犬の甲状腺機能亢進症|症状・原因・検査・治療法・予防法などを獣医師が解説

犬の甲状腺機能亢進症|症状・原因・検査・治療法・予防法などを獣医師が解説

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甲状腺亢進症は猫に多い病気で、犬の甲状腺亢進症は非常にまれな症例(犬での発症率は2%以下)です。多くの犬は「甲状腺機能低下症」という正反対の病気を患うことが多いです。犬で甲状腺機能亢進症がみられる場合、甲状腺機能低下症の治療中に過剰に投薬をしたときや甲状腺の腫瘍に関連することが多いです。今回は、犬の甲状腺機能亢進症について症状や原因などを野坂獣医科院長の野坂が解説します。

犬の甲状腺機能亢進症の甲状腺とは

犬2匹

甲状腺は動物種により形と位置に違いがあります。犬の甲状腺は、のどの真下にあり、代謝の調節を行う上でもっとも重要な内分泌器官で、甲状腺ホルモンを分泌します。

甲状腺ホルモンは、全身に作用して代謝を活発にさせる働きがあります。呼吸やエネルギー産生、熱産生などの基礎代謝を亢進させ、心臓の変事、変力作用の感度を上昇させます。また、成長ホルモンの効果を増強させる機能もあります。

犬の甲状腺機能亢進症とは

甲状腺ホルモンの血中濃度の増加および代謝が亢進した結果の病態を「甲状腺機能亢進症」といいます。猫では内分泌疾患の中で最も多い疾患ですが、犬では非常にまれな病気です。

犬の甲状腺機能亢進症の症状

寝るパグ

犬の甲状腺機能亢進症は以下などの症状を示します。

  • 体重減少
  • 多食
  • 食欲低下
  • 行動の変化(攻撃性が増す、異常に活発になる、落ち着きがないなど)
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 多飲多尿
  • 元気消失
  • 頻脈

猫の甲状腺機能亢進症と同様な症状を示しますが、あまり症状を示さない傾向があります。

犬の甲状腺機能亢進症の原因

本とヨーキー

この病気の原因は、甲状腺機能低下症の治療中に、過剰な投薬や甲状腺の腫瘍に関連することが多いです。

甲状腺機能低下症の治療のために投与した甲状腺ホルモン剤が過剰であった場合、甲状腺中毒を起こし、甲状腺機能亢進症を引き起こすことがあります。また、治療を受け、薬を飲んでいる犬と同居している犬が食糞をすることで甲状腺機能亢進症を発症することもあります。

さらに、犬の甲状腺機能亢進症は甲状腺癌の約10~20%で発生し、まれに甲状腺腺腫の続発症としても発生します。これらの場合に甲状腺機能亢進症の症状がみられます。


犬の甲状腺機能亢進症の検査

笑う犬

甲状腺機能亢進症を疑う場合は、猫と同様に、主に「触診」と「血液検査」によって診断します。

触診

のど(気管の両脇)にある甲状腺が腫大していないかどうかを手で触って確認します。腫大していることを確認したときは、甲状腺以外にも膿胞、肉芽腫、唾液腺の粘液嚢胞腫あるいはリンパ節の腫大などの可能性があるため、鑑別診断を行います。

血液検査

一般的な項目に加えて甲状腺ホルモンを測定します。甲状腺機能低下症の治療中に数値が高ければ、甲状腺中毒を疑います。

その他の検査

猫と同様にその他の検査を行います。他の病気がないかどうか、腫瘍の場合は転移していないか、さらに、甲状腺機能亢進症によって引き起こされる「高血圧」「心筋肥大」「眼の異常(眼底出血、網膜剥離)」などがないかどうかを確認するために、「細胞診」「病理組織学的検査」「超音波検査」「X線検査」「尿検査」「眼科検査」「血圧測定」などを行います。

犬の甲状腺機能亢進症の治療法

眠そうな犬

甲状腺に腫瘍がある場合は、外科手術、化学療法または放射線療法を組み合わせたり、単独で治療します。

甲状腺機能低下症の治療のために投与した甲状腺ホルモン剤が過剰で甲状腺中毒を起こしている場合は、症状が改善するまで投薬を中止します。再開するときに投与量を調整したり、投与回数を減らしたりする必要があります。

犬の甲状腺機能亢進症の予防

犬の甲状腺機能亢進症は非常にまれな病気です。しかし、普段から愛犬の様子をよく観察することで、早期発見・早期治療につながります。この病気だけでなく、少しでも愛犬の変化や異常に気がついたら、速やかに動物病院へ連絡し、獣医師と診察方法や治療方法について相談しましょう。

犬の甲状腺機能亢進症は犬では珍しい病気です

振り向く犬

犬の甲状腺亢進症はとてもまれな症例(犬での発症率は2%以下)で、聞いたことがない飼い主さんもたくさんいると思います。今回の記事を読むことで、このような病気があることを知っていただければ幸いです。

参考文献

  • Richardら,Kirk & Bistner's Handbook of Veterinary Procedures and Emergency Treatment 9th Edition(2011)
  • Shadwickら,Thyrotoxicosis in a dog induced by the consumption of feces from a levothyroxine-supplemented housemate,Can Vet J. 2013 Oct;54(10):987-9.