猫の妊娠|兆候や妊娠期間、出産準備などを獣医師が解説
春や秋になると、外から喧嘩する雄猫の声が聞こえたり、独特の吠えるような鳴き声の雌猫の声が聞こえてきます。猫は優秀なハンターであると同時に、多産な動物でもあります。今回は猫は「生後いつから妊娠可能なのか」「1度の出産で何匹出産するのか」といった猫の妊娠と、増えすぎた猫が生態系に及ぼす影響について獣医師の福地がご説明します。
猫の妊娠とは
猫は生後6カ月くらいから性成熟をむかえ妊娠可能になります。生後3カ月くらいで離乳することを考えるととっても早いですね。
猫の妊娠期間は65日ほどで、平均して1回に4匹の子猫を産みます。日本では春と秋、1年に2回発情するため最大2回ほど子猫を産む場合があります。猫は人と違って交尾排卵動物、つまり交尾の刺激で排卵する動物なので1回の交尾で妊娠する確率がとても高いです。
お父さん猫が異なる妊娠もある?
驚くべきことに、同じお母さんから産まれた子猫たちはそれぞれ違う年齢であることがあります。妊娠中のお母さん猫でも、再度の交尾でまた排卵して別のお父さん猫の子猫を同時に妊娠することがあります。びっくりですね。猫の胎動
猫でも胎動があります。複数の子猫を妊娠しているので、人間が見てもびっくりするくらいボコボコお腹が動いていることがあります。妊娠後期である50日頃から傍目に見てもわかるような胎動があります。猫の偽妊娠について
猫の場合は成熟した卵子のもと(卵胞)は交尾していなくても時期が来ると排卵します。妊娠していないのに母乳が出たり、巣作りをするような行動は排卵したあとの卵胞が黄体というものになります。この黄体期に偽妊娠は起きますが、猫の場合は交尾排卵動物なので交尾しないと排卵しないので、黄体ができてもすぐに次の卵胞が育って来るので黄体がある時期が短く、犬のような偽妊娠が少ないのです。
猫の妊娠を避けて避妊・去勢手術をすべき?
猫は年に2回も妊娠可能であり、1回に複数の子猫を産むのであっという間に増えてしまいます。子猫のうちは可愛いですが、貰い手探しに困ったり、やっと巣立ったと思ったらまたお母さん猫が妊娠、ということも頻繁に起こります。
望まない子猫や発情期の粗相などの飼いづらさを解消し乳腺腫瘍などの病気の発生率を低下させるためにも、確実に貰い手が保証されている時以外は避妊去勢手術をお勧めします。
猫の妊娠の兆候・見分け方
妊娠初期はお腹も目立たないのであまり分かりませんが、だんだん攻撃的になってきたり、下腹部が少しふっくらしはじめて気づくことがあります。もともとの猫の様子を知っていれば肥満と妊娠の区別もつきやすいのですが、後期に入って明らかにお腹が大きくなったり、胎動が見えるようになるまでは一度病院で検査してもらい、確実に妊娠しているか確認してもらいましょう。
ちなみに陰部から出血したり、食欲が落ちたりということは出産直前まで普通はみられないので、このような異常があったらすぐに病院に行きましょう。
猫の出産とは
猫は1回の出産で平均4頭の子猫を出産します。論文報告などはありませんがお母さん猫が小さく低体重の場合は頭数が少なかったり、流産することもあります。
基本的に猫は安産なのですが、万が一に備えてかかりつけの動物病院にあらかじめ出産時のトラブルの時は連絡できるようにしておくことや、病院が閉まっている時間や休診日に備えて救急の病院の連絡先も調べておくとよいでしょう。
出産間近のサイン
がつがつご飯を食べていたお母さん猫が急に食欲不振になったり、元気がなくなったり、吐いたりする場合は腹圧が高くなっている証拠で、出産が間近に近づいていることを示しています。胎動がかなり目立つようになってきたら、産箱も用意してあげましょう。お母さん猫が寝転んで授乳姿勢をとっても入るくらいの箱で、中にタオルを敷いてふかふかにしさらにその上にペットシーツを何枚か重ねると出産時の出血や子猫のうんちなどが付いた時もすぐに取り替えることができます。
お腹が大きく胸からお尻へと動き始めると出産の始まりです。子猫は数分〜数十分間隔で1匹ずつ出てきます。そしてお母さん猫が体や口周りを舐めることで呼吸を開始し、すぐにお母さん猫の乳首に擦り寄って行きます(この最中もお母さん猫は次の赤ちゃんを出産します)。
基本的には心配でも手を出さず見守ることですがお母さん猫がなかなか舐めない、しばらくたっても子猫が動かない時は受診を検討してもよいでしょう。初産のお母さん猫では出産直前に心細くなるのか甘えてくる子もいます。
猫の妊娠によって外来種が脅かす状況
さて、世界にはどれほど猫の仲間がいるでしょうか? アフリカのサバンナにはライオンやチーターがおり、ヒマラヤの雪山にはユキヒョウ、アジアの熱帯地域にはトラが、南米にはジャガーがいます。
そして私たちに馴染み深い猫は日本に限らず世界中に生息しています。これは猫がかなりさまざまな環境に適応できる動物であることを示しています。逆に、世界には限られた環境でしか生きることができない動物がたくさんいます。
限られた環境でしか生きられない動物は、外敵のいない離島などに生息して居る鳥や小型の哺乳類で多くみられます。日本でいえば小笠原諸島のアカガシラカラスバトやオオミズナギドリ、沖縄県のヤンバルクイナやオキナワトゲネズミ、奄美諸島のアマミノクロウサギなどさまざまな動物がその土地固有の生き物として生息しています。
そしてこれらの生き物たちは、人の手によって離島に放棄されたり逃げ出したりして野生化したネコ(本稿では以下ノネコと略します)になった猫たちにとって貴重な食料になります。
小笠原猫プロジェクトの紹介
小笠原諸島でのノネコ対策が有名なので、プロジェクトHPを参考に少し活動をご紹介します。
2005年、小笠原諸島母島の海鳥の繁殖地がノネコによって消滅寸前であることが明らかになりネコの捕獲が開始されました。
捕まえたネコは当初安楽死することも考えられていましたが、東京都獣医師会の協力を得て東京に搬送し去勢避妊手術、人に慣れさせるための時間を経て新しい飼い主さんへお渡しする活動をしています。
筆者は小笠原諸島には行ったことはありませんが、ここで捕獲された元ノネコを2匹飼っています。2匹とも完全室内飼育で、ドライフードを与えられ外の過酷な環境よりも長生きのできる良い状態で過ごしています。
このノネコ捕獲プロジェクトが実を結び、消滅寸前であった海鳥の繁殖地からオナガミズナギドリが2009年から毎年巣立つ様子が確認されるようになりました。また、カツオドリも2014年から再び繁殖が確認できるようになりました。
プロジェクトの目的はもともと家畜であるノネコを再び人間の手に戻し、小笠原諸島の野生動物の本来の生態系に戻すことを目標としています。
このように自然の生態系を強く脅かす可能性のあるノネコ問題を起こさないためには、猫を逃さないことも大切ですが子猫を捨てない、増やさないことも大切な予防となります。
猫は1年に2回、複数の子猫を産むため、どんどん増えます。避妊去勢手術をせず外に出入りさせていると知らない間に妊娠したりさせたりして新たなノネコが誕生してしまいます。
猫の妊娠は責任なる判断を
子猫はとても可愛いですが、私たちが思っている以上に増えやすい動物です。野良猫や捨てられる子猫を防ぎ、野生動物を守るためにも確実に繁殖させたい目的と引き取り手がある時以外は避妊去勢手術を受けておくことをおすすめします。
参考文献
- 小笠原村役場環境課『小笠原猫プロジェクト』
- 国立環境研究所『侵入生物データベース』
- Margaret V. Root Kustritz 『Clinical management of pregnancy in cats』 Theriogenology 66 (2006) 145–150