猫の尿の回数・量が多い場合に考えられる原因などを獣医師が解説
猫は、腎臓病や膀胱炎など泌尿器の病気が多い動物です。それらの病気に早く気づくためには、家で尿の様子(色、量、回数など)を観察することが重要となります。今回は、猫の尿の異常の中でよくみられる「頻尿」と「多尿」の見分け方、それぞれの症状から考えられる病気などについて、平井動物病院院長の米山が解説します。
猫の排尿回数と尿量
猫の排尿回数は「1日2〜3回」、尿量は「体重1kgあたり1日22〜30ml」が目安とされています。ただし、この範囲から外れていたら必ず異常であるというわけではありません。個体差がありますし、食事内容(ドライかウェットか)などによっても変わってきます。
尿量の測り方
猫砂を使っている場合は、尿量を正確に測ることは難しいと思われます。尿によって固まった部分の大きさを観察し、普段と比べて(多頭飼いの場合は他の猫とも比べて)大きいか小さいか、などで判断していただくといいでしょう。また、尿量が多い場合には同時に飲水量も多くなりますので、それも参考にしていただくといいでしょう。
猫の尿が多いという症状について
猫の尿が多いと感じた場合には、「排尿回数が多い」「尿量が多い」という2つの症状を見分けることが重要です。前者は「頻尿」、後者は「多尿」と呼ばれ、原因となる病気が異なります。
ただし、尿量が多くなると排尿回数も相応に多くなります。排尿回数だけを見ていると、頻尿と多尿のどちらが主症状なのかがわかりにくいです。見分けるコツとしては、排尿回数および1回の尿量を観察していただくといいでしょう。
「頻繁に排尿しているけど1回の量は少ししか出ない(またはまったく出ない)」という場合は頻尿が主症状であり、「やや頻繁に排尿し、毎回それなりの量が出て、トータルの尿量が多い」という場合は多尿が主症状ということになります。
トイレによく行くけど何も出ないという症状について
「トイレによく行くけど何も出ない」という症状の場合に、便の問題だと思い込んでいる方がいらっしゃいますが、実際には尿の問題であることのほうが多いです。
普段から便秘気味な場合は別ですが、急に便秘になることはあまりありません。また、毎日排便するとは限りませんし、数日間出なかったとしてもどうということはありません。
一方で尿に関しては、2日間出ないだけですぐに命に関わります。便と尿では緊急性が全く異なりますので、よくわからない場合は尿が出ていないほうの可能性を考えて早急に対応していただいたほうがいいでしょう。
猫の頻尿とは
「1日何回以上排尿していたら頻尿」といったような明確な定義はありません。排尿回数が多く、かつ1回量が少ないと感じた場合は頻尿であると判断していただいていいでしょう。家にいる時間が短い方は気づきにくいと思いますので、日頃からトイレの様子を気にかけておくようにしてください。
猫の頻尿の分類
猫が頻尿になっている場合は、以下の2通りの状況が考えられます。- 膀胱炎や結石によって残尿感・尿意切迫感が生じ、尿が溜まっていなくても頻繁に出そうとしている
- 膀胱炎や結石によって尿道閉塞が生じ、尿が出にくいため頻繁に出そうとしている
尿道が閉塞している場合と閉塞していない場合に分けられますが、原因となる病気は基本的には同じです。膀胱炎が悪化したり結石が尿道に移動したりすると、尿道が閉塞する結果となります。
雄猫の尿道閉塞について
雌猫は尿道が太いため閉塞は生じにくいです。一方で、雄猫は尿道が細いため閉塞が生じやすいです。雄猫においては、結石が存在しなくても、栓子(膀胱炎による炎症産物やストルバイト結晶などが固まったもの)によって容易に尿道が閉塞してしまいます。尿道閉塞の有無を家で見分けるのは意外に難しいです。頻尿になっている場合は閉塞がなくても少量ずつしか出ないですし、逆に少量出ていたとしても閉塞している可能性はあります。
膀胱を触診すればわかりますが、これは慣れないと難しく、また無理に圧迫すると膀胱が破裂するおそれがあります。家で判断しようとはせず、動物病院を受診されたほうがいいでしょう。
尿道が閉塞すると尿毒症になり、3日ぐらいで亡くなってしまいます。実際には、症状が出ている時点ですでに時間が経過していますので、気づいてからの猶予はさらに短いと思っていただいたほうがいいでしょう。
尿毒症になると、急に元気がなくなったり吐いたりするようになり、次第に動かなくなってきます。この状態になるといつ亡くなってもおかしくありませんし、治療においても入院が必須となります。尿毒症になる前の段階で治療を開始することが望ましいです。
尿道閉塞の治療としては、カテーテルによる閉塞解除、点滴などを行います。それに加えて、原因となっている各々の病気の治療(食事療法、抗菌薬投与など)を行います。
「尿が出ていなさそうだけど元気はあるから様子を見てみよう」と考えたくなるのはよくわかるのですが、様子を見ていると1〜2日で急変して亡くなってしまうかもしれません。これは大袈裟な話ではなく、よくあることです。雄猫を飼われている方はぜひ頭に入れておいていただき、「雄猫が頻尿になったらすぐに(夜間であっても)動物病院を受診する」という対応をしていただければ幸いです。
猫の頻尿の原因となる病気
猫の頻尿(残尿感や尿道閉塞)を引き起こす主な病気として、「膀胱・尿道結石」「細菌性膀胱炎」「特発性膀胱炎」などが挙げられます。
膀胱・尿道結石
結石(主にストルバイトまたはシュウ酸カルシウム)によって頻尿や血尿が生じます。尿道の結石は閉塞を引き起こす可能性があるため要注意です。治療としては、療法食による溶解または手術による摘出を行います(シュウ酸カルシウム結石は溶解させることはできません)。細菌性膀胱炎
細菌感染による膀胱炎です。猫の膀胱炎の大半は後述する特発性膀胱炎なのですが、高齢猫に限っては細菌性膀胱炎がよくみられます(若齢猫でもたまにみられます)。治療としては、抗菌薬の投与を行います。特発性膀胱炎
猫で非常によくみられる無菌性の膀胱炎です。発症原因は解明されていませんが「ストレス」「気温の低下」「肥満」「運動不足」「水分摂取不足」などが関与しているといわれています。治療としては「ストレスの軽減」「水分摂取の増量」「療法食の給餌」などを行います。無治療でも一旦は自然治癒する例が多いですが、再発を繰り返す例も多いです。上記のような治療を継続的に行って再発を予防していくことが望ましいです。
特発性膀胱炎の治療で抗菌薬を使用する病院が多いですが、無菌性なので効果はありません。抗菌薬で治ったと感じるのは自然治癒しているだけと考えていただいていいでしょう。
雄猫において尿中のストルバイト結晶が多い場合は、膀胱炎に伴う尿道閉塞が生じるリスクが高くなります。そのような猫に対しては、ストルバイト予防の療法食を与えたほうがいいでしょう。
療法食はネットで購入することも可能ですが、その場合は自己責任となりますのでご注意ください。「療法食をいつまで続ければいいか」「他の病気を併発した場合はどうすればいいか」など、飼い主さんには判断できないと思います。
動物病院で購入した療法食であれば獣医師が責任を持ちますので、動物病院での購入をおすすめします。
猫の多飲多尿とは
猫が多尿になっている場合は、同時に多飲にもなっています。「多飲が先の場合(水をたくさん飲んだ結果として尿量が増加する)」「多尿が先の場合(尿量増加に伴う水分喪失を補うために水をたくさん飲む)」の両方の可能性が考えられます。
病気でなくても水をたくさん飲めば尿量は増加しますので、1日だけではなく継続して症状がみられる場合に病気の可能性を考えていただくといいでしょう。
一般的な定義としては、多飲は「体重1kgあたり1日100ml以上の飲水量」、多尿は「体重1kgあたり1日50ml以上の尿量」とされています。ただし、これは「疑いなく確実に多いと言える量」ですので、これ以下であれば正常というわけではありません。例えば、飲水量が体重1kgあたり1日80mlだったとしても、おそらく「多飲」と言える状態であると考えられます。
多飲多尿は慢性疾患によって生じることが多いため、急激な症状がみられず気づかれにくい傾向があります。どちらかというと、尿量よりは飲水量の変化のほうが気づきやすいでしょう。「水を飲む時間が長くなっている」「水の減りが早くなっている」などの場合は多飲多尿になっている可能性が高いです。
「多飲多尿は病気の疑いがある」という認識が昔よりは浸透してきている印象がありますが、気づいていても受診されない方は多いです。早めに治療を開始することが重要となりますので、多飲多尿に気づいたら、元気や食欲があったとしても早めに動物病院を受診するようにしてください。
猫の多飲多尿の原因となる病気
猫の多飲多尿の主な原因として、「慢性腎臓病」「糖尿病」「甲状腺機能亢進症」などが挙げられます。
慢性腎臓病
慢性腎臓病になると、腎機能が低下して薄い尿がたくさん出るようになります。高齢の猫においてよくみられますが、若齢の猫でも発症することはあります。また、一般的な慢性腎臓病ではなく腎結石、尿管結石、腎炎、嚢胞腎、腎腫瘍などによって腎機能が低下する場合もあります。血液検査、尿検査、超音波検査などを行って正確に診断することが重要です。一般的な慢性腎臓病の治療としては、療法食、内服薬、輸液などを病期に応じて行います。
糖尿病
糖尿病は、インスリンの効きが悪くなることによって高血糖になる病気です。糖尿病になると尿の浸透圧が上昇し、結果として多尿となります。他の症状としては、食欲亢進や体重減少などがみられます。糖尿病の治療が遅れると、ケトアシドーシスという重篤な状態に進行して亡くなってしまいます。実際には、この状態になってから初めて来院される例も多く、初期治療が非常に大変なものとなります。なかなか難しいかもしれませんが、多飲多尿や体重減少に気づいたら、元気なうちに動物病院を受診してください。救命できる可能性が高くなりますし、治療費も大幅に安くなります。
糖尿病の治療は、インスリン注射が主体となります。ケトアシドーシスの状態になっている場合は、インスリン注射に加えて輸液による集中治療を行います。猫の糖尿病は、初期に適切な治療を行うとその後のインスリン注射が必要なくなる場合もあります。そのような観点からも、早めの動物病院受診をお勧めします。
甲状腺機能亢進症
高齢猫において、甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンの過剰分泌によって全身の状態が悪化する病気)による多飲多尿がみられる場合があります。ただし、一般的には他の症状(食欲や活動性の亢進、体重減少など)がみられることのほうが多いです。高齢猫が痩せてきた場合は、元気や食欲のあるなしに関わらず、早めに動物病院を受診していただくといいでしょう。甲状腺機能亢進症の治療としては、内服薬、療法食、手術のいずれかを選択して行います。