犬コロナウイルス感染症|症状・原因・ワクチンなどの予防法について獣医師が解説
コロナウイルスは、人や動物で感染症を起こします。ヒトのコロナウイルスの病気では、2002年に「SARS」が、2012年には「MERS」が流行し、話題になりました。犬のコロナウイルスの病気は、子犬の場合、死亡することもあります。いったい、どのような疾患を引き起こすのでしょうか? 人や猫などに感染することはあるのか、感染経路、検査・治療方法、予防方法まで、犬のコロナウイルス感染症について詳しく野坂獣医科院長の野坂が解説します。
コロナウイルスとは
このウイルスの名前の由来は、太陽とそれを取り巻く散乱光のコロナがウイルスの形に似ていることから、その名前がついたそうです。
コロナウイルスは,ヒト、マウス、ネコ、豚などに感染します。感染後、各動物で呼吸器疾患,消化器疾患,肝炎,脳炎などそれぞれ異なる疾患を引き起こします。ヒトに感染するコロナウイルスは、冬の風邪の原因の1つとされており、2002年までは研究報告があまりされていないウイルスでした。
しかし、2002年と2012年に新型のコロナウイルス、SARS(重症急性呼吸器症候群:Severe Acute Respiratory Syndrome)とMERS(中東呼吸器症候群:Middle East Respiratory Syndrome)が発見され、コロナウイルスは多くの研究者たちから研究報告をされるようになりました。
コロナウイルスは、インフルエンザウイルスのように変異を起こしやすいウイルスなので、今後も新型のウイルスが発見されるかもしれません。
犬コロナウイルス感染症とは
犬コロナウイルスは、犬に嘔吐と下痢を起こすウイルスとして、1970年代から知られてきました。遺伝子の違いで、1型と2型とに分類されます。1型のウイルスの病原性は明らかになっていません。2型のウイルスは、株間で病原性に違いがあるとされています。国内の子犬の下痢の半数以上にこれらのウイルスが関与していると考えられています。
また、全身に感染し、白血球減少症も起こす変異株(汎親和性)が、欧州の一部の国でみつかり、報告されています。さらに、呼吸器で感染を起こす犬呼吸器コロナウイルス(CRCoV:canine respiratory coronavirus)も報告されています。このウイルスは、ケンネルコフの病原因子の1つと考えられており、世界中でウイルスの存在が報告されており、国内でも報告がされています。
犬のコロナウイルスには、いくつかのタイプがあります。そして、ヒトのウイルスと同様に、今後も新しいタイプのウイルスが発見されるかもしれません。
犬コロナウイルス感染症の症状
年齢や犬種に関係なく感染し、基本的に消化器症状を引き起こします。食欲不振、嘔吐、水溶性の下痢、脱水等がみられ、多くの場合は数日〜1週間くらい(短期間)で回復しますが、症状が長期間(1カ月くらい)持続することや再発することもあります。
特に子犬の場合は、重症化したり、まれに死亡したりすることもあります。犬パルボウイルス2型、犬アデノウイルス1型、犬ジステンパーウイルス、内部寄生虫等との混合感染で死亡する確率が高くなります。混合感染の場合、血液を含む下痢便や発熱、血液検査の異常値がみられることがあります。
子犬以外の場合、免疫不全や腸炎を発症している成犬や老犬などの一部の例を除いては、ほとんどが軽症ですみます。
犬コロナウイルス感染症の原因・感染について
イヌ科動物に感染し、猫にも感染します。人には感染しません。潜伏期は5日以内です。主な感染経路は、口から感染する経口感染ですが、経鼻感染もします。つまり、感染犬が排泄した糞便中のウイルスや、排泄物によって汚染された食器などを介して、犬から犬へと感染が広がっていきます。感染力の強いウイルスなので、多頭飼いしている場合、短期間で感染が広がることがあります。
犬コロナウイルスの糞便中への排泄は、約1カ月くらい継続することもあります。ウイルスは、環境中で早期に失活し、界面活性剤や熱などによって不活化します。環境の整備や掃除、消毒を行い、他の犬に感染させないようにしましょう。
犬コロナウイルス感染症の検査・診断方法
この感染症は、症状だけから判断したり、動物病院内の検査機器で判断したりすることは難しいです。そのため、外部の検査機関に検査してもらうため、診断できるまでに時間がかかります。検査方法は、糞便中の遺伝子を検出する検査や血液中の抗体の値を測定する方法を用います。犬コロナウイルス感染症の治療方法
ウイルスの特効薬はありません。したがって、下痢、嘔吐、脱水などに対する対症療法(輸液療法、制吐薬、栄養剤など)になります。また、広域に効く抗生物質を投与することもあります。
3カ月齢以内の子犬の場合は、重症化したり、死亡することがあるため、動物病院での診察が必要になります。子犬の場合、嘔吐や下痢をするたびに体温が奪われます。また、吐瀉物や下痢便が身体に付着し濡れれば、体温は低下します。なるべく、感染初期に診察してもらいましょう。
犬コロナウイルス感染症の予後
一般的に、食欲不振、嘔吐、水溶性の下痢、脱水等がみられ、多くの場合は数日〜1週間くらい(短期間)で回復します。しかし、症状が長期間(1カ月くらい)持続することや再発することもあります。混合感染の場合、その病原体の引き起こす症状によっては、後遺症も起こるかもしれません。犬コロナウイルス感染症の予防
国内では、不活化ワクチンを含む混合ワクチンが販売されています。年齢や犬種に関係なく感染しますので、毎年、ワクチンを注射し、予防しましょう。多頭飼育で、コロナウイルスの感染が疑われる犬がいる場合は、環境を整備しましょう。
ウイルスは、環境中で早期に失活し、界面活性剤や熱などによって不活化します。特に子犬がいる場合は、これらの予防対策に加え、母犬と子犬を一緒にし、別の犬から隔離するのも予防の1つです。
犬コロナウイルス感染症に良い食事
臨床症状に嘔吐があれば、しっかりとご飯をとることができません。嘔吐がなくなり、回復期になったら、高栄養食、消化の良いフードなどで少量の食餌から開始し、徐々に食餌をいつも通りのものに戻していくといいでしょう。犬コロナウイルス感染症は適切なワクチン接種を
犬コロナウイルス感染症は、特効薬がなく、子犬が発症すれば、死亡することもある恐ろしい伝染病です。成犬でも、ウイルスを排泄することがあります。感染力があるので、多頭飼いの場合は注意が必要です。国内には、この病気のワクチンが販売されています。適切なワクチン接種を毎年行い、愛犬が免疫力を維持できるようにしてあげましょう。この病気だけでなく、他の病気も含めて、病気を理解し、予防できる病気は予防しておきましょう。
参考文献
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