猫の鼻づまりは病気のサイン?考えられる原因や治療法を獣医師が解説
猫さんは鼻の疾患が意外に多い動物です。野良猫さんや保護猫さんには、いわゆる猫風邪にかかったこともある子が多いのですが、放っておくと慢性的に鼻が詰まった状態になってしまうことがあります。鼻呼吸の猫さんにとって鼻づまりは大きな問題です。この記事では、猫さんの鼻づまりの原因や対処法などを獣医師の福地が解説していきます。
猫の鼻づまりの理由を知る前に鼻について学ぼう
猫さんは鼻呼吸の生き物です。呼吸はほぼ全て鼻で行なっているので、この場所の機能を保つのは非常に重要です。
猫さんの鼻の中は薄い骨状の構造物が巻紙状に通っています(鼻甲介といいます)。この巻紙状の構造物の表面は粘膜で覆われており、この粘膜に分布する分泌腺によって常に湿度が保たれています。また、線毛という繊維状の構造物があり、異物が入ってくるとこれが動いて鼻の外に押し出そうとする働きをします。吸った空気の温度を猫さんの体温に近づけ、湿度を与えるという役割もあります。
鼻道の終わりは喉の奥につながり、喉の奥から気道、そして肺に入ります。人間でもこの構造は同じなので、鼻から吸った空気は肺にいく前に喉の奥(咽頭喉頭部)を必ず通過します。この部分は口ともつながっていますので、自然の豊かなところで深呼吸して「空気が美味しい」というのはなかなか上手く言ったものです。
猫の鼻づまりの症状と原因
鼻づまりはさまざまな原因で生じますが、直接的な原因としては鼻水が鼻道をふさいでしまったり、炎症によって鼻の組織が変形してしまったりすることが考えられます。主に鼻炎でこうした症状がみられますが、鼻炎は猫ヘルペスウイルスⅠ型や猫カリシウイルスなどの猫風邪を起こすウイルス性感染症、クリプトコッカスなどの真菌(カビ)感染症、腫瘍や歯の病気でも起きる可能性があります。
猫風邪の場合は目やにや咳が併せてみられることも多いので、注意してみてください。鼻炎を最初に起こすことが多いのはウイルス性感染症ですが、進行すると細菌やカビの感染が重なる二次感染を起こし、炎症がさらに酷くなってしまいます。こうした複雑な感染は猫さんの免疫力が弱った時や加齢時にも起こしやすくなります。鼻炎が慢性化すると副鼻腔という鼻の周りにある骨の空洞にまで炎症がおよび、膿で中が満たされる副鼻腔炎になる場合もあります。
上記のように鼻炎がひどくなり鼻水や変形した鼻道の構造によって鼻づまりの状態になると、
- 呼吸のたびに詰まる音がする
- 呼吸が大きく荒い
- 鼻水をよく飛ばす
などの症状がみられます。とても苦しい時は口呼吸になったりもします。苦しいとご飯も食べられないので、「食欲がない」「動き回れない」などの行動の変化が見られます。腫瘍の場合は鼻の上が片側だけ腫れてきたり鼻血が出ることもあります。若い猫さんでは喉の奥(鼻咽頭)にポリープができ、これが鼻づまりの原因になることもあります。
また、犬や猫では比較的少ないとされていますが、アレルギー性鼻炎が原因となってくしゃみ、鼻水などがみられ鼻呼吸がしにくくなってしまいます。
鼻づまりしやすい猫種
鼻づまりは感染症などの原因以外でも起きることがあります。ペルシャ猫やヒマラヤンなど鼻が詰まっている猫種では、空気の通りが悪く呼吸困難を起こします(外鼻孔狭窄といいます)。運動の時や気温が上がった時などに、猫さんの体の酸素の消費量が増えた時に大きく息を吸ったり吐いたりするなど、呼吸困難の症状が悪化します。ちなみにアレルギー性の鼻炎は少ないのですが、アレルギー性気管支炎(いわゆる猫喘息)は猫さんでよくみられます。
猫の鼻づまりの検査・診断方法
鼻水が出ている時は抗菌薬の点鼻薬を使う前に、どんな細菌が出ているか調べるため細菌培養検査を行ったりします。喉の奥に綿棒を入れることにはなりますが、猫に鼻炎や呼吸器疾患を起こしやすいウイルス、細菌、真菌(カビ)の検査が一度にできる検査もあります。猫さんの状態によっては肺炎などがないか検査するためレントゲン検査や、血液検査などの検査をすることもあります。鼻咽頭ポリープの場合は麻酔をかけて喉の奥を観察するのが確実です。
猫の鼻づまりの治療法・薬
鼻炎の場合はまずはその原因になっている感染症の治療をします。抗菌薬や抗炎症剤の点鼻や全身投与をしていきます。ウイルス性の鼻炎と診断しても、細菌による二次感染を予防するために抗菌薬の投与は行うことがあります。
アレルギー性鼻炎の場合は原因となるアレルゲンの除去が有効ですが、ステロイド剤など過剰な免疫反応を抑えるための薬物投与が必要になることもあります。
鼻水が付きっぱなしだと乾いて鼻の周りの皮膚をダメにしてしまうので、鼻水がついていたらその都度、濡れたティッシュなどで優しく取ってあげましょう。副鼻腔炎まで進行してしまっている場合は抗菌薬の全身投与の他に、外科的に膿を出す治療が必要になることも多いです。鼻咽頭ポリープに関しても、手術での切除が必要になります。
猫の鼻づまりの予防法
鼻づまりに対する予防というのはなかなか難しいのですが、猫風邪のウイルスなどはストレスがかかって免疫力が低下した時などに活性化してきます。なるべく体にかかるストレスを少なくするために、暑い時にはクーラーをかける、寒い時には暖房をいれたりヒーターなどを用意してあげてください。好きな気温を猫さんが選べるよう、室温調整している部屋とそうでない部屋を自由に行き来できるようにしてあげるとよいでしょう。
その他に自宅でできることとしては、猫さんの鼻の正常な時の状態をよくみてあげてください。左右対称かどうか、または腫れがないかどうかなどです。鼻水がみられる場合には、片側なのか両側なのかもよく観察してください。
健康な猫さんでは両方の鼻の穴は同じくらいの大きさで、鼻の表面を触るとすこし濡れていますが、鼻の周りの毛は乾いています。鼻から目にかけて伸びるラインも通常は左右対称です。鼻水が出ている、鼻水が乾いて毛がパサパサになっている、鼻周囲が腫れているなどの異常が見られた時はまず病院にかかりましょう。
アレルギー性鼻炎のアレルゲンとして、お部屋のほこりやタバコの煙などさまざまな物質によって引き起こされます。原因を明らかにするのは難しいのですが、「なるべく部屋の隅のほこりも残さないように掃除をする」「猫さんの肌に触れる布製品を定期的に洗う」などの環境の整備をしてあげるとよいでしょう。
猫の鼻づまりは病気の初期症状。早めに動物病院へ
おうちの猫さんがくしゃみをしているな、鼻水が出ているな、少し腫れているな、などいつもと違うと思ったら、早めに病院に連れて行ってあげてください。鼻づまりは先天的な場合以外は鼻や気管、肺などの呼吸器の病気の初期症状としてくしゃみや鼻水などの症状が先に出てくることが多いのです。病気が長引いて鼻詰まりが出てしまう前に解消するため、早めに受診してあげてくださいね。
引用文献
- 岩崎利郎、長谷川篤彦、辻本元『獣医内科学』文永堂出版