犬の前立腺肥大|初期症状や原因、治療法を獣医師が解説
前立腺肥大は去勢していない高齢犬に高確率で起こり、多くは大きな問題になりませんが、前立腺炎や前立腺嚢胞を併発する場合もあります。初期症状では排尿の問題や痛み、血便、食事を食べない、後ろ足を引きずるなどが見られ、治療は去勢手術が最も有効です。犬の前立腺肥大について、獣医師の佐藤が解説します。
犬の前立腺肥大とは
前立腺とは、オス犬の肛門のすぐ内側にある臓器で、精液に含まれる液体を生成することから副生殖器に分類されます。この前立腺が通常より大きくなった状態を「前立腺肥大」(良性前立腺肥大症)と呼びます。
前立腺肥大は去勢手術をしていないシニア犬(老犬)が高確率で発症しますが、ほとんどの場合は大きな問題になりません。前立腺が大きくなりすぎると排尿・排便に問題が生じ、前立腺炎や前立腺嚢胞など以下のような前立腺疾患を伴う場合があります。
感染性 | 前立腺炎 |
---|---|
前立腺膿瘍 | |
非感染性 | 前立腺嚢胞 |
前立腺腫瘍 |
前立腺肥大は睾丸から出る男性ホルモンによって起こることから去勢済みの犬では起こらず(※前立腺腫瘍の場合は除く)、治療も去勢手術が最も有効です。繁殖を考えない限り、早めの去勢手術をお勧めします。去勢手術については、以下の関連記事も参考にしてください。
犬の前立腺肥大の症状
前立腺肥大が起こると、初期症状として排尿の問題が見られます。これは前立腺が尿道の途中にあるためです。前立腺が尿道を圧迫することで尿が出にくくなり、少量の排尿を何回もする頻尿が見られます。
尿道が完全に閉じてしまう尿道閉塞になれば命の危険性もありますが、前立腺肥大によって閉塞まで至ることはめったにありません。ただし、尿が出にくくなることで膀胱炎になる可能性はあり、腎盂腎炎(じんうじんえん)から尿毒症まで進んでしまうと予後は良くありません。
前立腺の上には大腸(結腸)があり、前立腺の圧迫によって「しぶり」(排便ポーズを取るものの便が出てこない状態)など排便の問題が起こる場合もあります。他にも以下のような症状が見られる可能性があります。
- 頻尿
- 血尿
- 便秘やしぶり、長期化で下痢や血便
- 腹痛
- 動くのを嫌がる
- 後ろ足を引きずる(跛行)
血尿や腹痛はさまざまな病気でも見られますが、尿に血が混じった血尿なのか、排尿に伴って血が垂れる血尿なのか、下痢や血便が1回なのか長期なのかなど同じ「血尿」「血便」でも実際は様子が異なります。便を病院に持参したり、排尿、排便の様子を観察して伝えていただくことで、診察がスムーズに行なえます。
前立腺肥大に伴って起こる病気
前立腺の肥大に伴って、膀胱炎などの合併症や感染性・非感染性の前立腺疾患が起こる場合があります。前立腺炎
前立腺肥大の際に起こる代表的な二次疾患で、前立腺の細菌感染によって血尿や発熱、食欲不振などが見られます。抗菌剤を投与して治療します。前立腺嚢胞・前立腺膿瘍
前立腺炎が進行すると体液や血液などの分泌液が溜まった一つ以上の「嚢胞」(のうほう)ができ、血尿が見られるようになります。嚢胞に膿が溜まると「膿瘍」(のうよう)となり、炎症が全身に広がる非常に危険な状態(敗血症)になります。前立腺腫瘍
前立腺腫瘍は犬ではまれですが、前立腺肥大が遠因になる可能性があります。前立腺腫瘍は転移率が高く、予後は良くありません。会陰ヘルニア・鼠径ヘルニア
前立腺の肥大によって筋肉の隙間に腸が入り込んでしまったり(会陰ヘルニア)、肛門から腸が押し出されてしまったり(鼠径ヘルニア・脱腸)することがあります。肛門の周りが盛り上がったり、肛門の位置がズレたりして見た目にも気づきやすい病気です。犬の前立腺肥大の原因
前立腺は睾丸で生成されるテストステロンなどの男性ホルモンによって制御され、精液に含まれる液体を生成しています。そのホルモンに乱れが生じると前立腺の細胞が異常増殖し(過形成)、肥大が起こります。
前立腺肥大は去勢していないすべてのオス犬で起こる可能性がありますが、ホルモンの乱れが生じる理由は明確になっていません。基本的には去勢していないシニア犬(老犬)で見られる病気ですが、早ければ6歳前後で見られる場合もあります。
犬の前立腺肥大の治療法
前立腺肥大の検査は体を触って痛みやしこりがないかを確認する触診や、肛門から指を入れて肥大がないかを確認する直腸検査、尿検査、血液検査、X線検査(レントゲン検査)や超音波検査(エコー検査)による画像診断などを行います。確定診断は前立腺の組織を採取する生検によって行います。
前立腺肥大で最も有効な治療法は去勢です。睾丸を取り除くと男性ホルモンの分泌がなくなるため前立腺は収縮し、数週間で正常な大きさに戻ります。前立腺炎や前立腺嚢胞が見られる場合は、抗菌剤や抗炎症薬などを投与します。
繁殖犬やご家庭での繁殖を望む場合は、薬剤などを使ったホルモン療法で前立腺の肥大を抑える方法もあります。黄体ホルモン薬やステロイド受容体拮抗薬などは精子に悪影響を与える可能性があるため、繁殖の予定がある場合は使用してはいけません。
※参照:「犬の前立腺疾患に対する内科治療」(鳥取大学農学部)
まとめ
前立腺肥大は未去勢の高齢犬で起こる病気
初期症状として排尿の問題が起こる
繁殖の予定がなければ去勢が最も効果的
ホルモン療法を行う場合は薬の種類に注意