犬の耳血腫|原因や治療法を獣医師が解説
犬の耳血腫は耳に血液が溜まって腫れる病気で、軽度であれば自然治癒することもありますが放置すると耳が変形してしまう場合もあります。耳が腫れる原因や治療法について、獣医師の佐藤が解説します。
犬の耳血腫とは
血腫とは血液の塊のことで、「耳血腫(じけっしゅ)」は耳介(体の外に出ている耳の軟骨部分)に血液や滲出液(しんしゅつえき)が溜まって耳が腫れる外傷性の病気です。犬が頭を降った際の衝撃や足で掻くことで出血することが多く、ゴールデンレトリーバーやビーグルのような垂れ耳の犬で多く見られます。
耳血腫による内出血は本来、吸収されて自然治癒するものですが、耳血腫の原因となる痒みが継続したり、耳血腫自体が気になって掻いたりすると皮下と軟骨の間に血液が貯まり、悪循環で腫れが大きくなってしまいます。風船のように膨らむと自然治癒することはないため、切開して溜まった液体を抜かなければいけません。
犬の耳血腫の症状
耳血腫は外耳炎などの痒みによって起こることから、足で耳を掻いたり、頭を振ったりする様子が見られます。内出血によって耳が腫れるようになると犬は痛みを感じて余計に耳を掻いたり、頭を振ったりするようになります。痛みから耳を触られるのを嫌がるようになるかもしれません。
耳血腫で腫れるのは耳の外側ではなく内側です。耳全体が腫れることも耳の一部が腫れることもあり、放置すると変形して耳がカリフラワーのようにデコボコしたり、角度が変わったりしてしまいます。あまりに刺激を与えすぎると破裂することもあり、最終的に耳の一部が壊死して脱落してしまう可能性もあります。
犬の耳血腫の原因
耳血腫の多くは痒みが原因で頭を振ったり足で掻いたりして起こります。痒くなるのは以下のような原因が考えられ、外耳炎や内耳炎になっている場合が少なくありません。
- アレルギー性疾患
- 内分泌疾患(ホルモン疾患)
- 分泌腺(耳垢腺)の問題
- 異物(植物のノギ、耳毛など)
- 感染性疾患
- 免疫介在性疾患・自己免疫性疾患
- 角化障害
- 微生物、寄生虫やウイルス
痒みが無くても「咬傷」や「出血性疾患」「血液凝固性障害」などが原因になる場合もあります。
犬の耳血腫の治療法
耳血腫は犬が耳を掻いたり、頭を振ったりすることで起こります。その原因を解決することが第一の治療となり、初期であれば耳血腫の対処をしなくて自然治癒する可能性はあります。ただし、実際の臨床経験からは自然治癒するケースはほとんど無いように思います。
血腫に対する治療では、まず腫れている場所に注射針を刺して排液します。耳血腫は再発することが多く、処置は複数回にわたります。皮膚と軟骨は溜まった液体によって離れているため、包帯を使った圧迫固定で接着を促します。炎症や免疫系の問題が疑われる場合は、ステロイドやインターフェロンを注入することもあります。
注射針では排出用の穴がすぐに閉じてしまうため、慢性化した場合は全身麻酔や局所麻酔を使ってドレーン(医療用の管)を設置したり、皮膚生検用のパンチで大きめの穴を複数空けたりします。圧迫での接着が難しい場合は、離れている場所を縫合して接着させます。
※参照:「パンチ皮膚生検器を用いた耳血腫の治療法」(獣医麻酔外科誌)
まとめ
耳血腫は犬が耳を振ったり掻いたりして起こる
原因を治療しなければ液体を抜いても再発する
放置した場合は耳が変形、壊死する可能性も