犬が散歩を怖がるときの理由や対処法を行動診療科獣医師が解説

犬が散歩を怖がるときの理由や対処法を行動診療科獣医師が解説

「うちの犬は散歩できないんです」という方は少なくはないと思います。また、まったく歩けないわけじゃないけど、「特定の場所で止まってしまう」「歩き始めが苦手」ということもあるかと思います。もしかしたらそれは、散歩中の何かに怖がったりすることが原因かもしれません。今回は、実際に散歩で自ら歩けない犬の理由や要因などについて、行動学的知見から獣医師の鵜海が解説していこうと思います。

散歩が怖い犬もいる?

散歩中の犬

本稿を見ている方は、「うちの子散歩で上手く歩けないけどなんでだろう?」「何かに怖がっているけどなんだろう?」と疑問を持っていらっしゃる方が多いと思いますが、一方、「本当に散歩が怖い犬なんているの?」と感じる方もいるかもしれません。

実際に「散歩に出たがらない」「すぐ家に帰りたがる」という犬はしばしば見かけます。「そんな犬いるの?」と思う理由の一つとしては、そういう犬ほど、飼い主さんが外に出さない方針にしていたり、外に出すことを躊躇われていたりすることが多くあり、街中の一般の人の目に留まるような場所にいないからかもしれません。

散歩に行きたがらない犬がどういう状況に陥るかというとさまざまあります。

例えば、さっきまで家の中で元気に動いていたのに首輪やリードを着けた途端に歩かなくなったり、玄関までは問題なく歩くけど玄関から外に1歩が踏み出せなかったり、排泄するところまでは難なく歩けるけど終わったらすぐに帰ろうとしたり、特定の場所で立ち止まってしまったり……。

中には「ウチの子もそういう感じ!」と思われた方も少なくないのではないでしょうか。では、なぜ犬が散歩中に上記のような行動をとるのでしょうか?次の項で詳しく解説していきます。

犬が散歩を怖がる理由

散歩中の犬

犬は野生であれば、基本的に野山を駆け回る生き物です。ここでは、「心身共に健全な状態であれば、散歩を怖がる犬は基本的にいない、どんな犬でも散歩に行けるはずである」という前提の元、解説させていただきます(医学的原因はここでは述べません)。

散歩を怖がるといっても、散歩にはいろいろな要素があり、一概に「どんな犬もこれを怖がっている!」というものはありません。

まずは、そもそも散歩って「犬にとってどんな経験があるのか」ということから考えましょう。細かく挙げればキリがありませんが、一般的には下記の8つと考えて良いでしょう。

  1. 首輪とリードを着ける
  2. リードから刺激がある
  3. 飼い主さんと一緒に歩く
  4. 扉をくぐる
  5. 外特有の音がする
  6. 外特有の臭いがする
  7. 外特有の物があり、生物がおり、人がいる
  8. 外特有の感触がある

リストアップしてみましたが、「これだけでも沢山あるなぁ」と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

犬が立ち止まったり、外に出れなかったり、必死で逃げようとすることは、これらの経験に関連して怖がっていることが多いからです。

「え?一緒に歩くことや玄関を通ることすら恐怖を感じるの?」と思うかもしれません。これらをもっと細かくみて、それぞれの状況で犬がどういう恐怖を感じるか理解が深まることで、散歩で上手く歩けない原因がわかるはずです。

ではそれぞれ見ていきましょう。

1.首輪とリードを着ける

基本的に拘束されることはどんな動物でも嫌がり、初めて首輪やリード着けた瞬間から落ち着いて歩ける子はまずいません。

中にはこのまま死んでしまうのではないかというくらいパニックに陥る子もいます(柴犬に多い)。拘束されることに対する恐怖や嫌悪感がある状態では最初っから動けないか、途中まで我慢できていても何かの拍子に動けなくなったり必死で逃げようしてしまいます。

<補足>

首輪とリードは犬を管理するものですから、家の中で首輪とリードをして落ち着いて過ごせないのであれば、それらを外しても絶対に落ち着いて過ごすことは不可能です。

家の中で暴れて困っているということであれば、まずはサークルから出すときはリードと首輪をつけるようにしましょう。

2.リードから刺激がある

着けて外してを問題なくできるようになっても、リードで不意に引っ張られることに対して嫌がったり、恐がったりして歩けなくなる子もいます。

これは普段、リードからの刺激に慣れていないためだったり、もしくはリードで引かれることに対するトラウマがあったりするために起きます。どんな飼い主さんでも、リードを使って急に犬を止めることなく一生を過ごすことは不可能です。

また、急な対応をしなければならないときにリードで止めることについてトラウマを植え付けないためにも、普段からリードからの刺激に対して鈍感力を養うことは重要です。
※もちろんむやみに刺激すれば良いというものではありません。

3.飼い主さんと歩く

中には、「飼い主さんと何かする」ということを怖がったり嫌がったりする子もいます。歩くこともそうですし、基本的なトレーニングもそうです。

例えば、怖がる様子を示したことで飼い主さんが抱っこしてしまったり、上手くできないことに叱責してしまったりした場合、犬の自信獲得の機会を奪ったり、自信喪失につながります。

自信を得られなかった犬や自信を失った犬は、多くのことに対して怯えるようになり、散歩はもちろんのこと、家庭や人間社会でも生きづらくなります。

散歩に関して言えば、普段から一緒に歩くこと自体がとても嬉しい、楽しい経験だったという印象をつけ、抱っこなどすることにより自らの力で1歩踏み出すことを奪わないようにしましょう。

4.扉をくぐる

犬も人間と同じように境界線がはっきりわかります。そのため、同じ床材が続いている場所でも扉がついていたりすると、その先に行くことに慎重になったり、家の門の外に出ることを躊躇ったりします。

こういう場所を通ることを経験していなければいないほど、通ることが怖くなり先に進めないことがあります。また、特定の場所で怖い思いをしていたりすると「また何か起こるんじゃないか」という恐怖で同じ場所に来ると1歩が踏み出せないこともあります。

5.外特有の音がする

外ではさまざまな音がしますが、特に犬が苦手な音は大きくて地鳴りがするような音です。例えば、ダンプカーや大型トラック、バイク、工事や建設現場の重機、飛行機、踏切や電車などです。

こういった音に慣れていないと、いざ聞こえたときに足がすくんで歩けなくなってしまいます。また、その音と同時に「嫌だった」という思いを感じれば感じる程、その音を聞いたときに「嫌だな」と感じるようになり、どんどん怖がるようになります。

6.外特有の臭いがする

外に行くとさまざまな臭いがあり、他の動物の臭いに反応しやすいでしょう。特に避妊去勢手術を実施していない犬の場合は、異性の臭いに敏感に反応したり、特定の犬の臭いに恐怖を感じ、歩けなくなることもあるでしょう。

歩けなくなるならまだしも、興奮して散歩どころでなくなることも心配なところです。

7.外特有の物があり、生物がおり、人がいる

外でしか出会わない物や生物、人に対して恐怖を感じ、歩けなくなることもあります。

例えば、自転車、バイク、車、子供、杖をついた老人、サングラスをかけた人、ランニングをしている人、傘をもっている人などです。また、他の犬、猫、鳥、ネズミ、サル、などの生物にも恐怖を感じる子もいます。

家族以外の人に警戒する子もいますので、見知らぬ人全般や、特定の人に怖がる子もいます。

8.外特有の感触がある

外に出ると家の中で味わったことがない感触や、感覚を感じることになります。

例えば、芝生や草むら、アスファルト、砂利、金網、雪などが挙げられるでしょう。こういった場所で歩くことに慣れていないと、足を動かすこと自体が恐怖ですので、苦手な場所ではあまり歩かなくなるでしょう。

また、夏の気候や雨で「外は暑い」「濡れて嫌」という感覚や、冬の気候や雪で「外は寒い」「歩くと足が痛い」という感覚を経験すればするほど、そのときは外に出たくなくなるでしょう。

つらつら分解して述べてきましたが、どれも根本的な理由としては「慣れていないから」という要素が大きいです。

ただし、経験していないことで慣れておらず歩けないのと、散歩中に嫌な思いをしたりトラウマがあったりして歩けないことは違います。

また、個体差もありますので、同じように散歩を経験したからと言って、すべての犬が一様に散歩中の全ての刺激に慣れてくれるわけではありません。

もちろん、小さいころの社会化期(さまざまな刺激に慣れやすい時期)にトラウマを植え付けさせないように色々な経験を積ませることも重要ですが、成犬になってからも重要です。

特に野犬出身や多頭飼育崩壊で保護されたような犬は、子犬の頃に十分な社会化が出来ていないことが多くありますので、むしろ家に迎えてからが本番でしょう。

また、母犬のお腹の中にいたときの母犬のストレスレベルに、子犬も不安傾向が影響されますので、そういった過去がある犬であればなおさら飼い主さんの根気や慎重さが求められるでしょう。

考えられるトラブル

散歩中の二匹の犬

何かに怯えていること全般にいえますが、犬にとっては追い詰められている状況なので、まったく動けないならまだしも、犬自身でその状況をなんとかしようとしてトラブルが生じることもあります。

犬がなんとかその状況を打破しようとする中で、「吠える」「咬みつく」「引っ張る」という行動が起こり得るでしょう。

例えば、散歩中に自転車が通り過ぎることが嫌すぎる場合、自転車が近づくことで吠え始め、場合によっては飼い主さんごと引っ張って近づこうとするかもしれませんし、近づけてしまった場合、乗っている人を咬みついてしまうかもしれません。

また、その引っ張った勢いでリードを離してしまい、どこかに行って迷子になってしまったり、最悪の場合、車に轢かれたりするかもしれません。

また、外に対して警戒感が強いと、家の中でも外の存在に過剰に反応してしまったりすることもあります。

例えば、外に全然行っておらず、外の人影や物音に対して過剰に吠えるようになってしまったり、散歩に行けないことで日常に葛藤を生じやすくなり、尾追いや破壊行動を頻繁にするようになってきたりなどが挙げられます。

また、散歩中に出会う経験に多く恐怖を感じるのに、どこか遠くに出かける際に連れ出すことで、極端なストレス状態から胃腸炎を引き起こすリスクが上がります。

散歩を怖がる犬への対策

犬

上記で「慣れさせていないこと」や「不必要に嫌な思いをしたこと」が大きな要因だと述べてきました。

どちらについても、「犬が嫌がったり怖がったりする、けど生活する上で絶対に避けられないこと」に関して徐々に慣らしていく必要があります。

ここでは慣らし方の詳細は避けますが、嫌だったり恐怖を感じることにいくら暴露しても慣れてはいきません。それよりは、マイナスな感情が起こったときに、プラスの感情になれるものを同時に、段階的に提示することで、マイナス感情が徐々に起こりづらくなっていきます(系統的脱感作と拮抗条件付け)。

例えば散歩中の車が怖いのであれば、車が通る度に大好きなオヤツを与えるなどしましょう。

また、生活上避けられるものであれば(もちろん慣れるに越したことはありませんが)、基本的に避けて生活するのが得策でしょう。

例えば、いつもの散歩コースで建物の建設が始まり近くを通ると犬が怯える、ということであれば、いつもの散歩コースにこだわらず、建設現場を通らないコースで歩くなどの工夫はした方が良いでしょう。

起こり得るトラブルの項で述べた自転車が通りかかった状況の場合、飼い主さんが犬に対応を任せているから犬がなんとか自分で解決してしまおうとするからであり、飼い主さんが犬に何をしておくべきか十分に伝えられるようにする必要があります。

つまり、自転車が通ったり、他の犬が通りかかったりしても吠えたり飛びついたりするのではなく、困ったことがあったら飼い主さんの横でオスワリ・フセなどをしておけば良いと日頃からしっかり意思疎通できる状態であれば、さまざまな場面での犬の落ち着きや冷静さに繋がります。

また、この対応により、自転車が通ってもオスワリしてれば大丈夫だったという経験を積めば積む程、自転車に対する恐怖感は下がり、自信をもってオスワリできるようになるでしょう。

継続することが重要です

散歩中の犬

犬にとって、散歩一つとってみてもさまざまな状況にさらされることがわかっていただけたかと思います。慣らすことも重要ですが、慣らした後に、同じトレーニングを続けていくことの方がもっと重要です。

例えば、6カ月までは外に散歩に出して積極的に社会化していたのに、7カ月~2歳にかけて家の中でずっと飼っていると、いざ外で上手く散歩しようと思っても怖がって歩かないのが関の山です。

時間がかかりますが成犬だから慣らすことはできない、ということはありませんし、何もやらなければ、どれだけ歳をとってもその犬にとって外は怖い場所で、人間社会は生きづらいものになってしまいます。

散歩に怖がって行けないという犬に関して、若ければ積極的に社会化を促進し、成犬であればゆっくり1つひとつ克服したり、飼い主さんが対応をリードすることでサポートをしてあげられれば、互いにもっと過ごしやすくなると思います。

この記事を読んで1組でも多くのご家族と犬が幸せに暮らせるように願います。

参考文献

  • 監修:水越美奈「犬と猫の問題行動の予防と対応」緑書房,2018年12月1日発行


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