猫が吐く原因と対処法|嘔吐と吐出の違いを獣医師が解説

猫が吐く原因と対処法|嘔吐と吐出の違いを獣医師が解説

Share!

猫が吐く原因はさまざまで、さほど心配ない場合もあれば命に関わる場合もあります。猫は吐きやすい動物と言われ、病気がなさそうなのに日常的に吐く猫はいますし、薬を飲まされた時に頑張って吐き出す猫もいます。胃がもたれたり、変なものを食べてしまったと感じたりすると、本能的に吐き出す習性があるのでしょう。猫が吐いた時には生理反応なのか、病気なのかを考える必要があります。考えられる原因や治療法について、平井動物病院院長の米山が解説します。

猫は吐きやすい動物

猫

猫は吐きやすい動物です。たまに吐く程度で元気や食欲があり、体重が減っていないのなら、おそらく生理的なものでしょう。よくある原因としては「毛玉を飲み込んだ」「一度にたくさん食べた」などが挙げられます。

よく毛玉を吐くようであればこまめにブラッシングしたり、一度に食べすぎるようであればフードを小分けにしたりしてみてください。


動物病院に行くべきかどうか

様子を見ても大丈夫なのは、若くて元気な猫が少ない頻度(1週間に1回以下)で吐いている場合です。子猫やシニア猫が吐いている場合や病気が疑われる吐き方をしている場合は、早めに動物病院を受診してください。

1日に何回も吐いたり、週に1回以上吐いたり、吐くだけでなく他にも異変が見られたりする場合は病気の可能性が考えられます。普段からたまに吐く猫でも、いつもと違う吐き方(回数、元気や食欲の有無など)をしているようであれば病気の可能性があります。

猫の「吐出」と「嘔吐」の区別

机にあごを乗せて寝る猫

吐くという症状は、「吐出」(としゅつ)と「嘔吐」に分けられます。「吐出」を初めて聞いたという方もいらっしゃると思いますが、これを機に覚えてください。ネットで調べるとだいたい難しく書いてありますが、以下のような見分け方でいいかと思います。

吐出とは

  • 食道に溜まっている内容物を吐く行為
  • お腹に力を入れず、いきなりケポッと吐く

嘔吐とは

  • 胃に溜まっている内容物を吐く行為
  • 吐く直前に数秒間ウッウッウッとお腹を収縮させる動作をして、その後、力強くガーッと吐く

獣医師は家で吐いている様子を見られませんので、飼い主さんのお話を聞いて判断することになります。難しいとは思いますが、吐出か嘔吐かを見分けて教えていただけるとありがたいです。なぜこの区別が重要かというと、吐出と嘔吐では原因となる病気が異なるからです。吐出は獣医師も見落としがちですが、問診の段階でわかれば早く診断にたどり着けるかもしれません。

猫が吐く場合に考えられる原因や病気

猫

吐出か嘔吐かで考えられる原因や病気が異なり、吐出は「食道の病気」、嘔吐は「胃腸の病気」と「胃腸以外の病気」によって生じます。

吐出の原因

吐出は「食道炎」「食道狭窄(きょうさく)」「食道内異物」など、食道の病気によって生じます。最も多いのは食道炎です。ただ、実際に診断する機会は多くはなく、見落とされやすいとも言われています。見落とされる理由として、以下の3つが挙げられます。

  • 猫は喋らないので胸焼けなどの症状に気付けない。
  • 吐出に気付くこともなかなか難しい。
  • 食道炎を疑って検査をしていかないと診断できない。

食道炎の原因としては、主に以下の4つが挙げられます。

  • 嘔吐による胃酸逆流
  • 全身麻酔中の胃酸逆流
  • 内服薬(一部の抗生物質など)の副作用
  • 刺激性物質(消毒薬、毒物など)の誤飲

これらに心当たりがあって、「吐出」「よだれを流す」「元気や食欲がない」などの症状がある場合は食道炎の可能性が考えられます。

嘔吐の原因

嘔吐は、胃腸の病気(胃腸の炎症・腫瘍・異物など)と、胃腸以外の病気(肝臓・腎臓・膵臓の病気、中毒、甲状腺機能亢進症など)によって生じます。病気は多岐にわたりますので、全ては書ききれません。症状や各種検査から鑑別していくことになります。

吐いている猫の診察の流れ

獣医師の診察を受ける猫

まず問診を行い、飼い主さんから以下のような内容を聞いていきます。

  • 吐出か嘔吐か
  • 急性(急に激しく発症)か慢性(徐々に発症し2週間以上持続)
  • 吐く以外の症状(元気、食欲、呼吸、排便排尿の異常など)があるか
  • 異物摂取の可能性があるか

次に身体検査を行います。お腹の触診によって腫瘍や異物が見つかる時もあります。そして問診と身体検査から病気の推測と重症度の判断を行います。それによって対症療法を行うか、各種検査に進むかのいずれかを選択します。以下はおおまかな判断基準です。

吐出の場合

何度も吐出している場合は、食道炎を疑って積極的に検査や治療を行ったほうがいいでしょう。食道炎が長引くと食道狭窄や誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があります。早期の診断と治療が重要です。

嘔吐の場合

嘔吐の原因は「大したことがないもの」から「命に関わるもの」までさまざまです。正確に診断するには多くの検査を行わなければいけませんが、そこまでする必要がない場合もあります。

例えば「今日2回吐いたけどいつも通り元気にごはんも食べた」という場合、重大な病気の可能性は低いと思われますので検査は行わないでしょう。「今日5回吐いてごはんも食べずに横たわっている」という場合はすぐ検査を行います。そのあたりの判断は過剰診療にも過少診療にもならないように獣医師が見極める必要があり、直感も大事です。

筆者の病院では、「元気や食欲のある軽度の急性嘔吐」の場合は対症療法を勧めます。「元気や食欲がない」「異物摂取の可能性がある」「対症療法をしてみたけど治らない」などの場合は検査を勧めます。元気や食欲があっても「嘔吐が2週間以上続いている」場合は、なるべく検査を勧めます。

吐いている猫の検査

猫

猫が吐出や嘔吐をしている時には、以下のような検査を行います。

吐出の場合

食道の病気を疑ってX線検査やバリウム検査を行います。食道の拡張や狭窄があれば、これらの検査で異常が検出されます。確定診断には内視鏡検査が必要です。

嘔吐の場合

異物摂取が疑われる場合は超音波検査、X線(レントゲン)検査、バリウム検査などの画像検査を優先的に行います。異物摂取がさほど疑われない場合は血液検査や超音波検査、その他の検査(X線検査、糞便検査、尿検査、細胞診など)を必要に応じて行い、病気を鑑別していきます。胃腸以外の病気の大半は、これらの検査によって診断可能です。

胃腸の病気に関しては、これらの検査で診断できる場合(異物、大半の腫瘍など)と、診断できない場合(胃腸炎、一部の腫瘍など)があります。さらに詳細な検査としては内視鏡検査やCT検査がありますが、全身麻酔が必要ですので、行うかどうかは状況次第ということになります。

吐いている猫の治療

獣医師の診察を受ける猫

吐出の治療は、原因が食道炎であれば胃薬、消化管運動改善薬、粘膜保護剤の投与を行います。食道狭窄では、バルーンカテーテルによる拡張術を行います。

嘔吐の治療は、「原因療法」と「対症療法」があります。検査をしていない場合、または検査で病気が判明しなかった場合は胃腸炎と仮診断して対症療法を行います。検査で病気が判明した場合には、対症療法に加えてそれぞれの病気に対する原因療法も行います。

原因療法

細菌感染があれば抗菌薬投与、異物があれば摘出、腫瘍があれば手術や抗がん剤投与などの治療を行います。

対症療法

嘔吐の対症療法には皮下輸液、胃薬の投与、消化管運動改善薬の投与、制吐薬の投与などがあります。軽度の急性嘔吐は対症療法だけで治まることが多いです。重度または慢性の嘔吐では、病気次第で原因療法が必要となります。

対症療法で注意が必要なのは、制吐薬の使用です。安易に使うと問題が起きることがあります。例えば「異物に気付かずに制吐薬を使ってしまい発見が遅れる」「腫瘍や慢性炎症において制吐薬の投与を続けているうちに病気が進行する」といった具合です。

動物用制吐薬の中には、強力で副作用も少ない便利な薬があるのですが、逆に強力すぎるため筆者の病院では診断がつくまでは極力使わないようにしています。治療においては以下の点をご理解ください。

  • 吐くのさえ止めればいいというわけではない。
  • 対症療法だけで治る病気もあれば、原因療法が必須な病気もある。

重症例への対応について

猫

最後に、「重度の急性嘔吐」と「慢性嘔吐」において考えられる病気と対処法について触れておきます。

重度の急性嘔吐

猫が急に吐くようになってぐったりしているという場合は、主に以下の原因が考えられます。

  1. 異物による腸閉塞
  2. 急性胃腸炎
  3. 急性膵炎
  4. 急性肝炎
  5. 急性腎障害
  6. 尿道閉塞

4、5、6は検査で異常が出ますので診断は難しくありませんが、1、2、3の診断は難しい時があります。また、2、3の治療法はだいたい同じですが、1は治療法が全く異なります。つまり、異物があるかどうかが重要ということです。

異物の診断は意外に難しいです。急に激しい嘔吐が見られれば異物に違いないと思われるかもしれませんが、そうとは限りません。急性の胃腸炎や膵炎でも同じような症状が見られます。多くの異物はX線に写りませんので、飼い主さんに心当たりがない場合などは、どこまで異物を疑うか(具体的にはバリウム検査を行うかどうか)判断に迷う時もあります。

検査を勧めようとすると、「お金がない」「高齢だから……」などの理由をつけて同意されない方もいらっしゃいます。異物による腸閉塞では、手遅れになると本当に亡くなってしまいますが、早く手術をすれば助けることができます。異物以外の上記の病気でも、集中的に治療を行えば助けられる場合が多々あります。どちらにしても、急性嘔吐においては諦めずに治療をご検討ください。

慢性嘔吐

猫が慢性的に嘔吐をしている場合は、主に慢性腸炎、慢性膵炎、慢性腎臓病、甲状腺機能亢進症、胃腸の腫瘍、胃腸以外の腹腔内腫瘍などが考えられます。

元気や食欲は低下する場合もありますが、低下しない場合もあります。体重は基本的にどの病気においても減少します。家で定期的に体重を計ってもらうと役に立つでしょう。慢性嘔吐があって体重が減少してきた場合は、早めに動物病院を受診してください。もし治療をするのであれば、早ければ早いほど寿命を延ばすことができます。

上記の病気の大半は触診、血液検査、超音波検査などで診断可能です。検査ではっきりとした異常が検出されない場合には、慢性腸炎や低悪性度リンパ腫などが考えられます。その際は試験的な食事療法や内視鏡検査などを検討します。


猫が吐いて気になる時は動物病院へ

猫

猫が吐く原因について解説させていただきました。様子を見ても大丈夫な場合はたしかにあるのですが、自己判断を続けていると病気を見逃してしまう可能性もあります。本稿をご参考にしていただき、何か思い当たることがありましたらかかりつけの動物病院にご相談ください。


気になることがあれば専門家に聞いてみよう!

食のお悩み相談会

InstagramのPETOKOTO FOODSアカウント(@petokotofoods)では、獣医師やペット栄養管理士が出演する「食のお悩み相談会」を定期開催しています。愛犬のごはんについて気になることがある方は、ぜひご参加ください。

アカウントをフォローする