犬のアトピー性皮膚炎 | 症状・原因・治療法・薬などを皮膚科認定医獣医師が解説
犬のアトピー性皮膚炎は、一度かかってしまうと生涯にわたる治療が必要となるケースが多い病気です。今回は、犬のアトピー性皮膚炎の原因や症状、治療法などについて、皮膚科認定医の春日が解説します。
犬のアトピー性皮膚炎とは
犬のアトピー性皮膚炎は「特徴的な臨床症状を伴う遺伝的素因を有した炎症性・掻痒性のアレルギー性皮膚炎であり、症状のほとんどが環境アレルゲンに対するIgE抗体と直接関連する」と定義されています(※1)。そしてその環境アレルゲンとして、室内飼育犬ではハウスダストマイト(コナヒョウダニ、ヤケヒョウダニ)に対するIgE増加が多く見られます(※2)。
しかし、犬アトピー性皮膚炎に合致した臨床症状を有す症例の約10%で環境アレルゲンに対するIgEの上昇が見られないといわれており、このような病態をアトピー様皮膚炎と呼ぶことがあります(※3)。
犬のアトピー性皮膚炎が出やすい犬種・年代
犬のアトピー性皮膚炎の好発犬種として、以下の犬種が報告されています(※4)。
- ラブラドールレトリバー
- ウエストハイランドホワイトテリア
- ミニチュアシュナウザー
- パグ
- ヨークシャーテリア
犬のアトピー性皮膚炎の症状
主な症状は湿疹(しっしん:皮膚表面に発生する炎症)病変で、鱗屑(りんせつ:皮膚表面の角質細胞が剥がれたもの)や脂漏(しろう:皮脂腺の分泌が過剰な状態)などの付着物を特徴としない紅斑(こうはん:皮膚表面が赤い状態)から苔癬化(たいせんか:象の皮膚のように厚く硬くなった状態)に至る病変です。その病変の分布は左右対称性であり、眼囲、口囲、耳介(耳の穴より外部に突出した部分)、四肢関節部、脇の下、太ももの付け根、腹部、指と指の間によく見られます。
二次的な感染症(膿皮症、マラセチア、外耳炎等)が併発疾患として見られることもあります。
犬のアトピー性皮膚炎の原因
犬種により犬アトピー性皮膚炎の発症率に差があることから、遺伝的な影響が考えられています。また、犬種および居住地域(気温や花粉の影響など)を含む多くの要因によって発症年齢が決定されると考えられています(※4)。
犬のアトピー性皮膚炎の検査・診断方法
犬アトピー性皮膚炎は、病歴や皮疹の分布などの臨床症状と、他の掻痒性疾患の除外で診断されます。また、皮膚科的検査により細菌や真菌の感染や外部寄生虫の有無などを調べたり、採血を行いアレルギー検査によりアレルギー反応を起こす原因を調べたりするなどを、必要に応じて行います。アレルギー検査は、特異的IgE検査と呼ばれ、どのアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)に反応するIgE抗体を持っているかを調べる検査です。以下に代表的な検査項目を示します。
- チリダニ(コナヒョウダニ・ヤケヒョウダニ)
- コナダニ(ケナガコナダニ・アシブトコナダニなど)
- カビ(アスペルギルスなど)
- 虫(ノミ・蚊など)
- 花粉(ブタクサ・スギなど)
- 初発が3歳未満
- 主に室内飼育
- グルココルチコイド(ステロイド)に反応する痒み
- 初発時は皮膚病変がなく痒みのみ
- 前肢の病変
- 耳介の病変
- 耳介辺縁は病変がない
- 腰背部は病変がない
※感度・特異度とは:感度・特異度共に100%に近ければ近いほど正確な検査であるといえます。ちなみに、感度とはある病気にかかっている人の検査陽性者の割合で、特異度とはある病気にかかっていない人の検査陰性者の割合のことです。
犬のアトピー性皮膚炎の治療方法
まず、犬アトピー性皮膚炎の治療原則として、単一の治療法が全ての犬アトピー性皮膚炎の治療に効果的であることはありません(※6)。そこで治療効果を最大限に発揮すると同時に、費用と副作用を最小限に止めるため、治療法を組み合わせることを考慮します(※6)。
犬アトピー性の治療方法は、大きく以下の三つに分けられます。
- 皮膚炎を悪くするアレルギーや刺激(増悪因子)を避けること
- スキンケアをすること
- 痒みを抑える治療を行うこと
増悪因子回避の例
- 非季節性の痒みの場合、食物除去試験を行う
- アレルゲン検査により環境アレルゲンを同定し、可能な限りアレルゲンを回避する
- 皮膚や耳に細菌感染やマラセチア感染があれば、抗菌薬による治療を行う
スキンケアの例
- 低刺激性シャンプーによる洗浄を行う
- 必須脂肪酸サプリメントを投与する
痒みを抑える薬・治療法の例
経口グルココルチコイド(ステロイド内服薬)
- 抗炎症作用や免疫抑制作用などにより、皮膚炎などにおける湿疹、痒み、赤みなどを和らげる
- 汎発性の皮疹において、急性期および慢性期の治療に用いる
外用グルココルチコイド(ステロイド外用薬)
- 剤形には、軟膏剤、クリーム剤、液剤、スプレーなどがある
- 限局性の皮疹において、急性期および慢性期の治療に用いる
- 再発予防として間欠的に用いる(プロアクティブ療法)
オクラシチニブ
- ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬に分類される
- さまざまなアレルギー性疾患に有効である
- 汎発性の皮疹において、急性期および慢性期の治療に用いる
シクロスポリン
- カルシニューリン阻害薬に分類される
- 高用量で免疫抑制作用、低用量で消炎作用がある
- 慢性期の治療に用いる
組み換え犬インターフェロンγ
- 免疫系および炎症の調節などの働きをするサイトカインの一種である
- 犬アトピー性皮膚炎における症状の緩和に用いられる
減感作療法
- 原因抗原への暴露による症状を緩和するため、アレルギーの原因として考慮される抗原の抽出物をごく少量から徐々に量を増やし繰り返し投与する治療法である
- アレルギー性疾患における唯一の原因特異的治療法と考えられている
- 皮下投与と経口減感作療法がある
犬のアトピー性皮膚炎の予後
慢性・反復性の経過をたどり、ほとんどの犬は生涯にわたる治療が必要となります。また、犬アトピー性皮膚炎の治療は獣医師によって異なるので、治療をしていても症状が治まらない場合は、他の動物病院を受診してみるのも良いでしょう。治療の期間も長く、繰り返すことも多い病気なので、獣医師との相性も大切です。
犬のアトピー性皮膚炎は獣医師と相談を
犬アトピー性皮膚炎は、ほとんどの犬が生涯にわたる治療が必要となるので、さまざまな治療法について検討し、獣医さんとよく相談してみるといいでしょう。※引用文献
- Olivry, T., DeBoer, D.J., Griffin, C.E., Halliwell, R. E., Hillier, A., Marsella, R. and Sousa, C. A. 2001. The ACVA task force on canine atopic dermatitis : forewords and lexicon. Vet immunol. Immunopathol. 81: 143-146.(定義)
- Terada, Y., Murayama, N. and Nagata, M. 2010. Clinical value of serum allergen-specific IgE test using high affinity IgE receptor in canine atopic dermatitis. Jpn. J. Vet. Dermatol. 16: 15-18.(IgE)
- Halliwell R. 2006. Revised nomenclature for veterinary allergy. Vet Immunol. and Immunopathol. 114: 2007–8. (ALD)
- Miller, W.H., et al. 2013. pp. 365-388. Muller and Kirk’s Small animal Dermatology 7th ed, Elsevier, St Louis.
- Favrot, C., Steffan, J., Seewald, W. and Picco, F. 2009. A prospective study on the clinical features of chronic canine atopic dermatitis and its diagnosis. Vet Dermatol. 21:23-31.(診断基準)
- Olivry, T., Deboer, D. J., Favrot, C., Jackson, H. A. Mueller, R. S. Nuttall, T., and Prélaud, P; International Committee on Allergic Diseases of Animals. 2015. Treatment of canine atopic dermatitis: 2015 updateed guidelines from the International Committee on Allergic Diseases of Animals(ICADA). BMC Vet. Res. 11: 210.