猫の甲状腺機能亢進症の症状や検査、治療法を獣医師が解説

猫の甲状腺機能亢進症の症状や検査、治療法を獣医師が解説

猫の甲状腺機能亢進症は、「元気や食欲があるのに痩せてくる」という症状が特徴的な病気です。初期のうちは病気にもかかわらずむしろ健康そうに見えてしまいますので、あらかじめ知識がないと気づくのは難しいかもしれません。高齢の猫でとてもよくみられる病気であり、治療をすればより健康に長く生きられるようになりますので、ぜひ知っておいていただければと思います。今回は、猫の甲状腺機能亢進症の症状や治療法などについて、平井動物病院院長の米山が解説します。

甲状腺ホルモンとは

筒に入った猫

甲状腺ホルモンは、のどにある甲状腺(左右一対)から分泌されるホルモンです。全身の細胞に作用し、代謝を活性化させる役割があります。何らかの原因によって分泌量が異常に減少すると、代謝が下がりすぎて活動性や臓器機能の低下が生じます。その病態のことを「甲状腺機能低下症」といいます。

逆に分泌量が異常に増加すると、代謝が上がりすぎて全身に過剰な負荷がかかり、「甲状腺機能亢進症」と呼ばれる病態になります。

猫の甲状腺機能亢進症とは

ベッドの上の猫

猫は甲状腺機能低下症になることはほぼありません。一方で、甲状腺機能亢進症になることがよくあります。

理由は不明ですが、猫は高齢になると甲状腺が腫大しやすい動物です(大半は良性腫瘍、まれに悪性腫瘍)。甲状腺が腫大するとホルモンの分泌量が増え、代謝が過度に活性化します。

その結果として、猫は活発にはなるものの痩せていき、臓器は疲弊し、寿命が短くなってしまいます。これが猫の甲状腺機能亢進症です。

ちなみに、人でみられる「バセドウ病」も甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。バセドウ病の原因は腫瘍ではなく免疫異常であり、猫の甲状腺疾患とは病態は異なります。

ただ、甲状腺ホルモンの過剰という点では同じですので、全身への影響や症状などは基本的に同じであると考えていただいていいでしょう。

猫の甲状腺機能亢進症の症状

佇む猫

猫の甲状腺機能亢進症では以下のような症状がみられます。

  • 体重減少
  • 食欲亢進
  • 食欲低下
  • 行動の変化(攻撃性が増す、異常に活発になる、異常に鳴くなど)
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 多飲多尿
  • 元気消失

「活発でよく食べるけど痩せてくる」という症状が典型的ではありますが、必ずそうなるわけではありません。元気や食欲がなくなる場合もありますし、嘔吐下痢が主症状といった場合もあります。


猫の甲状腺機能亢進症の診断・検査

甘える猫

高齢の猫において上述したような症状がある場合は、甲状腺機能亢進症が疑われます。ただし、これらの症状からは他の病気(腎臓病、糖尿病、膵炎、腸炎、リンパ腫、脳疾患など)も考えられますので、最初から決めつけずに全体的に調べていく必要があります。

甲状腺機能亢進症は、主に「触診」と「血液検査」によって診断します。

触診

のど(気管の両脇)にある甲状腺が腫大していないかどうかを手で触って確認します。

血液検査

一般的な項目に加えて甲状腺ホルモンを測定します。数値が高ければ甲状腺機能亢進症と確定できます。

その他の検査

他の病気がないかどうか、また、甲状腺機能亢進症によって引き起こされる「高血圧」「心筋肥大」「眼の異常(眼底出血、網膜剥離)」などがないかどうかを確認するために、「超音波検査」「X線検査」「尿検査」「眼科検査」「血圧測定」などを行います。

猫の甲状腺機能亢進症の治療

じゃれる猫

猫の甲状腺機能亢進症の治療法としては、以下の3つが挙げられます。

  • 内服薬
  • 療法食
  • 手術

内服薬

甲状腺ホルモンの合成を阻害する薬(錠剤)を投薬します。効果としてはあくまでホルモンを減少させるだけであり、甲状腺自体を小さくするわけではありません。

問題点としては、「ずっと投薬を続けなければならない」「副作用(皮膚炎、嘔吐食欲不振など)が生じる場合がある」などが挙げられます。


療法食

甲状腺ホルモンの原料となるヨウ素を制限した療法食を与えます。この治療法も甲状腺を小さくするわけではありませんので、ずっと続ける必要があります。問題点としては、「他のフードやおやつを一切食べさせてはいけない」「そもそも療法食を食べない猫が多い」などが挙げられます。

手術

腫大した甲状腺(片側または両側)の摘出を行います。手術が成功すれば、その後の治療は必要なくなります。問題点としては、「手術のリスクがある(特に両側摘出する場合)」「摘出後に状態が悪化しても後戻りできない」などが挙げられます。

併発疾患の治療

高血圧、頻脈、心臓病、腎臓病などを併発している場合は、それらに対する治療(内服薬など)も並行して行います。

早期発見・早期治療の重要性

こちらを見る猫

甲状腺機能亢進症を放置すると、徐々に全身の臓器(特に腎臓、心臓など)がダメージを受けていきます。治療をすれば身体への負担が減り、数年単位で健康に長く生きられるようになります。なるべく早い段階で治療を開始することが重要です。

早期発見のポイント

甲状腺機能亢進症を疑うべき状況として以下のような点が挙げられます。

  • 高齢である
  • よく食べるけど痩せてきた
  • 高齢なのに以前よりも元気
  • 嘔吐や下痢の頻度が多い
  • 落ち着きがなかったり変な声で鳴いたりする

高齢である

甲状腺機能亢進症の猫の大半は10歳以上です。8歳以下で発症する例はまれです。

よく食べるけど痩せてきた

最も多い症状が体重減少です。この病気の場合は食べていても痩せますので、食欲だけではなく体重も気にしてみてください。できれば家で定期的に体重を計ってもらうといいでしょう。あるいは、高齢で痩せてきたと感じたら元気や食欲があっても一度は動物病院を受診していただくといいでしょう。


高齢なのに以前よりも元気

猫は高齢になると動きが遅くなったり眠る時間が長くなったりするのが一般的です。若い頃よりも活発になるということは普通はありません。

嘔吐や下痢の頻度が多い

高齢で慢性的な嘔吐や下痢がみられる場合はこの病気の可能性があります。

落ち着きがなかったり変な声で鳴いたりする

甲状腺機能亢進症によって行動の変化がみられる場合があります。脳の病気の可能性もありますが、脳の検査はMRIなどが必要となりますので、まずは簡単にできる甲状腺ホルモンの検査を行ってみるといいでしょう。

健康診断の重要性

寝る猫

高齢の猫では、半年〜1年に1回の健康診断(特に血液検査)をお勧めします。甲状腺ホルモンは必ず測定する項目ではありませんが、疑わしい症状がある場合には測定したほうがいいでしょう。

また、甲状腺機能亢進症があると肝臓の数値(ALT、ALP)が高くなる傾向がありますので、肝臓の数値が高かった場合には甲状腺ホルモンを追加で測定するといいでしょう。



猫の甲状腺機能亢進症の誤解されやすい点

見上げる猫

猫の甲状腺機能亢進症は以下のように誤解されやすいです。

  • 元気や食欲があるから病気ではない
  • 高齢のせいで痩せているだけ

ここまで述べてきたように、甲状腺機能亢進症では元気や食欲があっても体重が減少していき、寿命が短くなってしまいます。

飼い主さんからは体調が良さそうに見えるかもしれませんが、猫自身は無駄なエネルギーを消費して非常に疲れているということを理解してあげてください。元気や食欲さえあればいいというわけではありません。

高齢のせいで痩せることはもちろんありますが、病気が原因となって痩せることも多いです。一度検査を行ってみて、治療可能な病気があれば治療してあげるといいのではないかなと思います。

飼い主さんとしては、「高齢なのにとても体調が良い」と思っているところに獣医師から病気だと言われて気分を害されるかもしれませんが、それは猫の健康を考えた上での指摘であるということでご理解をいただければと思います。

猫の甲状腺機能亢進症の治療に関連した話

見つめる猫

猫の甲状腺機能亢進症の治療に関して、わかりにくい部分をまとめました。

どの治療法が最善か

治療法は、「根治治療(手術)」「ホルモンだけを抑える治療(内服薬、療法食)」の2通りに大別されます。後者の場合、病的な甲状腺はそのまま存在し続けますので、治療を中止するとホルモンが再び増加してしまいます。

治療において最も重要なのは、甲状腺ホルモンを減少させて全身の状態を良くすることです。必ず手術で根治させなければいけないというわけではありません。内科治療でコントロールできるのであればそれでもかまわないでしょう。

もし悪性腫瘍だったらどうなるのかということですが、悪性でも遠隔転移などは生じにくく、腫瘍自体によって亡くなる例は少ないようです(腫瘍自体ではなく腫瘍から産生される多量のホルモンによって亡くなります)。

また、良性か悪性かは病理検査によって診断しますので、手術前の段階で確定できるわけではありません。結論としては、良性でも悪性でも治療の考え方は大きくは変わらないということがいえます。

手術が特に推奨される状況としては、「内科治療でコントロールできない」「片側だけ重度に腫大している」「年齢が若い」などの場合が挙げられます。獣医師によって考え方は異なりますので、よく相談された上で治療法を選択していただければと思います。

内服薬と療法食について

内科治療を行う場合は、「毎日の投薬ができるかどうか」「療法食を食べるかどうか」などを考慮して続けやすい方を選択してもらうといいでしょう。

療法食を食べてくれれば楽なのですが、1種類しかない上に味も良くありません。「食欲が落ちている時に他のものを与えられない」「腎臓が悪くても腎臓病用療法食を使えない」などの問題もあります。

一方で内服薬に関しては、「性格的に投薬不可能な猫がいる」「薬の副作用が出て治療を続けられない場合がある」などの問題があります。

一般的には、投薬が可能であれば投薬治療から開始し、何らかの理由で続けられない場合には療法食を試してみるという方法がとられることが多いでしょう。

治療中の診察について

甲状腺機能亢進症の治療中は必ず定期的に診察を受ける必要があります。診察の目的は、「治療効果」と「副作用の確認」です。

治療効果は、主にホルモンの数値と体重によって判断します。ホルモンの数値が下がって体重が増えていれば、治療がうまくいっているということになります。うまくいっていない場合には、内服薬の増量や治療法の変更などを検討します。

副作用としては、「内服薬に起因する副作用(既述)」および「ホルモン減少に伴う腎機能低下」の有無を確認することが重要です。

後者についてですが、甲状腺機能亢進症と腎臓病を併発している場合、ホルモンの影響で腎血流量が増えることによって腎臓が本来の能力よりも多めに働いている可能性があります。この状態からホルモンを減少させると、腎機能の低下が生じます。つまり、甲状腺の治療によって腎臓病になるわけではなく、もとから存在していた腎臓病が顕在化するということです。

上記のような変化を見逃さないために、定期的に体重確認や血液検査を行っていく必要があります。

腎臓病を併発している場合にどうするか

甲状腺ホルモンが増えると腎機能が改善して良さそうな感じがしますが、実際には腎臓に負荷をかけて酷使している状態ですので、長期的に見ると腎臓病の悪化を早めてしまいます。

腎臓を長持ちさせるには負荷を抑えることが重要ですので、甲状腺機能亢進症と腎臓病を併発している場合には両方の治療を行うことが推奨されます。

もし甲状腺の治療を開始して腎臓の数値が多少悪化したとしても、許容範囲内であれば治療を続けたほうがいいでしょう。許容範囲を超えていたり末期の腎臓病が存在していたりする場合は、長期的なことは考えられませんので、甲状腺の治療は中止して腎臓病の治療だけを行ったほうがいいでしょう。

思い当たる症状があれば動物病院へ

窓辺の猫

健康だと思っていた猫が実は甲状腺機能亢進症だったという例はとてもよくみられます。今回の記事で思い当たる症状があったり、健康診断をしてみたいと思われたりした方がいらっしゃいましたら、動物病院にご相談ください。

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