犬伝染性肝炎|原因・症状・診断方法・治療法・予防法などを感染症担当獣医師が解説
この病気は、犬アデノウイルス1型によって引き起こされる病気で、急速に進行すると死亡することもある全身性の感染症です。予防接種の終わっていない若齢犬では、死亡する可能性があります。急速に病気が進行すれば、診断もできないまま、死亡することがありますので、この病気を理解し、予防しましょう。今回は、犬伝染性肝炎の原因や症状などについて野坂獣医科院長の野坂が解説します。
犬伝染性肝炎とは
アデノウイルス科に属する犬アデノウイルス1型(犬アデノウイルス1型:Canine adenovirus1)による急性の致死性全身感染症のことを「犬伝染性肝炎」といいます。
予防接種を終えていない子犬では致死率が高いですが、予防接種を終えていれば致死率はほぼなくなります。急性感染から回復した犬の中には、ウイルスキャリアになる犬がおり、1年くらい持続的にウイルスを排泄します。
抗原性が異なる犬アデノウイルス2型(犬アデノウイルス2型:Canine adenovirus2)は上部気道感染症の伝染性喉頭気管炎を引き起こします。
犬伝染性肝炎を引き起こす犬アデノウイルス1型は気道に感染し、呼吸器症状も引き起こします。犬アデノウイルス2型は呼吸器症状を引き起こしますが、肝炎は引き起こしません。
犬アデノウイルス1型は、世界中に分布しています。自然界で長く生きることができ、室温で数週間生存することができます。消毒にも抵抗性があり、アルコールや石鹸では死滅しません。
主な宿主はイヌ科動物です。犬やオオカミの感受性が高いです。その他にイタチ・アライグマ・クマなども感染することが知られています。
犬伝染性肝炎の原因・感染経路
感染経路は経鼻・経口感染で、潜伏期間は1週間以内とされています。このウイルスは腎臓で長期間生存することができるので、回復後、持続的(1年くらい持続することもあります)にウイルスキャリア(※)となった犬の尿中にウイルスが隠れていることがあります。
キャリアの犬の尿、急性感染症の犬の尿、糞便、唾液などが付着した食器や器物などから、直接・間接的に感染が成立します。
このウイルスは自然界での抵抗性が強く、室温で数週間生存することができますので、発症した犬がいる場合は、隔離をし、食器やケージなどの清掃や消毒は念入りに行う必要があります。
※キャリア:ウイルスに感染しているものの、症状が発現せず、健康な状態であること
犬伝染性肝炎の症状
臨床症状は「甚急性型」と「急性型」の2つの病型に分けられます。2つの病型と、さらに犬パルボウイルス感染症との鑑別をすることが難しく、これらすべての感染症は致死性があり、若齢ほど危険な病気です。
甚急性型
突然、発熱や嘔吐、下痢などがみられ、24時間から48時間以内に死亡するのが特徴です。鑑別診断ができないままに死亡することが多いので、犬の飼い主さんでもあまり聞いたことがないかもしれません。急性型
発熱やリンパ節腫脹、肝臓の腫れ、腹部を圧すと痛がる、嘔吐、下痢、出血傾向などがみられるのが特徴です。これらの症状のほかに呼吸器症状、中枢神経症状や免疫複合体の形成による炎症反応(急性型症状消失後、前部ブドウ膜炎と角膜浮腫によって、ブルーアイと呼ばれる眼所見が出現することがあります。)がみられることもあります。犬伝染性肝炎の診断
診断する際、まずはワクチン接種歴を確認します。次に血液検査を行い、血球計算や肝酵素、血糖値、アンモニア量などから診断をします。また、排泄物や血液などからウイルスを分離したり、ウイルスの遺伝子診断も行ったりします。
さらに、脳脊髄液検査、肝臓の組織採取後の病理組織学的検査、血清学的検査(抗体の上昇の確認)なども行います。
犬伝染性肝炎の治療法
抗ウイルス製剤はないので、対症療法を行います。脱水や血糖値の低下があれば、輸液を行い、出血がひどければ輸血を行います。
肝臓が悪く、肝性脳症という神経症状を伴った状態になった場合は、浣腸による腸内浄化、抗生剤によるアンモニア産生菌のコントロールし、タンパク質を制限したご飯に切り替えることなどを行います。
犬伝染性肝炎によいご飯・サプリメント
肝機能回復のため、消化の良い食事を選択します。1回のご飯の量を減らし、ご飯の回数を増やすこともあります。下痢や浮腫などがあれば、脂肪や食塩の量をコントロールすることもあります。犬伝染性肝炎の予防
安全性・有効性の優れたワクチンが国内で市販されているので、動物病院でワクチン接種してもらいましょう。犬アデノウイルス2型から作出された生ワクチンが、この病気の原因ウイルスである犬アデノウイルス1型による病気の予防を可能とします。
犬アデノウイルス2型生ワクチンを含むワクチンは、5種・6種・7種・8種・9種・10種混合ワクチンなどで国内で市販されています。注射するワクチンの種類については、動物病院の獣医師と相談しましょう。
犬伝染性肝炎にならないよう適切なワクチン接種を
犬伝染性肝炎は古くから知られており、世界中でみられる病気の1つです。ワクチンの接種率の高い国では、この感染症をあまり耳にしないかもしれません。また、最近の国内の発生状況の詳細はわかりません。
ウイルスが絶滅したわけではなく、ワクチン接種率が低下すると発生するといわれており、イタリアでは再び症例数が増えていると報告されています。
この病気の有効性に優れた予防ワクチンが開発され、国内で販売されています。適切なワクチン接種を毎年行い、愛犬が免疫力を維持できるようにしてあげましょう。
参考文献
- Decaroら,Infectious canine hepatitis: an "old" disease reemerging in Italy.Res Vet Sci. 2007 Oct;83(2):269-73. Epub 2007 Jan 2.
- Pizzurroら, Genome Sequence of Canine Adenovirus Type 1 Isolated from a Wolf (Canis lupus) in Southern Italy.Genome Announc. 2017 Apr 20;5(16). pii: e00225-17.
- Taguchiら, Booster effect of canine distemper, canine parvovirus infection and infectious canine hepatitis combination vaccine in domesticated adult dogs.Microbiol Immunol. 2012 Aug;56(8):579-82.