猫が血便をした場合に考えられる原因は?猫専門獣医師が症状や検査方法を解説

猫が血便をした場合に考えられる原因は?猫専門獣医師が症状や検査方法を解説

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猫の血便は、動物病院の診察では珍しくない病状です。血の色・猫ちゃんの年齢・また便の性状(水様便・泥状便・固形便など)によって、原因や重症度は大きく異なります。今回は、猫ちゃんの血便について解説していきます。猫の専門病院「Tokyo Cat Specialists」の有田が解説します。

猫の血便の症状

猫

血便とは、便の中・または表面に血が見られることを言います。原因によって食欲不振・元気喪失・下痢嘔吐便秘など、さまざまな症状が併発します。血便とともに食欲や元気が無かったり、嘔吐をしたりしている場合は動物病院にすぐに受診するようにしましょう。

猫の血便の検査方法・診断方法

病院

血便で来院された場合の検査方法、診断方法を解説します。基本的には、考えられる原因によって以下の検査を組み合わせることになります。

問診・身体検査

まずは食欲・元気があるかはもちろん、便の回数や、症状がいつから始まったのかをおたずねします。身体検査では体重が減少していないか、子猫であれば体重が増えているかをチェックします。また、お腹を触診し、痛みや異物などがないかを確認します。肛門周囲からの出血の場合もあるため、その辺りもよく観察する必要があります。

便検査

便の色や性状、ニオイも重要な診断の手がかりになります。特に血便の場合、血の色は大事なポイントになるので、病院に行く際には必ず便を持参しましょう。排便直後の便が理想的ですが、難しい場合はラップやビニールで乾燥しないようにして持参しましょう(半日程度の保存)。一般的には、胃や小腸での出血は黒色便(タール状便)になり、大腸や肛門付近の出血は、鮮血便となります。 便の顕微鏡検査では主に寄生虫の有無や腸内細菌叢をチェックします。また、PCR検査(遺伝子検査)では、一回の検査で10種類の病原体を調べることもできます。

直腸検査

肛門部から指を入れ(潤滑油を付けて)、肛門嚢・直腸内をチェックします。指が届く範囲内に腫瘍などが無いかを確認できます。

血液検査

血液検査では、貧血・炎症・脱水の程度のほか、肝臓・腎臓・膵臓などの内臓の状態を知ることが出来ます。血便の原因が分かることもありますが、全身状態のチェックとして実施する必要があります。

レントゲン検査

お腹のレントゲン撮影をします。腹部の臓器(肝臓・腎臓・脾臓・膀胱・胃腸・子宮など)の形や大きさ、特に、腸内の異常な液体・ガス貯留や腫瘍を疑うような像が無いかをチェックします。また、腸閉塞の原因にもなり得る異物(レントゲン不透過性の金属、石、骨など)を、確認することが可能です。しかし、残念ながら猫ちゃんの誤食で多く経験する、プラスチック・ビニール・ゴム製品・布製品・毛玉などは、レントゲンでその存在を確認することは困難です。レントゲン検査では直腸の便貯留が確認できるため、便秘の診断が可能です。

超音波検査

超音波検査では、レントゲンと同様に腹部の臓器を観察しますが、レントゲンと違って、動いているものをリアルタイムで表示できるので、胃腸の動きを診るのに優れています。また、腸の壁構造(5層構造)を観察することがでるため、腸の炎症や腫瘍が判明することがあります。場合によっては、超音波の画面を目視しながら、異常な部位に対して細い針を刺すことで細胞の採取をし、病気の診断に結びつくこともあります。

内視鏡検査

上記の検査をしても異常が見つからない時(血便は継続しているが)、超音波検査などで胃腸に異常が見つかった時に実施します。内視鏡カメラを用いて、胃や腸の粘膜の状態や病変を肉眼的に確認することができます。その際、異物が見つかった場合は、場所によっては胃や腸を切らずに取り出すことが可能です。また胃や腸の組織の一部を採取し、病理組織検査を行うことができるため、猫ちゃんの慢性腸炎の原因に多い、炎症性腸疾患や腫瘍(リンパ腫など)などの診断につながることがあります。ただし、上記の検査と違い全身麻酔下での検査になるため、検査のタイミングが重要になります。

猫の血便の原因となる病気

仰向けに寝る猫
血便の原因として考えられる病気を解説します。

胃腸炎

細菌性胃腸炎

考えられる原因菌として、クロストリジウムやカンピロバクター、サルモネラなどが存在します。これらの特定には、糞便中のPCR検査が有効で、治療には抗生剤を使用することになります。   

ウイルス性胃腸炎

パルボウイルスなどがあります。パルボウイルスは致死率の高い感染症であり、特にワクチン接種していない子猫は注意が必要です。治療としては体力の低下を防ぐための支持療法が主体になり、点滴・インターフェロン製剤・二次感染の予防としての抗生剤投与などが基本となります。特異的な治療が存在しないため、予防としてのワクチン接種がとても重要な病気です。

寄生虫性胃腸炎

原虫(コクシジウム・トリコモナス・ジアルジア・トキソプラズマなど)、線虫(回虫・鉤虫・鞭虫など)、条虫(瓜実条虫・マンソン裂頭条虫など)などが寄生することで下痢を引き起こします。便の顕微鏡検査やPCR検査によって検出します。特に、子猫の持続する下痢(血便)においては寄生虫の存在に注意しましょう。治療は駆虫薬の内服になりますが、寄生虫の種類によって異なります。

食物性胃腸炎

  • 消化不良:食べ過ぎやゴミあさりなどが原因による一時的な下痢
  • 食物不耐性:特定の食物に対して吸収や代謝障害が生じることによる下痢 (例として乳糖不耐性など)
  • 食事アレルギー:食物に含まれる特定のアレルゲンによって起きる下痢
これらの原因による下痢(血便)は、食事の変更によって改善することがほとんどですが、特に食事アレルギーに関しては各メーカーからアレルギー用の療法食が販売されているため、動物病院に相談しましょう。  

炎症性腸疾患

慢性的に腸に炎症が引き起こされる疾患で、下痢や血便、嘔吐、食欲不振、体重減少などの症状が見られることが多いです。炎症の原因はほとんど分かっていませんが、食事療法や抗菌薬などでは下痢が完全に良くならず、ステロイドや免疫抑制剤に一般的に反応するような病態をいいます。また、開腹または内視鏡下での生検による病理組織学検査で腸炎を明らかにすることで診断します(腫瘍などの病気を除外した上で)。猫ちゃんにとって、長期的な治療が必要となるため、正しい診断が必要とされる病気の一つです。  

便秘

3~5日以上便が出ていない状態で、次に便をしようとした時に力みすぎて血便を伴うことがあります。また、大腸炎を併発している場合もあります。継続する便秘にはさまざまな原因が考えられるため、動物病院での診察を受けてからの治療になります(ご自身の判断による浣腸は危ないため、絶対に行わないでください)。

胃腸の腫瘍またはポリープ

猫ちゃんに多い胃腸管の腫瘍として、リンパ腫・腺癌などがあげられます。診断には内視鏡もしくは開腹手術での病理学的検査が必要ですが、全身状態が悪く体重も減少していることが少なくないため、慎重に検査を実施し、迅速に判断する必要があります。治療としてはリンパ腫の場合は抗がん剤の化学療法が主体となり、腺癌の場合には外科手術による切除が第一選択になります。

薬の副作用

ステロイドや非ステロイド性抗炎症薬(医原性)の使用に伴い、消化管障害が生じて下痢(血便)が出ることがあります。猫ちゃんは人間よりもステロイドの副作用は出にくいと言われていますが、服用時の消化器症状には注意しなければいけません。

その他

膵炎・膵外分泌不全・胃十二指腸潰瘍・血液凝固不全などを原因として血便が起こることがあります。

猫の血便は日頃から排便状況をチェックしましょう

猫

血便の原因は非常に多く、その治療法は原因によってさまざまです。原因によっては予防は困難かもしれませんが、日頃から愛猫の排便状況をチェックしておくことは、とても大切です。常日頃から、便の回数・形・色などに注意していると異常が発見しやすく、また、そうした情報を獣医師に伝えることで、病院での検査や治療がスムーズに進み、猫ちゃんに余計な検査やストレスを与えずにすみます。まずは、少しでも気になることがあれば動物病院で相談してみましょう。