
犬のしつけは楽しく!基本的なしつけと種類をドッグトレーナーが解説
「犬のしつけ」と聞くと「飼い主の言うことを聞かせる」「犬を良い子にする」ということを思い浮かべる飼い主さんもいるかと思いますが、犬のしつけを行う上で大切なのは、まず「信頼関係」です。今回は、犬のしつけはいつから始めるべきかという基本的なことから「お手」「待て」「トイレの教え方」など、しつけにまつわることを解説していきます。
犬のしつけの基本的な考え方

しつけとは、愛犬と飼い主さんが気持ちよく過ごすためのルール決めです。無理矢理言うことを聞かせたり、犬をコントロールしたりすることではありません。
一昔前はしつけにおいて「犬のリーダーになる」という上下関係が大切だといわれてきましたが、長年の研究で「犬はオオカミのような順位付けはしない」とされ、今となっては「犬のリーダーになる」という考え方は古いものとなりました。
犬のしつけで大切なこと
信頼関係を築く
犬と人の関係作りで大切なのは、上下関係ではなく信頼関係です。よく「犬と一緒に寝るのはよくない」といわれますが、一緒に寝ることが問題ではなく、犬が1匹では寝られなくなることが問題です。たまには1匹で寝かせることも必要です。
犬の意思を尊重する
応用編ではありますが、ある程度信頼関係が築け、お互いの意思が理解できる場合「犬に選択させる」ということができます。散歩を嫌がる犬であれば「散歩する?」と声をかけリードを見せます。散歩に行きたくないなら逃げるでしょうし、行きたいなら逃げないで近付いてくるでしょう。
散歩の時間だからと無理に散歩させるのではなく、犬の気持ちを聞いて尊重してあげることも大切です。
犬の学習について

基本的に犬は行動の前後に起こったことを関連付けて学習します。犬の学習の仕方は大きく分けて2つあり「古典的条件付け」と「オペラント条件付け」があります。
古典的条件付け(レスポンデント条件付け)
「古典的条件付け」とは、ある行動(反応)が、刺激の呈示により受動的に引き起こされることをいいます。有名なのが「パブロフの犬」という実験です。
犬に「ベルの音を聞かせてから食事を与える」という行動を繰り返すことによって、犬は「ベルの音=食事」と学習します。そうすると、ベルの音を聞くだけで唾液が分泌されるようになります。
オペラント条件付け
「オペラント条件付け」は、ある行動が「強化」という機能によって、能動的に学習されることをいいます。代表的な実験では、レバーを押すとごはんが出てくる仕組みの箱にネズミを入れ、ネズミ自身で考えレバーを操作させるというものがあります。
「古典的条件付け」と「オペラント条件付け」の違いは、受動的か能動的かを基準に区別されていると考えれば良いでしょう。
犬の行動には意味があります。行動の意味を考えながら愛犬を観察することで、現在犬の問題行動に困っていても、なぜそういう行動をするのかが理解できると思います。
犬のしつけは褒めることが基本

犬のしつけは「褒めるしつけ」が主流です。
褒めるなかでも一番簡単なのが、おやつを使うことです。しかし、犬にとってのご褒美はおやつだけではありません。
愛犬にとっての「ご褒美」を知る
犬のしつけに使うことの多いご褒美。愛犬の好きなものを知ることで、トレーニングの幅が広がります。- おやつ
- おもちゃ
- 好きな行動
- 好きな人
- なでられる
- 名前を呼ばれる
- 目が合う
犬によっては、おやつよりもボールが好きな子もいますし、飼い主さんと目が合うだけで嬉しい子もいます。
一方、体を撫でられるのが好きではない子を「いい子だね」と撫でてもご褒美にはなりません。愛犬の嗜好性を理解して、それをご褒美としてあげることが大切です。
やってはいけないしつけ方
褒めるのではなく「叱るしつけ」は、タイミングや方法が困難です。小型犬や中型犬にやってしまいがちなのが、力で無理やりコントロールすること。マズルを抑えたり、仰向けにしてお腹を出させたりすること、叩く蹴るなどでは恐怖心が先行し、しつけが入ることはありません。
叱った瞬間は指示に従ったとしても、信頼関係は生まれません。恐怖心を与えることは、防衛本能としての攻撃性を引き出してしまうことにもつながります。
犬にしつけを始める時期

子犬・成犬に関わらず、基本的にしつけは何歳からでもできます。
ただし「今まで外だったトイレを室内にさせる」といった覚え直しは、初めて覚えさせるよりも難しく時間がかかるため、根気よく行う必要があります。
犬に必要なしつけ

どこを触られても嫌がらないようにする
耳・鼻先(マズル)・足先・尻尾など、犬にも触られたくない部分はあります。しかし散歩から帰って足を拭くときや、耳の手入れをするとき、歯磨きをするときなど、日常生活で触れなければいけないときがあります。
触れることで病気の早期発見につながることもあるので、全身どこを触っても「嫌がらない」「ストレスがかからない」ように、子犬の頃から全身に触れることで、刺激に慣れさせることが大切です。
トイレトレーニング
子犬の頃から失敗させない、成功体験をさせてあげることが、トイレトレーニング成功の近道です。トイレにコマンドをつけることも有効です。
普段から、排せつをしている時に決めた言葉(ワンツーワンツーなど)を言うことで、その音を聞くだけで排せつしたくなります。
詳しいトイレのしつけ方は下記関連記事をご覧ください。
クレートトレーニング
クレートトレーニングは、サークル(ケージ)でも応用できます。クレートはケージやサークルよりも狭く暗い環境のため、より大変ではありますが、災害時など「もしも」の時のことを考え、今からトレーニングをしておくことが大切です。
クレートトレーニング方法 Step.1
- 扉が閉まらないように固定してから、犬が見ていないときにおやつを入れる
- 犬が自分でクレートの中のおやつに気がつくまでそっとしておく
- クレートの中のおやつを見つけて食べたら、また犬が見ていないうちにおやつを入れる
- 1〜3の繰り返し
おやつは音で気付かれないように、柔らかいものがベターです。おやつを見つけたからといって、特別褒める必要はありません。
クレートトレーニング方法 Step.2
- クレートの中に毛布などを入れ「簡単に見つけられるおやつ」と「毛布に隠した少し見つけにくいおやつ」を犬に見られないように準備する
- 繰り返すことで、少しずつクレートの中にいる時間が増え、愛犬にとって「クレートはおやつが出てくる不思議な場所」と学習させる
- クレートに慣れたようであれば、扉を付け、犬が外にいる状態で開けたり閉めたりして見せる
- クレートに犬が入った状態でおやつを与えながら、扉をゆっくり少しだけ閉め、すぐに開ける
- 徐々に、扉を閉める割合や時間を延ばす
- 自然とクレートに入るようになったら「ハウス」などのコマンドを入れる
大切なのは、扉が急にしまったり、音が鳴ったりして「怖がらせないこと」と「クレートからおやつが湧いて出てくる」と思わせることです。
飼い主さんがおやつを入れているのが分かると、飼い主さんがいないとクレートでのお留守番できなくなる可能性があります。
散歩
「リーダーウォーク」と呼ばれる散歩の方法があります。リードはたるんだ状態で、犬が飼い主さんの横について歩く方法です。初めはおやつを使って誘導させてあげるといいでしょう。詳しい方法は以下の関連記事をご覧ください。
おいで
「呼び戻し」ともいわれる「おいで」。「家ではできるけど外だとできない」という飼い主さんも多いと思いますが、「おいで」が必要な場面は、屋外が多いため、屋外でもできるようにトレーニングが必要です。
協力者にリードを持ってもらい、離れた場所から名前を呼び、犬が「行きたい!」と思っているタイミングで「おいで」と声をかけ、リードを離してもらいます。
足元まできたら大げさなくらいたくさん褒めてあげましょう。トリーツを数回に分けてあげるのもいいですね。
この時大切なのは、「飼い主さんのところに行きたいのに行けない」状況を作ることです。
行きたいのに行けない状況から「おいで」の言葉の後には飼い主さんのところに行くことができるため、飼い主さんのところに行けたこと自体がご褒美になります。
アイコンタクト
アイコンタクトができるとコミュニケーションがとりやすくなり、しつけもしやすくなります。詳しい方法は以下の関連記事をご覧ください。
待て
お出かけした時や、うっかりリードを落としてしまった時などにも利用できますので、覚えさせておくといいでしょう。詳しい教え方は、以下の関連記事をご覧ください。
伏せ
ドッグカフェなどの外出時に役に立ちます。飛びつきがちな子の対応としてもおすすめです。詳しい教え方は、下記の関連記事をご覧ください。
指示の後は必ず開放の合図「よし」
「開放」は終わりを意味します。私たちはごはんの前に待たせてから「よし」と言って解放させますが、普段はどうでしょうか。オスワリといっておやつをあげておしまいになっていませんか?
普段から「指示された行動には終わりがある」ということを教えることで、「待て」や「フセ」が当たり前になっていきます。
開放のコマンド(指示語)を決めましょう。一般的に使われているのは「よし」や「OK」ですが、飼い主さんが分かりやすいコマンドでかまいません。
一つ注意したいのは「他に似た言葉を使っていないか」ということです。犬にとって紛らわしい言葉がある場合は、違うコマンドにすることをおすすめします。
まとめ
しつけを行う際は、まずは愛犬のことを理解する必要があります。
遊びを通して新しいことを少しずつ教えていくこと、覚えていくことは喜びであり楽しみになります。
「できないからダメ」「教えても覚えないから頭が悪い」ではなく「できたら楽しい」「このやり方ならどう?」といった気持ちで取り組みましょう。
飼い主さんだけでしつけを行うことが難しい場合は、トレーナーに相談し、一人で抱え込まないようにしましょう。犬も人も楽しく取り組むことが1番です。