【獣医師執筆】犬にとってグレインフリーフードは心臓病のリスクに?メリット・デメリットを解説
グレインフリーとは「穀物不使用」のことで、ドッグフードやキャットフードで流行していました。最近では穀物アレルギーがない限りメリットはないとされ、心臓病のリスクを高めるのではないかというデメリットが指摘されています。グルテンフリーとの違いも踏まえ、獣医師の佐藤が解説します。
グレインフリーとは
グレインフリーのグレイン(grain)とは「穀物」のことで、グレインフリーは「穀物不使用」を意味します。穀物の定義はさまざまありますがイネ科に属する稲、小麦、トウモロコシや、雑穀と呼ばれるヒエ、アワ、キビを指すことが一般的です。広義ではソバやマメ科植物を含むこともあります。
例えば「ペトコトフーズ」の場合、チキンとフィッシュには穀物が含まれないため(結果的に)グレインフリーですが、ビーフとポークにはお米が含まれるためグレインフリーではありません。
日本では2014年頃から「グレインフリー」という言葉が広がり始め、2018年頃からグレインフリーのドッグフードやキャットフードが数多く市販されるようになりました。
グレインとグルテンの違い
良く混同されがちな言葉にグルテンがあります。グレインと似た言葉に「グルテン」(gluten)がありますが、グルテンは小麦に含まれる「グルテニン」と「グリアジン」というタンパク質が絡み合ってできたものです。パンやうどんをこねるとモチモチした生地ができるのは、グルテンができているためです。グルテンは「セリアック病」という遺伝性の不耐症を起こしたり、犬でもアイリッシュセッターがセリアック病と似たグルテン過敏症を起こすことが知られています。グルテンを避けると結果的に糖質を避ける「糖質制限」になることから、人間ではグルテンフリーダイエットが流行ったこともあります。
犬や猫はグレインを消化できる?
グレインフリーのペットフードが注目される理由の一つとして、「犬や猫は穀物を消化するのが苦手だから」と言われることがあります。確かに犬はもともと肉食でしたし(※1)、猫は現在も肉食です。実際、生米を漁った犬が下痢をしたという話も珍しくありません。
しかし、生米が消化に悪いのは犬だけでなく人でも同じ。米や小麦に含まれるデンプンは、水と熱を加えることで構造が崩れて消化性が高まります。これをα化(あるふぁか)と言い、犬もα化されていればデンプンを消化でき、実際にα化されたデンプンを含むフードを100%消化できていたという研究結果もあります(※2)。そのため、 穀物は消化しづらいから肉メインでごはんを選びましょうというのは間違いで、家族として私たち人間と暮らす中で、バランスの取れた食事が大切です。
猫についても同様ですが、肉食の猫にとって消化しやすいものでないのは事実です。総合栄養食の基準値を策定しているAAFCO(米国飼料検査官協会)は炭水化物の基準値を設けていませんが、乾物当たり40%を超えると下痢などの消化不良が起こる可能性があります(※2)。
※1 最近の研究で、犬の祖先であるオオカミは肉だけでなく植物を主食にすることもあることがわかってきました。参照:「オオカミの多彩な食生活、研究者も驚く」(National Geographic)、※2 参照:『小動物の臨床栄養学 第5版』
グレインフリーのドッグフードが市販される理由
グレインフリーのドッグフードが注目されるようになった理由の一つにアレルギーへの不安があるようです。グレイン、つまり穀物がアレルギーを起こしやすいという考えですが、それらの不安には2つの誤解があります。
- アレルギー検査の誤解
- 穀物アレルギーの誤解
1. アレルギー検査の誤解
よく「アレルギー検査で陽性だったから◯◯は食べさせられない」と考える飼い主さんがいますが、「陽性=アレルゲン」ではありませんので、実際にアレルギー症状が出ていなければ避ける必要はありません。食の選択肢を狭めることは飼い主さんにも犬にもストレスになりますし、不必要な除去はアレルギー症状を悪化させる可能性があります。アレルギー検査について、詳しくは関連記事もご覧ください。
※参照:「Does my pet have a food allergy?」(American College of Veterinary Nutrition)
2. 穀物アレルギーの誤解
穀物はアレルギーを起こしやすいイメージを持つ飼い主さんも少なくありませんが、それも誤解です。ドイツ・ミュンヘン大学の調査では、犬のアレルゲン食材として報告が多かったのは牛肉、乳製品、鶏肉と続きました。小麦は4番目、トウモロコシは7番目、米は11番目です。穀物がアレルギーを起こしやすいということはありませんし、前述した通り、アレルギー症状が出ていなければ避ける必要はありません。グレインフリーのドッグフードは、穀物を食べるとアレルギー症状が出る犬のためのフードなのです。
グレインフリードッグフードのメリット
高級路線のドッグフードでは特に「グレインフリー」と書かれることが多く、パッケージだけで比較してしまうとメリットがあるのではと思いがちです。しかし、主なメリットとして挙げられるのは以下の2つです。
- 穀物アレルギーを避けることができる
- 何となく体に良さそうが気がする
1. 穀物アレルギーを避けることができる
穀物を食べるとアレルギー症状が出る犬にとって、グレインフリーは大きなメリットです。ただ、アレルギー症状が出ていないのにアレルギー検査の陽性反応だけで判断したり、飼い主さんの思い込みで穀物アレルギーだと判断したりしないように注意してください。2. 何となく体に良さそうが気がする
これがグレインフリーのドッグフードが売れている大きな要因です。「◯◯フリー」と書かれていると、何となく体に良さそうなイメージがわいてしまうもの。それでもデメリットがなければ問題ありませんが、グレインフリーは危険性が指摘されています。詳しくは後述します。グレインフリーのキャットフードが市販される理由
猫の場合はドッグフードの「アレルギーを避けるため」とは違って、「肉食だから必要ない」という理由でグレインフリーが選ばれるようです。ただ、こちらも誤解があります。グレインフリーにして穀物を避けても、炭水化物は別の食材で配合されているはずだからです。
肉食だからという話であれば炭水化物を抜くべきで、穀物だけを抜く理由にはなりません。猫にとっても効率良くエネルギーを作ることができる糖質は重要ですし、食物繊維は腸内環境を整えてくれます。つまり猫もアレルギー症状が出ていない限り、穀物を抜くメリットは特にないのです。
グレインフリーのデメリット
ドッグフードやキャットフードの中には結果的にグレインフリーになっているものもあり、グレインフリーを食べているから体に良くないということはありません。実際、獣医栄養学の専門医がレシピを作った「ペトコトフーズ」も4種類のメニューのうち2種類は穀物を含まないため結果的にグレインフリーになっています。
しかし、グレインフリーのドッグフードやキャットフードは以下のようなリスクも指摘されています。グレインフリーのフードだけを与え続けている方は注意が必要です。
- 高タンパクになると肝臓や腎臓の負担が増す
- 心臓病との関連性が疑われている
1. 高タンパクになると肝臓や腎臓の負担が増す
犬や猫は摂取したタンパク質をアミノ酸に分解し、肝臓でグルコース、尿素窒素、そしてエネルギーに変換します。さらにタンパク質の老廃物である尿素窒素は、腎臓でろ過します。つまりタンパク質に頼るほど、肝臓や腎臓に負担をかけることになります。また、高タンパクフードは犬の攻撃性を高める可能性があります。体内のアミノ酸濃度が高くなると、セロトニンを作るトリプトファンが脳内に入るのを邪魔します。セロトニンは精神安定に深く関わっており、不足するとイライラ感につながってしまうのです(※)。
※参照:水越美奈『食と問題行動』(ペット栄養学会誌)
2. 心臓病との関連性が疑われている
2019年、アメリカの食品医薬品局(FDA)が、グレインフリーのドッグフードを食べている犬は心臓病の一種である拡張型心筋になりやすい可能性があると発表しました。カリフォルニア大学デービス校からは、タウリンの欠乏が関係しているのではないかとする研究が出ています(※1)。アメリカの科学ニュースサイト「RealClearScience」は、2019年最大のジャンクサイエンス(エセ科学)としてグレインフリードッグフードを挙げ、「グレインフリードッグフードは犬を殺すかもしれない」と紹介しています(※2)。
2022年にはミズーリ大学から「グレインフリードッグフードの市場拡大と心臓病の犬の数に相関関係は見られなかった」という調査報告が出されましたが、グレインフリーと心臓病は関係ないという結論には至っていません(※3)。
※参照1:「Taurine deficiency and dilated cardiomyopathy in golden retrievers fed commercial diets(UC Davis)、参照2:「The Biggest Junk Science of 2019」(RealClearScience)、参照3:「Incidence of Canine Dilated Cardiomyopathy Diagnosed at Referral Institutes and Grain-Free Pet Food Store Sales: A Retrospective Survey」(Frontiers in Animal Science)
【動画解説】ドッグフードの選び方
YouTubeのペトコトチャンネルでは、獣医師の佐藤先生がドッグフードの選び方について解説した動画を公開しています。あわせてご覧ください。犬のごはんと聞いて「カリカリ」と呼ばれる茶色い豆粒を想像される方も多いと思いますが、正しくは「ドライフード」と呼ばれる加工食品です。保存しやすく食いつきも良いことから犬のごはんとして一般的になりましたが、高温加熱によって食材本来の栄養が失われ、添加物も多く含まれることから見直しが進んでいます。
そこで生まれたのが素材本来の旨味や香りが楽しめ、余計な添加物も入っていない「フレッシュフード」と呼ばれる新鮮なごはんです。ペトコトフーズもその一つで、総合栄養食として子犬からシニア犬(老犬)まで毎日のごはんにすることができます。グレインを気にされる方はチキンとフィッシュに穀物は使用していないので、ぜひお試しください。
ペトコトフーズの公式HPを見る
気になることがあれば専門家に相談しよう!
ペトコトフーズのInstagramアカウント(@petokotofoods)では、獣医師やペット栄養管理士が出演する「食のお悩み相談会」を定期開催しています。愛犬のごはんについて気になることがある方は、ぜひご参加ください。
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