猫の毛球症|症状・原因・かかりやすい年代・治療法・予防法などを皮膚科担当獣医師が解説
猫ちゃんがゲーっと毛の塊を吐くのを見たことがありますか? 多くの方が「猫は毛玉を吐く」というのを聞いたことがあると思いますが、初めて猫が毛玉を吐くの見た方は「ウンチを吐いたのかしら?」「病気なのかしら?」と心配してしまうかもしれません。実は、猫が毛玉を吐く行為は病気ではなく自然なことなんです。猫はなぜ毛玉を吐くのでしょうか? 今回は猫ちゃんが吐く毛玉と、この毛玉が原因で引き起こされる「毛球症(もうきゅうしょう)」について、シリウス犬猫病院院長の石村が解説します。
猫の毛球症とは
よく「猫は綺麗好きな動物」と言われますが、なんと起きている時間の約4分の1をグルーミング(毛づくろい)に費やしているとされます。しかし猫の舌はザラザラしているので、一生懸命グルーミングしてる際に毛を飲み込んでしまうことが多くあります。残念ながら飲み込んでしまった毛は消化されないため、通常飲み込んでしまった毛はウンチとして排泄されたり、口からまとめて吐き出されたりして体外に排出されます。飲み込んだ毛がからまりあったボールのような塊、いわゆる毛玉を「毛球(もうきゅう)」と言い、猫はこの毛球が体内にたまらないように吐くことがあります。定期的に毛球を吐き出すことで、胃の中に毛がたまらないようにしているんですね。猫が毛の塊を吐く行為は、病気ではなく正常な行動といえるでしょう。
猫が吐いた毛玉
吐き出す頻度は猫によってさまざまで、毎日吐く猫もいれば、全く吐かなくても大丈夫という猫もいます。もし吐かない場合でも、通常はウンチとともに排出されていることが多いので、猫に元気・食欲があれば大きな心配はいりません。
長い間、毛球をうまく体外に出せずにいると、毛が胃の中でからまりあってどんどん大きくなることがあります。毛球が大きくなりすぎてしまうと、吐き戻すこともウンチとして出すことも難しくなってきてしまいます。吐き出すこともできず、排泄することもできず……。胃や腸などの消化管に毛球がたまってしまうことによって引き起こされる病気を「毛球症」といいます。
毛球症にかかりやすい猫種・年代
一般的に毛が短い猫よりも、ペルシャ猫やヒマラヤンなどの毛が長い猫の方が毛球症になりやすいようです。また、夏や冬になる前に毛が生え変わる換毛期の時期も多く見られます。猫の毛球症の症状
初期症状
毛球が胃の中にただよっているだけでは、あまり目立った症状は出ないことが多いです。しかし毛球が大きくなってくると胃の出口を毛球が塞いでしまったり、胃粘膜を刺激したりします。こうなると「食欲不振」「下痢」「便秘」「吐き出そうとするが何も出ない」「お腹を触られるのを嫌がる」などの症状が出てきます。末期症状
食欲不振や嘔吐などが長引けば、脱水症状を引き起こして衰弱死することもあります。毛球が腸で詰まって、腸閉塞を引き起こすことも……。腸に穴が開いて腹膜炎を起こすと、最悪死に至ることもあるので注意が必要です。猫の毛球症の原因
ブラッシング不足
ブラッシングをしていないと、グルーミングの際に飲み込んでしまう毛が必然的に多くなります。毛球の正体は、大量の毛がからまりあいボールやフェルト状に固まったものです。毛が生え変わる時期や長毛種の猫ちゃんは特に注意しましょう。胃腸の動きが悪くなっている
加齢や内臓系の不調から胃腸の動きが悪くなり、毛球をうまく吐き出せなくなったり、便秘になったりすることで引き起こされることもあります。過剰なグルーミング
痒みを伴う皮膚炎やストレス・不安などからグルーミングを過剰に行うことにより、たくさんの毛を飲み込んでしまいます。毛球症と症状の似た病気・合併症
猫が毛球を吐くのは正常な行動の一つではありますが、毛球症以外にも毛球を頻繁に吐くような病気はあるので注意が必要です。食道、胃、腸に慢性的な胃腸炎がある場合や、食物アレルギー、リンパ腫、炎症性腸症など他の病気が隠れている可能性があります。いつもと比べて頻繁に吐いたり、下痢や食欲不振など他の症状も伴う場合は早めに動物病院を受診しましょう。毛球症の検査・診断方法
- 時折、毛球を吐いていた猫が全く毛球を吐かなくなった
- 吐くそぶりがあるのに吐けない
- 便秘がある
- お腹を触られるのを嫌がる
などの症状がある場合、毛球症を疑います。食欲不振や体重の減少などがあり重症度が高いと判断した場合は、他に内臓系の異常がないかチェックするためにも、血液検査を実施します。
実は、毛球症を正確に診断することはなかなか難しいです。毛球の存在を確認しなければならないのですが、通常のレントゲン検査では毛球は写ってきません。
胃の中に毛玉が存在する場合は超音波検査でモヤモヤとした毛球の存在が確認できることもありますが、胃の中に食べたものやガスなどが貯まっている場合は、超音波検査でも毛球の存在が確認できない場合があります。その場合は、バリウムなどを用いた消化管造影検査や内視鏡検査を実施して診断することもあります。
バリウム造影検査
※釘やボタン電池などの金属はレントゲンではっきりと写りますが、毛球や木片、プラスチックなどは写りません。
猫の毛球症の治療法・リハビリ
症状が軽い場合は、自力で毛球を体外に出せることがあります。市販の毛球除去剤を舐めさせて毛玉をウンチと一緒に排泄させるのもいいでしょう。毛球除去剤はペースト状のものが一般的で、ウンチと毛球をコーティングすることによって通りを良くしてくれる効果があります。舐めさせたあと、ウンチにたくさんの毛が混じって出てくれば良いでしょう。嘔吐が頻繁であったり食欲不振・体重低下も伴うような症状が重い場合は、毛球を取り出さなければならないかもしれません。毛球が胃の中にある場合は内視鏡、あるいは胃切開手術を行って毛球を取り出します。毛球が腸に詰まってしまっている場合は、内視鏡での除去はできないため外科的に開腹手術を行う必要性があります。
猫の毛球症の治療費・手術費用の目安
症状の重症度により検査内容なども変わってくるので、費用はかなり幅があります。動物病院では自由診療制が取り入れられており、治療費は個々の病院の裁量で決められます。以下は一応の目安として参考にしてください。症状が軽度の場合
- 診察料・毛球除去剤処方:3000円〜
検査なども行った場合
- 血液検査:6000~10000円
- レントゲン検査(バリウム造影):8000~1万5000円
- 腹部超音波検査:3000~5000円
開腹手術などになった場合
- 診察料・血液検査・レントゲン検査・手術料・麻酔料・点滴・注射・内服薬・入院費…etc.:10万~25万円
※猫の症状や病院によって金額は変わりますので注意してください。上記に示した金額はあくまで目安です。
病気になった場合、1番つらいのは猫ちゃんです。しかし飼い主さんにもかなり経済的な負担が掛かってきます。毛球症にならないよう予防していきたいですね。
猫の毛球症の予後
胃腸管内の毛球が除去されたのであれば、予後は一般的に良好と言われています。しかし皮膚疾患や胃腸器疾患がある場合はまた再発する可能性があるため、そういった病気が隠れていないかチェックする必要があると思います。猫の毛球症の予防法
グルーミングによる大量の体毛の取り込みを防ぐ目的で、日頃の抜け毛ケアとして定期的なブラッシングは実施すべきでしょう。これにより猫が飲み込む毛の量を減らすことができます。また、ストレスを解消するために飼い主さんと猫ちゃんが十分なコミュニケーションをとれるといいですね。猫の毛球症に良い食べ物・食事の注意点
最近では毛玉対策用のフードが多く販売されています。その特徴として、どれも食物繊維を多く含んでいます。これらは胃に溜まった毛球をからめとったり、胃腸の動きを活発にし毛球の排泄を促進する作用があります。猫の毛球症に効くサプリメント
毛球症を予防するためのサプリメントには「流動パラフィン」「ワセリン」「食物繊維」「乳酸菌」などが含まれていることが多いです。「流動パラフィン」や「ワセリン」は潤滑油の働きをして、毛球が胃から腸にツルッと流れやすいようにしてくれ、胃に毛がたまるのを防いでくれるでしょう。「食物繊維」は毛をからめ取る作用が、「乳酸菌」などは胃腸の動きを良くしてくれる作用があり、ウンチとともに毛が排出されやすくなります。あなどるなかれ、猫の毛球症
毛球症は最悪、死に至るケースもあるため、意外とあなどれない病気です。まずはなるべく猫が毛を飲み込まないようにケアしましょう。そして体内に入ってしまった毛はなるべく小さいうちに自然にウンチと一緒に排泄させるか、吐くなどして体外に出せるといいですね。重症になる前に、毎日のケアが大切です。あなどるなかれ、毛球症。引用文献
- 小山秀一、辻本元『犬と猫の治療ガイド2015』インターズー
- 『イラストでみる猫の病気』講談社