猫の分離不安症とは? 原因や対策などを行動診療科獣医師が解説

猫の分離不安症とは? 原因や対策などを行動診療科獣医師が解説

猫も「分離不安症」になることをご存じですか? 「飼い主さんが見えなくなると鳴く」「飼い主さんが少し外出するだけで吐く」といった愛猫の行動は、甘えん坊というわけではなく「吐き気がするほど不安」という状態です。常に愛猫と一緒に生活できるのであればいいのかもしれませんが、現実はそうではありません。今回は猫の分離不安症について、原因や対策、治療法などを獣医師の鵜海が行動学的に解説します。

分離不安症とは

無言の圧力をかける猫

分離不安症とは、愛着がある対象との距離が離れ、強烈な不安感を抱くことによる苦痛を伴った種々の症状のことを指します。

1匹になることに対してトラウマがあったり、精神的に自立できていなかったりすると、不安症状が激しく出ることがあります。


猫の分離不安症の症状



分離不安症の症状としては「破壊行動」「過剰な鳴き声」「不適切な場所での排泄」「過剰なグルーミング」が挙げられ、猫によって発現する行動は異なります。

アメリカ獣医学会誌に掲載された「separation anxiety syndrome in cats 136 cases 1991-2000」によると、分離不安と診断した136匹の猫のうち、96匹で不適切な場所での排尿、48匹で不適切な場所での排便、16匹で過剰な鳴き声、12匹で破壊行動、8匹で過剰なグルーミングが確認されました。


分離不安症のチェック項目

二匹の猫

愛猫が「分離不安症かも」と思ったら、以下の項目を照らし合わせてみてください。

  1. 愛着の対象者が誰なのか
  2. 愛着の対象者の後追いをよくするか
  3. ストレスの兆候は愛着の対象者が外出するとき、または外出を察知したときに発現するか
  4. 分離不安症の猫が留守番しているときはどういう行動をとっているか(落ち着きなく動き回っていたり、呼ぶように鳴き続けているか)
  5. 愛着の対象者の帰宅時に激しく興奮して迎え入れていないか
  6. 他の恐怖症を発症していないか

行動診療科では、これらを飼い主さんの申告を元に診断していくので、飼い主さん側で、留守状態の把握や対象者が誰なのかの確認は必須です。

「対象がよくわからない」「留守の状態把握は難しい」という場合はできる限り心当たりがあることを獣医師に伝えましょう。

猫の分離不安症の原因

人の腕の中で甘える猫

  • 常に家族や同居動物が家におり、1匹で留守番という状況に慣れていない
  • 飼い主の転職や転居、家族との死別などにより、突然のライフスタイルの変化が生じ、長時間の留守を経験する。(猫は変化に柔軟でないことが多い)
  • 在宅時に飼い主が強い愛情表現を示すこと(在宅時と不在時の違いが強調されるためより不安感を煽られる)
  • 留守中に強い恐怖体験をする(一人でいることに対するトラウマ)
  • 高齢となり、感覚器や疾病の罹患により不安傾向が高まる

リスク因子としては「飼い主が一人暮らしであること」「保護団体から譲渡された動物であること」「早期離乳の動物であること」「恐怖症を持つ動物であること」などが挙げられます。

猫の分離不安症の検査・診断

見上げる黒猫

分離不安の診断に重要なのは「不安を感じているかどうか」と「不安徴候が、愛着のある対象の分離に起因するものかどうか」を判断することです。

分離不安を診断する特別な検査はなく、飼い主さんの申告を元に実際の動物の行動を確認します。

分離不安症による問題行動の多くは外出後30分以内に発現するため、カメラを設置し、自宅での動画撮影により確認できます。

飼い主不在時でも、フードやおやつを食べられるかどうかで、重篤度の判断にもつながります。

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猫の分離不安症の治療法・対策

2匹の猫

  • 行動療法
  • 環境整備
  • 薬物療法

行動療法

基本方針としては、留守に慣らすことです。

慣らすといっても長時間の留守番をさせては逆効果です。数分程度の耐えられる留守番から、次第に数時間の留守番という形で、耐えられる時間を延ばしていきます。

それと同時に、何もせず留守番できたことに対してフードやおやつといった報酬を与えることにより「留守番=良いことが起こる」という条件付けを形成していきます。
\POINT/一般の飼い主さんの判断では病状を悪化させる恐れがあるため、行動診療医の指示のもと、行動療法を実施しましょう。

もし、留守中に物を破壊したり、不適切な場所に排泄していたりしても、叱ってはいけません。叱られることによって不安が増強され、飼い主さんと愛猫の信頼関係が崩れる可能性があります。

環境整備

<安心できる場所をつくる>

動物が安心できる場所をつくりましょう。

猫は屋根のあるほら穴のような場所が安心するため、普段の生活から安心して入れるクレートやハウスを用意します。

クレートの入り口のドアは閉めると嫌悪感を示したり、バリアフラストレーションを引き起こしたりするため、開け放しで自由に出入りできるような状態にしましょう。
\POINT/猫は高いところの方が安心するので、クレートやハウスの設置は、高い位置をお勧めします。

ただし、地震などにより落下しないよう設置しましょう。

<留守中の音楽やテレビは有効?>

留守番用に音楽やラジオ、テレビをつけっぱなしにすることについては、分離不安症の猫のストレス軽減に有効かもしれません。

特定の人でなくとも同じ空間に誰かいることで安心するような猫では、そういったツールで気を紛らわせる可能性があると思われます。

それで症状が悪化することは考えにくいため、試しにやってみるのも一つの手です。
\POINT/「テレビやラジオをつける=外出のサイン」と学習すると、問題はより解決されにくくなるでしょう。

もし試すのであれば関連付けがしづらくなるように、出かける30分~1時間前から音を出すようにしておきましょう。


<多頭飼いは有効?>

留守番のお供として、新しく動物を迎えることは問題解決にならないので推奨されません。

奇跡的に新しい動物との相性が良く、飼い主の不在時も気を紛らわすことができるのであれば有効かもしれません。

ただし、猫は縄張り意識が強い単独行動を好む動物のため、新しい同居動物を増やす場合は非常に慎重にならなければなりません。仲良くなることは期待しない方が良いでしょう。

薬物療法

薬物療法はあくまで補助的な治療です。基本的な治療方針は一人でいることに慣れさせることです。

猫では分離不安に対する治療薬で認可された薬はありません。

使用するとしたら、三環系抗うつ薬(TCA)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン1A受容体作動薬、ベンゾジアゼピン系薬、抗ヒスタミン薬などが挙げられます。

猫の分離不安症の予後・予防

椅子の上にいる猫

分離不安は治療可能な問題行動の一つですが、非常に細かな治療スケジュールを組む必要があり、治療期間は半年以上かかります。

そのため、予防としては迎えた早い段階に1匹の留守番に慣らすことが重要です。

まとめ

眠る猫

分離不安症とは、愛着がある対象との距離が離れ、強烈な不安感を抱く種々の症状のこと
分離不安の症状は「破壊行動」や「不適切な場所での排泄」などが挙げられます
生活環境の急激な変化が分離不安症の原因になり得ます
分離不安症の治療は行動診療医のもとで行いましょう
猫を迎えたら、1匹での留守番に慣らすことが重要です

分離不安症を認識しているにも関わらず、放置するということは、極端な言い方をすれば精神的虐待といっていいかもしれません。

愛猫の苦痛をなんとかできるのは飼い主さんしかいません。少しでも心当たりがある人は、悪化する前に行動診療に詳しい獣医師に相談しましょう。



参考文献






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