猫のアレルギー検査|メリット・デメリットを栄養管理士が解説【獣医師監修】
猫の飼い主さんの中には、愛猫のキャットフード選びでアレルギーの心配をされる方が多いと思います。「症状が出る前にアレルギー検査を」と考える方もいると思いますが、検査は使い方次第でメリットにもデメリットにもなります。今回は獣医師監修のもとアレルギー検査でわかることや、正しい使い方についてペット栄養管理士が解説します。
猫もアレルギー検査を受けたほうが良い?
結論から先に言うと、アレルギー症状が出ていない健康な猫がアレルギー検査をすることにはあまり意味がありません。逆にデメリットのほうが大きくなってしまう可能性があります。例えば検査を受けて陽性反応が出た場合、飼い主さんとしてはどうでしょうか? 症状が無くても「牛肉のごはんは避けたほうがいいのかな……」と思うはずです。
実際、何か症状が出たことも獣医師から止められたこともないのに、「うちの子は◯◯アレルギーだから」と怪しい食材をすべて避けて「食べさせるものがない……」と悩む飼い主さんは珍しくありません。愛猫の食事の選択肢を狭めてしまうことになりますので、アレルギー検査はやる意味を理解して受けるようにしましょう。
猫でよく見られるアレルギー症状
- 体の痒みや赤み(耳、目、口の周り、首、足、お腹など)
- 嘔吐
- 下痢
- 発疹
- 脱毛
猫のアレルギーとは
そもそもアレルギーとは、免疫機能が過剰に働くことを意味します。みなさんの中にも、毎年、花粉症で悩んでいる方が多いと思います。実は僕も、ちょっと前にダニのアレルギーを発症して全身真っ赤になるという酷い思いをしました。
アレルギーを起こす物質は「アレルゲン」と呼ばれ、大きく「環境アレルゲン」「食物アレルゲン」の二つにわけられます。
環境アレルゲン
ハウスダスト、花粉(スギ、ヒノキ、ヨモギ、ブタクサなど)、ダニ、ゴキブリ、ラテックス(ゴム)、マラセチア(真菌)など。食物アレルゲン
牛肉、豚肉、鶏肉、鹿肉、卵、ミルク、大豆、コーン、小麦、魚、玄米など。※穀物が他の食材と比べてアレルギーになりやすいという科学的な根拠はありません。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
アレルギー反応が起こると皮膚疾患や下痢・嘔吐などの消化器疾患が生じます。まれですが、ワクチン接種ではアナフィラキシーが起こって死に至ることもあります。
猫にアレルギー症状が出る理由
アレルギー症状は何か一つの「アレルゲン」によって発症してると思われがちですが、実は「環境」や「体質」も含めた3つの要素が重なり合った結果として発症します。環境というのは、大気汚染や化学物質の皮膚への付着や食事からの摂取が挙げられます。居住環境や衛生環境も含まれ、近年私たちのアレルギー症状が増加している原因の一つに、大気汚染など環境悪化が関係していると考えられています。
また、猫もアレルギーを発症しやすい体質の子とそうでない子がいます。遺伝的な場合もありますし、後天的な場合もあります。例えば、人の場合では赤ちゃんの頃に衛生的すぎる環境にいた子は大人になってからアレルギーを発症しやすいことがわかっています。
アレルギーコップ説
アレルギーは何か一つの原因で発症するものではなく、- アレルゲン
- 環境
- 体質
アレルギー発症のメカニズムを説明するのによく用いられるのが「アレルギーコップ説」というものです。体をコップに例え、そこに先ほどの要素が水として注がれていきます。そしてコップから水が溢れたとき、アレルギーが発症するという考え方です。
アレルギーを発症しやすい猫とそうでない猫がいるのは、体質が大きく影響しています。アレルギー体質の猫はコップに水が入った状態からスタートし、環境やアレルゲンなどの要素が注がれていきますので、アレルギー体質でない猫と比べてコップがいっぱいになりやすいのです。
猫のアレルギー検査とは
アレルゲンは何十種類もありますので、何が愛猫にとってのアレルゲンなのかを知るためには、アレルギー検査をする必要があります。アレルギー検査と一言で言っても、調べる種類や調べ方によって種類があります。
猫のアレルギー検査の種類
アレルギー検査には主に3つの種類があります。- 特異的IgE抗体検査
- 非特異的IgE抗体検査
- リンパ球反応検査
猫のアレルギー検査のやり方・期間
アレルギー検査は採血をして、血液検査によって行われます。専門機関に送られて検査をしますので、結果がわかるのは1〜2週間後です。猫のアレルギー検査の値段・費用
アレルギー検査はの値段や費用は、「検査の種類」や「調べるアレルゲンの種類」、によって変わります。動物病院によっても異なりますが、1〜3万円ほどで行われています。ペット保険は治療の一環で行われる場合に適用されるのが一般的です。特にアレルギー症状が見られない猫を検査する場合、保険は適用されません。保険会社によっても条件が異なりますので、事前に確認するようにしましょう。
猫のアレルギー検査のメリット・デメリット
アレルギー検査はアレルギー症状の治療をする際に有効です。メリット・デメリットがありますので、それぞれ説明します。
猫のアレルギー検査のメリット
アレルギー症状が出た場合、問題になるのは「原因が何か」です。いつもと違う食べ物を食べたり引っ越しをしたりなど、明らかな変化があれば原因は見つけやすくなります。しかし慢性的に出ている症状であれば、何が原因なのか特定するのは難しいでしょう。そこでアレルギー検査を手がかりにすることができます。特に環境アレルゲンの陽性反応は信頼性が高いと考えられています。
猫のアレルギー検査のデメリット
アレルギー検査は手がかりをみつけるためのものです。アレルギー検査で原因を特定することはできません。特に食物アレルゲンの結果は信頼性が低いと考えられており、陽性反応が出ても症状が全く出ない場合があります。飼い主さんの中には「アレルギー検査で◯◯が陽性だったから◯◯は食べさせない」という方がいますが、本当に食べていけないのかは、食べさせてみないとわかりません。症状が出ていないのであれば、少しずつ食べさせながら様子を見るようにしてください。
アレルギー検査は、「食べてはいけないものを見つける検査」ではなく、「注意すべき食材の優先順位を決めるための検査」と考えていただくのがいいと思います。
猫のアレルギー症状の治療法・対処法
アレルギー症状の治療法や対処法として、薬を使った治療や、アレルゲンを全てもしくは一部除去する方法、慣れてしまう方法(減感作療法)などがあります。花粉症の方はイメージしやすいかと思います。ここで思い出していただきたいのが、先ほどのアレルギーコップ説です。アレルゲンを除去してしまえば水はこぼれなくなると思いますが、別の水を減らすことでもこぼれなくなることにお気づきでしょうか。
例えば都会に住む花粉症の人が山に遊びに行ったとき、花粉症が酷くなるどころか逆に楽になることがあります。これは花粉の量が増えても、綺麗な空気や開放感で発症要素が減り、コップ全体では水が減ったためと考えられます(アスファルトが多い都会のほうが花粉が舞いやすいという違いもあります)。
ですから、食物アレルギーの場合はすぐ「除去すればいい」と考えず、
- どれくらいまでなら食べても大丈夫なのか
- 環境や体質を改善できないか
と考えることが大切です。ただし、間違った対処をしてしまい症状が悪化すると大変ですので、獣医師に相談しながら取り組むようにしましょう。
猫のアレルギーの原因を特定する方法
動物病院では、「除去食試験」と「食物負荷試験」が行われます。除去食試験では、アレルギー専用の療法食を用いながらアレルギーを発症しないフードを見つけていきます。問題ないフードが見つかれば、今度はアレルゲンの疑いがある食材を加えて、症状が出るかを確認します。それが食物負荷試験です。これにより、「何をどれくらい食べると症状が出るのか」ということがわかり、逆に言うと「どれくらいまでなら食べても大丈夫なのか」ということもわかるようになります。全く食べさせないようにしていたけど、実は少量であれば食べても大丈夫だったということは珍しくありません。
猫のアレルギーが気になる場合のキャットフード選び
キャットフードを選ぶ際にアレルギーが気になる飼い主さんも多いと思いますが、特に症状が出ていないのであれば気にせず与えて大丈夫です。アレルギー症状が出て食べ物が疑わしい場合は、アレルギー検査や食物負荷試験を受けて原因を特定するのが一つの解決策になります。まとめ
アレルギー検査は症状が出ている猫が受けるもの
「陽性だったから食べさせない」は正しい使い方ではない
原因の除去だけでなく環境、体質の見直しで改善することも
症状が出ていないのに「◯◯はアレルギーだから」と決めつけてしまうと、愛猫の食事の選択肢を狭めてしまいかねません。本当に食べてはいけないのか、どれくらいまで食べて大丈夫なのか、飼い主さんがしっかり判断して愛猫の食生活をより良いものにしてあげてください。
気になることがあれば専門家に聞いてみよう!
Instagramのペトコトフーズアカウント(@petokotofoods)では、獣医師やペット栄養管理士が出演する「食のお悩み相談会」を定期開催しています。愛犬のごはんについて気になることがある方は、ぜひご参加ください。
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この記事を監修している専門家
佐藤貴紀獣医師
獣医循環器学会認定医獣医師(VETICAL動物病院 / オンライン診療)、タイバンコクにあるSOMA VET Clinicにおいて循環器疾患の監修。東京都獣医師会理事。獣医循環器学会認定医。株式会社PETOKOTO取締役副社長CVO(Chief veterinary officer)兼 獣医師。「一生のかかりつけの医師」を推奨するとともに、専門分野治療、予防医療に力をいれている。