犬の膀胱結石|原因や手術など治療法、食事療法について獣医師が解説
犬の膀胱結石は膀胱炎を併発しやすい「ストルバイト結石」や「シュウ酸カルシウム結石」がよく見られ、尿路閉塞に進行して放置すると死に至る可能性があります。手術方法には、開腹手術と腹腔鏡手術があり、メリットデメリットがあります。今回は膀胱結石の原因や対処法、再発防止の食事管理について獣医師の佐藤が解説します。
犬の膀胱結石とは
膀胱結石とは、腎臓から送られた尿を貯める膀胱に石のような塊ができる病気です。石が腎臓(腎盂)にできた場合は「腎結石」、尿管にできた場合は「尿管結石」、尿道にできた場合は「尿道結石」と呼び、腎臓から尿道まで総称して「尿路結石」と呼びます。
膀胱結石になった犬は細菌感染による膀胱炎を併発していることが多く、抗生物質の投与が行われることもあります。再発を防ぐためには、膀胱炎をコントロールすることが重要になります。
好発犬種としてダックスフンドやシーズー、ビションフリーゼ、チワワ、ミニチュアシュナウザー、ヨークシャーテリア、ラブラドールレトリバー、ダルメシアン、キャバリアなどによく見られますが、どの犬種でも起こります。
※参照:『ガイドラインに基づく尿路結石症の診断と治療』(動物臨床医学)
膀胱結石の種類
膀胱結石は結晶化するミネラルによって、以下のような種類があります。- ストルバイト結石
- シュウ酸カルシウム結石
- リン酸カルシウム結石
- シスチン結石
- 尿酸アンモニウム結石
- シリカ結石
犬の膀胱結石の症状
膀胱結石ができると頻尿や血尿、排尿困難の症状が見られます。膀胱内の結石は頻尿につながり、結石が膀胱の内壁を傷つけることで血尿が起こります。結石によって尿道が詰まると膀胱が破裂したり、急性腎不全を起こしたり、水尿管症や水腎症といった腎障害が起こる場合があります。尿路閉塞が生じた場合は、早急に処置を行わなければ死に至る可能性があります。
膀胱結石の犬では以下のような症状が見られます。
- 尿がキラキラする・臭いがする・濁る
- 血尿
- 排尿障害・排尿失敗
- 頻尿
- 陰部を舐める
- 元気がない・食欲不振
- 嘔吐
- 腹痛
犬の膀胱結石の原因
膀胱結石ができる原因は明確になっていないためさまざまな説がありますが、基本的には尿に含まれるミネラルが高濃度になることで結晶化し、徐々に大きくなって塊になると考えられています。結石は数週間でできることもあれば、数カ月かかることもあり、成長速度は食事や細菌感染によるpHの変化に影響を受けます。
ストルバイト結石(リン酸アンモニウムマグネシウム)
通常、犬の尿は弱酸性ですが尿が濃くなったりアルカリ性に傾いたりするとストルバイトの結晶ができやすくなって結石につながります。ストルバイト結石の多くは細菌感染によるもので、膀胱炎を併発していることが少なくありません。尿がアルカリ性に傾くのには、ウレアーゼ産生菌という菌が産生するウレアーゼという酵素が関係しています。ウレアーゼは尿に含まれる尿素を分解してアンモニアを過剰に生成し、そのアンモニアによって尿がアルカリ性に傾くのです。アンモニアは膀胱の炎症にもつながります。
シュウ酸カルシウム結石
シュウ酸カルシウム結石は食事に起因し、ストルバイト結石とは逆で尿のpHが6.5以下の酸性に傾くことで発生しやすくなります。また、抗生物質の過剰投与などで腸内のシュウ酸分解菌オキサロバクター・フォルミゲネスが減少するとシュウ酸カルシウムの結晶ができやすくなります。※参照:「The role of Oxalobacter formigenes colonization in calcium oxalate stone disease」(Kidney International)
犬の膀胱結石の治療法
膀胱結石の中には、触診でわかるものもありますが、小さすぎてわからなかったり、膀胱の炎症で痛みが強く触診ができなかったりする場合もあります。X線(レントゲン)検査でほとんどの膀胱結石が確認できますが、尿酸アンモニウム結石やシスチン結石などX線に反応しないものもあるため、造影検査やCT検査、超音波検査(腎エコー)を併用する場合もあります。
膀胱結石の治療法には大きく分けて以下3つの選択肢があります。
- 開腹手術による除去
- カテーテル・膀胱鏡
- 食事による溶解
1. 開腹手術による除去
一般的に選ばれる手術方法は開腹手術です。手術は全身麻酔のリスクがあるものの、迅速に除去できるのがメリットです。開腹手術の場合は1泊2日の入院が必要です。手術費用は結石のある場所や大きさ、数によって難易度が変わり、病院によっても異なりますが、検査を含めて10〜30万円ほどが目安になります。体への負担がありますので、他に病気がある場合やシニア犬(老犬)の場合は別の方法を検討する場合もあります。他の手術には腹腔鏡(内視鏡)手術があり、腹腔鏡は傷が小さく日帰りも可能なケースがありますが、専門技術が必要で費用も難易度も高くなります。
2. カテーテル・膀胱鏡
膀胱にカテーテルを通して洗い流したり、膀胱鏡と呼ばれる内視鏡を尿道から通して取り除いたりすることができます。外科手術より負担が少なくなりますが、結石が小さい場合に限られます。なお、尿道結石で閉塞した場合はカテーテルを使って水を逆流させて膀胱まで押し戻し、閉塞を解除します。3. 食事療法による溶解
シュウ酸カルシウム結石は食事療法で溶かせませんが、ストルバイト結石で石が小さければ療法食で溶かすことができます。食事療法によって手術をしないで治すことができますが、溶けるのに時間がかかるため血尿や排尿障害が続いたり、感染症や尿道閉塞が起こったりするリスクが伴います。療法食は結晶化を防ぐために「尿を弱酸性(pH6.5未満)にする」「石の成分になるタンパク質やリン、マグネシウムを制限する」といったことを目的として配合されていますので、療法食以外のおやつなどは一切与えてはいけません。犬が味を好まず食べないことも多く、食べない場合は別の治療法を検討します。
犬の膀胱結石の予防・再発防止法
膀胱結石は結晶化するミネラルによって治療法も予防法も変わります。犬の場合はストルバイトかシュウ酸カルシウムがほとんどですが、どちらかで再発防止の食事内容が変わってきます。
ストルバイト結石
ストルバイト結石になった犬は、尿路感染症に注意してください。血尿や排尿困難などの症状が見られる場合、様子見をせず病院に行きましょう。再発防止の療法食は生涯にわたって行う必要があります。尿を弱酸性(pH6.5未満)にするため、タンパク質やリン、マグネシウムが制限されます。高脂肪になるため膵炎に注意が必要です。シュウ酸カルシウム結石
シュウ酸カルシウム結石になった犬は、食事や生活習慣に注意しても高い確率で再発する可能性があります。尿中に排泄されるシュウ酸を減らすため、ほうれん草やさつまいも、レタス、ブロッコリー、ナス、ナッツ類などシュウ酸を多く含む食品は与えないようにしてください。カルシウムは腸内でシュウ酸と結合すると便として排泄されるため、カルシウムを制限する必要はありません。逆にカルシウムを制限すると尿中に排泄されるシュウ酸が増えてしまい結石の原因となります。シーズー、ミニチュアシュナウザー、ビションフリーゼは尿中のカルシウム濃度が高いことがわかっています。
※参照:『ガイドラインに基づく尿路結石症の診断と治療』(動物臨床医学)、『カルシウムの積極的な服用による腎臓結石予防法』(日本老年医学会雑誌)
療法食の予防効果
ストルバイトでもシュウ酸カルシウムでも尿を薄めることは有効な予防法になりますので、ドライフードよりウェットフードのほうがお勧めです。シュウ酸カルシウム結石は療法食で溶かすことができませんが、療法食は飲水量を増やす効果もありますので予防には一定の効果が見込めます。まとめ
犬はストルバイトかシュウ酸カルシウムが多い
尿路閉塞に進行すると死に至る可能性も
原因は不明だが細菌感染が要因になる
結石の種類によっては食事療法が有効