猫の腎不全(腎臓病)の症状や治療・食事について腎・泌尿器科専門獣医が解説

猫の腎不全(腎臓病)の症状や治療・食事について腎・泌尿器科専門獣医が解説

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腎不全という言葉は、本当は病名ではなく、腎臓の機能が大きく低下し、体内に毒素が貯留し、尿毒症という症状(食べない、吐く、重度だと昏睡、けいれんなど)を示す状態を表す用語です。さまざまな腎臓の病気がありますが、遅かれ早かれいずれの病気も最終的に腎不全という「状態」に至ります。今回は猫の腎不全(腎臓病)について日本獣医生命科学大学 臨床獣医学部門 治療学分野I・講師で獣医師の宮川が解説します。

猫の腎臓の役割

腎臓の仕組み

腎臓は左右1つずつある豆状の臓器です。腎臓はネフロンという構造がたくさん集まってできています。ネフロンは糸球体と尿細管から成ります。糸球体は血管のかたまりで、コーヒーフィルターのように血液をこします。

こされた血液(原尿)は尿細管の中を通っていく間に、体に必要な栄養素やミネラル、水分を回収します。最終的に、不要な老廃物とそれを捨てるのに必要な最小限の水分を尿として排出し、尿管を通って膀胱にいきます。

老廃物を尿として捨てるという役割以外にも、腎臓は体内の水分量を調節しています。たくさん水分を摂ってしまった場合には、尿の水分量を増やし、水分を摂取できず、体に水分が足りない状況では、尿の水分量を減らします。

とりわけ、猫の腎臓はこの能力が高く、非常に尿を濃くすることができます。尿が濃くできるということは、あまり水を飲まなくてもいいということにつながります。他にも血圧、体内のミネラルや血液の酸性度の調節、血液の産生などの役割を持ちます。

腎不全になりやすい猫種・年齢

ソファの上の猫

急性腎不全の発生には猫種、年齢で差はありません。慢性腎不全(正確には、慢性腎臓病という病名)は、特定の猫種で多いということはありませんが、高齢の猫で多く診断されます(10歳以上で15%以上、15歳以上では80%が慢性腎臓病という報告があります)。

慢性腎臓病は猫では犬よりもはるかに多く発生しますが、その理由やそもそもその原因がよくわかっていません。その理由は腎不全という症状を示すころには、もともとあった原因が何だったかわからなくなるほど、腎臓が壊れてしまっているからと考えられます。


猫の腎不全の種類

外猫3匹

腎不全は、急激に生じる「急性腎不全」とじわじわ悪化して腎不全に至る「慢性腎不全」に分けられます。急性腎不全は治る可能性がありますが、慢性腎不全は治ることはなく、「病気の進行を遅らせる」「症状を緩和する」といった治療になります。

急性腎不全は予防することは難しく、腎不全を発見したら、速やかに適切な対処を行う必要があります。慢性腎不全の場合には、腎不全に至る前に、病気のより早期の段階で見つけ、進行を遅らせることが重要になります。

猫の急性腎不全

猫の横顔

急性腎不全は、突発的に発症する病気です。原因はいくつかありますが、一番多い原因は腎臓に毒性を持つ薬剤や食品、植物を摂取してしまうことです(腎毒性物質といいます)。よくあることは、人間用の風邪薬を誤って食べてしまったり、ユリ科の植物の摂取してしまったりすることです。

他には、感染症(細菌性膀胱炎から発症する腎盂腎炎)や尿管・尿道閉塞といった病気によっても発症します。毒性のあるものを食べてしまった場合には、処置が早ければ早いほど発症を抑える、あるいは軽くすることができるので、すぐに病院にいくべきです。

尿管閉塞(尿管に石が詰まってしまうことで発症することが多い)は猫で、特に純血種(アメリカンショートヘアスコティッシュフォールド)で多い傾向のある疾患です。

この病気の最大の問題点は、2つある腎臓~尿管のどちらか一方だけが閉塞した場合には、症状として明確に現れず(鈍痛や違和感があるのかもしれませんが、我々にはほとんど気づくことができません)、その間に閉塞した側の腎臓が破壊されてしまうことです。

片方が大きく壊され、もう片方に尿管閉塞が発生したときになって初めて、明らかな症状(尿毒症症状、つまり食べない・元気ない・吐いてしまうなど)を示します。このときには、もうすでにもう片方の腎臓は機能のほとんどを失い、詰まりを解除しても、慢性腎臓病になってしまっています。


猫の急性腎不全の診断

診断は血液検査で腎臓の機能を反映する指標である尿素窒素(BUN:blood urea nitrogen)やクレアチニン(Cre:Creatinine)が著しく上昇していることを中心に、尿検査や画像検査で診断されます。尿路の閉塞が原因であることをはっきりさせるためには画像検査を必ず受ける必要があります。

猫の急性腎不全の治療

急性腎不全では、迅速な処置が何より重要です。ただし、死亡率が非常に高い病気であり、必ず治るわけではありません。処置が遅れれば、救命率は低下します。

毒性のあるものを食べてしまった場合には、「食べたばかりであれば吐かせる」「血管から点滴を行い少しでも薄める」「排泄を早める」といったことをします。尿管・尿道閉塞ではとにかく閉塞を解除する処置が必要です。状況によっては外科手術を必要とします。

どんな原因でも急性腎不全では、血管から点滴をしっかり行うことが必要です。急性腎不全の猫の多くは脱水しています。水分が足りなくなれば、腎臓に巡る血液も不足し、傷ついている腎臓の細胞をさらに破壊してしまい、腎不全を悪化させてしまいます。

そのため、迅速に点滴を行い、脱水を改善させる必要があり、通院で皮下点滴……では十分な処置ができず、悪化してしまうこともあります。

また、急性腎不全では腎臓が尿を作ることがまったくできなくなることがあります(乏尿や無尿といいます)。この場合には、過剰な点滴はむしろむくみや肺に水がたまるなどの問題を引き起こします。

点滴は脱水した分だけ入れ、それ以上の過剰な点滴は避けなければなりません。乏尿・無尿の場合には、血液透析(人工透析ともいいます)を行わなければ助からないことが多いです。


猫の急性腎不全の予後

急性腎不全は死亡率が高い病気です。特に、腎毒性物質が原因で急性腎不全になってしまった場合、そして乏尿・無尿の場合には救命率は著しく下がります(血液透析を受けたとしても救命率は20〜40%といわれています)。

そのため、腎毒性物質を摂取しないようにするといった予防策を取ることが最も重要ですし、急性腎不全になってしまった場合には迅速に病院で処置を受ける必要があります。


猫の慢性腎臓病とは

見上げる猫

ここでは、慢性腎不全ではなく、病名である「慢性腎臓病」として記述していきます。猫の慢性腎臓病の明確な原因は不明です。

世界各国で猫の死因の上位3位には必ず入りますが、猫の慢性腎臓病がなぜこんなに多いのか、原因は何なのかを明らかにした報告はありません。犬や人間と同様に、その原因は非常にさまざまであり、ただ1つの理由に帰することはできないと思います。

犬では、腎臓の糸球体という器官が炎症を起こして発症する、「糸球体疾患」が比較的多いとされていますが、猫ではそのような病気は少ないです。原因がわからない理由の多くは、「病院で診断されるころには、すでに腎臓が大きく破壊されていて、原因が何だったかわからなくなってしまっている」ということです。

多くの猫の飼い主は、飼い猫に症状(痩せてきた、おしっこが多い、食べない吐いてしまうなど)が現れてから、病院に連れてきます。症状が出るほど悪くなってからでは、原因が何だったかが明らかになることは少ないです。

筆者の動物病院では、慢性腎臓病の猫で判明した原因の40~60%が尿管結石(腎臓でできた小さな石が尿管に転がっていく)が詰まることで腎臓を壊してしまう「閉塞性腎症」、そこそこ大きな腎結石(腎臓にできる結石)が長期間居座ることで腎臓を壊してしまうケース、細菌感染症により腎臓が破壊される「腎盂腎炎(じんうじんえん)」です。

他には、猫に多い心筋症に合併するケースや遺伝性の病気である「多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)」であることもあります。早ければ早いほど、原因がはっきりすることが多いので、定期的な検診(血液検査や尿検査だけでなく、画像検査や血圧測定も)を受け、症状が出るよりも早く見つけることが重要となります。


猫の慢性腎臓病の症状

腎不全まで至ってしまうと「食べない」「吐いてしまう」「痩せてくる」といった症状が出ます(急性腎不全よりも軽度なことが多いです)。腎不全に至る前の、より早期の腎臓病では、症状はほとんどありません。

腎臓の機能が1/3程度まで低下して初めて、尿が薄く、多くなり、飲水量が増えるといった症状が出てきます。猫では、もともとかなり濃くすることができるせいか、尿が薄くならないことも少なくありません。


猫の慢性腎臓病の診断

診断には主に以下の3つを組み合わせた手法がとられます。

  • 血液検査
  • 尿検査
  • 画像検査

血液検査

血液検査では、腎臓の機能を調べますが、腎臓の機能が1/3~1/4まで低下しないと検査値に異常は出てきません。最近では、新しい腎機能の指標(SDMA)がでてきていますが、これらの新規のマーカーでも発見できるのは、腎臓の機能が1/3~1/4まで低下してからです。現時点で、犬や猫の医療では「半分くらいの腎機能の低下」を発見する方法はありません。

尿検査

尿検査では、尿の濃さやたんぱく尿の有無を調べます。尿が薄くなるのは腎臓の機能が1/3程度まで低下してからです。たんぱく尿はすべての腎臓病で認められるわけではなく、基本的には糸球体疾患でのみです。

猫では糸球体疾患は少ないので、早期からたんぱく尿が認められることは少ないです。ただし猫では、病気が進行すると、たんぱく尿が認められることがあり、これは予後が悪い(寿命が短い)ことを示しています。

画像検査

画像検査は腎臓の構造的な異常を検出します。正常な腎臓は表面がつるっとした豆型を示しますが、慢性腎不全では表面がボコボコし、変形していきます。猫の慢性腎臓病の一部では、「尿管閉塞」「腎結石」「腎梗塞症(腎臓の血管がつまって、一部が壊死していまうこと)」などが慢性腎臓病の発症と関連することが多いため、定期的な検診が必要です。


猫の慢性腎臓病の治療

腎臓病のステージ

慢性的な腎臓病では、基本的に腎臓の機能が進行的に低下していきます。これを完全に止めることは難しいです。ただし、たんぱく尿、高血圧、血液中のリンやカルシウムが高くなる合併症、脱水といったことがあると腎臓病の進行は早くなります。逆に言えば、これらがなければ進行は遅いことが多いです。

もちろん、腎臓病の原因によって、あるいはその他の合併症(感染症など)があれば進行が早まることもあります。腎臓病の治療の根幹はその病気の進行を遅らせることにあります。原因を除去し(可能であればですが)、たんぱく尿、高血圧、血液中のリンやカルシウムが高くなる合併症、脱水といった進行要因を抑えることが治療になります。

必要に応じて、高血圧に対しては降圧剤の投与(テルミサルタンやアムロジピンなど)、リンを下げる治療(腎臓病用療法食、リン吸着薬)を行います。尿が薄く、多尿状態になっている場合には、脱水を起こさないために、十分な水分摂取が必要です。

こまめな給水、ウェットフードの使用やドライフードをふやかすことが効果的です。猫では、口から水を摂るよりも、ご飯から水分を摂取するほうが得意です。普段からウェットフードを食べさせてあげることが水分管理には重要です。特に慢性腎臓病の原因の一つである尿路結石症では、療法食をあげることよりも、水分摂取が発症・再発防止に重要です。

慢性腎不全の状態に至ってしまうと、別な治療が必要になります。食欲の改善(食欲増進剤)、嘔吐の治療(制吐剤)、体内に蓄積する老廃物(尿毒素)の軽減(炭素系吸着剤)といったことに加え、合併症として貧血が生じた場合には造血ホルモン(エリスロポエチン)および鉄剤の投与を必要とします。食欲がないと脱水しやすくなり、脱水してしまうと腎臓にめぐる血液が少なくなり、腎臓の機能がさらに低下します。

そのため、すぐに食欲を十分に回復させられない場合には、水分補給の補助として点滴(皮下または血管内)を必要とします。皮下への点滴(皮下補液)で使用する点滴剤は血管内のミネラルと同等にした液体を使用する必要があります。この溶液は投与しても細胞の中には入らず、本当の意味での脱水を治すことにはなりません。皮下点滴だけを延々と続けてしまうことも多いですが、食べられるのであれば不必要です。

逆にほとんど食べれなくなった場合にも、皮下補液では状況の改善につながらないことが多いです。ある程度食べれるようになるまで、入院下で血管内に点滴するか、あるいは胃瘻チューブなどで直接水を飲ませる他ありません。

人間と同じように、血液透析(人工透析)を行うことはできます。しかし、人の医療と異なり、高額医療費の軽減制度があるわけではなく、そのわりには同等の医療費がかかるため、持続的に行うのはコスト的にかなり難しいです(数年行うとすれば、数千万円はかかると思います)。

また、血液透析のゴールは腎移植です。しかし、獣医療では腎移植の選択肢はありません。ゴールなき高額医療は、飼い主、患者の双方に負担を強いるだけなのではないかと私は考えています。

ステージ クレアチニン値 状態 治療
1 1.6 mg/dL未満 初期 十分な水分摂取
2 1.6~2.8 mg/dL 軽度 療法食の開始
3 2.9~5.0 mg/dL 中程度 薬物療法が必要なことが多い
4 5.0m g/dLを超える 重度 生活の質を向上させる 輸液療法

表:猫の腎臓病の病期と大まかな治療

猫の慢性腎臓病の予後

腎臓病の予後は病期の重症度によって異なりますが、数カ月から数年です。原因、合併症の有無で大きく変わるため、すべての患者に一概に決定することは難しいです。

猫の慢性腎臓病に良い食事、サプリメント

腎臓病に「良い」フードというのはありません。体内に蓄積する老廃物を減らすためにたんぱく質を減らし、血中のリンを下げるためにリンが少ない食事にすることです。リンはたんぱく質を多く含む食品に含まれますので、肉や魚などは避けるべきです(もちろん、食べる量によりますので、一口も食べてはだめというわけではありません)。

たんぱく質が少なすぎるご飯は、筋肉量を減らし、痩せてしまいます。早期の腎臓病やかなり悪化した腎不全の患者では、市販の腎臓病用療法食では筋肉量が低下してしまう恐れがあります。ただし、たんぱく質の多量の摂取は腎臓病を悪化させることが知られています。そのため、高たんぱくな食事は避け、適度なたんぱくの摂取を必要とします。

最近では、人でもたんぱく代謝にはアミノ酸バランスが重要であると考えられています。多少たんぱく摂取量が少なくても、必須アミノ酸がバランスよく含まれていれば、効率よく筋肉を維持できると思われます。現在、一部の腎臓病用療法食を除いて、アミノ酸バランスを考えて作られたキャットフードはほとんどありません。アミノ酸サプリメントなども考慮すべきでしょうが、たんぱく摂取量の増加になり、腎臓病の症状を悪化させることにもなりますので、使用する場合には担当の獣医師によく相談しましょう。

猫の慢性腎臓病では、血中のカリウムが少なくなることが多いです。筋肉量の低下と関連すると考えられていますが、この場合にはカリウムの摂取量を増やす必要があります。野菜や果物に多くカリウムが含まれていますが、残念ながら、このような食品を積極的に摂取する猫は少ないと思います。カリウム補給のためのサプリメントや薬剤を使用する必要があります。

すべての腎臓病に効くサプリメントなどありません。腎臓病用として販売されているサプリメントには、状況によっては腎臓病に悪影響を及ぼすこともありますので、サプリメントを使用すべきかどうかは獣医師の指示に従ってください。

定期的な健康診断を

野良猫

腎不全は急性と慢性で様相が大きく異なるため、同じように考えることができません。しかし、共通していることは早期から対応することが重要だということです。日常的な水分摂取に気をつけてもらい、定期的(半年~1年に1回)な健康診断(特に画像検査)を受けてもらうことが重要です。つまり、ドライフードのみの生活を避けてもらい、特に純血種の猫ではまめに病院にいくことが必要です。

引用文献


【動画解説】ステージ別の症状や治療方法、予防対策

YouTubeのPETOKOTOチャンネルでは、獣医師の佐藤先生が猫の腎臓病について解説した動画を公開しています。あわせてご覧ください。