犬のSDMAが高い原因や下げる方法を獣医師が解説
SDMAは数値が高いと腎機能の低下が示唆され、腎臓病や腎障害を起こす病気の可能性が考えられます。特に慢性腎臓病の早期発見につながる新しい血液検査項目で、血中濃度18μg/dL以上でステージ2とされ療法食によるケアが必要になります。基本的にSDMAを下げる方法はなく、早期発見・早期治療が重要です。数値が高く出る場合の原因について、獣医師の佐藤が解説します。
SDMAとは
SDMAは、慢性腎臓病の早期発見につながる検査方法として近年、多くの動物病院で取り入れられるようになった新しい血液検査項目です。従来のクレアチニンを使った検査と比べて約9カ月早く腎機能の低下を発見できるとされ、早期治療につなげて腎臓病の進行を遅らせることができます。
SDMAは「Symmetric DiMethyArgineine」の略で、日本語にすると「対称性ジメチルアルギニン」です。アルギニンは犬が食事から摂取しなければいけない必須アミノ酸の一つで、そのアルギニンが体内で変化(メチル化)したものがジメチルアルギニンです。
SDMAは犬の血液に含まれ、最終的に腎臓でろ過されて尿として排出されます。そのため血液中のSDMAが高い場合、腎臓でろ過できていないということ、つまり慢性腎臓病など何らかの病気によって腎機能が低下している可能性が示唆されるのです。
SDMAは基本的に動物病院内で検査することができず、外部の検査会社に送って検査する形になります。定期検診では基本の検査項目に含まれず、追加の検査項目になることが一般的ですのでご注意ください。
従来の検査項目との違い
腎機能の検査では「クレアチニン」や「BUN(尿素窒素)」などの数値を用いるのが一般的ですが、それらの数値が上昇するのは腎機能が75%失われてからです。クレアチニンは筋肉で作られるため、筋肉量が少なくなるシニア犬(老犬)は数値が低くなる傾向もあります。SDMAは腎機能が40%(早ければ25%)失われた時点で上昇しますので、早期に腎臓の異常を発見できる可能性があります。腎臓病は急性であれば腎機能の回復が見込めますが、慢性では破壊された組織(糸球体、ネフロン)が回復することはありません。腎臓病はどれだけ早く異変に気づけるかが重要です。
SDMAの数値が高い時に考えられる理由
腎臓が老廃物をろ過することができるのは「糸球体」(ネフロン)と呼ばれる、毛細血管が丸まった組織のお陰です。SDMAの数値が高いということは、その糸球体のろ過量(GFR)が低下していることを意味し、腎機能の低下が示唆されます。その際に考えられる主な理由は、以下の通りです。
- 慢性腎臓病
- 急性腎障害
- 腎盂腎炎
- 上部尿路閉塞
- 腎結石
- 糸球体腎炎
- 先天性腎疾患
上記は腎臓そのものに以上が起こった場合(腎臓病)に考えられる理由ですが、腎臓以外の病気によって二次的に腎臓の機能が低下する場合もあります。その際に考えられる主な理由は、以下の通りです。
- 甲状腺機能亢進症
- ベクター媒介性疾患
- 全身性高血圧
- 下部尿路閉塞
- 敗血症
- 腫瘍
- 腎毒性物質
ベクター媒介性疾患では、病原菌や寄生虫によってバベシア症やロッキー山紅斑熱、エールリヒア症などの病気が起こります。腎毒性物質は不凍液(エチレングリコールなど)や重金属(水銀、ヒ素など)、ぶどう、人間用の薬剤などが挙げられます。
SDMAを下げる方法
糸球体(ネフロン)は不可逆的に破壊されていくため、高い数値で出たSDMAを下げる方法はありません。対症療法になってしまいますが状態(慢性腎臓病であればステージ)に応じたケアを行いながら、できるだけ長くQOL(生活の質)を保った生活を送れるようにしていきます。SDMAによる慢性腎臓病のステージ分類
SDMAが高い原因が慢性腎臓病である場合、血中のクレアチニン濃度やSDMA濃度に応じて以下の4つのステージに分類します。
状態 | 腎臓に異常が見られる(尿濃縮能の低下、触診における腎臓の異常など) | 軽度の臨床症状(多飲多尿など、もしくは臨床症状なし) | さまざまな臨床症状が全身に発現 | 全身性の臨床症状発現、尿毒症の危険性が増加 |
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血中クレアチニン濃度 | 1.4mg/dl未満 | 1.4-2.8mg/dl | 2.9-5.0mg/dl | 5.0mg/dlより大きい |
血中SDMA濃度 | 18μg/dL未満 | 18-35μg/dL | 36-54μg/dL | 54μg/dLより大きい |
※参照:「Diagnosing, Staging, and Treating Chronic Kidney Disease in Dogs and Cats」(IRIS)、「慢性腎臓病(CKD)の病期分類」(日本獣医腎泌尿器学会)
ステージごとのケア
ステージごとの主なケアは以下の通りです。慢性腎臓病について、詳しくは関連記事もご覧ください。ステージ1 | 腎毒性のある薬剤は注意して使用 |
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腎前性・腎後性の以上に対処 | |
新鮮な水を常に飲めるようにする | |
安定または進行のエビデンスとなるクレアチニンやSDMAの変化をモニター | |
原因または併発疾患の特定と治療 | |
収縮期血圧が持続手的に>160または標的臓器障害のエビデンスがある場合は、高血圧の治療 | |
持続的蛋白尿を呈する場合、腎臓療法食と投薬による治療(UPC>0.5) | |
リンを<4.6mg/dLに維持 | |
必要に応じ、腎臓療法食とリン吸着薬を使用 | |
ステージ2 | ステージ1に準ずる |
腎臓療法食 | |
ステージ3 | ステージ2に準ずる |
リンを<5.0mg/dLに維持 | |
代謝性アシドーシスの治療 | |
貧血の治療を検討 | |
嘔吐・食欲不振・悪心の治療 | |
必要に応じ、経腸または皮下補液による水和状態の維持 | |
カルシトリオールによる治療を検討 | |
ステージ4 | ステージ3に準ずる |
リンを<6.0mg/dLに維持 | |
栄養および水和のサポートと投薬を容易にするための栄養チューブを検討 |
※出典:「犬猫の慢性腎臓病の診断、ステージングおよび治療」(IRIS)
まとめ
SDMAは腎機能の低下を早期発見できる
特に慢性腎臓病の早期発見に役立つ
基本的に数値を下げることはできない
早期発見・早期治療が大切