猫の肺炎 | 症状や原因、治療・予防法など【循環器認定医が解説】
猫の肺炎は、発熱や頻呼吸などが認められる感染性もしくは非感染性の呼吸器疾患です。緊急性があるため早めに動物病院に行くことをおすすめします。猫の肺炎のかかりやすい種類や時期、症状や原因、治療法、検査・診断、予後、予防法、対処・応急処置まで、ライオン動物病院・苅谷動物病院(循環器科)で勤務医をしている獣医循環器認定医の深井が解説します。
猫の肺炎とは
猫の肺炎は、湿った咳や発熱、重度になると呼吸困難になってしまう呼吸器疾患で、感染が関与しているものと感染が関与していないものがあります。感染性の場合は、ウイルス・細菌・真菌などが原因となり、感染性でない場合は、誤嚥や好酸球浸潤などにより引き起こされます。猫の肺炎の緊急性
緊急性があります。猫では咳は分かりにくいかもしれませんが、浅くて速い呼吸など呼吸状態がいつもと違う場合は、できるだけ早く動物病院を受診しましょう。肺炎にかかりやすい猫種・年代
免疫力の弱い幼齢の猫や高齢の猫になりやすいですが、免疫抑制下の猫にも注意が必要です。猫の肺炎の症状
以下の症状が考えられます。
呼吸器徴候として
- 湿った咳(少なくてあまり目立たない)
- 浅速呼吸
- 鼻汁
重度になると、努力呼吸から呼吸困難の症状が見られます。
全身症状として
誤嚥性肺炎
- 咳が突然出るようになり、急激に呼吸が荒くなり呼吸困難になります。
- また、発熱し元気がなくなり動かなくなってきてしまいます。
- 誤嚥性肺炎の場合は嘔吐・吐出・嚥下困難・鼻汁といった既往歴を認めることが多いです。
猫の肺炎の原因
主に感染性と非感染性にわかれ、さまざまな原因が考えられます。感染性の場合
感染性の場合はウイルス、細菌、真菌からの感染が考えられます。ウイルス性肺炎
猫カリシウイルスや猫ヘルペスウイルスなどからの上部気道感染が悪化した際に、そのウイルスを肺に吸引して発症します。細菌性肺炎
ボルデテラやマイコプラズマなどが原因菌として挙げられますが、一次的な感染はわずかで多くは他の誤嚥性やウイルス性などの肺疾患から続発します。真菌性肺炎
クリプトコッカスやアスペルギルスなどが免疫力の下がった猫へ感染して発症することが一般的です。その他
トキソプラズマなどによる原虫性肺炎などが挙げられます。非感染性の場合
非感染性の場合は誤嚥性肺炎や好酸球性肺炎などが考えられます。誤嚥性肺炎
鼻炎に伴う鼻汁や嘔吐物などを誤嚥することが原因となります。好酸球性肺炎
細菌、真菌、寄生虫、薬物、吸入性アレルゲンなどを抗原とし、過剰な免疫反応を起こすことが原因となります。その他
間質性肺炎などが挙げられます。猫の肺炎の検査・診断方法
以下の検査・診断をすることが一般的です。- 胸部レントゲン検査
- 血液検査(血球検査・生化学検査)
- 血液ガス分析
- 気管支鏡検査
- 気管支肺胞洗浄液の細胞診およびウイルス・細菌・真菌検査(PCRや培養検査)
呼吸状態が悪い場合も多いので、動物の状態をみて慎重に検査していきます。レントゲンで肺や気管支の状態を確認し、血液検査で全身の状態を把握していきます。また、猫白血病ウイルス(FeLV)感染症や猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症の有無を確認することも全身状態の把握に役立ちます。気管支鏡検査や気管支肺胞洗浄液の検査は麻酔をかけて行う検査です。基本的は治療にあまり反応がない場合に行っていきます。
猫の肺炎の治療法
基本的には以下のような治療法になります。- 輸液
- 栄養補助
- 抗生物質(細菌性肺炎および二次感染に対して)
- 抗真菌剤(真菌性肺炎に対して)
- 気管支拡張薬
- 酸素吸入(呼吸困難、低酸素血症時)
- ネブライザー療法
肺炎は消耗性疾患なので、どの原因の肺炎でも輸液や栄養補給といった補助療法が必要になってきます。
各肺炎の治療法については、以下の通りです。
ウイルス性肺炎
特異的な治療法はなく、細菌による二次感染を防ぐために抗生物質を使用します。細菌性肺炎
抗生物質を使用します。気管支肺胞洗浄液からの薬剤感受性検査の結果から適する抗生物質を選択することが理想とされます。ただし、麻酔下での採取になるので、実施できない場合は呼吸器への分布の良い幅広く効果がある抗生物質を選択します。真菌性肺炎
抗真菌剤を使用します。できれば細菌性肺炎と同様に気管支肺胞洗浄液からの薬剤感受性検査の結果から適する抗真菌剤を選択します。誤嚥性肺炎
誤嚥直後で摘出できる異物であれば誤嚥した異物の除去を行い、肺への炎症の波及をできるだけ抑えます。誤嚥性肺炎は「気道反応→炎症反応→細菌の二次感染」と病態が進行していくので、誤嚥してから肺の障害が始まるまでに、抗生物質をはじめ支持療法を積極的に実施し、重篤な肺障害を防ぎます。好酸球性肺炎
ステロイド薬を使用します。猫の肺炎の予後
原因および重症度によってさまざまです。肺炎を引き起こす重篤な基礎疾患がある場合は予後不良です。
ウイルス性肺炎
二次感染の防御および補助療法に効果的に反応すれば予後良好です。ただし、二次的な細菌感染が起きたり、猫白血病ウイルス(FeLV)感染症や猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症の混合感染が起きた場合には病態が急性に悪化します。細菌性肺炎
重症度や抗生物質および補助療法の反応に予後は依存します。二次感染や誤嚥性肺炎など重度な感染が合併している場合には予後は悪くなります。真菌性肺炎
免疫力の下がった猫への感染が多く、予後は極めて悪くなります。誤嚥性肺炎
誤嚥したものの種類や障害を受けた肺野の大きさによります。誤嚥を引き起こした基礎疾患がある場合は、その疾患の治療を行わないと繰り返し発症する可能性があります。 また、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に移行した場合は致死率が高くなります。好酸球性肺炎
予後は比較的良好ですが、長期のステロイド投与が必要になります。猫の肺炎の治療・手術費用の目安
各病院の規定によります。猫の肺炎の治療期間・入院期間の目安
重症度や治療反応、基礎疾患などにより変わります。猫の肺炎の予防
誤嚥性肺炎では、基礎疾患の治療をし、誤嚥を予防します。肺炎の猫に良いフード・サプリメント
特記事項はありません。猫の肺炎は緊急性があるため、早めに病院へ
猫の肺炎は、湿った咳や発熱、重度になると呼吸困難になってしまう呼吸器疾患で、感染性の場合はウイルス・細菌・真菌などが原因となり、感染性でない場合は誤嚥や好酸球浸潤などにより引き起こされます。緊急性があるため、呼吸状態の悪化がある場合はできる限り早く動物病院に行くようにしてください。参考文献
- 石田卓夫 監修, 猫の診療指針 Part1, 2017;緑書房
- Richard W. Nelson, C.Guillermo Couto 編, 長谷川篤彦, 辻本元 監訳. スモールアニマルインターナルメディスン 第4版 2011;inter zoo
- Lesley G. King 著, 犬と猫の呼吸器疾患 2007;inter zoo