猫の鼻炎|症状・原因・治療法・予防法などを獣医師が解説
猫ちゃんは鼻の病気、特に感染症による鼻炎が多い動物です。特に野良猫だった子や完全室内飼いであっても野良猫のお母さんから生まれた子は鼻炎を起こす病原体をもらっていることも多く、大人になっても鼻詰まりや鼻水、目やになどの症状が出ることがあります。今回はそんな猫ちゃんで多い鼻炎について獣医師の福地がご紹介します。
病名 | 鼻炎 |
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症状 | 鼻水、目やに、目の腫れ、鼻血など |
原因 | ウイルスや細菌、アレルギー性のものなどさまざま |
危険度 | 低。命を脅かす危険は低いですが、生活の質の低下が考えられます |
猫の鼻炎とは
口呼吸をめったにしない猫ちゃんにとって、鼻は酸素交換を行うとても重要な部分です。猫ちゃんの鼻は小さく見えますが、よほど暑かったり肺炎などで呼吸状態が悪いとき以外は基本的に鼻呼吸の生き物なのです。
外界の酸素を交換する部分である鼻は、「外から入ってくる埃や細菌などの遺物や病原微生物を除去するフィルターとしての役割」と、「体に取り込む空気に適度な湿度と温度を与える役割」も持っています。また、鼻には臭いを感じるための神経も存在しているので食欲にも大きく関わります。
この鼻の中で炎症が起きている状態を「鼻炎」と呼びます。炎症を起こす原因は猫ちゃんではウイルス感染が多く、続いてカビや細菌が重なって感染し炎症を悪化させることも多く見られます。
人では鼻炎は一時的なもので治ることも多いのですが、猫ちゃんに多いウイルス性の鼻炎は一度体に感染すると改善と再発を何年にもわたって繰り返すことが知られており、放っておくと鼻腔内の軟骨などの構造物が溶けて変形し呼吸が常にしづらい状態になってしまうこともあります。
さらに、このウイルス性鼻炎の場合は鼻だけでなく結膜炎などもあわせて発症することが多く、猫ちゃんのその後のQOL(Quality of Life:生活の質)に深く関わってきます。
また鼻炎とはすこし違いますがペルシャなどの鼻が潰れている猫種では「外鼻孔狭窄(がいびこうきょうさ)」(※)といって、鼻の形がもともと変形しており呼吸がしにくい状態になっていることもあります。
※空気の通り道である鼻の穴の形が狭くなっていたり歪んでいたりする状態のこと
猫の鼻炎の症状
猫の鼻炎の症状で多いのは片側あるいは両側の鼻の穴からの「鼻水」です。
鼻水は原因によって性状が変わってきますが、基本的にはどのタイプであっても継続して出ている場合は病的な原因によるものがほとんどです。
ウイルス性やアレルギー性の場合は透明でサラサラした状態の鼻水、細菌感染やカビ感染がある時や緑や黄色のドロドロした状態の鼻水が出ます。合わせてくしゃみや呼吸時の「ズズッ」という音(鼻閉音)もみられます。
ウイルス性の鼻炎の場合は鼻以外の症状も出すことも多く、「目やに」や「結膜炎による目の腫れ」「涙」もみられます。
その他の症状として鼻血が挙げられ、鼻血は鼻腔腫瘍が原因でみられることが多いです。赤やピンクっぽい色の液体を鼻から出していたら早めに病院に連れて行くことをおすすめします。
猫の鼻炎の原因
鼻炎の原因としては以下の8点が挙げられます。
- ウイルス
- カビ
- 細菌
- アレルギー
- 腫瘍
- 歯の病気によるもの
- 異物
- 外鼻孔狭窄
ウイルス
猫の鼻炎で最も多い原因です。「猫ヘルペスウイルス」「猫カリシウイルス」による鼻炎がウイルス性鼻炎の90%以上を占めています。これらの感染症は猫だけに感染します。子猫で重症化することが多く目にも強い炎症を起こすので、治療が遅れると角膜に穴があいて瘢痕化して失明してしまったり、眼球を摘出しなければいけないほどの状態になることもあります。
拾ったりした保護猫が鼻を「ズビズビ」と言わせて目も目やにでいっぱいになっていたら、早めに動物病院にかかりましょう。
カビ
「真菌性鼻炎」ともいいます。猫ではクリプトコッカスというカビの感染で起きることが多く、進行すると眼に症状を引き起こすこともあります。猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルスと合わせて感染していることが多いです。細菌
細菌性鼻炎は細菌感染が一番最初の原因になっていることは少なく、ウイルス性鼻炎やその他の鼻炎に伴って起きることが多いです。アレルギー性鼻炎
埃、タバコの煙などさまざまなアレルゲンによって引き起こされます。腫瘍
猫での発生率は0.6%と低いのですがそのほとんどが悪性です。腫瘍はどんどん大きくなり、顔の変形もきたし脳神経に波及して神経症状を出すこともあります。呼吸も苦しくなるので安楽死も選択肢になる病気の一つです。歯の病気によるもの
歯の根元は鼻に隣接しているため、歯の炎症がひどいときに鼻炎と同じ症状を示すこともあります。異物
「口蓋裂」という口と鼻が繋がってしまう奇形のときにミルクが入りこんだり、草の種子(ノギ)が鼻の中に入り込むことで起きます。外鼻孔狭窄
鼻炎の原因とは違いますが、ペルシャなど鼻が潰れ気味の猫で多い鼻の疾患です。空気の通り道が歪んでいるので呼吸しづらい状態が続きます。呼吸をしづらそうなことから「鼻が詰まっている→鼻炎」と勘違いする飼い主さんもいるかもしれません。猫の鼻炎の治療法
基本的には鼻水やくしゃみ、目やにが見られた時点での動物病院への受診をお勧めします。炎症は放っておくと組織を溶かして変形をもたらし、その変形は治すことができず永続的に呼吸しづらい状態が残ってしまうこともあるからです。
ウイルス性鼻炎の場合は子猫の時に感染しても大人になったあと、季節の変わり目など免疫力が落ちるタイミングで再発を繰り返します。
放っておいても改善することもありますが、炎症が長引いて癒着や変形を残す可能性もありますしQOLも下がるので治療をしてあげることをおすすめします。
軽い鼻炎では消炎鎮痛剤や抗菌薬の点鼻だけで改善することもあります。もっとひどい時にはネブライジングといって薬剤を空気中に浮遊する粒子化して吸わせる投薬方法を行うこともあります。
鼻炎が長引いて副鼻腔炎にまで進行してしまった時は、外科手術で膿を排膿させることもあります。放っておけば放っておくほどこれらの症状は進行し、治療もおうちでできる薬物の局所投与から病院で行うもの、外科手術が必要なものになっていきます。
また、インターネットで猫の鼻炎に対し、「サプリメント」などの使用情報などがありますが、使用経験がないため効果についてはわかりません。サプリメントを与えるかどうか悩まれる場合はかかりつけの獣医師さんに相談しましょう。
猫の鼻炎の予防法
まずは猫ちゃんをお迎えしたら3種混合ワクチン(猫ヘルペス、猫カリシ、猫パルボ:汎白血球減少症)を接種してあげましょう。
感染猫との接触や飼い主の手、食器を介してもウイルスは伝播することが知られているので、感染している可能性のある猫をお迎えする時は先住猫には必ず予防接種をおすすめします。
外猫や野良猫のウイルス性鼻炎の保有率はかなり高いため、感染させないように完全室内飼いを強くおすすめします。猫免疫不全ウイルスなど他の感染症にかかったり交通事故に遭う危険もあります。
あとは鼻粘膜を保護して病原体感染や異物に対する防御能力を保つために乾燥した環境をつくらないのも有効です。
猫の鼻炎は鼻水を見たら早めに動物病院へ
猫ちゃんは鼻炎を発症しやすい生き物です。最も多いウイルス性鼻炎が命に関わるほどの重篤な症状を出すことは多くありませんが、早めに治療をしてあげることで猫ちゃんも快適に生活できると思います。
鼻水をたらりと垂らしているところを見つけたら、ぜひかかりつけの病院に連れて行ってあげてください。
参考文献
- 岩崎利郎,辻本元,長谷川篤彦 監修「獣医内科学小動物編」