実は危険な猫コロナウイルス(FCoV)|感染症状、検査・治療法など獣医師が解説

実は危険な猫コロナウイルス(FCoV)|感染症状、検査・治療法など獣医師が解説

猫コロナウイルス感染症の症状は軽微な腸炎、もしくは無症状のため、それほど恐ろしい感染症ではありません。しかし、猫コロナウイルス(FCoV:Feline coronavirus)に感染している一部の猫の体内で、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV:feline infectious peritonitis virus)が全身感染を起こすといわれているので注意が必要です。今回は猫コロナウイルス感染症についての症状や検査方法、犬に感染するのかといったことなど、野坂獣医科院長の野坂昭文が解説します。

コロナウイルスとは

本と子猫

このウイルスの名前の由来は、太陽とそれを取り巻く散乱光のコロナがウイルスの形に似ていることから、その名前がついたそうです。

コロナウイルスは,ヒト、マウス、ネコ、豚などに感染します。感染後、各動物で呼吸器疾患,消化器疾患,肝炎,脳炎などそれぞれ異なる疾患を引き起こします。ヒトに感染するコロナウイルスは、冬の風邪の原因の1つとされており、2002年までは研究報告があまりされていないウイルスでした。

しかし、2002年と2012年に新型のコロナウイルス、SARS(重症急性呼吸器症候群:Severe Acute Respiratory Syndrome)とMERS(中東呼吸器症候群:Middle East Respiratory Syndrome)が発見され、コロナウイルスは多くの研究者たちから研究報告をされるようになりました。

コロナウイルスは、インフルエンザウイルスのように変異を起こしやすいウイルスなので、今後も新型のウイルスが発見されるかもしれません。

猫コロナウイルス(FCoV)とは

猫の横顔

猫コロナウイルス(FCoV)には、「血清学的」と「病原学的」の二つの分類方法があります。そして、この二つの分類に相関性はないといわれています。

血清学的分類

猫コロナウイルス(FCoV)は、血清学的に1型と2型に区別することができます。

病原学的分類

猫コロナウイルス(FCoV)は病原学的に猫腸内コロナウイルス(FECV:feline enteric coronavirus)と猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)に分けられますが、明確には二分し、区別できません。

猫コロナウイルス(FCoV)は胃腸炎を起こす猫腸内コロナウイルス(FECV)ともいわれています。さらに、この猫腸内コロナウイルス(FECV)から病原性変異株(※)として猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)が出現し、腹膜炎や脳炎などを起こすと考えられています。

※猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)は、病原性の弱い猫腸内コロナウイルス(FECV)が猫の体内で突然変異し、病原性の強い猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)に変化したという考えが最も支持を得ています。

猫コロナウイルス感染症の原因

親猫と子猫

猫コロナウイルス(FCoV)の主な感染経路は、「経口感染」と「経鼻感染」です。つまり、感染猫の糞便中のウイルスや排泄物に汚染された食器やトイレなどから感染が広がります。ネコ科動物であれば、年齢や種類に関係なく感染し、犬にも感染します。

猫腸内コロナウイルス(FECV)が感染すると、はじめは猫の体内で増殖し、ほとんど無症状のまま終息します。感染しても、得られる免疫が弱いので、再び感染してしまう猫もいます。また、持続感染する猫もいます。

多頭飼いの場合、感染力のあるウイルスなので短期間に伝染します。その後、猫間に感染したウイルスが持続感染することで維持されます。


猫コロナウイルス感染症の症状

猫腸コロナウイルス(FECV)は無症状あるいは軽微な腸炎を示し、二次感染が重なれば軟便・下痢、血便や嘔吐の症状がみられることがあります。二次感染がない場合、症状がみられるのは4日程度といわれています。



猫コロナウイルス感染症の検査・診断方法

白い猫

猫腸コロナウイルス(FECV)は糞便や血液を用いることで、遺伝子検査や血清学的検査を行い、診断することができます。

猫コロナウイルス感染症の治療方法

ウイルスに対する特効薬はありません。嘔吐下痢など、発現している症状への対症療法を行います。予後は感染しても、得られる免疫が弱いので、再び感染してしまう猫もいます。また、持続感染する猫もいます。


猫コロナウイルス感染症の予防

振り向く猫

国内にワクチンは販売していません。発症のメカニズムがわかっていない理由などから、有効な予防法は知られていません。そのため、環境的・衛生的な管理を行い、予防します。

コロナウイルスは比較的容易に伝染します。コロナウイルスは猫同士がトイレを共有したり、グルーミングすること、人が感染猫から運んできたりすることで他の猫に簡単に感染してしまいます。

室内で個別飼育している猫の感染率が約15%、他の猫や不特定多数の人との接触をする猫の感染率が約80%といわれています。

このため、猫から猫に、または人を介して猫に感染しないように、「猫が外に出ないようにする」ことはもちろん、「飼い主さんが帰宅したときに消毒する」など飼い主さんが気をつける必要があります。

多頭飼いの場合も同様です。

コロナウイルスは消毒用アルコールや次亜塩素酸ソーダなどで容易に不活化するので、これらの薬品を用いて、食器やトイレなどに付いたウイルスを物理的に排除し、化学的に処理します。

また、糞便中にも排泄されるので糞便を適切に処理することが大切です。糞便の処理の際には、糞便に消石灰をふりかけ、消毒する方法もあります。


猫コロナウイルス感染症に良い食事

猫コロナウイルス感染症による下痢嘔吐がみられると、食欲やご飯の量が減ってきます。その場合、香りが強い食事や消化のよい高栄養の食事などを与えましょう。水分が足りなければ、ウェットフードやドライフードに水分を加えた食事などを与えましょう。

予防対策は可能です

寝起きの猫

猫コロナウイルス感染症は発症したとしても、その症状は軽微な腸炎程度ですが、甘くみてはいけません。猫コロナウイルス(FCoV)に感染している一部の猫の体内で、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)が全身感染を起こすといわれているからです。

何が原因でウイルスが変異し、発症するかは明らかになっていませんが、猫伝染性腹膜炎(FIP: feline infectious peritonitis)は発症すると致死的な臨床症状をたどる非常に恐ろしい病気です。

今回の記事を読むことで、猫コロナウイルス感染症がどのような病気か理解することができます。国内でワクチンは販売されていませんが、予防対策をすることは可能です。この記事を読み、病気を理解し、その他の感染症も含めて、予防していきましょう。

参考文献

  • Brownら, Genetics and pathogenesis of feline infectious peritonitis virus.Emerg Infect Dis. 2009 Sep;15(9):1445-52
  • Dokiら,Therapeutic effect of anti-feline TNF-alpha monoclonal antibody for feline infectious peritonitis.Res Vet Sci. 2016 Feb;104:17-23
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  • Ramseyら, Manual of Canine and Feline Infectious Diseases(2001)
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