猫のトキソプラズマ症は人にうつる? 感染経路や検査、予防法などを獣医師が解説

猫のトキソプラズマ症は人にうつる? 感染経路や検査、予防法などを獣医師が解説

ネコ科動物を終宿主とするトキソプラズマは、ヒトへも中間宿主として感染します。ヒトの感染症は世界中で報告されており、世界的にみると全人類の1/3が感染しているといわれています。感染率に地域差があるため、認識の乏しい国とそうでない国があります。妊娠中の女性が感染すると胎児に影響が出るので、ぜひ知っておきたい人獣共通感染症です。今回はトキソプラズマの感染経路、検査・予防方法や人への影響などについて野坂獣医科院長の野坂昭文が解説します。

トキソプラズマとは

トキソプラズマは猫を終宿主とし、哺乳類・鳥類を中間宿主とする原虫の一つです。大きさは数マイクロメートルなので、肉眼では見えません。したがって、顕微鏡で観察します。半円から三日月形をしています。この小さな寄生虫は、世界的にみると全人類の3分の1(数十億人)のヒトに感染しているといわれています。免疫不全状態の場合や妊娠している女性が感染すると、臨床的に問題になることがあります。また、正常な免疫機能の成人であれば、トキソプラズマが脳や筋肉内に潜伏感染した場合、無症状のままのことがあります。

トキソプラズマに感染することで行動に影響がある?

脳にトキソプラズマが潜伏感染することは、統合失調症、アルツハイマー症、うつ病などの発症要因の一つとなる可能性や、ヒトの性格や行動に影響を及ぼす可能性があると推測されています。また、ネズミが感染すると猫の匂いに対する嫌悪感が減少するともいわれています。しかし、その一方でこれらの関連性は無いという報告もされており、さらに、そのメカニズムの解明はされていません。

病原体の種類と不活化方法

病原体としてはシスト、オーシスト、栄養型の3つのタイプが知られています。

  • シスト:休眠状態のサナギのような形態(嚢子ともいう)
  • オーシスト:卵のような形態(接合子嚢ともいう)
  • 栄養型:シスト、オーシストが変化したもの

ヒトへの感染は、主にシストやオーシストの経口感染によって起こります。栄養型の経口感染は、消毒液や胃酸で死亡するため、まれです。シストとオーシストは、環境中で数日から数カ月生存します。また、消毒液では、容易に死亡しません。しかし、加熱処理(56℃、15分以上)、もしくは冷凍処理(−20℃、24時間以上)によって不活化されます。電子レンジによる加熱や冷蔵保存だけでは不活化されないことがあるので注意が必要です。

猫の感染について

猫

トキソプラズマの終宿主はネコ科動物です。トキソプラズマは、ネコ科動物の腸管上皮でしか有性生殖を行いません。ネコ科動物は、オーシストというタイプの「発育すると感染性を持つの病原体」を糞便中に排泄します。猫を飼っていても、トキソプラズマ症という病名を聞いたことがない方もいるかもしれません。猫のトキソプラズマ症の診断は難しいことから、見逃されたり、話題にならないことがあります。しかし、国内でも発生はしています。国内の猫の感染状況を2009年から2011年に調べたところ、東京都の保護猫の約7%に感染の疑いがあったそうです。

猫のトキソプラズマ症の原因・感染経路

猫への感染経路は大きく分けると次の3つの経路が考えられています。

  • 感染猫が糞便中に排出した虫体を、別の猫が経口摂取する感染経路
  • 動物の筋肉などの虫体を猫が経口摂取する感染経路
  • 母猫から胎盤を介して胎子へ感染する経路

野良猫、多頭飼い、散歩など外に出る機会の多い猫、または鳥類やネズミなどの生肉を食べている猫はトキソプラズマ症になりやすいでしょう。

猫のトキソプラズマ症の症状

猫の症状は特異的でなく、軽症です。そのため獣医師でも診る機会が少ないかもしれません。トキソプラズマは、さまざまな臓器に感染するため、呼吸器症状、消化器症状、神経症状などがみられます。症状が多岐にわたり、特異的な症状を示さないので、臨床症状から鑑別診断を下すことは非常に難しい病気です。診断が難しいことだけでなく、多くの猫は無症状であることから、見逃されたり、話題にならないことがありますが、国内でも発生はしています。また、免疫不全状態の猫や子猫の場合に発症することがあり、そこで猫の病気として問題視され、話題になります。

猫のトキソプラズマ症検査・診断方法

診療を受ける猫

猫のトキソプラズマ症の検査方法としては、以下の3つがあります。

  • 血清学的検査
  • 病理検査
  • 遺伝子検査

血清学的検査

ELISA(※)やラテックス凝集反応(※)によって、トキソプラズマに対する抗体を検出する方法があります。無症状のまま潜伏感染している場合でも、陽性の結果になることもあります。その場合、時間を空けて再度採血し、検査する必要があります。
※ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)は、試料溶液中に含まれる目的の抗原あるいは抗体を、特異抗体あるいは抗原で捕捉するとともに、酵素反応を利用して検出・定量する方法

※液相中において抗原物質に特異的な抗体をコーティングしたラテックス粒子を用い、抗原物質を検出する測定系


病理検査

肝臓や肺などの生体組織診断をする方法や、脳脊髄液中に虫体を確認する方法がありますが、虫体がみられなかった場合、トキソプラズマの存在を完全に否定はできません。

遺伝子検査

特異性が高く、検出することができます。虫体の分布する場所が様々な臓器であるため、この検査で陰性の場合、トキソプラズマの存在を完全に否定はできません。

猫のトキソプラズマ症の治療法・治療薬

抗生物質で治療し、症状が改善する場合もありますが、基礎疾患をもっている場合には、基礎疾患の治療も合わせて行う必要があります。

猫のトキソプラズマ症の予防法

ワクチンや予防薬がありませんので、感染させないために注意すべきことは、以下の通りです。

  • 飼い猫が別の猫の糞便に近づかないようにしましょう
  • 飼い猫に生肉を与えないようにしましょう
  • 飼い猫がネズミや小鳥などを捕まえることのないように、室内飼いにするなど配慮しましょう



人の感染について

布団に入った猫

ヒトのトキソプラズマ症は世界中で報告されており、世界人口の3分の1(数十億人)が感染しているとされています。各国の妊婦のトキソプラズマの抗体保有率には、地域差があり、フランスでは44%、英国や米国では15%とされています。感染率には地域差があり、肉食の文化や、猫の有病率、衛生状態などが複雑に関連しているといわれています。地域差があるので、認識の乏しい国とそうでない国があるのが現状です。国内の妊婦の抗体保有率も、2%から10%と地域差があります。

人への感染経路について

野良猫の糞で汚染された土壌によって感染する場合もあり、必ず飼い猫から直接感染するのではないことを理解しましょう。また感染経路は猫に限らず、生肉や汚染された水や土からも感染することがあります。ヒトの感染経路は、粘膜や外傷から感染する可能性が低く、経口感染が主な感染経路です。以下の場合に経口感染が成立します。

  • 虫体が手に付着する場合
  • 飼い猫のトイレ掃除、園芸、砂場遊びなどによって虫体が手に付着することによって、経口感染が成立します。

  • 虫体が食べ物に付着している場合
  • 加熱不十分な食肉、洗浄不十分な野菜や果物に付着していた虫体によって、経口感染が成立します。

人が感染した場合の症状

  • 疾患を持っていない正常の人だと風邪のような症状
  • 妊婦さんだと症状は同上でも流産や死産につながる可能性があります
  • 赤ちゃんは先天性トキソプラズマ症で成人してから出る可能性あります

免疫機能が正常な成人が感染しても約80%は症状がみられません。しかし、残りの10%から20%で感染初期に風邪のような症状がみられ、その後、慢性感染に移行となり、生涯にわたって保虫者となります。保虫者といっても、免疫機能が正常であれば、臨床的に問題になることが少ないので恐ろしい病気です。さらに恐ろしいのは、免疫抑制状態になった場合(胎児、臓器移植患者、ステロイドの使用など)、再活性した虫体によって虫血症となり、肺炎、心筋炎、神経障害や眼疾患などの重篤な症状を引き起こすことがあります。

人の検査方法・治療法

問診、抗体検査、遺伝子検査、CT検査、眼底検査などを用いて診断しますが、無症状や免疫抑制状態の場合は、診断が困難になることがあるそうです。感染予防のワクチンはありません。症状や感染時期、免疫抑制状態の有無、検査結果などから治療の方針を決めます。

人への感染予防

感染しないように、次のことに気を付けましょう。

  • ガーデニングなどで土を触る際は手袋を着用し、土を触った後は手指を石鹸と温水で洗浄
  • 子供にも手洗いの重要性を教育し、砂場で遊んだ後は特に手洗いをする
  • 砂場にはカバーを掛け、野良猫を砂場に入れない
  • 湧き水や川の水など、飲料水以外は飲まない
  • 肉類は十分に加熱し食べる
  • 野菜はよく洗い、果物はきちんと洗うか皮をむくなどして食べる
  • 調理器具や食器、手指は十分に洗浄
  • 飼い猫は、室内飼いにして、生肉は与えず、キャットフードを与える
  • 妊娠中の人がいる場合、妊婦以外の人が猫のトイレの掃除を行うようにし、飼い猫をキッチンや食卓に近づけない

妊娠中の女性の感染予防

妊婦さんのお腹

もし、急性感染期に宿主が妊娠中であれば、原虫が胎盤を通過して胎児に移行するので注意が必要です。妊娠中の場合、愛猫との付き合い方は普段通りではなく、猫の糞の掃除をしない、猫を外に出さない、猫に生肉を与えない、猫とキスをしないなどいつもと違った対応が好ましいでしょう。以下のことを注意すれば妊娠中の感染を防げる可能性が高いので心がけてみてください。

  • 妊娠初期には、抗体検査をするなどの相談を病院で行う
  • 妊娠中には、新しい猫を飼わない
  • 飼い猫はできるだけ部屋飼いにし、生肉の給餌を避け、キャットフードを与える
  • 猫とキスをするのはやめる
  • 猫のトイレは1日1回以上掃除をする

1日1回以上こまめにトイレを掃除することは、猫が虫体の入った糞便中を排泄し、24時間以上経過してから虫体が感染性を獲得するので、それまでに掃除をすることで、感染する可能性が減るからです。また、猫が感染力のあるオーシストを排泄するのは、感染後数日から2週間くらいなので、このことを知っていることで、感染の可能性を減らすことができます。猫のトイレ容器は可能ならば、熱湯で消毒することが望ましいです。妊娠を理由に猫と別居する必要はないのですが、猫のトイレ掃除は、なるべく妊婦以外のヒトが行ないましょう。



トキソプラズマ症を理解しましょう

トキソプラズマは猫だけでなくヒトにも感染し、場合によっては、ヒトに症状を示す恐ろしい病気です。しかし、トキソプラズマ症を理解することで、猫への感染を予防することができます。また、妊娠を理由に飼いネコをすぐに処分したり、別居する必要性も少なくなります。猫の飼い主さんは、この病気だけでなく、猫の感染症をよく理解し、飼い猫が病気にならないように予防できる病気は予防していきましょう。

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