犬のリンパ腫は早期発見が大切! 原因や症状、治療法を腫瘍科認定医が解説

リンパ腫は、リンパ球が腫瘍化して、体のさまざまな部位で増殖する腫瘍です。犬の腫瘍としては発生率が高く、年間10万匹当たり20例(人の2倍)と言われています。リンパ球は全身を循環しますので、たとえ1カ所でもリンパ腫が見つかると、全身にがん細胞が広がっている可能性があります。このため、他のガンと違い、抗がん剤を使っての治療がメインとなる腫瘍です。

リンパ腫のほとんどは悪性(高悪性度リンパ腫)で、治療をしなければ早期に死に至る病気ですが、さまざまなタイプがあるため、診断法と治療法には多くのバリエーションがあります。今回は、一般的な「高悪性度リンパ腫」を早期発見するためのチェック法や標準的な治療について、浜松家畜病院院長の武信行紀が解説します。

犬のリンパ腫とは

正常なリンパ球は免疫細胞で、ウイルスなどから体を守る働きをしています。この細胞は全身を巡りながら、いくつかのポイントに集まって仕事をしていますが、最も重要なポイントは「リンパ節」で、その他「胸腺」「消化器」「皮膚」などが挙げられます。

リンパ腫は、このリンパ球が腫瘍化したものですが、日頃からリンパ球の集まっているリンパ節、胸腺、消化器などの部位によく発生します。その発生部位によって治療法が異なりますので、どこに出来るかによって「解剖学的分類」がされています。

解剖学的分類ってなに?

リンパ腫は発生する場所の違いにより、いくつかの型に分類されています。犬では、

  • 多中心型(体中のリンパ節が腫れるタイプ)
  • 前縦隔型(胸の中に塊ができるタイプ)
  • 消化器型(腸に病変ができるタイプ)
  • 皮膚型(皮膚病ができるタイプ)

などがみられます。

解剖学的分類 頻度
多中心型 80%
前縦隔型(胸腺型) 5%
消化器型 5~7%
皮膚型 まれ
その他(節外型:眼、中枢神経など) まれ

また、この他にも節外型(眼、中枢神経など)など、いろいろなタイプがみられます。いずれのタイプも抗がん剤を使った全身療法が主体ですが、多中心型が最も発生が多く、また治療への反応も比較的良好です。

リンパ腫のステージ分類

リンパ腫の重症度はステージで分類することができます。以下のWHO分類(多中心型リンパ腫の例)では、ステージが高いほど予後が悪い(生存期間が短い)と言われています。

犬のリンパ腫の臨床ステージ分類(WHO)
ステージ Ⅰ 1個のリンパ節または単一のリンパ系組織に限られる。
ステージ Ⅱ 複数のリンパ節の限局性病変。
ステージ Ⅲ 全身のリンパ節に波及している。
ステージ Ⅳ 肝臓、脾臓に浸潤している。
ステージ Ⅴ 血液、骨髄、その他の臓器に発現している。
ステージはさらに「臨床的サブステージa(臨床症状なし)」または「b(臨床症状あり)」に分けられる。臨床症状とは元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢などのさまざまな症状のこと。

リンパ腫にかかりやすい犬種・年代

リンパ腫にかかりやすい犬種

発生リスクの高い犬種はゴールデンレトリーバーシェルティシーズー、ボクサーなどが挙げられますが、すべての犬種に可能性があります。逆にリスクの低い犬種としてダックスフンドポメラニアンが挙げられています。

リンパ腫にかかりやすい年代

好発年齢は6~9歳齢ですが、すべての年齢(6カ月~15歳)で発病の報告があります。10歳の犬は1歳の犬の57倍なりやすいと報告されています。

リンパ腫の症状

初期症状

リンパ腫の代表的な症状は、リンパ節が腫れることです。そのため、初期症状を見つけるには、体の外から触れるリンパ節をチェックしましょう。

犬のリンパ腫

犬のリンパ腫

 

体表リンパ節

体の外から触れる主なリンパ節は五つで、下顎、浅頸、膝下リンパ節は比較的わかりやすい部位です(正常であれば腋窩、鼠径リンパ節はよくわからないかもしれません)。この他、体の中にも無数のリンパ節があります。

犬の体表リンパ節の図

  1. 下顎リンパ節(下顎骨のカーブするあたり)
  2. 浅頚リンパ節(人間で言う鎖骨のあるあたり)
  3. 腋窩リンパ節(前足の付け根、脇の下のあたり)
  4. 鼡径リンパ節(後足の付け根、内股のあたり)
  5. 膝窩リンパ節(膝の裏側)

他にも、目の異常などから病気に気付くこともあります。また、呼吸の異常(胸腺型)や嘔吐下痢(消化器型)、皮膚炎(皮膚型)などさまざまな症状があります。

末期症状

全身で腫瘍細胞が増殖すると、命に関わるさまざまな症状が見られます。例えば皮膚型リンパ腫では皮膚炎が全身に広がり、強い痒み・痛み・出血を起こします。消化器型リンパ腫では、食事ができなくなり、下痢などの症状が急速に悪化します。その他、多い症状は以下の通りです。

  • 血液症状:血液の異常が進行して、貧血や発熱、敗血症を起こします。
  • 消化器症状:肝機能の異常や腹腔リンパ節による圧迫から、嘔吐・便秘が見られます。
  • 呼吸器症状:リンパ腫が肺浸潤したり、誤嚥性肺炎を起こしたりすることがあります。※抗がん剤治療中に免疫力が落ちて肺炎になることもありますが、この場合は早く気付ければ、治療によりほとんどが治癒します。

犬のリンパ腫と症状の似た病気・合併症

リンパ節が腫れる疾患には炎症(歯肉炎・皮膚炎など)、感染症(真菌・細菌・ウイルス等)などもありますから、動物病院ではこれらの病気との鑑別診断を行います。

犬のリンパ腫の原因

リンパ腫に、明らかな一つだけの原因というものはありません。リンパ腫に限らず「がん」は遺伝子に傷がついて発症しますが、これにはさまざまな要素が関係しています。ウイルス感染・放射線・紫外線・ある種の薬剤・ホルモン・炎症性の疾患・加齢など、複数の要因が重なって発病すると考えられています。

犬のリンパ腫の検査・診断方法

リンパ節の腫れを見つけたら、歯周病などによる炎症なのか、リンパ腫なのかを調べます。腫れたリンパ節に注射針を刺して、わずかな細胞を顕微鏡で観察する検査(細胞診)を行います。この検査は痛みも少なく、その場で結果が解るため、早期に治療を始められます。

細胞診で診断がつかない場合、組織を一部切り取り(切除生検)、病理検査を行います。また、近年では針生検と遺伝子検査を組み合わせた方法(クローン性解析)も利用されます。

犬のリンパ腫の診断方法
触診 全身を触診し、リンパ節の大きさ・固さ・形・周囲組織との関連性、各種内臓の大きさや、腹腔内のしこりの有無を調べます。
血液検査 血液中の異常リンパ球の有無を調べ、治療に先立つ全身状態の把握のために実施します。
レントゲン検査 胸腔、腹腔臓器の状態(大きさ・位置)、リンパ節の大きさを調べます。
超音波検査 腹腔内臓器・リンパ節の状態を検査することができます。レントゲンでは分からない臓器や腫瘤の内部構造・血管構造等が分かります。
細胞診 腫大したリンパ節や異常な臓器に、針生検を実施して異常リンパ球の増殖を確認することで速やかに診断が可能です。
病理検査 細胞診で診断が付かない場合には麻酔下による切除生検で1箇所のリンパ節を切除して検査をしたり、トゥルーカット(瞬間的に小さな組織を採取する器具)や開腹手術により臓器やリンパ節を切除して病理組織検査に提出し、診断を確定する必要があります。
クローン性解析 遺伝子検査(PCR法)を用いて、リンパ系腫瘍であるか否かを判定します。さらにそれがB細胞型であるかT細胞型であるかが判るので、リンパ腫の予後予測や治療方針の策定に有用です。ごく少量の細胞での検査が可能であり、感度の高い方法です。

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腹腔内の細胞診で認められたリンパ腫の細胞

犬のリンパ腫の治療法

リンパ腫の主な治療法は全身治療である化学療法(いわゆる抗がん剤)です。さまざまな抗がん剤がありますが、癌細胞はすぐに耐性を獲得するため、数種類の薬を組み合わせて使用することが必要です。

幸いなことに、リンパ腫は化学療法に非常によく反応します。治療前には状態の悪かった動物が、抗がん剤治療後には見違えるように元気になり、あたかも完治したかのように見えます。この状態を「寛解」と言います(臨床徴候が消失した状態。いわゆる完治とは異なる)。

癌細胞が見えないだけで、まだまだ多くの細胞が生き残っており、すぐに元の状態まで戻ってしまいますので、状態が改善した後も治療を続ける必要があります。また、治療が順調に進み数カ月〜数年の間、元気な状態が続いたとしても、いずれ再発は避けられません。これを「再燃」と言います(再び癌細胞が増殖し、発症してくること)。

リンパ腫の治療は「寛解」→「再燃」→「再寛解」のサイクルで進みます。通常は、1クール数カ月単位で化学療法を行いますので、治療には飼い主さんの理解と長期間の治療に備える体力・忍耐力が必要となります。

犬のリンパ腫の治療薬の種類

プレドニゾロン(プレドニン)

免疫を抑えたり炎症を和らげる薬ですが、リンパ腫の治療においては抗がん剤として用いられます。通常は治療の初期に用いられ、徐々に休薬していきます。

L-アスパラギナーゼ(ロイナーゼ)

リンパ腫の細胞に効果を示しますが、健康な細胞には無毒のため副作用が起こりません。通常は治療の初期や再発時、リンパ腫で弱った体力を回復させる時期に用いられます。

ビンクリスチン(オンコビン)

リンパ腫治療では最も代表的な注射の抗がん剤です。副作用も少なめです。

サイクロフォスファミド(エンドキサン)

リンパ腫では良く処方される抗がん剤です。膀胱炎が起きることがあります。

ドキソルビシン

最も強力な抗がん剤です。副作用として嘔吐下痢、白血球減少が起こります。点滴注射薬であり、数時間かけて投与します。

この他にも、さまざまな薬がリンパ腫に対して効果があるとされています。通常はいろいろな角度からリンパ腫を攻撃するために、二つ以上の薬剤を組み合わせて治療します。薬剤の組み合わせや投与する順番はさまざまな研究者がレシピを公表していて、動物の状態や症状に応じて選択されます。※このレシピを「プロトコール」とよびます。

治療・手術費用の目安

初期の診断

リンパ腫の進行度によって、使用する検査内容も変わるため一概には言えませんが、3万円~10万円(初期検査、点滴、病理検査など含む)まで幅があります。

抗がん剤治療

プロトコールによりますが、治療期間は1クールが平均5〜6カ月間で、その後は順調にいけば休薬します。一般的な治療費の目安としては小型犬なら週1回の治療が1〜3万円、1クールは総額で15〜30万円になることが多いようです。
 

犬のリンパ腫の予後

最初の治療の反応が良ければ、(進行度・タイプにもよりますが)1年以上の生存も見込めます。比較的長生きできる要因(予後因子)として以下の三つがあげられています。

  • 臨床症状: 始めの診断で元気消失や嘔吐下痢といった臨床症状がない場合。
  • 進行度 : 初期(ステージ1〜2)の症例は長期生存できる可能性が高くなります。
  • 細胞タイプ:リンパ腫の細胞には、大きく分けてB細胞型とT細胞型があり、B細胞型のほうが長生きする可能性があります。

その他の予後因子には下記の通りです。

全身状態 治療開始前に元気消失・食欲不振・嘔吐下痢・貧血・肺炎などの症状がある患者は経過が悪い。
臨床ステージ ステージⅠ~ⅡはステージⅣ、Ⅴよりも治療反応が良い。
高カルシウム血症 高カルシウム血症を併発している場合には経過が悪い。
治療反応 最初の治療により、速やかにリンパ腫の消失した患者は予後が良い。
病型 多中心型は縦隔型よりも予後は良い。
性別 メスはオスよりも予後は良い。
体重 小型犬は大型犬よりも予後が良い。
細胞のタイプ B細胞型はT細胞型よりも予後が良い。
ステロイド投与歴 ステロイド剤の単独長期間投与は、がん細胞の化学療法剤(抗がん剤)に対する耐性を生じやすくさせるため、その後の治療反応率が低下する。

治療しなければどうなる?

「リンパ腫を治療するべきでしょうか?」と言う質問はよく受けます。初期で見つかったリンパ腫は自覚症状がほとんどありませんが、この病気は悪性腫瘍です。ほとんどの場合は、急速に進行して全身の臓器に障害を起こして死亡します。早めに診断を確定し、治療を開始することが重要です。

完治はする?

この病気を完治させることは犬では難しいとされています。数年単位で発病を抑えることはできても、いずれ再発するからです(人の医療では骨髄移植の技術で完治できる病気ですが、現段階では犬の骨髄移植は技術的に難しいとされています)。

ただし、治療をしなければ生存期間は10~99日とされています。化学療法が効けば1年以上生きる子も珍しくありません。これは大変な違いです。なぜなら寿命から考えると、動物にとっての1年は人の5年間に匹敵するからです。

犬のリンパ腫の予防法

最も確実な予防法は、犬の体をよく触ることです。リンパ腫は初期に発見すれば、長期生存が見込める病気です。飼い主さんが体表リンパ節の触り方を覚えてチェックすれば、直せる確率が高くなります。

犬のリンパ腫に良い食べ物・食事の注意点

現時点でリンパ腫に良い食べ物はわかっていません。ただし、既にリンパ腫にかかってしまった動物には、長期の治療に耐えるため、しっかり栄養補給をしてあげる必要があります。抗がん剤治療中は食欲が落ちるため、食事を保温したり、温かいチキンスープをかけたりすることで嗜好性を高める工夫が必要です。

犬のリンパ腫に効くサプリメント

リンパ腫を改善させるサプリメントはありませんが、「βグルカン製剤」(商品名D-フラクション・イムダインなど)は食欲増進効果や免疫増強効果を期待して、抗がん剤治療と併用されることがあります。

リンパ腫は早期発見・早期治療

リンパ腫にはさまざまなタイプがあることがお分かりいただけたでしょうか。まずは、初期の段階で見つける事が重要ですから、お家のワンちゃんのリンパ節を触る練習から始めましょう。もし腫れているリンパ節があれば、動物病院で検査をしていただく事をお勧めします。この病気が完治しないと聞いて、落胆される飼い主さんも多いのですが、現在の医療では治療によって多くの場合、正常な生活を送ることが可能になります。

治療の際、最も多い過ちは……

  • 副作用を気にして十分な治療をしない
  • 状態が悪い症例に強すぎる治療をする

この2点は矛盾しているようですが、副作用を気にしすぎては治る病気も治りません。また、プロトコールだけにとらわれず、症例の状態に合わせて治療する必要があります。後悔しないためにも獣医さんとよく相談をして、最適な治療を選択されるとよいでしょう。

<引用文献>

[1] Withrow & MacEwen’s Small Animal Clinical Oncology 4th ed., SJ Withrow, DM Vail, Eds., Saunders Elsevier, St Louis.

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