犬の皮膚糸状菌症|感染経路・症状・治療法・予防方法などを皮膚科認定獣医師が解説
皮膚糸状菌症は別名「皮膚真菌」もしくは「白癬」とも呼ばれ、皮膚糸状菌感染によって起こる皮膚疾患の総称です。糸状菌は私たちの身の回りに存在しており、犬・猫等の動物から人も感染する人畜共通感染症です。皮膚糸状菌症に感染すると、強い痒みを引き起こします。今回は、皮膚糸状菌症の症状や原因を新庄動物病院獣医皮膚科認定医の今本三香子が解説します。
犬の皮膚糸状菌とは
皮膚糸状菌を引き起こす菌種
皮膚糸状菌症を引き起こす菌種は「土壌生息菌」「動物寄生菌」「ヒト寄生菌」の3つに分類されます。犬における皮膚糸状菌感染の約9割が「動物寄生菌」によるものであり、残りの1割が「土壌生息菌」によるものとされています。
「動物寄生菌」による皮膚糸状菌症は、飼育頭数が過密状態の場所で飼われている犬や、皮膚の抵抗力の弱い幼犬時に感染することが多いです。
犬の皮膚糸状菌の主な感染経路
既に感染している犬との接触が主な感染経路です。繁殖場で蔓延している場合、出身の子犬たちが既に感染しており、その子犬たちがペットショップに入ることで、他の繁殖場から来た子犬も感染を起こす事例が多くあります。
また、土壌生息菌による皮膚糸状菌症は屋外でかかることが多いので、足先や尻尾など土と触れ合うところに症状が出ることが多いです。
犬の皮膚糸状菌症の症状
犬の皮膚糸状菌の初期症状
菌は皮膚の表面に病変を引き起こします。皮膚表面では白いフケが出てきます(あまり気がつかないことが多いです)が、菌が毛の根元の毛根に入り込んだり、被毛に感染し始めると被毛は弱くなり、折れたりちぎれたりすることによって脱毛が認められます。
この段階でもフケの状態が変わらないこともあるので、気がつかない場合があります。しかし感染を伴う皮膚では、脱毛が円形状に認められ、皮膚は赤くなります。
犬の皮膚糸状菌の中〜末期症状
さらに感染が慢性化すると他の場所に同じような円形状脱毛が増え、全身に広がって円形状でなく地図状脱毛と呼ばれる状態になっていきます。赤かったところが、皮膚を掻くために黒く色素沈着してくることもあります。
毛包に感染した糸状菌から二次感染(異なる細菌の感染)を起こすと、化膿し赤く腫れ、ひどくなると膿が出てくるということになります。感染が奥深くまで浸潤すると、完治までの道のりは遙か遠くなります。
犬の皮膚糸状菌と症状の似た病気
脱毛やフケといった症状から、細菌による「膿皮症(皮膚にいるさまざまな菌の感染症)」「ニキビダニ症」「疥癬」などに症状は似ています。
膿皮症やニキビダニ症はいろいろなパターンがあるので、見た目だけで判断するのは難しいです。症状の微妙な違いを知った上で診察をするのも私たち皮膚科認定医の仕事ですので、皮膚に異常が現れたら動物病院に連れて行きましょう。
犬の皮膚糸状菌症の治療法
毛刈りをして、感染している毛をなるべく少なくすることが大事になってきます。
毛が切れたり、抜けたら、生活空間の中に感染した毛が舞い散ることになります。それは新たな感染源となり、人にも感染することがあるからです。
感染している犬には抗真菌作用のあるシャンプーを使用し、清潔に保ってあげる必要があります。皮膚の表面にいる菌の数を減らすことはとても大事です。
同時に抗真菌薬を内服し身体の中から、シャンプーで外から治療してあげると効果的に治療できることが多いです。外見上、治ったように見えてもしつこく治療することで完治が達成できます。
舐められない耳の先や顔にできた場合は抗真菌薬を塗布するという方法が取られます。人の場合はこれが治療の第一選択ですが、動物の場合は「毎日シャンプーするのが難しい」「毛が生えていて薬が塗りにくい」「塗った場所を舐めてしまう」といったことが考えられるので、内服が治療の第一選択になることが多いです。
ただ顔周りはシャンプーしにくい代わりに、毛も薄く舐められないので、内服と外用薬で治療していくこともあります。
人畜共通伝染病(今本家の感染日記)
※猫が感染した際の写真です
余談ですが先日、道路で車にはねられた子猫を拾いました。シラミやノミ、お腹の中には寄生虫を抱えた野良猫でした。
シラミの駆除のため、毛刈りを行ったところ、その1週間後くらいに背中にフケが出てきました。「このフケはおかしい!」と思ったら案の定、皮膚糸状菌症でした。
「ミコナゾール配合のシャンプー」「塗り薬」「内服薬」「他の猫と隔離」と万全の対策をとったはずでした。
子供には感染猫に触ったら、ちゃんと手を洗うように言っておいたにもかかわらず、見事に4人中3人感染していました。場所は顔、腕、太腿とさまざま。
塗り薬を塗ったらあっという間に治っていきましたが、動物から人に移るということを再認識させられる思い出深い出来事でした。
犬の皮膚糸状菌は感染予防が大切
健康な動物が皮膚糸状菌にかかった場合、多くは無治療でも10~12週間ほどで良くなるといわれています。しかし同居動物や人にかかる可能性があるので、その感染を予防しながら早期に治療するべきです。
洗濯・消毒
部屋を掃除し、感染している犬がよく使っているマットなどの物を捨てるか洗濯・消毒することは、有効な感染予防策となります。消毒はキッチンハイターを10~100倍希釈して、霧吹きなどで吹き付け10分放置してから拭き取りましょう。
毛刈り
「毛刈り」をするということも他の動物にかからないようにするための予防の一つです。もちろん毛刈りをした後はハサミやバリカンの消毒は忘れずに行ってください。抗真菌シャンプー
同居動物がいる場合は、抗真菌シャンプーで1度は洗うことが推奨されています。毛についたかもしれない糸状菌を落とすことが大事になるからです。犬の皮膚糸状菌の理解をすることが大切
皮膚糸状菌症は人畜共通感染症
感染している犬との接触が主な感染経路
痒みや円形状の脱毛、皮膚の赤みといった症状を引き起こします
皮膚糸状菌症は環境中にも菌がまき散らされるため「毛刈り」「洗浄」「内服」「飼育環境の清掃」を行っても、感染の終息に長い時間がかかる厄介な病気です。
皮膚糸状菌にかかりにくい、清潔な環境を保つことが1番の予防策と言えるでしょう。
更新日:2020年6月30日
公開日:2018年12月27日
公開日:2018年12月27日