犬の歯周病ってどんな病気? 症状や治療、予防法を歯の専門医が解説

中央アニマルクリニック院長の椎名です。今回は「犬の歯周病」について解説します。犬では非常に多い病気です。犬は、虫歯にはほとんどなりません。飼い主の皆さんは定期的に愛犬のお口のチェックをしていますか? 歯周病は生活習慣病の中でも特に注意すべき病気です。歯周病を放置して悪化してしまうと腫れやひどい臭いを引き起こし、最終的には歯を失うことになります。

また歯周病は、歯周病菌が血液に侵入することで心臓や肺、腎臓などの病気を引き起こすこともあります(犬に限らず、人間でも同様です)。こんなに怖い病気から大事な家族である愛犬を守るためにも、飼い主の皆さんには、歯周病の知識や予防法について理解を深めてもらえれば幸いです。

「犬の歯周病」ってどんな病気?

歯周病は「歯周組織」の病気

歯周病は、その名の通り「歯の周囲の病気」です。歯の周囲といってもピンとこない方も少なくないかと思います。歯の周囲には、「歯肉」「セメント質」「歯槽骨(しそうこつ)」「歯根膜(しこんまく)」という四つの組織があります。

歯周組織(歯肉、セメント質、歯槽骨、歯根膜)

この四つを合わせて「歯周組織」と呼びます。歯肉は、歯ぐきのことです。セメント質は歯の根っこの部分を覆っている組織です。歯槽骨はその名の通り歯を置くためのおけの役割を担う骨です。歯根膜はセメント質とともに歯と歯槽骨の間にあり、それぞれが結び付くことで歯をしっかり固定し、噛んだ際の衝撃をやわらげるクッションにもなっているのです。

歯周病は、その歯周組織に障害が起きる病気で、虫歯が歯の病気なのに対して、歯周病は歯の周りの病気ということになります。ちなみに犬は尖った歯が多いため虫歯菌が付きづらく、また唾液のアルカリ性度が強いため歯が溶けにくく、虫歯にはなりづらい特徴があります。

歯周病の病態変化

歯周病は、「歯肉炎」と「歯周炎」の二つを合わせた病名です。

まず歯周組織の中で一番外側にある歯肉の炎症から始まります。この段階を軽度「歯肉炎」と呼び、しっかりとケアをすれば健康な状態に戻すことができます。しかし軽度の歯肉炎を放っておくと、歯肉が腫れ、わずかな出血が見られるようになります。この段階まで来ると歯肉炎はかなり進行した状態です。

細菌が歯肉だけでなく歯根膜や歯槽骨にまで進行し、歯槽骨が溶かされ始めると、歯肉炎から「歯周炎」になります。歯周炎も軽度であれば治療に期待できます。この段階を越えると炎症が口内全体に広がり、歯のグラつきが出てきます。完全に治すことはできなくなります。

犬の歯周病

歯周病の症状

歯周炎まで進行してしまった場合、歯周ポケット(歯と歯肉の間にできた溝)の入り口が歯石(歯垢が石灰化したもの)で覆われてしまい空気が入らなくなっています。そうなると歯周病菌の中でもより悪さをする「嫌気性菌」(空気を嫌う細菌)が活発に活動できるようになり、歯周病は加速度的に進行してしまいます。

歯周病の症状は主に、「痛み」「臭い」「ヨダレが増える」などが挙げられます。皆さんの愛犬に、「若い頃に比べて口臭が強くなった」「ご飯を食べる速度が遅くなった」「口の周りを触られるのを嫌がるようになった」などの症状が見られる場合は、歯周病が原因ではないか注意して見てあげてください。

ただ、外から見ただけでは歯石が増えているだけにしか見えないこともあります。恐ろしいことに、病気の本体である歯周病が気付かれないところで進行してしまっている可能性があるわけです。歯周病を放置すると、歯が抜け落ちるところまで進行し続けます。

歯周病の歯

歯周病になりやすい犬とは?

小型犬ほど歯周病になりやすい

犬の歯は人と比べると歯と歯のすき間が広く開いていますので、唾液による自浄作用が働きやすいと言われています。しかし体の大きさと歯の大きさが比例しないので、例えば大型犬と小型犬で体の大きさが違っても、歯の大きさはそこまで変わりません。大型犬に比べると小型犬のほうが歯と歯の隙間が狭くなりますので、歯周病にもなりやすいと言えます。

歯周病になりやすい犬種

犬種によっても歯周病のなりやすさや症状に違いが出てきます。

イタリアン・グレイハウンドなどの長頭種は、切歯(せっし)の間隔が狭いため、歯周病が重症化しやすいです。また、口蓋ヒダ(上顎の歯の内側を横方向に走る凹凸)が深い子が多いため、上顎の歯の裏側、特に犬歯の裏側の歯周病が重症化しやすく注意が必要です。

イタリアン・グレイハウンド

フレンチ・ブルドッグなどの短頭種短頭種というのは、上顎が短いという特殊な構造をしています。その結果、上顎犬歯の後ろの何本かの歯が横向きに密着して生えてしまっていることがあります。そういった子は、その部分の歯周病が進行しやすいため注意が必要です。

歯周病が影響して起こる犬の病気

歯周病が重症化すると、口の中以外に影響して起こる病気があります。中でも口腔鼻腔瘻(こうくうびくうろうこう)や眼窩下膿瘍(がんかかのうよう)が有名です。

口腔鼻腔瘻(こうくうびくうろうこう)

犬の口と鼻は並んで前方に伸びた構造をしており、上顎の犬歯の根元の真横には鼻の穴が通っています。そのため歯周病が重度に進行すると、鼻の穴に口からつながるトンネルができてしまいます。鼻と口がトンネルでつながってしまった状態を、「口腔鼻腔瘻」と言います。この状態になると歯周病菌が鼻の穴に入ってしまうため、くしゃみや鼻水(ときには膿のような鼻水が出ることもあります)の症状が認められるようになります。

くしゃみ、鼻水から呼吸器の病気を疑って来院される方も多いのですが、実は歯周病が原因だったということが少なくありません。特にミニチュア・ダックスフンドやイタリアン・グレイハウンド、トイ・プードルなどの犬種は、犬歯などの上顎の歯から歯周病が進行し、トンネルがつながってしまうことが多いので注意が必要です。

ミニチュア・ダックスフンド

眼窩下膿瘍(がんかかのうよう)

上顎の奥歯の歯周病が進行すると、歯周病によってたまった膿が皮膚を破って出てきてしまうことがあります。これを「眼窩下膿瘍」と言います。皮膚病と間違って診断され、抗生物質などで治療されることも多いのですが、原因となっている歯を探り当てないと根本的な治療が行えないため、一旦は薬で収まっても症状を繰り返してしまうことが少なくありません。

その他、小型犬で歯周病が重度に進行した状態を放っておくと、下顎骨折を引き起こしてしまうことがあります。前述した歯周病菌が血管内に侵入することによって、心臓や肺、腎臓など全身に悪影響を及ぼすこともありますので注意が必要です。逆に、他の病気の影響を受けて歯周病が悪化することもあります。

犬の歯周病の原因

歯周病は、歯周病菌が起こす「感染症」です。そして、その歯周病菌が多くいるのが歯垢(プラーク)です。歯垢中には便と同じくらい(一説では便より多数の)菌が存在すると言われており、まさに天文学的な数の細菌の塊がいることになります。

歯垢中の菌は、食べかすや菌自体が分泌したさまざまな成分が一体となり、「バイオフィルム」と呼ばれる菌膜を形成しています。バイオフィルムは、排水溝のヌメヌメを思い浮かべていただけるとわかりやすいと思います。歯垢はまさにあれと一緒で、ヌメヌメと歯に張り付いてしまいます。また、バイオフィルムの中にある菌は防御力が上がり、抗生物質などが効きにくくなってしまうこともわかっています。だからこそ、歯周病対策として物理的にバイオフィルムをこすり落とす歯磨きが欠かせないのです。

ちなみに、歯石は歯垢に唾液中のミネラルが沈着したもので、ザラザラと軽石のような多孔性の構造をしているため、その孔に歯垢がたまって菌の温床となってしまいます。歯石は歯周病の直接の原因ではありませんが、前述したのように歯周ポケットに蓋をして嫌気性菌を育ちやすくしてしまいます。こちらも可能な限り付着を防ぐ必要があります。

犬の歯周病の治療法

歯周病の治療法は、歯周病の進行状況によって変わってきます。歯垢・歯石の付着によって歯肉が少し赤くなっている程度の軽度な歯肉炎であれば、正しい歯磨きの仕方を覚えて毎日しっかりと歯磨きをすれば改善する場合があります。

しかし、さらに歯周病が進行して歯周炎になってしまった場合は、基本的には麻酔をかけての処置が必要になってしまうことがほとんどです。具体的には歯垢・歯石の除去や、歯の根っこの掃除、歯の研磨などです。このとき飼い主の方から「麻酔をかける必要があるのか」「麻酔をかけずに何とかできないのか」という質問を受けることが多くありますので、麻酔処置の必要性を説明します。

歯周病治療で麻酔が必要な理由

人間の場合は、歯周ポケットをキレイにして歯周病を予防したり、進行が始まれば治療をするのは必要なことだと理解できるはずです。ただ、それでも歯医者さんから足が遠のいてしまうことが少なくありません。我々人間でもそうなのですから、自分が何をされているのか理解できない犬となれば、何とかガマンして歯の表面をキレイにさせてくれたとしても、歯周ポケットまでは処置させてくれないことがほとんどです。

どんな処置が必要かは、麻酔をかけてからレントゲン検査や歯周ポケットの深さを検査して決定します。多くの病気は診断をつけてから麻酔をかけて手術をしますが、歯科処置の場合は麻酔と検査の順番が逆転します。目が覚めている状態ではおおよその診断しかできず、麻酔をかけてから精密検査をして初めて、どんな治療すべきなのかがはっきりするのです。

ただ麻酔をかけて行う歯科処置の目的は、歯周病による痛みや不快感を取り除き、いったん正常な状態を取り戻すことです。その効果は一生続くわけではありませんので、最も大事なことは、その後ご自宅で歯磨きなどのデンタルケアをしてもらって健康なお口を維持してもらうことです。

麻酔をかけずに処置をすることができたとしても、そのときの恐怖で口の中を触られることがトラウマになってしまえばご自宅でのデンタルケアができなければ元も子もありません。この点も、犬の歯周病治療に麻酔が必要になる大きな理由です。

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犬の歯周病予防

歯周病予防のために必要なことは、一にも二にも、歯ブラシでの歯磨きです。

理由としては、ネバネバとした歯周病菌の塊であるバイオフィルムを落とすために、歯磨きという物理的な除去が必要不可欠であることが挙げられます。ただ歯磨きをすればいいといわけではなく、歯周ポケットまでアプローチできる歯ブラシを使った歯磨きがベストです。

どうしても歯ブラシが苦手な犬の場合は、指サックタイプのものや歯磨きシートを使った歯磨きでも一定の効果があります。諦めずにやってあげてください。犬の歯垢は2、3日で歯石に変わってしまいますので、歯磨きの頻度は1日1回以上が推奨です。

歯磨きが苦手な子は「誉めて伸ばす」

皆さんの愛犬にどうやって歯ブラシを好きになってもらうかですが、人間の子供でも嫌がる歯磨きを言葉の通じない犬に好きになってもらうのは、正直に言って容易なことではありません。無理矢理やってしまうと、それ以降、口を触ることすらできなくなってしまうかもしれません。

歯磨きに慣れてもらうコツとして、基本的な考え方はお手やおすわりを教える場合と同じです。まずは口の周りを触ることから始めて、前歯から奥歯の順に1秒程度触り、触られることに慣れさせてあげてください。口の中を触る際は、指に好きな食べ物やおいしい味の付いた歯磨きペーストなどをつけると喜んでさせてくれることが多いです。

飼い主の方の指で口の中を触ることが平気になったら、徐々に「ガーゼを巻いた指」「歯ブラシでの歯磨き」という順で先に進んであげてください。この際、一番大事なことは各ステップごとに大げさなくらい褒めることです。人間もそうですが、大切なことは「誉めて伸ばす」こと! 焦りは禁物です。あくまでゆっくりと、愛犬のペースに合わせてあげてください。

オススメの犬用歯ブラシは?

歯ブラシは、小型犬の場合はヘッドが小さく、毛足が短くて柔らかいものがオススメです。大型犬は、人間用のものや、犬用でも毛足の長いものを使った方が手早く歯磨きできて良いでしょう。細かい部分を磨くときは、人間の親知らず用の歯ブラシや、マイクロブラシなどがオススメです。

また、歯磨きペーストは犬用にさまざまな味のものが用意されています。特に歯磨きを始めたばかりの段階では、人間の子供に歯磨きを教えるのと同じように、その子の好きな味の歯磨きペーストを使ってあげることで、抵抗なく歯磨きを受け入れやすくなります。

逆に、ペーストの味を嫌がる子では、好きな缶詰フードや肉汁を用いてもらっても良いですし、水で歯ブラシを湿らせてもらうだけでも大丈夫です。何もついていない乾いた歯ブラシだと痛がってしまいますので、歯ブラシは必ず何らかの形で湿らせてあげてください。

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サプリメントなどのデンタルケアは?

お口を触られるのを極端に嫌がる犬や高齢の犬では、どうしても歯磨きができないこともあると思います。その場合は、効果は限定的ではあるものの、歯石予防用のドッグフードやデンタルガム、善玉菌サプリメントなどを使ってあげてください。「垂らすだけで口の健康が維持できる」と謳っている商品も多数ありますが、実際の効果としては口腔内環境を少し改善してくれるという場合がほとんどです。歯垢・歯石の付着、歯肉炎の進行を遅らせる可能性はゼロではないものの、歯磨きをせずに単独で使用するだけでは効果が低い場合が多いでしょう。

基本的に、「デンタルケアグッズ」だけでは完全な歯周病予防はできませんので、定期的に動物病院で口腔内の健康状態をチェックしてもらうことが必須になります。病気になってからじゃ遅い歯周病、予防ケアには気を付けましょう。

なお、歯周病の悪化因子としてドライマウス(口の乾燥)が非常に大きな部分を占めると言われていますので、食後に多めのお水で口の中をジャバジャバと洗っていただくだけでも、一定の効果はあると言われています。

歯磨きが大変! そんな時に合わせて使いたいのがサプリ

ペットの口腔ケア用サプリメント「Pero-One(ペロワン)」

歯のサプリメント、ペロワンは、犬猫の口腔内環境を整えることを目的として、主に三つの成分が配合されています。

  • 歯周病菌の毒素を中和する「γ-リベチン」を含む「グロビゲンPG」
  • 免疫力を高めるといわれている「乳酸菌(KT-11)」
  • 生体防御作用があるといわれている「ラクトフェリン」

ぜひ、歯周病や口臭予防にサプリを検討ください。

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最後に

歯周病は、歯の根っこの周りの病気であり、見えない部分で進行するものです。「歯がキレイだから歯周病ではない」とは言えません。見た目がキレイでも、お口の臭いが気になるときは、必ず動物病院に連れて行ってあげてください。

毎日のご自宅でのデンタルケアと定期的な動物病院での歯科検診で、大切なご家族のお口の健康を守ってあげてくださいね。

第2稿:2016年9月30日 公開
初稿:2016年7月11日 公開

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