猫回虫症を感染症担当獣医が解説 原因・治療法から人に感染する可能性まで

猫回虫症を感染症担当獣医が解説 原因・治療法から人に感染する可能性まで

猫の回虫症の原因である猫回虫はヒトにも感染し、幼虫移行症(※)を引き起こします。猫回虫は地球上に広く分布しており、国内でも全国各地でその存在が報告されています。飼い猫と良好な関係を保って生活するため、1回だけの投薬では容易に駆虫できないことなどの正しい知識を身に付け、飼い猫の定期的な寄生虫検査と適切な駆虫薬投与を行ないましょう。今回は猫の回虫症について、症状や治療・予防法などを野坂獣医科院長の野坂が解説します。

※幼虫移行症:ヒトを終宿主としない寄生虫がヒトに寄生し、成虫になれず幼虫のままヒトの体を移動することでさまざまな症状を起こすこと。

猫の回虫症とは

猫回虫(トキソカラ・カティ:Toxocara cati)の成虫は、白色または黄白色で、長さ3cmから10cmのミミズのような形をしています。その卵は短楕円形で、大きさは約65μmです。猫およびネコ科動物を終宿主とします。

猫回虫の他に犬回虫という寄生虫もいます。これらの寄生虫はヒトに感染し、トキソカラ症と呼ばれる人獣共通感染症を引き起こします。ペットを飼育していなくても、ニワトリ、ウシなどの生レバーや筋肉内に寄生する幼虫、あるいは生野菜に付着した虫卵などを食べることで、ヒトに感染します。

ヒトは猫回虫にとって待機宿主(非固有宿主)で、固有宿主または終宿主ではありません。猫回虫の幼虫や卵が、ヒトの体内に侵入すると成虫まで発育することができません。そのため幼虫のままでヒトの体内を移行し、「内臓型」「眼・中枢神経型」「潜在型」などのさまざまな症状(幼虫移行症)を引き起こします。原因不明の肝障害、呼吸器症状、脊髄炎、眼症状がみられる場合、猫回虫の関与を疑うことが望ましいとされています。

猫回虫は猫での年齢抵抗性が無いため、幼猫から高齢猫まで継続的な寄生を受けている可能性が高いです。このような継続的な寄生を受けている場合、猫回虫の幼虫が体内を移行し、肺に病害をもたらすことがあると確認されています。また、通常は消化管に寄生していますが、虫体が大きければ消化器症状を惹起したり、虫体が多数存在すれば腸閉塞を起こす可能性もあります。


回虫症になりやすい猫種・年代

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猫回虫は猫での年齢抵抗性が無いため、すべての年代の猫に感染が成立します。子猫に多く見られるので、駆虫していない母猫から生まれた元野良猫の場合は、子猫に寄生している可能性が高いです。多頭飼育の場合、飼育猫の中に感染猫がいると飼育環境が猫回虫によって汚染されていることもあるので、検便を定期的に行ない、さらに予防のための駆虫を行なうことが理想です。


猫の回虫症の症状

母猫の乳汁中に含まれる幼虫が子猫に感染した場合は、幼虫の発育場所が腸管粘膜に限局しています。元気消失や軟便、下痢嘔吐がみられ、腹部や腸管の腫れなどが症状としてみられます。

嘔吐物の中に虫がみられることもありますが、吐かない場合や症状を示さないこともあります。回虫が栄養分を摂ることで、猫が餌を食べていても痩せて発育不良となることもありますので、子猫の時期は定期的に検査や駆虫を行ないましょう。

成長した子猫や成猫が虫卵を摂食した場合、幼虫が肺へ移行し、肺や気管支に病害をもたらすことがあります。また、胃潰瘍部位を猫回虫が穿孔した報告例もあります。

猫の回虫症の原因・感染経路

回虫症の原因・感染経路について、子猫と成猫にわけて解説します。

子猫の場合

子猫が成長すればネズミなどの待機宿主を捕食することがありますが、通常、子猫は母猫から感染することが多いです。母猫から子猫への胎盤感染はありませんが、経乳感染をします。乳汁中に幼虫が出現しますので、交配予定のある猫や妊娠猫がいる場合には、獣医師と相談し、検便と駆虫を計画する必要があります。

成猫の場合

猫から排泄された虫卵、あるいは別の猫の体に付着した虫卵を猫が直接食べたり、ネズミ、ゴキブリ、トリなどの待機宿主を猫が捕食したりすることで、成猫は猫回虫に感染します。

猫の回虫症の検査・診断方法

嘔吐物や糞便中に猫回虫の成虫が排泄されこともありますが、飼い猫が猫回虫に感染しているかどうかは、多くの場合、家庭では見分けられません。猫回虫に感染していても症状を示さないことがありますので、動物病院で検査を行ないましょう。

通常は糞便中に虫卵が排泄されますので、糞便検査を行ないます。この検査は排泄物を用いて検査するため、猫に与えるストレスや障害が少なくて済みます。しかし、糞便検査は万能の検査ではありません。糞便を直接塗抹して検査する方法は、短時間で検査ができますが、大量の糞便を検査することが難しく、虫卵を見落とす可能性があります。

その他に糞便中の虫卵を浮遊させる方法がありますが、これは虫卵を見落とす可能性が少なくなるものの、多くの糞便が必要で時間がかかります。

検査で見つからなくても油断は禁物

糞便検査のため採便は新鮮なものが良いので、採便方法や準備物は動物病院の獣医師と相談してみましょう。病院では採便した糞便で検査を行ないますが、検査時に虫卵が見つからなくても安心はできません。糞便中に虫卵がいない時期があるからです。

また、虫卵が糞便全体に均等に分布しているわけではないので、見落とすこともあります。時間を空けて定期的に検査することで、虫卵が見つかることもあります。

猫の回虫症の治療法

猫の回虫症は治療しなければ治りません。経口投与あるいは滴下投与する2種類のタイプの駆虫薬を使って治療を行ないます。駆虫薬は虫卵に効果を示さず、卵から孵化した成虫を駆除します。したがって、初回治療時に、体内にいた虫卵を駆除するためには動物病院へ2週間から3週間間隔で数回通院し、糞便検査を行なって虫卵を確認しながら駆虫を行ないます。

また、駆虫をしながら環境の清掃を行ないます。回虫卵は糞便中に排泄されるので猫のトイレに多くみとめられますが、肉眼では確認できません。回虫は湿った環境であれば、厳しい寒暖の中でも長期間生存ができます。トイレを小まめに清掃し、清潔な環境を保ちましょう。可能であれば、トイレや環境を熱湯消毒するのも効果的です。治療中は飼い猫が屋外で猫回虫に感染しないように、屋外へ出さないようにしましょう。

猫の回虫症の予後

駆虫薬は一生涯有効ではないので、一度発症し、その後、駆虫できたとしても、駆虫薬を使用していなければ再発の可能性はあります。定期的に糞便検査を行ない、さらに予防のための適切な駆虫薬投与をしましょう。

猫の回虫症の予防法

飼い猫は定期的に動物病院で糞便検査を行い、回虫卵がみつかった場合は速やかに駆虫しましょう。特に多頭飼いの場合、感染猫が1匹でもいると感染猫の毛や環境から他の猫に感染が広がる可能性があります。全ての猫に対して、予防のための駆虫を行ないましょう。猫の飼い主さんが、屋外にいる猫と遊んだ後や猫が侵入できる砂場を利用した後は、手指をよく洗うようにしてください。

正しい知識で猫も人も感染を予防

猫回虫卵はヒトが経口摂食することにより、トキソカラ症を引き起こします。飼い猫の糞便で環境を汚染しないように、予防に関する知識をしっかりと身に付け飼い猫の定期的な糞便検査を行ない、予防のための適切な駆虫薬投与を行ないましょう。

引用文献

  • 青木ら, Perforated Gastric Ulcer Caused by Toxocara cati in a Cat, J. Jpn. Vet. Med. Assoc.1990 Volume 43 Issue 3 Pages 207-210
  • 伊藤, 飼育猫における猫回虫の寄生状況, 感染症誌(2000), 74:824-827
  • 中村, 国内におけるトキソカラ症の実態, モダンメディア(2015), 61(12), 374-382
  • 佐伯,犬と猫の治療ガイド2015 私はこうしている,298-301
  • 山本, Food-Borne Toxocariasis, JPN J Food Microbiol 31(1), 1-12,2014
  • 山本ら, 埼玉県内のイヌと猫における腸管寄生虫類の保有調査(2017), 66(5), 493-499




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