犬の血尿|原因・症状・生理との見分け方・治療法などを獣医師が解説
犬の尿は健康のバロメーターです。色や回数、量、臭いの変化というように、尿の異常はさまざまです。鮮血が混じったような尿の色だったり、茶色い尿だったり、尿の異常の中でも、よくみられる症状のひとつである「血尿」の原因や症状、治療法などについて、獣医師の渡邉が解説します。
犬の血尿とは
血尿とは「尿が赤みのある色になる状態」をいいます。尿の色が赤みを帯びる原因として「血尿」と「血色素尿」があります。
血尿
血尿とは腎臓・尿管・膀胱・尿道など、尿が通る場所のいずれかで起こった出血により、茶色くなったり、うっすらピンク色になったりした尿のことをいいます。血色素尿
血色素尿とは、赤血球が壊れた際に出てくる色素が腎臓から排出されることで生じます。尿の色は、赤褐色や暗褐色になることが多いです。この2つは、見た目では区別する事はできないので、動物病院で尿検査をする必要があります。
犬の血尿と生理の見分け方
生理中には、犬の陰部がぷっくり膨れます。そのような身体の変化がみられている間の血尿は、生理中における出血の可能性があります。
しっかり判断するには、膀胱穿刺(膀胱から直接針を用いて採尿する方法)で尿検査を行う必要があります。
血尿の際のチェックポイント
血尿が出る際にみられる症状は、原因によってさまざまですが、犬が血尿をした時に、飼い主さんに見てもらいたいポイントがあります。
そのポイントは「どんな血尿をしているか?」と「血尿以外の症状が出ていないか?」です。まずは、血尿の状態についてしっかり観察しましょう。
- 鮮血が所々に混じっている
- 全体的にピンク色の尿
- 血の塊が混じっている
- 全体的に茶色っぽい尿
- コーラのような色の尿
上記のどれに当てはまるか、確認してみてください。次に、血尿以外の症状は無いかどうか、観察しましょう。
- 頻尿や尿の臭いはあるか
- 元気や食欲はあるか
- 嘔吐や下痢はあるか
- 腹痛はありそうか
- 水をいつもより飲んでないか
- 歯茎や舌の色は白くないか
- 身体に内出血の跡はないか
上記のような症状が無いかも、一緒に確認してください。
血尿が出ているという症状は同じでも、さまざまな状況があります。その中でも、元気や食欲がないときや歯茎や舌の色が白いとき、尿がコーラの色みたいな茶色になっている時は緊急度の高い疾患の可能性がありますので、できるだけ早く動物病院に連れて行きましょう。
犬の血尿が出やすい犬種・年齢
起こりやすい犬種
膀胱結石の症状の1つとして血尿があります。ミニチュアシュナウザーやシーズーは膀胱結石ができやすいといわれているため、血尿が出やすい犬種といえるでしょう。起こりやすい年齢
犬種に関わらず、老犬になると、膀胱腫瘍や前立腺炎、前立腺腫瘍などが原因で起こる血尿がみられることがあります。その他
避妊・去勢手術を行っていない犬の場合は、子宮や前立腺などの炎症が原因で、尿に血が混じることがあります。また、精神的にデリケートな犬は、環境の変化や飼い主さんの長時間留守などにストレスを感じ、血尿につながることがあります。この場合は、一時的な症状で治まる可能性が高いです。
犬の血尿で考えられる原因や病気
犬が血尿を出す原因は、泌尿器系のトラブルから全身疾患まで、さまざまあります。
腎臓・泌尿器疾患
<膀胱炎>
血尿が出る原因として最も多いのが、膀胱炎です。細菌性膀胱炎の症状としては「血尿」や「頻尿」「尿が臭くなる」「排尿痛」などがあります。
細菌性膀胱炎は、陰部から膀胱までの距離が、メスの方が短いので、オスよりメスの方がかかりやすいといわれています。一般的には元気、食欲に問題ないことが多いです。
<腎孟腎炎(じんうじんえん)>
腎盂腎炎とは、尿を作る腎臓に細菌が感染して起こる炎症のことです。膀胱から上行性に細菌が腎臓に入り込むことが原因だといわれています。症状としては、膀胱炎の症状に加えて「発熱」や「嘔吐」「元気消失」「食欲不振」などが挙げられます。治療には、数日の入院が必要になることもあります。
<膀胱結石・尿道結石>
膀胱・尿道結石は、膀胱内や尿道内に結石ができる病気です。結石の種類はさまざまありますが、シュウ酸カルシウム結石(※)、ストラバイト結石(※)が多くみられます。結石は、尿のpHが大きく関わっています。
尿が酸性に傾いていると、シュウ酸カルシウムができやすく、アルカリ性に傾いていると、ストラバイトができやすくなります。症状としては「血尿」や「頻尿」が多いですが、結石がある場所によっては「尿が出なくなる」こともあります。
※シュウ酸カルシウム結石:尿中のカルシウムが結晶化して結石となったもの
※ストラバイト結石:尿中のマグネシウムが結晶化して結石となったもの
<膀胱腫瘍・前立腺腫瘍>
老犬の場合、膀胱腫瘍や前立腺腫瘍が原因で血尿が出ている可能性があります。膀胱腫瘍の症状は、腫瘍の大きさ、発生場所にもよりますが、血尿に加えて「頻尿」「元気消失」「食欲不振」「嘔吐」などがみられます。
前立腺癌の症状は「血尿」や「排尿・排便障害」「元気消失」「食欲不振」、肺や骨への転移が起こっている場合には「呼吸・歩行困難」「痛み」などがみられます。
生殖器疾患
<子宮蓄膿症>
子宮蓄膿症とは、ほぼ無菌のはずの子宮の中に菌が入り込み、膿が溜まる病気です。症状としては「陰部からの血膿」「元気消失」「食欲不振」「多飲(水をいつも以上に飲む)」などが挙げられます。陰部からの血膿を血尿と見間違えることがあるでしょう。
<前立腺炎>
前立腺炎とは、未去勢のオスによくみられる、前立腺に生じる炎症です。多くは尿道からの感染で、進行すると膿瘍を伴う場合もあります。症状としては「血尿」や「疼痛」「歩行異常」「発熱」があります。
抗生剤の内服が主な治療法ですが、同時に去勢手術を行うこともあります。
フィラリア症(大静脈症候群)
フィラリア症(大静脈症候群)は、蚊によって媒介され、心臓にフィラリアが寄生することで起こる疾患です。多くの場合、肺動脈という血管に寄生しますが、突如、右心房や右心室に移動し、全身状態が悪化する場合があります。これを「大静脈症候群」といいます。
大静脈症候群の症状としては「血色素尿」や「咳」「呼吸困難」「元気消失」「低血圧」などがあります。
フィラリアの予防を行っていない場合は、大静脈症候群になる可能性があります。この病気は予防薬があり、予防できるものなので、しっかり予防を行いましょう。
玉ねぎ中毒
玉ねぎを過剰に摂取した場合、玉ねぎに含まれる物質によって、溶血性貧血が引き起こされます。玉ねぎだけではなく、ニンニク、ネギ、ニラなどを摂取した場合も認められます。症状としては「血尿もしくはコーラ色の尿」や「元気消失」「食欲不振」「嘔吐」「下痢」「呼吸困難」「粘膜の色の異常(白い・黄色い)」が認められます。
摂取してから24時間以内に認められる場合もありますが、一般的にはやや遅れて数日後にみられることが多いので、注意してください。
免疫介在性血小板減少症
血小板減少症とは、免疫のトラブルにより血小板が少なくなる病気です。血小板は、血を固めるために必要な要素の一つなので、血小板減少症の症状としては「内出血」「さまざまなところからの出血(血尿も含む)」「元気消失」「食欲不振」などがあります。
犬の血尿の治療方法
これまでお話ししたように血尿の原因はさまざまです。ここでは、血尿の原因として多い病気の3つについての治療法を説明します。
膀胱炎
細菌性膀胱炎の治療法は、抗生剤の内服が中心です。検査で結晶(ストラバイト結晶やシュウ酸カルシウム結晶)がみられる場合、フードを尿のpHを調節するための療法食へ切り替えることが勧められることもあります。
結石
結石の種類によって、治療法は異なります。ストラバイトが主成分の結石の場合は、療法食で溶解することができます。しかし、シュウ酸カルシウムが主成分の場合は、外科的切除を行う必要があります。
結石は再発することが多いので、一度罹患した後は、食事は療法食に完全に切り替えることが推奨されます。
膀胱腫瘍
膀胱腫瘍の治療法は、腫瘍の種類によって異なります。外科手術を行うことが推奨されていますが、腫瘍の大きさや発生部位によっては、抗がん剤が選択されることも多いです。
まとめ
血尿の原因はさまざま
陰部がぷっくり膨れているときの血尿は生理の可能性も
血尿の状態や血尿以外の症状がないか確認しましょう
早めに動物病院へ連れて行きましょう
血尿にはさまざま原因があるため、正しい診断することが重要です。「様子見しよう」と自己判断せず、必ず病院で診てもらってください。
参考文献
- 獣医内科学 文永堂出版
- 犬と猫の治療ガイド 2015 interzoo社
更新日:2020年6月23日
公開日:2016年7月20日
公開日:2016年7月20日