グラグラしている犬の歯は抜くべきか抜かなくても治るか獣医師が解説
犬の歯がグラグラしている場合、多くの原因は重度の歯周病です。子犬の乳歯が生え変わったりシニア犬(老犬)が老化で抜けたりすることはありますが、病気が原因の場合は抜歯が選択されます。ただ、事故でグラついている場合は早急に処置をすれば治る可能性があります。歯がぐらぐらする理由や対処法について、獣医師の佐藤が解説します。
犬の歯がグラグラする理由
犬の歯は、歯ぐき(歯肉)の内側にある歯槽骨(しそうこつ)という骨によって支えられています。さらに歯根膜という繊維が歯の根っこを覆うセメント質と歯槽骨をがっちり結びつけているため、犬の歯が簡単に抜けることはありません。何らかの理由で歯根膜が剥がれる、歯槽骨が溶ける、歯肉が後退する、歯が折れる(破折)といったことが起これば歯は抜けてしまいます。ただし、子犬の場合は成長の過程で乳歯がグラグラして抜け落ち、永久歯へと生え変わっていきます。
子犬の歯が生え変わりでグラグラする場合
犬も人間同様に乳歯と永久歯があり、生後2カ月ほどで28本の乳歯が生えそろうと、4〜7カ月ほどで42本の永久歯へ生え変わります。乳歯が抜け落ちるときには歯の根っこの歯根が溶けて歯肉が赤くなり、歯がぐらついてきます。ぐらつく部位に触れると痛がりますので無理やり抜くことはせず、自然に抜けるまで待ちましょう。7カ月齢以後も乳歯が残ることを「乳歯遺残」と言い、大型犬より小型犬で多く見られます。乳歯と永久歯が隣り合うため噛み合わせに問題が出たり、歯垢・歯石が付きやすくなって歯周病になったりしますので、動物病院で乳歯を抜く必要があります。
犬の歯がグラグラする場合に考えられる原因と病気
犬の歯がグラグラするのは、何かしら問題が起きているからです。その場合に考えられる原因として以下の5つが挙げられます。
- 歯周病
- 歯根破折
- 歯の脱臼
- 悪性腫瘍
- 吸収病巣
1. 歯周病
犬の歯がグラグラしている場合、原因の多くは重度の歯周病です。歯と歯ぐきの間に入った歯周病菌によって歯ぐきが炎症を起こす病気で、悪化すると歯を支える歯槽骨が溶けて歯が抜けてしまいます。歯肉が少し赤くなっている程度の軽度な歯肉炎であれば歯磨で改善する可能性がありますが、進行している場合は抜歯を行います。抜かなければ歯周病は確実に進行し、自然に歯が抜けたり、顎の骨が折れたりします。歯周病菌が血管に入って全身に広がると腎不全や心不全につながる場合もありますので、心臓病などを患っているシニア犬(老犬)は注意が必要です。
抜歯は麻酔をかけることが多いため、麻酔費用と歯石除去代も同時にかかります。抜歯は1本500〜2000円ほどですが、麻酔と歯石除去で2〜3万円ほどはかかります。詳しくは以下の関連記事もご覧ください。
2. 歯根破折
破折(はせつ)は歯が折れたり欠けたりすることで、歯肉に隠れた歯の根元が破折することを「歯根破折」と言います。事故やけんか、衝突など強い衝撃によっても起こりますが、おもちゃやアキレス腱や馬の蹄、歯磨きガムなど硬いものを噛んで「上顎第4前臼歯」(裂肉歯)という大事な歯を折る犬が少なくありません。歯髄(しずい)という神経が露出しなければコンポジットレジンなどで修復することが可能です。露出している場合は適切な処置を行わないと感染症の原因になります。歯科治療に力を入れている病院でなければ抜歯が選択されます。
3. 脱臼
事故や衝突など強い衝撃によって歯根膜が断裂することを「歯の脱臼」と呼び、歯が抜けてしまう「完全脱臼」とグラグラしている「不完全脱臼」に分けられます。人の場合は歯に歯根膜が残り、乾燥したり汚れたりすることなくすぐ戻すことができれば再びくっ付く可能性がありますが、犬の場合は全身麻酔が必要になるため戻すのは現実的ではないでしょう。4. 悪性腫瘍
口の中にできた黒いできものは「メラノーマ」(悪性黒色腫)という口腔腫瘍の可能性があります。口唇や頬粘膜、まれに舌に発生することもありますが歯肉に発生することが多く、腫瘍によって歯がグラグラしてしまう可能性があります。見た目では悪性か判断できないため、早期に診断することが重要です。詳しくは以下の関連記事をご覧ください。
5. 吸収病巣
吸収病巣は、歯が溶けて次第になくなる病気です。溶ける過程で歯がグラグラすることもあります。虫歯では虫歯菌(ミュータンス菌)が歯を溶かしますが、吸収病巣では破歯細胞と呼ばれる自分自身の細胞が歯を溶かしてしまいます。猫に多く、犬ではまれです。グラグラする犬の歯が治る可能性
犬の歯がグラグラする原因の多くは歯周病です。歯ぐきが赤くなる程度の歯肉炎であれば治療が可能ですが、グラグラするほど支えられなくなっている状態では治る可能性はありません。歯周病は放置すれば進行して別の問題を起こしますし、何より犬が日常的な痛みを伴うことになります。
抜歯の際は全身麻酔が必要になり、年を重ねるほど麻酔のリスクは高まります。歯を抜いてしまうことに抵抗感がある飼い主さんも多いとは思いますが、時間がたてば問題は多くなるばかりです。かかりつけの獣医と相談して、できる限り早く治療することをお勧めします。
まとめ
犬の歯は簡単に抜けない
抜ける原因の多くは歯周病
グラグラする歯が治る可能性は低い
早期発見・早期治療が大切
事故で歯がグラグラしたり抜けたりすることもありますが、多いのは硬いおやつなどをかじったケースです。歯周病を予防するために硬いデンタルケアグッズを与えて歯が折れたり、抜くことになったりしては本末転倒です。日頃から歯磨きをしっかりして、定期検診を受けることが一番の予防になると考えてください。