も年を重ねると周りの刺激に対して新鮮さを感じなくなり、興味を示さなくなっていきます。また疲れやすくなり、関節の痛みや動くことで苦痛を感じるような身体の病気があると動くことを避けるようになるため、結果として寝てばかりになると考えられます。

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「遊んで!」とキラキラした目で見上げる仕草が減った

新しいものに対して興味が薄れると同時に、体力の低下や運動するのがつらいなどの症状があれば、遊ぶことに消極的になるのは当然です。また、白内障や核硬化症など、眼が白く濁ったようになる病気は老化とともに多くなります。視力の低下よりも眼の輝きや表情の変化の方が、飼い主は気付きやすいかもしれません。

散歩時の歩くペースが遅くなった

体力の低下から、動きが鈍くなっていると思われます。また、関節炎や靭帯の異常から、歩くことで痛みを感じている可能性もあります。早い段階で発見できれば、サプリメントや体重管理などで状態の悪化を先延ばしできるかもしれません。

急に触られて驚く、呼びかけに反応しない回数が増えてきた

犬の聴覚は人間の4倍以上と言われています。また、人間よりも多方向からの音を感知することができます。年を取ると、この感覚は衰え、音に気が付かなくなっていきます。視力も同時期に衰えていくため、急に触られるとびっくりして、時には攻撃的になることもあるので注意が必要です。触るときには必ず、「声掛けをする」「視界に入るように近づく」などの配慮をしてあげましょう。

新しい物に対しての警戒心が強くなった、あるいは興味を示さなくなった

老化により興味を示さなくなることが増える一方、今までとは違う感覚に慣れることが困難になるため、知らないものに対して異常に警戒し、吠えたり怖がったりするようになることもあります。性格によって真逆の反応になるので、元々の性格がどちらなのか、その変化に気付くことが大切です。無関心であれば害はないのですが、恐怖心を抱いているようであれば、刺激を避け、穏やかに過ごせるよう気遣ってあげてください。

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好きな物は食べるが、選り好みして食べる総量が減った

人間だって、食欲が無い時でも好きな物なら少しくらい食べられますよね。ワンちゃんも何らかの体調不良で食欲が無い時は、好きな物や匂いの強い物なら口にする傾向があります。ただのワガママと見分けるのは難しいかもしれませんが、食べる量や仕草をよく観察していると、どちらなのかわかることもあります。老犬の場合、消化管の衰えや活動量の低下から身体が要求する食事量は減っていくことが一般的です。急に食べなくなった時は病気を疑った方がいいと思いますが、年単位で少しずつ減っていくようなら、老化のサインかもしれません。

口臭がひどくなる

年とともに歯周病で口が痛くて食べられないことも増えていきます。当然、口臭もきつくなりますし、痛みから口を触られるのを嫌がるようになります。歯磨きの習慣は若い頃からの積み重ねが大切です。まして痛みが出てからでは、触ることすらできなくなる可能性が高いです。歯石や歯垢の除去などのクリーニングは老齢になる前から定期的に行うことが重要です。

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犬の平均寿命

犬の平均寿命

アニコム損害保険の調査によると、犬の平均寿命は13.7歳でした。一般的に、大型になるほど寿命が短いと言われています。これには所説あり、犬種によってもバラつきがあるのでハッキリしたことは言えませんが、小型犬の方が長いのは室内犬が多いため、異常や病気のサインに気付きやすいということも考えられます。特に大型犬では、高齢になって寝たきりの状態になった際は、体重の負担から内臓の血流が悪くなりやすく、余命が短くなる傾向が強いよう思います。床ずれなども体重が重いほうができやすく、痛みなどで食欲が落ちる場合は体力の低下も早めてしまいます。

犬が老衰死する前の症状・対応

近年、人間の老衰(虚弱)を意味する言葉として、「フレイル」が使われるようになってきました。日本老年医学会の提言によると、フレイルは以下のように説明されています。

高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態で、筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなる

Frailtyの日本語訳についてこれまで「虚弱」が使われているが、「老衰」、「衰弱」、「脆弱」といった日本語訳も使われることがあり、“加齢に伴って不可逆的に老い衰えた状態”といった印象を与えてきた。しかしながら、Frailty には、しかるべき介入により再び健常な状態に戻るという可逆性が包含されている。従って、Frailty に陥った高齢者を早期に発見し、適切な介入をすることにより、生活機能の維持・向上を図ることが期待される。

つまり高齢期に何らかの慢性疾患になり、その悪化によって死を迎えた場合は老衰とは定義されないようです。老衰死する間際の症状としては、病気にかかったような目立った症状は無く、強いて言うなら

  • 寝ている時間が長くなり、呼吸が弱くなる
  • 食が細くなり、それに伴って排泄量(尿、便)が少なくなる
  • 意識がもうろうとしている時間が頻繁に訪れる

といった状態が見られます。飼い主さんであれば、この状況になるまでに、徐々に体重が減り、痩せて活動量も減っていく様子に気が付いていると思います。フレイルの説明にもありましたが、その段階であれば、できるだけ食べやすい形状の食事を人肌程度に温めて口元に運んであげたり、排泄場所に連れて行ってあげたり、といった介護をすることで、愛犬のQOL(Quality of life)を向上させることができます。

しかし老衰死する間際になると、

  • 床ずれが出来ないように体勢をこまめに変える
  • 身体を起こした状態で、匂いが立つように温めた食事や水分をスポイトで口に少量入れてみる(ただし、意識が無い場合は窒息の恐れがあるため、避けた方が安全)
  • 身体をさする、話しかける、など、意識が遠のくのを防ぐ

など、できることは限られてきてしまいます。この場合は、限られた時間をどう過ごすのか、最期の時をどう迎えるのかを考えながら、できるだけそばにいてあげられるよう家族で話し合って協力することが大切です。

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安楽死という選択

日本においては、老衰であれば安楽死という選択はされないのが一般的だと思います。前述した通り、老衰の場合、生命の機能が低下することで本人が苦しむ様子はあまり見られないからです。海外では、安楽死は飼い主の責任として受け入れられている場合もあるようですが、日本では倫理的に受け入れられていません。

獣医師の間でも、「安楽死は絶対にしない」と決めている先生もいらっしゃいます。飼い主さんの希望があっても実施されない事もあります。ただ、安楽死をする獣医師が冷酷なわけではなく、どちらが良い悪いという問題ではないと思います。獣医師の立場から安楽死を提案することで、気持ちが楽になったという飼い主さんもいれば、傷ついたり憤慨したりする方もいます。

一つ言えることは、飼い主さんと獣医師の双方が納得して安楽死が実施されるケースは、以下の条件を満たしている場合のみであるということです。

  • 動物が生きることに苦しみや激しい痛みを感じており、それを回避する方法が無いこと
  • 飼い主である家族全員の同意が得られていること

苦しんでいる我が子を前に、何もしてあげられないことほど、心苦しいことはありません。安楽死という選択死は最終手段だとしても、本当にそれで良かったと納得ができるかどうかは別問題だと思います。「最期は苦痛なく逝かせてあげたい」という思いから安楽死を選択することはあると思いますが、本当にそれがベストな選択だったかは、犬本人が語らない限り、誰にも決められないことだと思います。また動物を愛しているからこそ獣医師になった人間にとって、その手段がどれだけつらく、無力感に満ちた行為であるか、理解していただけると幸いです。

愛犬にとっての幸せとは

命にはいずれ終わりがやってきます。だからこそ、生きている一日一日を充実させることが一番です。

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  • 愛犬はいま何を望んでいるのか?
  • 愛犬にいま必要なのは何か?

最善の選択ができるのは、飼い主だけです。どんな選択をしたとしても、共に過ごした時間を笑顔で思い出してあげられることが、愛犬にとって最大の喜びであることを忘れないでください。

Spcial Thanks:獣医師として、女性として、 両立を頑張っているあなたと【女性獣医師ネットワーク

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