犬の交配|方法から成功確率、料金、補助の仕方、個人繁殖のリスクなどを解説【獣医師監修】
愛犬の二世を望む場合、交配を行って新たな命を生み出すことになります。今回は健全な繁殖のために飼い主さんが理解しておくべき知識として、交配の方法や補助の仕方、交配がうまくいく確率や料金、個人繁殖のリスクを佐藤獣医師(目黒アニマルメディカルセンター/MAMeC)監修のもと解説します。
犬の交配を決める前に
犬は交配によって1回で5〜10匹を出産します。交配を希望する方は、産まれた子犬の生涯に責任が持てるかを考えなければいけません。あらかじめ生まれた子犬たちの新しい家族が決まったとしても、実際に迎えられるまで責任があります。万が一を考え、すべての子を育てる覚悟が必要です。
環境省の統計によると2019度に殺処分された犬の数は5635匹で、その内1051匹がまだ離乳もしていない幼齢犬です。生まれて間もない子犬が殺処分になるのは、予期せぬ妊娠やよく考えずに交配を行ったことが一因になっています。将来も見据えて家庭環境や経済状況を十分考慮し、さまざまな状況に対応できる十分な準備が必要です。
犬の繁殖は個人で行える?
個人所有のオスとメスが交尾(自然交配)をして子を増やすことは可能です。しかし事前のDNA検査や母体の健康管理、出産、産まれてきた子のケアなど正しい知識がないとできないことがたくさんあります。必ず獣医師や信頼できるブリーダーなど専門家に相談するようにしてください。ただし、ブリーダーに専門資格はなく、「動物取扱責任者」が常勤して「第一種動物取扱業」の登録をすれば専門的な知識がなくても開業できてしまいます。中には無登録で営業している場合もありますので、ブリーダーに相談する場合は信頼できる相手かどうかを確認するようにしてください。
個人で繁殖を行った場合も無登録でインターネットサイト、SNSなどを通じて販売した場合、無登録営業として動物愛護管理法違反(100万円以下の罰金)になります。対価はお金に限りませんので、何らかの謝礼(金品)を受け取った場合は無登録営業になる可能性があります。
交配・出産の注意点
交配・出産はさまざまなリスクを伴うため、普段より厳密な母体の健康管理が必要になります。発情中(ヒート・生理)はホルモンの変化により免疫力が低下しますし、精神状態や行動にも変化が現れます。遠吠えや夜泣きをしたり、攻撃的になって噛んだりすることもあります。飼い主さんが心に余裕を持って接してあげてください。出産の主なリスクとしては、新生児の死亡、児頭骨盤不均衡による帝王切開、大量出血、未熟児出産、奇形などが挙げられます。これらのリスクは母犬の高年齢(6歳〜)や太り過ぎ、やせ過ぎなどの体型、高血糖や高血圧などの基礎疾患によって高まる可能性があります。
出産の適正年齢は2回目の発情を迎えてから遅くとも6歳までで、小型犬だと18~72カ月、中型犬で20~66カ月、大型犬で26~60カ月が目安になります。
交配前のチェックポイント リスクを回避するため、交配を行う前に母体の健康診断と先天的な問題のチェックが必要です。健康診断では以下の項目を確認します。料金は5000~1万5000円ほどです。
- 血液検査(栄養状態・血糖値・肝機能など)
- ブルセラ症の検査(1回2000~3000円)
- 触診(膝蓋骨脱臼・泉門異常など犬種ごとの先天性疾患の有無)
- 検便(内部寄生虫の有無、1回1000~4000円)
- メスの場合:子宮や産道の異常
- オスの場合:停留睾丸の有無
さらに遺伝性疾患のリスクを知るためDNA検査をしておく必要があります。現在わかっている範囲でも遺伝性と考えられる犬の疾患や形質は499の症例があります。この内、約50症例はDNA検査が可能です。料金は1回5000~1万8000円が一般的です。
犬種特性によって特に重要とされる症例については、交配前に検査をすることで産まれてくる子のリスクを知ることができます。遺伝適性は生まれてくる子犬の生涯に責任を持つ上でとても重要です。遺伝適性に疑問がある場合は交配を進めるべきではありません。
交配犬の探し方、募集方法
交配を行うには相手を探して発情のタイミングを合わせる必要があります。発情(ヒート・生理)が来る前に探しておくといいでしょう。探し方としてブリーダーに相談するかインターネットなどで募集する方法があります。プロに依頼する場合は原則としてメスの飼い主さんがブリーダーのオスに交配を依頼するのが一般的です。
生まれてくる子犬は母親と父親の遺伝的影響を受けることになりますので、交配相手は見た目だけでなく遺伝適性についてもチェックする必要があります。ブリーダーの所有犬だからといって、必ずしも遺伝的に望ましいとは限りません。管理をしっかり行っていることが確認できない場合は見送るべきかもしれません
犬の交配料金
交配をショップやブリーダーに依頼する場合、交配犬所有者に支払う交配料は5〜10万円ほどが一般的です。交配料は着床しない場合や死産となった場合でも支払う必要があります。ただし多くの場合、着床しなかったときは次回の発情(ヒート・生理)の際に無料または低価格でリトライできることが多いようです。
血統証明書登録をする場合は交配証明書(一胎子登録証明書)が必要で、オスの所有者が交配証明書を交付します。日本ではJKC(ジャパンケネルクラブ)の血統証明書がスタンダードですが、他の団体の血統証明書である場合、子犬の血統証明書が発行されないことがあるため、あらかじめ確認しておく必要があります。
血統証明書は生まれた子犬の犬籍を登録できる制度です。血統証明書により純粋犬種であることや両親からさかのぼって3代祖の先祖犬が記録されます。産まれてくる子犬とその子孫の将来のため、血統証明書の登録をお勧めします。発行団体は多数ありますが、JKCの証明書は国際公認血統証明書として海外でも通用します。
産まれた子犬を登録する際に入会金2000円、年会費4000円(1年目)、犬舎名登録6600円、母犬の名義変更3400円、一胎子登録2200円(子犬1匹ずつ)が必要となります。それぞれ現在の料金は発行団体にお問い合わせください。
犬の交配の方法
出産適正年齢になって交配を実施するタイミングは、発情(ヒート・生理)が始まってから10日前後が目安です。通常は6~8カ月周期で発情が来ますので、タイミングを逃さないように観察する必要があります。わかりやすい変化は陰部からの出血です。
発情に気付いたら、動物病院や依頼するブリーダーに連絡を取って膣スメア検査の時期について相談してください。成功確率を上げるには、排卵日を予測してタイミングよく交配することが最も重要です。膣スメア検査をしたり陰部の状態などを観察したりして、排卵日を探りながらおおむね2~3回行います。
膣スメア検査
発情(ヒート・生理)が見られた10日前後が交配適期(排卵)となるため、交配開始を決めるために膣スメア検査の実施をお勧めします。膣スメア検査では、滅菌綿棒を利用して膣の粘膜上皮細胞を採取し、その細胞を染色して顕微鏡で観察します。
細胞は通常、核のある細胞(有核細胞)が多いのですが、交配適期(排卵)になるにつれて核のない細胞(無核細胞)が増えてきます。そのタイミングなら必ず妊娠できるというわけではありませんが、可能性を高めることができますので行う価値はあります。
交配の方法は、大きく分けて以下の三つがあります。
1. 自然交配
文字通り、自然界で行われる通常の交配方法です。自然交配は相性やオスのコンディションによってうまくいかないケースがあります。メス側にストレスが生じることもあります。
2. 人工交配 人工交配ではオスの精子を採取し、シリンジやカテーテルによって膣内に精子を注入します。交配の際に生体間の接触がないため感染症リスクが少ない方法です。交配によるストレスもほとんどありません。
3. 人工授精
レアケースですが、卵子に精子を注入する交配方法です。JKC(ジャパンケネルクラブ)は2008年から輸入凍結・低温精液による人工授精で産まれた子犬の血統登録を認めるようになりました。国内犬も2013年からブルドッグ、フレンチブルドッグに限った運用が始まりました。
着床の確認
妊娠から63日が出産予定日となります。最初の交配日を基準に計算して45日目くらいから腹部のハリ、乳首の肥大が見られれば着床の可能性が高くなります。見た目でわかりにくい場合はエコー検査やレントゲン検査で確認します。
不妊の要因
犬も体質や体調が原因となって妊娠しにくい場合があります。体質が原因の場合は妊娠が難しくなりますが、体調が原因であれば問題の改善で妊娠しやすくなります。体調で考えられる要因としては「栄養不良」「体型(太りすぎや痩せすぎ)」「ストレス」などが挙げられます。
太りすぎや痩せすぎは着床率が低下するだけでなく、出産の妨げとなることもあります。日頃から標準的な体型を維持するようにしてください。そのほか、ブルセラ症やトキソプラズマ症などの感染症によって不妊となることがあります。発情(ヒート・生理)の際は、他の犬と接触しないよう外出を避けましょう。
犬の交配から出産までのケア
妊娠は交配から30日前後に超音波検査で確認でき、見た目的にも40日ほどでわかるようになります。妊娠していれば胎児が成長していくことになりますから、母体と胎児に必要な栄養を摂らせなくてはいけません。
タンパク質や脂質を多く含み、カルシウムや葉酸など妊娠に必要なミネラルやビタミンが含まれたフードを与えることが必要です。与える量も、以下の通り妊娠の過程で大きく変化します。ただし、着床数によって栄養過剰で過大胎児にならないよう、妊娠後期から体重推移を見てコントロールする必要があります。
- 妊娠1週から4週まで:110%
- 妊娠5週から6週まで:140%
- 妊娠期後期:190%
- 授乳期:220%
生活上の留意点
発情中(ヒート・生理)はホルモンの変化により免疫が低下します。感染症を避けるため他の犬との接触やトリミングは妊娠の安定期入るまで控えてください。
交配から3週目までの妊娠初期は、受精卵が子宮に着床をするかどうかの大切な時期です。流産しやすい不安定な期間となりますので、激しい運動やストレスを避けるようにしてください。冷えも良くありませんので、室温は26~27度程度に調整してください。
出産の手助け
初日の交配から55日目にレントゲン検査をして胎児の数、大きさを確認します。数を知っておくことで、出産の終了がわかります。大きさは、頭がい骨の大きさと骨盤の幅を比較することで正常な自然分娩ができるかがわかります。犬種や母体の体格なども考慮します。
犬の出産は正常な場合でも人の手による補助が必要です。出産にはさまざまなトラブルの可能性があるため、目を離さず異常事態に備えなければいけません。母体や胎児に危険がある場合は直ちに帝王切開を行いますので、獣医師のサポートが必要です。
子犬のケア
産まれてから14日程度たつまでは、とてもナイーブです。「体重の推移」「排便や排尿の状況」「室温管理」「移行抗体や免疫の管理」など、厳密に行われていないと死亡するリスクが高まります。特に生後7日までは排便、排尿をさせた後の体重推移を3時間単位でモニターしてください。
まとめ
交配は子犬の将来を考えて決める 遺伝適性を必ずチェックする 妊娠はタイミングが重要 出産後は母犬と子犬をケアする 愛犬の二世が誕生することはとても素晴らしいことですが、それだけ責任を持つ命が増えるということでもあります。必ず将来まで幸せにする覚悟をしてから交配を行なうようにしてください。正しい知識で適切に行えるよう、必ず獣医師や信頼できるブリーダーなど専門家に相談することをお勧めします。
3. 人工授精
レアケースですが、卵子に精子を注入する交配方法です。JKC(ジャパンケネルクラブ)は2008年から輸入凍結・低温精液による人工授精で産まれた子犬の血統登録を認めるようになりました。国内犬も2013年からブルドッグ、フレンチブルドッグに限った運用が始まりました。着床の確認
妊娠から63日が出産予定日となります。最初の交配日を基準に計算して45日目くらいから腹部のハリ、乳首の肥大が見られれば着床の可能性が高くなります。見た目でわかりにくい場合はエコー検査やレントゲン検査で確認します。不妊の要因
犬も体質や体調が原因となって妊娠しにくい場合があります。体質が原因の場合は妊娠が難しくなりますが、体調が原因であれば問題の改善で妊娠しやすくなります。体調で考えられる要因としては「栄養不良」「体型(太りすぎや痩せすぎ)」「ストレス」などが挙げられます。太りすぎや痩せすぎは着床率が低下するだけでなく、出産の妨げとなることもあります。日頃から標準的な体型を維持するようにしてください。そのほか、ブルセラ症やトキソプラズマ症などの感染症によって不妊となることがあります。発情(ヒート・生理)の際は、他の犬と接触しないよう外出を避けましょう。
犬の交配から出産までのケア
妊娠は交配から30日前後に超音波検査で確認でき、見た目的にも40日ほどでわかるようになります。妊娠していれば胎児が成長していくことになりますから、母体と胎児に必要な栄養を摂らせなくてはいけません。
タンパク質や脂質を多く含み、カルシウムや葉酸など妊娠に必要なミネラルやビタミンが含まれたフードを与えることが必要です。与える量も、以下の通り妊娠の過程で大きく変化します。ただし、着床数によって栄養過剰で過大胎児にならないよう、妊娠後期から体重推移を見てコントロールする必要があります。
- 妊娠1週から4週まで:110%
- 妊娠5週から6週まで:140%
- 妊娠期後期:190%
- 授乳期:220%
生活上の留意点
発情中(ヒート・生理)はホルモンの変化により免疫が低下します。感染症を避けるため他の犬との接触やトリミングは妊娠の安定期入るまで控えてください。交配から3週目までの妊娠初期は、受精卵が子宮に着床をするかどうかの大切な時期です。流産しやすい不安定な期間となりますので、激しい運動やストレスを避けるようにしてください。冷えも良くありませんので、室温は26~27度程度に調整してください。
出産の手助け
初日の交配から55日目にレントゲン検査をして胎児の数、大きさを確認します。数を知っておくことで、出産の終了がわかります。大きさは、頭がい骨の大きさと骨盤の幅を比較することで正常な自然分娩ができるかがわかります。犬種や母体の体格なども考慮します。犬の出産は正常な場合でも人の手による補助が必要です。出産にはさまざまなトラブルの可能性があるため、目を離さず異常事態に備えなければいけません。母体や胎児に危険がある場合は直ちに帝王切開を行いますので、獣医師のサポートが必要です。
子犬のケア
産まれてから14日程度たつまでは、とてもナイーブです。「体重の推移」「排便や排尿の状況」「室温管理」「移行抗体や免疫の管理」など、厳密に行われていないと死亡するリスクが高まります。特に生後7日までは排便、排尿をさせた後の体重推移を3時間単位でモニターしてください。まとめ
交配は子犬の将来を考えて決める
遺伝適性を必ずチェックする
妊娠はタイミングが重要
出産後は母犬と子犬をケアする