シニア猫(老猫)に多い病気や介護の注意点を獣医師が解説!食事やトイレから分かる老化のサイン
獣医療の発展や生活環境の改善により、猫の平均寿命は15歳まで延びました。しかし、それに伴って増えてきたのが、成人病や慢性疾患などの老齢性疾患です。何歳からを「シニア猫(老猫)」と考えるかは個体差もありますので断言できませんが、一般的には7歳齢以降をシニア期と呼んでいます。最近では11歳以上のスーパーシニアと呼ばれる世代も多くなりました。今回はシニア猫の日常の変化に気付くための老化のサインやシニア猫のケアのポイントをペットの往診・在宅ケア専門サービス「にくきゅう」代表で獣医師の立石が解説します。
シニア猫(老猫)の老化のサイン
猫の老化で見られる変化を5つ紹介します。1. 寝ている時間が多くなった
もともと夜行性である猫は昼間は寝ていることが多いため、寝ている時間が長くなっても老化と決めつけることはできません。
若い頃から飼育している子であれば過去と現在を比較することができるのでわかりやすいですね。「明らかに大人しくなった」「寝ている事が増えた」「遊びの誘いに乗ってこなくなった」などの活動性の低下と思われる変化は、老化のサインである可能性があります。
もともと壮年期(5歳頃まで)の性格が大人しかったり、年齢不詳で保護されたりした場合などは、元気だった時と比較して考えてみましょう。
2. 高いところに上らなくなった
1年前、半年前を振り返って、少しずつ出てきている活動性の低下は老化現象かもしれません。ただし、急な変化の場合は事故などでの外傷の疑いもあるので、早めに獣医さんで診てもらうべきでしょう。
老化によるものの場合の多くは、慢性関節炎など、徐々に痛みが出てくるものが多いのが特徴です。猫はジャンプの失敗を経験するたびに、だんだんとジャンプそのものをしなくなっていきます。
3. 毛づくろいをしなくなった
若い頃からもともとしない子の場合はわかりづらい変化ですが、日頃からキレイ好きでよく毛づくろいをしていた子の場合、毛艶が悪くなったり、お尻が汚れていたり、毛玉が増えたりするので外観が変わってきます。この多くは、病気や代謝異常による脱水から、唾液分泌量が減ることが関与しています。唾液が減ると毛を舐めた時に口にまとわりつきやすく、猫にとっては不快感となります。また、病気の進行により、毛づくろいする余裕が無くなることも原因です。
さらに、唾液分泌量が減ると口内炎なども悪化する事が多いため、痛みから口を使う行為は減ります。毛づくろいだけでなくドライフードを避けるようになったり、食欲そのものが低下したりすることも多くなります。
4. 食べる量は変わらないのに太る
人間も同じですが、歳を取ると代謝は落ちます。運動量も低下する事が多いため筋肉量が減り、食べる量が同じなら体脂肪は増えます。代わりに筋肉は付きにくくなっていくため、皮下脂肪や内臓脂肪で体形は丸くなります。若い頃から筋肉量がある子の場合、筋肉が減って脂肪が増え、体重そのものは変化しない事もあるので注意が必要です。肥満は血圧の上昇や内臓の血流不良を起こすため、心臓や腎臓などへの影響も起こります。
肥満猫の多くは糖尿病などの代謝疾患も起こしやすくなるため、健康被害が出る前に食生活を見直す必要があります。
5. 食べても痩せる
上記とは逆に、食べる量は変わらない、もしくは増えたのに体重が減っていくケースです。原因としては甲状腺機能亢進症や糖尿病の進行が考えられます。
食道粘液の低下から、勢いよく食べると喉につかえてしまい、食べたものを吐いてしまっている場合も考えなくてはいけません。
この場合は吐物や便の量を確認すればわかるのですが、外に出かける子や、排泄のみ外で行っている子などは気付きにくいかもしれません。
また、多頭飼育の場合、どの子がどれだけ食べているか把握することが難しくなるため、きちんと食べられているかチェックする必要があります。
シニア猫(老猫)のケア・介護
シニア猫のケアについて9つのポイントから解説します。1. シニア猫におすすめな食事
泌尿器疾患が多い猫にとって水分摂取は非常に重要ですが、運動量が減るシニア期は水を飲む回数も減りがち。いつもドライフードを食べているなら、ウェットフードに変えることで食事から水分摂取ができるようになります。
特に「愛猫に長生きしてほしい」と願う飼い主さんにはヒューマングレードの食材を使用し、余計な添加物も入っていない「フレッシュフード」がお薦めです。
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\One Point!/
猫が一番食欲をそそられる食事の温度は37~38℃です。お湯を加えたり、レンジで温めるなどして食欲を引き出してあげると食べてくれることが多いです。この時、必ずよく混ぜて自分の指で温度を確認してください。猫舌なので、熱すぎると逆効果になります。匂いだけ嗅ぎに来ても食べない場合、鼻先や上あごにフードの汁の部分を少し付けてみてください。匂いと味がわかると、警戒心の強い猫も食べ始めることがあります。
2. 食事環境
中腰の姿勢を維持する筋力が無いため、床に食器を直接置くと食べづらいかもしれません。少し高さのある食器や、5~7センチほどの台を設置して食器を置くなど、首を伸ばしたまま食べられる高さにしてあげましょう。神経質な子の場合、食器や環境を変えると近寄らなくなってしまうこともあるので、いきなりすべてをガラリと変化させるのではなく、少し高さを出して慣れさせてから食器を変更する、など、少しずつ環境を整えるようにしましょう。
3. トイレ
シニア猫でもトイレは最後まで自力で行く子がほとんどです。しかし、尿意を感じてからトイレにたどり着くまでによろけてしまったりすると、その場で出てしまうこともあります。脱水から便秘気味になり、いきむあまり吐いてしまったり、便に血が付くこともあります。
このような症状がひどい場合は、脱水に対する治療や便を柔らかくするお薬や整腸剤などの処方をしてもらうと改善することもありますので、獣医さんに相談してみるとよいでしょう。
腎不全や糖尿病などでは尿の量が多くなります。トイレは常に清潔に保つよう心掛けてください。猫用のトイレは砂の飛び散りを防ぐために、深さや高さがあるものが一般的です。
足腰が弱くなってきているようなら、この敷居が低いトイレに変更する事も検討したほうが良いかもしれません。この場合も、神経質な子は環境の変化が急激だと受け入れてくれない場合がありますので、試行錯誤が必要になります。
4. ブラッシング
前述の通り、毛づくろいがうまくできなくなった猫はブラッシングで汚れを取ってあげたり、冷ました蒸しタオルなどで身体を拭いてあげたりする必要があるかもしれません。ただし、日頃からこういったグルーミングを極端に嫌がる子に対しては、無理に行う必要はありません。健康上良くない場合は部分的に行い、決して無理に押さえつけたりしないでくださいね。シニア猫は皮膚が薄く避けやすくなっている事もあるので、ブラシやバリカンが当たっただけで皮膚が割けてしまう危険性もあるので注意が必要です。
5. シャンプー
基本的に必要ありません。猫は身体が濡れるのを嫌うため、ストレスになる可能性が高く、無理に洗う事のメリットがありません。しかし、下痢や嘔吐などで身体がひどく汚れてしまい、放置すると皮膚炎などが悪化する恐れがある場合は、部分的に濡らして清潔なタオルで汚れと水分を吸い取らせるようにして洗浄してあげることはできます。
このような部分洗いの場合、すすぎ残しによる皮膚炎を防ぐため、シャンプーは使わない方が安心です。どうしても汚れが落ちない時のみ、少量のシャンプーをスポンジなどであらかじめ泡立ててから狭い範囲で使い、周囲を含めてよくすすぐようにしましょう。
6. 歯磨き
シニア猫になってからいきなり始めるのはかなり無理があります。歯周病や口内炎など、痛みを感じるようになってからではおそらく不可能です。食事に振りかけるタイプや、飲水に加えるタイプの液状のサプリメント、ハミガキ用の口腔用ジェルなどを口に垂らすなど、その子が受け入れてくれる方法で継続することをお勧めします。
いずれも、麻酔下でのスケーリングのように1回でキレイになるものではありませんから、継続できる方法を選び、折れない心で臨むことが必要です。
まれなケースですが、中には歯磨きを受け入れてくれる子もいるので、チャレンジしてみる価値はあると思います。歯垢を落とし、歯周病を防ぐには歯磨きに勝る方法はないからです。しかし、続けられない方法では意味が無いので、嫌がる場合は上記のような歯磨き以外の方法を試してみましょう。
7. 爪切り
シニア猫は爪とぎがうまくできなくなることが多いです。理由としては、上記のような慢性の関節炎が影響しているといわれています。爪とぎの仕草をしていてもうまく研げていないことが多く、気が付いた時には爪が伸びすぎて肉球に刺さってしまっていた、というケースもよくあります。
足先を触られることを嫌がる子は多いのですが、できるだけ若いうちから家での爪切りを習慣化した方がよいと思います。
この時、いっぺんに全部の指の爪を切ろうと思わず、「嫌がったらまた明日」という風に、「1日1本でもいい」くらいの気持ちで行いましょう。前足の親指の切り忘れには注意してくださいね。
8. 睡眠
シニア期になると寝ている事が多くなりますが、睡眠の質は低下します。熟睡している時間は短く、寝ていても物音や人の動きで起きてしまうことが増えます。そのため、身体を休めるための睡眠時間を確保するために、できるだけゆっくりと過ごせるよう、周囲の環境に気を配ってあげましょう。聴力や行動力の低下から、目覚めて直ぐに体を動かすことも難しくなります。例えば、窓際で日向ぼっこをしているうちに日が高くなって暑くなり、室内でも熱中症の危険性が高くなったりもします。
逆に、日が陰って寒くなり、体温が低下してしまう恐れもあります。日頃寝ているお気に入りの場所も、時間帯によって危険性が高くならないかチェックし、日よけやクッションなど、体感温度の急激な変化が起こらないような配慮が必要かもしれません。
9. 介護
猫の場合、寝たきりになって介護を必要とするケースは犬に比べると多くはありません。ただし、腎不全など食欲が無くなってしまう病気などが多いため、食べさせること(強制給餌)が必要になるケースは多くあります。人肌程度に温めた流動食をスポイトなどで少量ずつ舌の上に乗せるようにして食べさせます。
この時、飲み込む仕草を必ず確認してから次のひとくちを入れるようにしてください。窒息や誤嚥(ごえん)を起こさないよう、注意して進める必要がありますので、獣医さんと相談しながら、実際のやり方をきちんと教わってから開始した方が安全です。
シニア猫(老猫)に多い病気
シニア猫に多い病気としては慢性腎疾患や糖尿病、慢性関節炎、甲状腺機能亢進症などがあげられます。慢性腎疾患・糖尿病
慢性腎疾患と糖尿病は、いずれも「多飲多尿」の症状が特徴的ですので、日頃から飲水量や排尿時の1回分の砂の塊の大きさを観察しておくことで、飼い主さんが異常に気付くことができます。早期に発見できることでその対策も立てやすく、症状の悪化を防ぐ効果がありますが、血液検査をする際には注意点がいくつかあります。まず、具合が悪くなってからの受診の場合を除き、健康診断として受診するのであれば8時間以上の絶食の状態で採血することをおすすめします。これは、腎臓機能の指標となる尿素窒素(BUN)、クレアチニン(CRE)や、糖尿病の指標となる血糖値が食後に高くなるため、食事後の数値では判断ができない場合が多いからです。
しかし、血糖値に関しては、ストレスを受けると急激に上昇するため、病院が苦手な猫ちゃんの場合、高めに出てしまうこともよくあります。
明らかな高血糖があれば別ですが、尿検査などと組み合わせて診断する必要がありますので、家で採尿が出来れば一緒に持参することをおススメします。
腎機能の指標である尿素窒素とクレアチニンは、基準値以上になった時はすでに腎機能の75%が失われています。近年ではより早期に腎機能の低下をキャッチできる検査項目として、SDMAという指標を測定できるようになりました。
慢性腎臓病は、治すことができないため、早期に発見してそれを維持することが治療のメインとなります。SDMAは腎機能が40%低下した時点での異常をとらえることができるため、シニア猫には追加検査としてぜひ確認しておくことをおススメします。
慢性関節炎
慢性関節炎の症状は、前述の通り運動機能の低下や活動量の低下から疑うことができます。レントゲン検査でも明らかな異常が認められないケースもありますが、関節の変形や炎症などが疑われる場合、症状に合わせて痛み止めやサプリメントなどが処方されることが多いと思います。いつもイライラしていたり、緊張していたりするのも、痛みのサインかもしれません。猫は痛みの症状を分かりやすく表現してくれないことが多いため日頃からよく観察し、「はっきりしない症状だけれど、何かおかしい気がする」という状況の時は、一度診察を受けた方が安心でしょう。
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症は、中年以降の猫に多く、特にオスに多いとされています。甲状腺とはのどの部分にあるとても小さい臓器で、ホルモンを分泌することで血流や代謝を調節しています。「食べるのに痩せてきた」「異常に食欲がある」「イライラすることが多くなった」「便がゆるくなった」などが主な症状ですが、当てはまらない事もあります。血液検査で甲状腺ホルモンを測定することで確定診断が可能です。
シニア猫(老猫)になってきたら定期健診と日頃のチェックが大切
愛猫に、気になるような症状や、当てはまる項目はありましたか?今はまだ気になるところが無かったとしても、定期的な健康診断は、病気の早期発見につながります。若いうちに絶食での採血で血液検査をしておくと、その子のデーターベースとして比較することができるので、1度も健診を受けた事が無い猫ちゃんは、ぜひ検討してみてください。
しかし、検査ですべての異常が検出できるわけではありません。いちばん大切なのは、我が子の状態や性格をよく知っている飼い主さんが、その異常に気付くことができるかどうかです。
大事な家族の一員である猫のために、日頃からの観察を欠かさないようにしてあげてくださいね。
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