犬のマラセチア皮膚炎|シャンプーや食事療法など治療法や予防法を獣医師が解説
犬のマラセチア皮膚炎はカビ(真菌)が増殖して皮膚に炎症が起こる犬に多い病気です。治療は抗真菌剤の飲み薬や塗り薬を使用したりシャンプー療法を行ったりします。アレルギーが要因になっている場合は食事療法が有効な場合もあります。マラセチア皮膚炎の治療法や予防法について、獣医師の佐藤が解説します。
犬のマラセチア皮膚炎とは
犬のマラセチア皮膚炎とは、カビの一種であるマラセチアが急激に増殖することで皮膚に炎症が起こる病気です。猫はまれで、犬に多く見られます。
マラセチアは犬の皮膚に常在する真菌(カビ)で、マラセチア属として確認されている18菌種のうち、犬で問題になるのはマラセチア・パチデルマティス(Malassezia pachydermatis)という種類です。
マラセチア皮膚炎の好発犬種
マラセチア皮膚炎はダックスフンドやプードル、シーズー、イングリッシュセッター、アメリカンコッカースパニエル、バセットハウンド、ボクサー、ウエストハイランドホワイトテリアで多く見られます。マラセチアは脂を好み、梅雨から夏にかけて高温多湿の時期に増える傾向があるため、皮膚がひた状にたるんで衛生状態が悪くなりやすいフレブルやパグも注意が必要です。
アトピー性皮膚炎で併発することが多いことから、アトピー性皮膚炎の好発犬種であるラブラドールレトリバーやミニチュアシュナウザー、ヨークシャーテリアでもよく見られます。
犬のマラセチアは人にうつる?
マラセチアは人にも常在し、増殖することでニキビのような赤いポツポツが背中や胸にできるマラセチア毛包炎を引き起こします。犬のマラセチアとは菌の種類が異なるため通常は人と犬でうつることはありませんが、犬の飼い主にうつった症例は報告されています。特に免疫力が下がっている人は手指の消毒を徹底してください。犬のマラセチアの症状
犬のマラセチア皮膚炎は口の周りや耳など顔、脇、内股、指の間、肛門の周囲、皮膚のひだ状にたるんだ部位などで起こります。初期症状は、皮膚の赤みや脂によるべたつき(脂漏症)、痒みや脱毛が見られます。
慢性化すると体臭(脂漏臭)や皮膚の黒ずみ(色素沈着)、皮膚が硬く厚くなる苔癬化(たいせんか)が見られるようになります。
マラセチアは同じ常在菌であるブドウ球菌と共生関係にあり、マラセチアとともにブドウ球菌(細菌)も増えることで膿皮症を併発することが少なくありません。アトピー性皮膚炎や外耳炎の併発もよく見られます。
犬のマラセチアの原因
マラセチア皮膚炎は、常在菌であるマラセチアが急激に増えることで起こります。痒みはマラセチアによる炎症やアレルギー反応によるものと考えられています。
マラセチアが増える要因として、湿度の上昇や皮膚のpH変化、抗生剤やステロイドの使用などが挙げられますが、多くはアレルギー(アトピーや食事、ノミ・ダニなど)やホルモン異常(甲状腺機能低下症、クッシング症など)、膿皮症などが関係していると考えられます。それら基礎疾患によって免疫機能が低下することで、マラセチアが増殖しやすい環境になります。
皮膚環境の悪化はさまざまな要因が複合的に関わっていることが多く、基本的な治療で改善が見られない場合は全身の検査を行って考えられる要因を洗い出し、一つずつ治療していく必要があります。
犬のマラセチアの治療法
マラセチア皮膚炎の診断では皮膚表面の細胞を採取して顕微鏡で調べる細胞診が一般的です。マラセチアの数や症状を総合的に判断して診断します。
治療は炎症が局所性か全身性か、基礎疾患の有無などを考慮して行います。軽症で局所性であれば塗り薬として抗真菌性外用薬を使用します。シャンプー療法も有効です。全身性で重症化している場合はイトラコナゾールなどの抗真菌剤やステロイドを内服します。抗真菌剤やステロイドは肝障害を起こすリスクがあるため、長期使用の際は定期的な血液検査などを行います。
改善せず、改善しても再発を繰り返す場合はアレルギー(アトピーや食事、ノミ・ダニなど)やホルモン異常(甲状腺機能低下症、クッシング症など)、膿皮症など基礎疾患の影響が疑われます。それぞれ治療を行うことでマラセチア皮膚炎の改善にもつながります。
マラセチアのシャンプー療法
ミコナゾールやクロルヘキシジンを使ったシャンプーがマラセチアの増殖を抑制することがわかっています。頻度は週2回で、1カ月程度続けます。使う薬剤は状態によって変わるため、獣医師に相談しながら決めるとよいでしょう。詳しくは以下の関連記事もご覧ください。マラセチアの食事療法
アレルギーが原因になっている場合は食事を変えることで改善します。症状が軽ければ疑わしい食材が含まれないドッグフードに変えて様子を見てみるのもいいでしょう。タンパク質がアレルゲンになりますので、原因となるタンパク源をあげない方法や「加水分解」といってタンパク質の分子量を小さくしてアレルゲンにしない方法があります。犬のマラセチアの予後・予防方法
マラセチア皮膚炎の予後は原因を特定することができれば良好です。アレルギーやホルモン異常など基礎疾患があればそれらを適切に管理することで予防し、再発を抑えることができます。ただし、アトピー性皮膚炎がある場合は治療が長期になるケースが少なくありません。
マラセチアは皮膚の表面だけでなく耳でも増殖し、マラセチア皮膚炎の原因になったり外耳炎を引き起こしたりします。特に耳の中に毛が生えていたり、体質的に耳垢が多かったり、垂れ耳で蒸れやすかったりする犬は、耳洗浄などで耳の中を清潔に保つことが予防につながります。
まとめ
マラセチアが異常増殖することで皮膚炎が起こる
膿皮症やアトピー、外耳炎の併発がよく見られる
治療では抗真菌剤やシャンプー療法が有効
皮膚の衛生環境を保つことで再発を防げる
参考文献
- 「Biology, diagnosis and treatment of Malassezia dermatitis in dogs and cats」(World Association for Veterinary Dermatology)
- 「Canine Malassezia dermatitis」(Canadian Veterinary Journal)
- 「Malassezia Yeasts in Veterinary Dermatology: An Updated Overview」(Frontiers in Cellular and Infection Microbiology)