犬のフケが出る場合に考えられる原因・病気・対象法・食事などの予防法を皮膚科認定医が解説

犬のフケが出る場合に考えられる原因・病気・対象法・食事などの予防法を皮膚科認定医が解説

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動物病院における皮膚疾患は、診療する頻度が高い疾患です。たくさんの皮膚疾患を診療するとその奥深さがわかり、外見だけで判断してしまうことによる危険性も感じています。皮膚には外部からの侵入の阻止だけではなく、体からの水分の流出を防いでくれる役目やたくさんの働き(触覚、温覚、冷覚、痛覚、痒覚)があります。今回は犬のフケについて、フケがカサカサ、ベタベタしている場合、かたまりで出る場合などに考えられる原因やシャンプー・フードでの改善法などを、新庄動物病院副院長で獣医皮膚科認定医の今本三香子が解説します。

犬のフケとは

犬

皮膚の一番外側は「表皮」と呼ばれており、人の表皮は約0.2mmです。犬や猫はその1/5~1/3ほどしかありません。人と違って犬や猫は、ほぼ全身に毛が生えているため表皮が薄いと考えられています。

その皮膚表面は、多数の細胞がきれいに並んでいます。細胞も我々と同様に年を取ります。皮膚の下の方からはどんどん若い世代が出てきて、その細胞の世代交代が行われます。これを「ターンオーバー:肌の生まれ変わり(新陳代謝)」といいます。

犬や猫の皮膚のターンオーバーは約20~25日くらいで、人の約28日と比較すると若干早いです。その皮膚のターンオーバーが進み、下から出てきた皮膚細胞に押し出されるように皮膚から剥がれた細胞を「フケ」と呼びます。

したがって、フケは正常な状態でも若干が出ますが、いつもよりフケが多く出る状態では、何かしらいつもと違う皮膚の状態であることがほとんどです。

それでは、そのいつもと違う皮膚の状態について、その原因を挙げながら説明していきます。

犬にフケが出る原因

犬

  1. 細菌・真菌感染
  2. 脂漏症
  3. ビタミンA反応性皮膚症
  4. アトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎
  5. 内分泌疾患
  6. 血液循環の悪化
  7. 寄生虫

1. 細菌・真菌感染によるフケ

細菌や真菌の感染が起こると、その特徴として皮膚に丸い輪っかのように広がる赤い病変があります。この「輪っかのように広がる」というのが重要です。

皮膚の一点に何らかの細菌や真菌が感染し、それが広がりを見せることで、皮膚における感染部位が広がります。

「菌のいいようにはさせまい!」と体が菌を退治しようと、皮膚の細胞は動き始めます。感染したとき最も簡単にその菌を追い出そうとするなら、皮膚が押し出せばいいのです。その結果、菌を押し出そうとして皮膚のターンオーバーが早くなりフケや脱毛が認められるのです。

脱毛の際は円形に脱毛しますが、その円の中心に近い部分が最初に感染を起こした部分です。そして円形の一番外側の部分が、今まさに最も激しく戦っている部分で、このあたりでフケが出てきます。

激しく戦っていると、皮膚のターンオーバーはいつもよりも早くなります。また、フケが増えますので皮膚表面で激しい戦いが起こっていると想定してください。

2. 脂漏症によるフケ(ベトベト・カサカサ)

皮膚の表面には正常でも少量の脂があり、皮膚を乾燥から守っています。しかし、その脂が何らかの状態で過剰に出てしまう状態は、「脂漏症」と呼ばれます。

脂漏症にはその名からイメージされる通り、皮膚がベトベトするタイプもあれば、カサカサした(乾燥した)フケが出る「本態性脂漏症」といわれるタイプの2種類があります。本態性脂漏症の場合、あまりにひどいと毛穴付近で固まった大きな塊のフケが出ることもあります。

脂漏症になると、皮膚のターンオーバーが進み、通常の倍以上でそのターンオーバーが進みます。その早さは、5~10日です。正常よりもターンオーバーが早いために、多くのフケが出る状態になります。

3. ビタミンA反応性皮膚症によるフケ

毛の根元にくっつくようなフケや脱毛や脂漏症が認められます。ビタミンAの量が足りなくてフケが出ているのではなく、ビタミンAを追加していくことで皮膚の症状が落ち着くといった病気です。

バランスのとれたご飯をとっていても症状が出ます。特定の犬種で認められることが多く、コッカースパニエル、ラブラドールレトリーバー、ミニチュアシュナウザーに多いといわれています。

4. アトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎によるフケ

アトピー性皮膚炎やアレルギー性の皮膚炎の子は、皮膚の水分を保持する機能が健康な子より劣っています

そのため、水分が皮膚から逃げやすくなり、カサカサ肌になることで、かゆみがやフケが出ます。カサカサ肌になって痒くてかくと皮膚が傷付き、水分が抜けたり、傷付いたところから細菌やアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が入ってきやすくなったりして痒みが増す、という悪循環に陥ります。


補足:アレルギーについて

皮膚の表面に何らかの物質が入ってくると、体内に簡単に侵入させないために、そこで戦いが始まります。例えば花粉が飛び出す時期に鼻の粘膜でも同じようなことが起こっています。外部からの物質(花粉)に対して、体内のセンサーが発動します。

このセンサーは生まれながらに反応することもあれば、後になってから反応する機能を備える場合もあります。そのセンサーが反応すると、過敏反応が起こります。

そのセンサーは「IgE」(免疫グロブリンE)と呼ばれており、犬でもこの働きは血液を用いて検査ができます。具体的には、その血液の中のIgEがどの物質に反応するかを見る検査です。

このIgEセンサーが反応すれば、その部分で炎症が起こります。つまり、このような反応、すなわちアレルギーの原因となる物質が無ければ、皮膚においても炎症は起きません。

花粉がない時期に花粉症にならないのと同じです。皮膚の感染で起きる炎症も、アレルギー反応で起きる炎症も、炎症という面では同じです。だからこそ、アレルギー物質を遠ざけることが重要になります。

もしくは、過剰に起きるアレルギー反応が原因で炎症が起きている場合には、その過剰な免疫反応を抑える必要があります。先ほどのセンサーという言葉で言い換えると、センサーの感度を下げるような治療が必要になります。

それと同時に、皮膚の水分が失われた状態を改善するために、保湿性の高いシャンプーや皮膚の上で細菌が増えにくくなるようなシャンプー(抗菌シャンプー)が薦められます。その子の状態に応じてシャンプーも使い分ける必要性が出てきますので、その治療法の選択は難しいことがあります。

アトピーやアレルギーが関係した皮膚病については、話せば長くなるので今回は省略しています。実際に日々の診療では、皮膚の免疫の状態(センサーの状態)を考えながら、時にはさまざまな検査を実施しています。

単なるフケという状態を放置していくと、炎症が慢性炎症になれば、いったんダメージを受けた皮膚は完全に回復しない部分もあり、再発までの期間が短くなるといったこともあります。

まだまだ症状が軽いからといって様子を見ていることで、数年後の悪化につながることもあります。たかが「フケ」ですが、その背景にはさまざまな原因が潜んでいることもありますので注意が必要です。


5. 内分泌疾患による犬のフケ

皮膚は、時に体の内部の状態に影響を受けることもあります。その一つに「内分泌疾患」というものがあります。

内分泌疾患というのは、体の内側にホルモンを分泌する部分がありますが、そこに何らかの異常が出て、ホルモンが過剰に出たり、ホルモンの出る量が足りない場合に起こる病気のことを内分泌疾患といいます。

その症状ですが、ほとんどは脱毛がメインになります。しかし、時に「フケが出やすくなった」と言って病院に来院されることもあります。それでは、内分泌疾患でフケが出る病気にはどのようなものがあるのか紹介します。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)

副腎という臓器が過剰に働くことで起こる病気を「副腎皮質機能亢進症」と呼びます。副腎からは体にとって必要不可欠なホルモン「ステロイドホルモン」が分泌されますが、このステロイドホルモンが過剰に分泌されることで内臓に異常が出ます。特に肝臓の検査の数値が上昇し、コレステロールの数値が上昇します。

皮膚においては皮膚が薄くなり、症状が進むと石灰沈着という状態になり、皮膚にコラーゲン線維やカルシウム成分が沈着する独特の症状を示します。

それが破裂するとかさぶたができて、その周囲にフケができます。そのような状態になるときには、犬の外見上にも変化が起きていて、おなかがぽっこりと出て毛も薄くなって、独特の外見を示します。時に獣医師はその変化から仮診断をして、検査を実施することもあります。

この病気を診断するには、副腎から出るホルモンを調べる検査方法があります。単純にホルモンの検査でわかりますが、念のため副腎を超音波検査で見ていくことで、まれにある悪性の腫瘍を除外することができます。

副腎皮質機能亢進症の治療法には、飲み薬が用いられます。この疾患は、治療しないと命に関わりますので、診断したらすぐに治療することになります。

甲状腺機能低下症

甲状腺は首のところに左右一対で存在する臓器で、ここもホルモンを分泌します。この場合もフケが出ますが、脱毛が先に見られることがあります。

年を取ったので毛が薄くなったということを見逃して、フケを気にされるケースもあります。甲状腺機能低下症は、慢性的な病気を持つときにも認められますので、しっかりとした検査が必要になることがあります。

その他の犬の内分泌疾患

ここまでいくつかの代表的なフケを伴う内分泌疾患を紹介しましたが、性ホルモンの異常でも脱毛は起きますし、ポメラニアンに多い原因不明の脱毛など、さまざまな原因があります。

重要なことは、「たかがフケ」というわけではありません。われわれ獣医師は、たくさんの原因を考え、検査を行い原因究明を行います。

6. 血液循環の悪化によるフケ

「耳輪皮膚症」と呼ばれます。耳の辺縁にフケらしきものが出て、毛がボソボソと抜けていきます。ミニチュアダックスフンド、ミニチュアピンシャー、トイプードルなどでよく見られます。

どうしてそのようになるのかは明確にはなっていませんが、血液循環が落ちるのと、環境用的要因があるといわれています。私はよく「耳のしもやけ」と言っています。寒さが厳しい1月を過ぎ、寒さが緩む2月から3月くらいに症状が出てくる子が多いです。

皮膚のターンオーバーが1カ月弱くらいということは既出の通りです。そのため、血液循環が落ちた約1カ月後に症状が出てきます。

暖かくなってくる5~7月くらいには毛が生えてきますが、何かしたい場合、血液循環が良くなるようにビタミンEや角化治療のためのビタミンAの内服を飲ませます。マッサージクリームで耳の先をマッサージをしてあげたり、シャンプー療法をしてあげたりすることをお勧めしています。

7. 寄生虫による犬のフケ(毛包虫・疥癬)

毛包虫(もうほうちゅう)、疥癬(かいせん)などの外部寄生虫感染もフケを出す原因になります。


毛包虫

毛包虫は毛包の中に、疥癬は皮膚の下にトンネルを作って寄生します。毛包虫は毛を抜いたり、痛そうですが皮膚を削り取ったりして顕微鏡検査で発見できます。

皮膚の症状もさまざまで、「え、これが毛包虫症?」という皮膚の外見をとる時もあります。痒みが出たり出なかったり、フケも出たり出なかったり、いろいろな症状です。

皮膚の免疫力が大人になり切れていない子犬の時か、年を取っていろいろな病気を抱えている老犬の時になりやすい病気です。

疥癬

疥癬はどの年代でもかかりうる病気です。こちらは人畜共通伝染病になりますので、接触している同居動物、人にもかかる可能性があります。

検査方法は皮膚にセロハンテープでフケをくっつけてみたり、皮膚を削り取ってみたり、私は手袋をして体中を掻いてあげて落ちたフケを顕微鏡で見たりします(みんな痒いので喜んでカイカイさせてくれます)。

皮膚の中にトンネルを作っていると先ほど書きましたが、そのため検査で発見できないこともあります。その時は他の皮膚病ではないか考え治療することもあります。場合によっては、診断的治療といって、疥癬が発見できなくても疥癬の治療をすることがあります。


犬のフケを予防する食事とは

犬

毎日、口から入るご飯はとても重要です。皮膚病用のご飯は被毛や皮膚にいい成分(オメガ3、6の脂肪酸、EPA、DHAなど)が強化されていて、「湿疹が出にくくなった」「痒みが減った」という報告も上がっています。

食餌アレルギーも考えられる場合は痒みが出にくいように、たんぱく質が細かくなっているタイプや、たんぱく質が普段取らない動物性たんぱく担っているものがあります。お薬を使うより、まず、毎日口にするご飯の方を重視してほしいです。

ご飯を変えた場合は、1~2カ月は様子を見てください。手作り食をしている方には、「亜麻仁油やシソ油をティースプーン1杯餌にかけてあげてください」とお話しします。そうすることで皮膚にいい脂肪酸を摂取することができます。


まとめ

シャンプーをする犬

フケは、正常な状態でも出ます
目立つフケはさまざまな病気のシグナル
たかがフケと甘くみてはいけません
フードやシャンプーで改善される可能性があります

「フケ」といっても病的なものから生理的なものまで、さまざまなフケのタイプがあることがわかっていただけたでしょうか?

病的な場合はフケだけでなく、かゆみ、赤み、脱毛、痂疲などが伴ってくるものです。病名を診断できないまでも、これは病院に行ったほうがいいタイプのフケなのか、それともまずは家でシャンプーして皮膚をきれいにしてあげることで収まりそうなフケなのかを見極められたら、OKだと思います。

本人が気にしていない場合はまずシャンプーをしてあげてください。少し長くなりましたが、「フケ」の奥深さをわかってもらえたら幸いです。