犬が自分の足をかむ・舐めるのはなぜ? 理由や対処法などを行動診療科獣医師が解説

犬が自分の足をかむ・舐めるのはなぜ? 理由や対処法などを行動診療科獣医師が解説

愛犬が足をかんだり舐めたりしていることってありますよね? 「汚れが気になっているのかな?」「痛みでもあるのかな?」「自分で止めたくても止められないのかな?」といったさまざまな憶測が浮かぶと思います。今回はそんな「足をかむ・舐める行動」について、主に行動学的観点から獣医師の鵜海が解説させていただきます。

症状 犬が自分の手足をかむ・舐める
原因 大きく分けて医学的原因と行動学的原因のふたつがあります。
対策 医学的原因でないのであれば、その子が「なぜそのような行動をしているのか」を見つけることが重要です。

「かむ」は2種類ある

本を読む犬

「かむ」とはいっても「噛む」と「咬む」の2つのうち、どちらを用いるかで意味が大きく変わります。

噛む「噛む」は英語の「chew(よくかむ)」のニュアンス。奥歯でかみしめるイメージで、咀嚼するという表現に近い。
咬む「咬む」は英語の「bite(かみつく、かみきる)」のニュアンス。前歯や犬歯で、刺したりちぎったりするイメージで「咬傷」につながるかみ具合のこと。

行動治療にとって「噛む」と「咬む」では、犬の切羽詰まり具合が変わるため、とても重要な指標になってきます。

「噛む」行動でも「咬む」行動でも、原因は同じものが考えられますが、今回の記事では一般的に起こり得る「噛む」という漢字に統一して述べていきたいと思います。

もし愛犬が、自分の足を「咬む」という方はすぐにお近くの行動診療が可能な動物病院に連れて行ってください。行動診療科を実施している動物病院一覧はこちら

犬が自分の足を噛む理由

犬

まずは医学的原因がないか、愛犬の体や様子をチェックしましょう。

考えられる医学的原因

症状 考え得る原因
痒みや痛み 皮膚疾患、外傷、整形疾患、寄生虫、細菌感染、真菌感染、腫瘍、異物
神経症状 脳神経疾患(焦点性発作、知覚過敏、脳炎、脳腫瘍、奇形、末梢神経障害など)、代謝性疾患(門脈体循環シャント、クッシング症候群、甲状腺機能低下症など)、中毒
特定できない不快感 多くの慢性疾患

挙げたものの中で、特に脳神経疾患ではMRIやCTなどを撮影しないと原因がわからないこともあります。行動学的原因も並行して考え、治療の反応をみながら場合によっては精密検査も再検討していく必要があります。

考えられる行動学的原因

医学的原因がないことを前提に、行動学的な原因を考えていきたいと思います。

転位行動 イライラや不安、葛藤などの情動に関連した気持ちを落ち着け、発散するための行動
常同障害 自分でも止められないほどの快or不快感情を伴った強迫観念からくる繰り返しの行動
関心を求める行動 相手との関わりの中で学習された相手の注意を引くための行動
分離不安症 愛着(主に家族の誰か)の分離に対する不安からくる転位行動や常同行動
全般性不安症 さまざまな状況や対象に対する不安感からくる転位行動や常同行動
◯◯恐怖症 特定の恐怖からくる転位行動や常同行動

擬人化をしすぎることも誤解を招く場合がありますが、まずは「人間だったらどうなんだろう?」という視点を持つことは行動学的原因を考える上で重要です。

行動学的要因の例

愛犬が、やることが無いことにストレスを感じ、たまたま自分の足を噛んでいたとします。

まず、この時点で「何もやることなかったけど、足噛んでたらなんか暇つぶしになったなぁ」と感じ、足を噛む行動は強化されます。

さらに、そのとき飼い主が声をかけ、この声かけが犬が足を噛む度に毎回起こると「足を噛めば家族が相手してくれる」と覚えます。

行動がパターン化されることで、どんどん噛む行動が強化されていきます。場合によっては噛む行動で注目してくれなくなったら、咬む行動にまで発展することもあり得ます。

この状態までなると常同障害と診断されるでしょう。人でいえば抜毛症とか強迫神経症に近いものです。

犬が自分の足をかむ場合の対策

トイプードル

医学的原因がある場合

エリザベスカラーを使って、噛むことを防ぐ方法があります。

行動学的原因がある場合

大前提として「散歩の時間が足りない」「飼い主との関わり合いの時間が少ない」「1頭で自由にさせているときに何もやることを与えていない」「落ち着いて寝られる環境がない」など、環境に問題がある場合は、問題点を解決しましょう。

犬の基本的ニーズを埋め合わせないにも関わらず、犬をなんとかしようとすると問題は悪化します。

犬が噛む行動を起こすときの環境や状況をじっくり観察しましょう。不可解な点が多い場合はお近くの行動診療科に相談しましょう。

対策は、犬が何によってその「噛む行動」を起こしているかで変わります。もちろん医学的原因があればその治療が最優先です。

犬が前足を噛む実例

キャバリア

※今回紹介するケースは、あくまで例として簡潔に表現してあります。


遊びの延長で家族を噛んだらケージに入れられ、直後に手足を噛む犬

犬が遊んでいる間に興奮して噛んでくることは、上手く興奮が抑えられない場合によくあることです。

その度にケージに入れていると、犬は「もっと遊びたいのに遊べない!」という葛藤を感じます。葛藤という情動の矛先が、手足を噛むという形に転位した行動だと診断されました。

<対処法>

この家族においては、愛犬の留守番時間が長い上に、すぐケージに入れられるため、散歩の時間や遊びの時間を十分に取れていませんでした。そうした場合、犬の欲求を発散させる機会を十分に設ける必要があります。

人の在宅中はできるだけケージから出し、犬が遊びたいと思うような知育トイを出しておくことも良いでしょう。ひとりでも遊ぶことができれば、噛まれる機会も減り、犬がすぐにケージに戻される機会も減ります。

ケージに戻される機会が減れば、葛藤が生まれる機会も減り、次第に足を噛むという行動は減っていくでしょう。

手足を舐めるたびに注意されている犬

手足を舐めるたびに、家族から「こら!ダメでしょ!」と注意されていましたが、犬は特に恐がる様子はなく、むしろ家族の方を見ながら舐めていました。

そのうち、段々と舐める行動が頻繁に出てくるようになり、関心を求める行動だと診断されました。

<対処法>

飼い主が怒っているつもりでも、犬からしたらラッキー程度に思っていることが考えられます。他に注意を向ける何かを事前に用意して、退屈させない必要があります。

犬主導で飼い主が関心を向けていると、気になる行動はどんどん強化されますので、犬が人の関心を引こうとする前に、飼い主が犬の注意を引いて、コミュニケーションや意思疎通を図り、欲求を満たす必要があります。

できるのであれば「オスワリ」「フセ」「マテ」「オイデ」などを活用してコミュニケーションをとりましょう。

今までは「足を噛んであの人の注意を引きたい!」と思っていた状態から「わざわざ足を噛まなくてももうすぐ相手してくれるから大人しく待っとこう」という意識に変わっていきます。そうすることで、次第に足を噛む行動が減ってくるはずです。

雷が鳴りそうなときはずっと手足を噛んでいる犬

雷がゴロゴロ鳴り始めると、鳴りやむまでずっと手足を噛んでいました。

昔、雷が家の近くに落ちて以来、この行動が毎回必ず生じていることから、雷恐怖症の不安感や恐怖感による転位行動と診断されました。

<対処法>

対象となる刺激をテレビの音や雨戸を締めることで軽減することはできますが、回避することは不可能です。

あまりに強い恐怖感で寝られないのであれば、一時的に抗不安薬などを用いた薬物療法も治療選択のひとつでしょう。

可能であれば、日頃から雷の録音された音などを小さい音量で聞かせつつ、同時にオヤツを与えて雷の恐怖感を克服していくことも良いでしょう(系統的脱感作と拮抗条件付け)。

雷の度に少し気持ちを落ち着けた状態で過ごせるという経験を積むだけでも、次第に「雷は怖いけど、そのうち鳴りやむ」と思ってくれるようになる可能性もあります(古典的条件づけ)。

まとめ

子犬

犬が噛む行動には理由があります
医学的原因によるものではないか観察しましょう
行動学的原因であれば犬の欲求を考えましょう
原因が分かったら原因に対するアプローチを
不安があれば、お近くの行動診療科に相談しましょう

犬にもそれぞれ個性があり、家族の形もさまざまで、いくつかの条件が複雑に絡み合い犬の行動が形成されています。

犬の数だけ対応対策があります。まず飼っている犬の気持ちを尊重し「なぜこの子はこの行動をするんだろう?」とシンプルな気持ちで犬の行動を理解することから始めてみてください。

参考文献

  • 小動物臨床医のための5分間コンサルト 犬と猫の問題行動 診断・治療ガイド,Debra F.Horwitz, Jacqueline C.Neilson著
  • 犬と猫の治療ガイド 2015 私はこうしている (SA medicine books)





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