犬の低血糖|症状や対処法を獣医師が解説

犬の低血糖|症状や対処法を獣医師が解説

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犬の低血糖は血液中のブドウ糖が減少して起こる症状です。子犬やトイプードルなどの小型犬に起こりやすく、シニア犬(老犬)の場合は腫瘍や臓器の疾患などの病気が原因になっている場合もあります。放っておくと震えや痙攣を起こし、危険な状態になる可能性があります。今回は犬の低血糖の原因や症状、砂糖水やはちみつを使った家庭でできる一時的な処置について、獣医師の佐藤が解説します。

犬の低血糖とは

寝るダックス

低血糖症は血液中のブドウ糖(グルコース)が減少して血糖値が低下した状態のことで、臨床では珍しくない症状です。ブドウ糖が減少すると神経症状が起こってしまうため注意が必要です。

脳はブドウ糖を作ることも貯めることもできず、常に必要としています。心臓もブドウ糖を多く必要とするため、ブドウ糖が不足した状態を放置してしまうと死に至る可能性もあります。特に生後3カ月までの子犬はブドウ糖を体内に貯蔵する機能が不十分なため、低血糖になりやすく注意が必要です。

犬が低血糖のときの症状

低血糖は緊急性が高いことが多いです。「少し元気がないかな」程度の小さな変化以外は、緊急性が高いと考えた方が良いでしょう。むしろ元気がなくなることで気づくことは少なく、ぐったりしてしまうまでの時間は数分です。血糖値が低くなればなるほど、症状が悪化していくので注意しましょう。

血糖値(基準値:75-128mg/dL)
症状
70mg/dL以下
  • 脈が速くなる
  • 震える
  • 舌が白くなる
  • 元気がない
  • よだれが出る
  • 嘔吐
50mg/dL程度
  • 視力障害
  • 低体温
  • ふらつく
  • 目が見えにくい
50mg/dL以下
  • ぐったりしている
  • 痙攣
  • 意識障害(呼びかけに反応しない)

犬の低血糖の原因

ヨークシャーテリア

犬の低血糖の原因は年齢ごとに異なりますが、子犬に症状が出ることが多いです。低血糖の主な原因として、以下が挙げられます。

  • キシリトールの摂取(エリスリトールは安全)
  • 空腹
  • 感染症(寄生虫、バベシアなど)
  • 糖尿病の犬へのインスリンの過剰投与
  • 栄養吸収障害(消化器疾患、高齢、幼犬などの年齢によるもの)

インスリンなど薬剤は年齢に関係なく原因になることが多いので気をつけましょう。

子犬の低血糖

低血糖は生後3カ月までの子犬で起こりやすいと言われていますが、体が小さい子は1歳くらいまでは気をつけてみてあげる必要があります。子犬の低血糖は体内に蓄えている糖分量が少ないこと、糖新生が未発達なことが原因とされ、特にトイプードルやチワワなどの小型犬は脂肪が少ないため注意が必要です。

子犬の低血糖で特に気をつけるべきことは空腹です。成長期のごはん不足に気をつけましょう。子犬期は2週に1度は体重を量るようにして、しっかり増えていることを確認してください。低血糖の症状は最後の食事から2〜3時間で出る可能性がありますので、量は変えずに回数を増やして空腹の時間を減らすのもいいでしょう。

そのほか「先天性の肝疾患」「寄生虫による吸収不全」「先天性門脈体循環シャント()」などが原因になることがあります。体の冷えによる低体温が起こることで、元気がなくなりより低血糖の症状が出やすくなることもありますので、体温チェックや室温管理にも気をつけましょう。

※先天性門脈体循環シャント:通常、犬の体内で作られた毒素は門脈と呼ばれる血管を通って肝臓に運ばれ、無毒化された血液が全身を巡ります(体循環)。しかし異常血管(シャント)が存在すると毒素が肝臓を通らずに全身を巡り、さまざまな問題が起こってしまいます。


成犬の低血糖

トイプードル

成犬の低血糖で考えられる原因として、以下が挙げられます。

極度の運動(狩猟犬など)

運動量の過多、空腹時の運動が低血糖の原因になる場合もあります。もちろん犬の健康にとって運動は不可欠ですが、犬の体力や食事の状況を踏まえて注意深くみてあげましょう。

腫瘍(肝臓、膵臓)

肝臓や脾臓にできる腫瘍によってインスリンが分泌されすぎてしまい、低血糖になってしまうこともあります。

副腎皮質機能低下症によるホルモンバランスの崩れ

副腎皮質機能低下症は副腎のホルモンが足りなくなる病気です。特にグルココルチコイドというホルモンが足りていない場合、低血糖の症状が起こります。

慢性腎不全

腎臓は不要なものを排出するだけでなく、必要な水分やブドウ糖などを体内に戻す臓器です。腎機能が低下することは低血糖の原因になります。シニア犬(老犬)がかかりやすい病気です。 

敗血症

敗血症は細菌感染などによって体内で細菌が増殖して起こる症状です。悪化して多臓器不全を起こしてしまうと低血糖の症状が現れる場合もあります。

小型犬種

トイプードルやチワワなど小型で脂肪が少ない犬種の場合は成犬であっても低血糖になりやすいです。日頃から食事の量や体温の変化などしっかりみてあげることが大切です。

肝疾患

肝臓は必要な栄養素を貯蔵する器官です。その中にはブドウ糖も含まれており、肝臓に疾患がある場合、必要なブドウ糖を蓄えることができなくなって低血糖になってしまう場合があります。

下垂体機能不全

下垂体とは、脳の中にあるあらゆるホルモンを分泌する器官です。下垂体の機能に不全が起こることによってホルモンバランスが崩れ、低血糖の原因になります。

多血症

多血症は、血液中の赤血球の割合が異常に高くなってしまう病気です。

犬が低血糖のときの対処法

寝るチワワ

犬に低血糖の症状が出たときはすぐに動物病院へいきましょう。病院では病院ではブドウ糖を静脈注射で投与する治療をおこないます。

家庭でできる応急処置

すぐに病院にいけない時は家庭でも砂糖水を与えるなどの一時的処置ができます。砂糖水は砂糖と水の割合を1:4で混ぜて作りましょう。他にもガムシロップやはちみつ(子犬はボツリヌス菌のリスクがあるため与えてはいけません)で代用する方法もあります。

飲まない場合は口の中にすりつけるように与えましょう。その際は誤嚥に注意が必要です。体が冷えているときは温めたり部屋の温度を上げたりしてください。処置によって一時的に良くなっても、必ず病院に行くようにしましょう。


まとめ

ダックスフンドの子犬
低血糖はブドウ糖の減少で起こる症状
低血糖の原因は年齢によって異なる
子犬やトイプードルなどの小型犬種は特に注意が必要
老犬の場合は腫瘍や疾患が原因の場合がある
家庭で砂糖水を作るなどの応急処置もできますが必ず病院へ
犬の低血糖は、特に子犬で注意が必要です。原因は年齢によってさまざまで、脂肪の少ない小型の犬種、トイプードルやチワワなども体内にブドウ糖を蓄えにくいため注意が必要ですが、どんな犬にも起こり得る症状です。シニア犬(老犬)にも起こりやすく、腫瘍や臓器の疾患の可能性もあります。

初期症状は気づきにくい場合があり、日頃から愛犬の行動や体温など細やかにみてあげることが大切です。緊急の場合、家庭でも砂糖水を作って与えるなどの応急処置もできますが、一時的に回復しても安心せずに、必ず病院でみてもらいましょう。

参考文献