猫の鳴き声でわかる気持ち!種類別に意味を行動診療科認定医が解説
犬よりも社会性が低いと言われる猫。実は、いろいろな手法を使ってちゃんとコミュニケーションを取ってくれています。今回は猫の鳴き声の種類やそれぞれの意味について、獣医行動診療科認定医で、にいがたペット行動クリニック院長の白井が解説します。
猫の鳴き声によるコミュニケーション方法
猫のコミュニケーション方法には、主に「聴覚(鳴き声)」「嗅覚(匂い)」「視覚(体の動き)」の3つがあり、これらを用いて猫同士や人間、他の動物に対していろいろなことを伝えようとしています。
私たち人間が猫の気持ちを読み取るときは、「視覚」と「聴覚」は理解できても、残念ながら匂いを感じることは難しいでしょう。猫の行動を深く理解するためには「視覚(体の動き)」も同時に習得する必要がありますが、今回は「聴覚(鳴き声)」について解説します。
「うちの猫はなんで鳴くんだろう?」「何を考えているの?」と飼い主さんに思われることも多い猫ちゃん。猫が鳴く意味や、鳴き声から猫ちゃんの行動を理解することで、猫ちゃんの気持ちをわかってあげられるようになります。なぜ鳴いているのか。猫ちゃん語を一緒に学んでみましょう!
猫の鳴き声の起源は「争いを避けるため」
猫は「単独生活動物である」と聞いたことがある方もいると思います。猫の先祖であるリビアヤマネコ(※)は強い縄張り性を持つ動物だと考えられており、家畜化が進み人間社会で暮らすことになった猫もその習性を受け継いでいると考えられます。
そんな非社会的な動物である猫が、人間社会において猫同士や人間、他の動物と接近して生活し、協力によって恩恵を得ようとする場合には、暴力に頼ることなく争いを解消する能力が必要になります。
あらゆる行動シグナルを用いて争う必要がないように距離を保つことが重要となった結果、「鳴き声」というコミュニケーションを活用することによって、他の動物との距離を保ちながら突然出くわすのを防いでいるとされています。猫の鳴き声は、「相手との争いを避ける」「縄張りでの接触を避ける」という意味合いで、争いを避けて生活するために発達した行動なのです。
※学名:Felis silvesris libyca(フェリス・シルヴェストリス・リビカ)
猫同士が鳴き声でコミュニケーションを取る理由
猫同士では、それほど鳴いてコミュニケーションは取ることはありません。大人同士の猫であれば、視覚(体の動き)を用いてコミュニケーションを取ることが多いです。猫同士で鳴いてコミュニケーションを取る場合は、以下のような意味合いが考えられます。
1. 争いを避ける
縄張りに侵入してこないように、鳴き声で相手に情報を送ることが多いでしょう。視覚や嗅覚を利用できない場合は、鳴き声で対応することもあります。また、視覚や嗅覚を利用しつつ、同時に鳴き声も出しながら自分の感情を表すこともあります。多くは相手との争いを避けるための行動シグナルです。2. 要求
子猫が母猫に母乳や食べ物をねだる時に鳴くことがあります。飼い主に対しても同じような状況で鳴くことがあり、お腹が空くと鳴いてアピールする猫ちゃんもいると思います。鳴くことで自分の要求が満たされることを学習すると、鳴く行動が増えます。猫は学習によっても鳴くようになる動物です。野良猫と家猫の鳴き声の違い
野良猫の場合、鳴く行動の多くは「縄張りでの接触を避ける」「争いを避ける」「発情期」が主な場面になると考えられます。しかし、野良猫の場合でも人間との接触がどの程度であるか、食べ物などの必要な資源がどの程度満たされているかなどでも、行動が変化するでしょう。人間が全く介入せず、野生動物と近い形で生活しているような野良猫は、先祖であるリビアヤマネコに近い行動様式であると思われます。
家猫の場合は人間との接触が多く、人間社会に適応するように行動パターンも変化しています。人間とのコミュニケーションを行なう上で、自分にとって有効な鳴き声などを学習して習得していると考えられています。
人間に対して鳴く行動は、「自分にとって得」であると学習した結果のおしゃべりが多いでしょう。完全室内猫であれば、縄張りに侵入してくる動物や猫の存在も少ないことから、争いを避けるために鳴く行動は確実に減少するでしょう。
おしゃべりな猫とそうでない猫がいます
ずっとしゃべっているような猫ちゃんもいれば、寡黙(かもく)な猫ちゃんもいると思います。単独生活動物である猫は、本来そこまでおしゃべりな動物ではありません。鳴き声によってコミュニケーションを取ることは、必要最低限で行なうことが多いからです。ただ、人間と生活する上で「鳴くと要求が通る」と学習した猫にとっては、鳴き声は最高の武器になることがあります。
家畜化された動物は、「ネオテニー」という子供の頃のような行動が年を取っても続きます。これには、甘えるような行動や遊び行動も含まれます。この一貫で、大好きな飼い主さんに甘えたり、遊びを誘ったりするために鳴く行動を学習した猫も多いでしょう。
猫の種類によってはおしゃべりな性質が強い猫種も報告されています。ただ、人間でもおしゃべりな人とそうでない人がいるように、猫も個体差が大きいと思います。
猫の鳴き声でわかる気持ち
猫同士の鳴き声は、主にお互いの距離感を安全に保つためのツールとして活用されています。猫にとって「鳴く」という行為は、社会的な親和行動をするためではなく、争いを避けるための目的が強いのです。
多頭飼育の猫ちゃんたちを観察していると、「これ以上こっちにこないで!」などの意志を伝えるための鳴き声はあるかと思いますが、仲良くするためにおしゃべりしている姿はほとんど観察されないと思います。ご自宅の猫ちゃんたちも観察してみてください。猫同士でしゃべる時は、あまり良くない状況が多いと理解するとよいでしょう。
鳴き声の種類はさまざまですが、以下で代表的な猫の鳴き声を11種類とその意味を説明します。基本的には、要求や甘え、危険を知らせるときなどは高い声になり、威嚇や警戒をしているときは低めの声になると言われています。ただし猫の鳴き声には個体差があり、状況によっても変化します。また、例としてそれぞれ映像も紹介しますが、あくまで鳴き方の一例としてご覧いただければと思います。
猫の鳴き声:1. ミャオウ(イアオー)
最もよく聞かれる声で、挨拶や行動開始時などに発せられます。猫の鳴き声:2. ミャアミャア
やわらかくリズミカルな鳴き声です。要求、挨拶、おねだりするときやかまってほしいときなど、注意を自分に向けさせるための鳴き声で、内容や状況に応じて鳴き方を微妙に変化させます。猫の鳴き声:3. ミー
高いピッチの「イー」と聞こえる鳴き声で、子猫が母猫に対して鳴く声です。猫の鳴き声:4. ファーン
やわらかい蜂の羽音のような鳴き声で、子猫または上下関係のある猫たちの間で劣位の猫が発します。猫の鳴き声:5. ウー、ングゥ
不快な低いピッチで、ゆっくり発せられます。のどから絞りだすような低音の声です。相手に対して恐怖心や敵対心を感じていることを示す警戒のシグナルです。猫の鳴き声:6. シュー、フー、シャー、カッ、ペッ
口を空けて、歯を閉じた状態で出す鳴き声です。防御または能動的な攻撃時に出されます。強い恐怖や怒りを感じている時にだす威嚇や警戒のシグナルです。この警告を無視してさらに近付けば、猫パンチなどで攻撃されます。猫の鳴き声:7. ンギャー、ミャーオー
大きくて高いキンキン声やしわがれ声です。不安や強い恐怖心、パニック状態、苦痛があるときなどに出します。猫同士のケンカや攻撃の前にも発せられ、「これ以上近づくな。来たら攻撃するぞ」という警戒や威嚇のシグナルです。発情期のメスでも似たような声が聞かれます。猫の鳴き声:8. キィー、キャア
甲高くて大きいキーキー声です。激しい痛みに対する叫び声で、交尾後のメスでも聞かれます。猫の鳴き声:9. カチカチ
狩りの際に発する歯をぶつける音で、特に、狩る対象がいるにもかかわらず行けないときに発せられます。猫の鳴き声:10. モーン
頻度は少なく長く発せられる鳴き声です。「オー」「ウーン」と聞こえます。毛玉を吐き出す際や狩りに出かける際など行動を起こす前に発せられます。猫の鳴き声:11. ごろごろ音
のどを鳴らす音です。甘え、安心、リラックスなど、相手に悪意がないときに聞かれます。相手をなぐさめるとき、自分の気持ちを落ち着かせるとき、具合が悪いときなどに出すこともあります。鳴き声と体の動きから猫の気持ちを感じ取ろう!
多様な猫の鳴き声を紹介しましたが、これらは単独生活をしていた猫が、人間社会での生活に適応するために発達させてきたコミュニケーションツールです。例えば、「ミャオウ」という鳴き声は人間との相互作用で最も発する機会の多い鳴き方ですが、実は猫同士ではほとんど聞くことがない鳴き声です。人間との関わりの中で、学習によって習得された行動だと考えられています。
ある実験では、食事制限をすることで2時間以上に渡って1分間に2回の割合で「ミャオウ」という鳴き声を発するように仕向けることができたという結果も報告されています(Farleyら1992)。また、「ミャオウ」という音声の頻度や持続時間、形式についても、猫によって、または同じ猫でも、さまざまなものが認められます。目的に応じて、異なる「ミャオウ」という音声の発し方を学習しているのでしょう。
人間はコミュニケーションにおいて言語を重要なツールとする動物ですが、猫は残念ながら鳴き声だけで全ての気持ちを判断することが難しい動物です。私たち人間が猫の気持ちを読み取るためには、鳴き声だけでなく、猫の体の動きの変化や表情の変化など、ボディーランゲージ(体の動き)を習得することが必要不可欠になります。体の動きと鳴き声の両方から、猫ちゃんの気持ちを感じ取ってみてください。
ただ、猫ちゃんの行動を観察して気持ちを読み取ろうとするのはとても良いことなのですが、凝視しないようにしてください。猫はじっと見つめられることがとても苦手です。なんとなく視界に入れながら、ゆっくりした動きで観察してみてください。それが、猫と仲良くなる秘訣の一つでもあります。
参考文献
- 内田佳子、菊水健史『犬と猫の行動学 基礎から臨床へ』学窓社
- デニス・C・ターナー、パトリック・ベイトソン『ドメスティック・キャット その行動と生物学』チクサン出版社
- 全国動物保健看護系大学協会 カリキュラム検討委員会『専門基礎分野 動物行動学』インターズー
- 森裕司、武内ゆかり、内田佳子『動物行動学』インターズー