【獣医師監修】猫が誤飲した場合の症状や治療法、応急処置などを獣医師が解説

【獣医師監修】猫が誤飲した場合の症状や治療法、応急処置などを獣医師が解説

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「誤飲」とは食べ物ではないもの(ゴムやビニール、おもちゃなど)を誤って口にしてしまうことです。猫は犬に比べると誤飲が少ない動物です。アニコム損害保険の「家庭どうぶつ白書2022」によると、犬の夜間緊急診療の来院理由のトップが「誤飲」であるのに対し、猫はトップが「嘔吐」「下痢」で、「誤飲」は3位にとどまっています。しかし年々猫の飼育頭数が増えるにつれ、誤飲で来院する猫の数は増えいているように日々感じます。今回は猫の誤飲について獣医師の佐藤が解説します。

この記事を執筆している専門家

佐藤貴紀獣医師

獣医循環器学会認定医・PETOKOTO取締役獣医師

佐藤貴紀獣医師

獣医師(東京都獣医師会理事・南麻布動物病院・VETICAL動物病院)。獣医循環器学会認定医。株式会社PETOKOTO取締役CVO(Chief veterinary officer)兼 獣医師。麻布大学獣医学部卒業後、2007年dogdays東京ミッドタウンクリニック副院長に就任。2008年FORPETS 代表取締役 兼 白金高輪動物病院院長に就任。2010年獣医循環器学会認定医取得。2011年中央アニマルクリニックを附属病院として設立し、総院長に就任。2017年JVCCに参画し、取締役に就任。子会社JVCC動物病院グループ株式会社代表取締役を兼任。2019年WOLVES Hand 取締役 兼 目黒アニマルメディカルセンター/MAMeC院長に就任。「一生のかかりつけの医師」を推奨するとともに、専門分野治療、予防医療に力をいれている。

猫が誤飲しやすいもの

猫

猫が誤飲しやすいものや実際に誤飲が起きた症例を紹介します。

  • ゴム
  • ビニール
  • 衣類
  • 紐(ひも)
  • おもちゃ
  • スポンジ

ゴム

特に「髪ゴム」が誤飲されることが多いです。髪ゴムには飼い主さんの匂いもついていて、サイズも飲み込みやすいためだと考えられます。

ビニール

コンビニのビニール袋の取っ手の部分、タバコのフィルムなどは猫が好む素材ですので特に注意が必要です。

衣類

靴下、ニット素材のもの、Tシャツなど、やはり飼い主さんの匂いがついているものを食べてしまうことがあります。特にウールを好んで食べることを「ウールサッキング」といい、これはなかなか治療しても改善しないため、猫が届く範囲に衣類や毛布を置かないことが大切です。

紐(ひも)

猫の小腸に入っていたおもちゃの紐
猫の小腸に入っていたおもちゃの紐。先端の丸い部分が胃に引っかかっていた

おもちゃについている紐、靴紐、包装用リボン、そのほか釣り糸など細いものも飲み込むことがあるので注意が必要です。紐状の異物を飲み込んでしまうと、腸管が紐に締め付けられるため、腸が破ける危険性があります。

そのため一般的な異物より危険性が高くなります。ビニールやゴムも紐状になっている場合、同様の危険性があります。

おもちゃ

猫の胃の中から摘出したネズミのおもちゃ
ネズミのおもちゃ、右二つが胃の中から摘出したもの。一番左は自宅から持ってきてもらったもの

ボールやネズミのおもちゃなどに注意しましょう。猫はもともとあまり食べ物を噛み砕く動物ではありませんので、5cmぐらいのものであれば飲み込むことができます。

おもちゃで特に危険性が高いのは本物の獣毛(鳥の羽、毛皮など)を使っているものです。おそらく本物の匂いがするため、食べ物だと思って飲み込んでしまうのでしょう。

スポンジ

意外と多いのがスポンジ状の異物です。子ども用の転倒しても大丈夫なマットやバスマットなどを猫がかじってしまうことがあります。

猫が誤飲したときの症状

あくびする猫

食欲不振、元気消失、そして嘔吐が主な症状になります。特に嘔吐は腸管が詰まってしまうと1日に10回以上吐くこともあります。

日頃吐かない若齢の猫が3回以上嘔吐する場合は、異物の可能性があるので、何か無くなったものはないか周囲を見渡してみましょう。

愛猫の誤飲を疑う場合

誤飲をしたか確実な現場を見たわけではなく「誤飲したかも…」と思った場合は前述した「食欲不振」「元気消失」「嘔吐」の症状がない限りは静観してみてもいいかもしれません。

とはいえ症状として現れるまでに個体差がありますし、愛猫のことを長時間見ていることができず、不安がある場合は動物病院に相談しましょう。

猫が誤飲した時の対処法

猫

明らかに何かを飲み込んだ現場に遭遇した場合、すぐに動物病院を受診してください。まだ胃の中に残っていれば、促吐処置(吐かせる治療)を行うことができます。

一概にはいえませんが、2時間以内であれば胃内に残っている可能性が高いです。時間が経過している場合もできるだけ早く受診することで治療の選択肢が増えるので、できる限り早く受診しましょう。

誤飲に気づけなかったら

愛猫の誤飲に気づけず、放置してしまうと腸閉塞を引き起こしてしまう可能性があります。腸閉塞2、3日続くと腸が破裂し、他の病気を引き起こしたり、最悪の場合には死亡してしまうので、少しでもおかしいなと感じたら動物病院で診てもらってください。

猫の誤飲の検査方法

猫の誤飲が疑われる際は、「レントゲン検査」や「バリウム検査」「超音波エコー検査」で確かめます。

レントゲン検査

鈴を誤飲してしまった猫のレントゲン写真
鈴を誤飲してしまった猫のレントゲン写真。白矢印の先の球状の物体が鈴

X線の透過性を利用し、お腹の中を写すことができる検査です。特に上記の写真のような金属など硬いものを検出するのが得意です。

布や紐は柔らかいので、金属ほどはっきりうつりませんが、ガスの貯留や腸のポジションからあたりをつけることはできます。

バリウム検査

靴紐を誤飲したと疑われる猫のレントゲン写真、手術写真、実際に摘出した紐の写真
左:レントゲン写真の白い範囲がバリウム。丸の部分はバリウムが蛇行しており、紐上の異物を疑う。
右上:実際の手術写真。腸が締め付けられている。
右下:実際に摘出した紐。靴紐と思われる
こちらから実際の写真をご覧いただけますが、血や生々しい写真が苦手な方はご注意ください。

レントゲンでバリウムを撮るとほとんどX線が透過しない特性を利用した検査です。バリウムを口から飲ませ、消化管内をバリウムが進むのを継時的に評価することができます。

超音波エコー検査

猫が誤飲した際の超音波エコー検査<
左:胃から十二指腸にかけて、超音波が反射しない領域が観察された(白矢印)
右:実際に摘出した異物。クッション素材のおもちゃ

超音波の反響を利用して、お腹の中を診ることができる検査です。消化管の動きをリアルタイムに見ることができるので胃や腸がしっかり動いているのかも観察することができます。レントゲンよりも細かい部位を見たいときに有効な検査です。

猫の誤飲の治療法

猫

猫が誤飲した際は開腹手術や自然排泄を待つなど、状況によって治療法が異なります。治療費用は各院の規定によります。

催吐処置

異物が胃の中に残っており、吐かせても安全な異物の場合は催吐処置を行います。紐状異物や鋭利な異物は消化管を傷付ける可能性があるので適応にはなりません。

アニコム損害保険のデータによると、催吐処置にはトラネキサム酸の静脈注射とオキシドールの経口投与を行うことが多いです。

トラネキサム酸の静脈注射とオキシドールの経口投与にはそれぞれメリット、デメリットがあるのでどちらの方法をとるのかは獣医師の判断になります。

開腹手術

開腹手術では消化管を切開し、直接異物を取り除きます。異物が小腸で詰まっていたり、紐状異物の場合は開腹手術が必要になります。

また紐状異物は消化管内に絡まっていることがあり、その場合は複数箇所の消化管を切開することがあります。猫のダメージは最も大きいですが、消化管内全体を確認することができるため、より確実に安全に取り除くことができます。

内視鏡による摘出

口からカメラを入れ、「鉗子(かんし)」と呼ばれるアームで異物をつかんで取り除きます。鉗子にはバスケット鉗子といってネット状に広がるタイプのものもあり、アームでつかむ場所が無い丸い異物でも取り除くことができます。

しかし、異物が尖っていると取り除く時に食道を傷付けるため適応できない場合があります。異物が完全に腸にはまっている場合も、アームの力が足りず取れません。

そして紐状異物の場合は引っ張ると危険性が高いため、これも適応になりません。そのため内視鏡で取れる異物というのは意外と限定されます。

メリットとしては、やはり開腹をする必要が無いためダメージが少なく、状態が良ければその日のうちに退院することもできる点です。猫の場合、内視鏡でも全身麻酔は必須になります。

自然排泄を待つ

異物があっても小さかったり、症状が出ていなかったりする場合は便と一緒に排泄するのを待つ選択肢もあります。

小さい布や、短い紐の場合は詰まらなければ順調に肛門まで通過することがあります。便を分解すると意外と紐やビニールなどが混ざっていることがあります。

しかし、飼い主さんご自身で自然排泄を待って良いか判定するのは難しいです。猫の状態や異物のサイズ、形状などから判断する必要がありますので、必ず獣医師と相談してください。

日頃から猫の誤飲が起きない環境作りを

ねこ
猫の誤飲は犬と比べて少ないですが、一定数は毎月診察しています。

ゴムや糸などの紐状異物は特に危険なので、猫が口にできないよう引き出しなどにしまっておきましょう。おもちゃも遊び終わったら出しっぱなしにせず片付ける習慣をつけましょう。

異物の治療はできるだけ猫の負担が少ないものを選びます。早いタイミングで受診することで選択肢が広がりますし、手術の安全性も高まります。一度誤飲をした猫は繰り返すことがありますので、回復した後は対策をしっかり練って再発予防に努めましょう。