犬の前立腺癌|症状や原因、治療法を獣医師が解説

犬の前立腺癌|症状や原因、治療法を獣医師が解説

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犬の前立腺癌はまれな病気ではありますが転移の可能性が高く、診断された時点で余命は長くありません。早期発見が重要になりますが、明確な初期症状が見られないことから排尿トラブルや痛みで発見された時には末期まで進行していることも多い病気です。原因や治療法について、獣医師の佐藤が解説します。

犬の前立腺癌とは

2匹の犬の後ろ姿

前立腺とは、オス犬の肛門のすぐ内側にある臓器で、精液に含まれる液体を生成することから副生殖器に分類されます。この組織が機能を失って異常増殖し癌化するのが「前立腺癌」です。犬では非常にまれな病気ですが、シニア犬(老犬)で多くなります。

前立腺にできる腫瘍は悪性であることが多く、「移行上皮癌」「扁平上皮癌」「平滑筋肉腫」などの場合もありますが、最も多いのが「前立腺癌」です。前立腺癌は浸潤(※)・転移の可能性が非常に高く、発見できてもすでに転移が進み予後不良であることが少なくありません。

※浸潤(しんじゅん):がん細胞が周りの組織を壊しながら、水がしみ込むように拡大していくこと。

前立腺癌の好発犬種

前立腺癌の発症に犬種の違いはなく、どの犬でもなる可能性があります。ただしメス犬には前立腺がないため、メス犬が前立腺癌になることはありません。


犬の前立腺癌の症状

横たわる犬

前立腺癌になると、初期症状として排尿の問題が見られます。これは前立腺が尿道の途中にあるためです。前立腺が尿道を圧迫することで尿が出にくくなり、少量の排尿を何回もする頻尿が見られます。尿道が完全に閉じてしまう尿道閉塞になると尿毒症によって死に至ります。

前立腺の上には大腸(結腸)があり、前立腺の圧迫によって「しぶり」(排便ポーズを取るものの便が出てこない状態)など排便の問題が起こる場合もあります。他にも以下のような症状が見られる可能性があります。

  • 排尿障害
  • 血尿
  • 排便障害(しぶり)
  • 血便
  • 腹痛
  • 体重減少
  • 食欲不振
  • 痛みで鳴く
  • 元気がない・ぐったりしている

前立腺癌は転移する可能性が多く、末期では転移した場所に応じて上記以外の全身症状が起こるようになります。

犬の前立腺癌の原因

チワワの後ろ姿

前立腺癌ができる原因は明確になっていませんが、遺伝的素因や環境的要因が関係している可能性があります。環境的要因では感染症や発がん性物質の摂取(食事、タバコの煙、大気汚染、薬剤など)、紫外線の曝露や免疫機能の異常などが考えられます。

前立腺肥大の場合は男性ホルモンが関与しているため去勢手術が有効な予防法・治療法ですが、前立腺癌はホルモンを原因としないため去勢手術の有効性は確認されていません。

犬の前立腺癌の治療法

診察を受けるジャックラッセルテリア

前立腺癌の診断では、血液検査や尿検査と共にX線(レントゲン)、超音波(エコー)、CT、MRI検査などの画像検査を行い、前立腺の大きさや左右の対称性、石灰化の有無を調べます。細胞を採取する針生検は移行上皮癌だった場合、転移のきっかけ(播種)になるため画像診断が優先されます。

治療は「外科手術」や「放射線治療」を状況に応じて選択します。尿道の閉塞が起きている場合は前立腺の全摘出によって改善が見込めます。浸潤の可能性が高い場合は尿道の大部分や膀胱など広く組織を摘出することもあります。

抗がん剤(化学療法)は有効性が確認されていません。一方、近年の研究で免疫療法が生存期間を延ばすのに有効であったとする報告が出ています。


放射線治療

前立腺癌の犬に放射線治療を行った事例では、生存期間の中央値と平均値がそれぞれ114日と196日で有効性が確認されています。しかし、放射線治療は実施できる病院が限られ、麻酔を使った複数回の処置が必要になります。麻酔や副作用、通院など犬への負担、手術費用が高額になるため飼い主さんの経済的な負担も考慮する必要があります。


まとめ

犬の後ろ姿
前立腺癌は犬ではまれな病気
シニア犬で多く見られる
悪性度が高く予後は良くない
早期発見・早期治療が大切
犬の前立腺癌は転移や再発の可能性が高く、診断された時点で余命は長くない病気です。しかし、早期に発見することができれば、生存期間を延ばし体の負担を減らすための治療が行えます。特にシニア期になってからは定期健診を欠かさず、愛犬の異変を感じた場合はできるだけ早くかかりつけの獣医師に相談するようにしてください。


参考文献