猫の発情期|行動診療科獣医師が性別による違いや対策を解説

猫の発情期|行動診療科獣医師が性別による違いや対策を解説

春先など暖かい季節になると聞こえてくる野良猫の鳴き声。「うるさい」と感じる方もいるかもしれません。それは縄張り争いによるケンカによるものでしょうか。それとも繁殖行動に関連したものでしょうか。今や室内飼いのほとんどの猫は避妊手術・去勢手術されており、家の中でそういった鳴き声を聞くことはほとんどないでしょう。ただ、中には「保護した猫が発情期でどうしよう」という方や、TNR(※)する際に発情期に関する知識を知っておきたいという方もいらっしゃると思います。そんな方のために発情期について行動学的観点からオス・メスの行動の違いや、対策について獣医師の鵜海が解説させていただきます。

※TNRは「Trap(捕獲して)」「Neuter(不妊去勢手術を行い)」「Return(元の場所に戻す)」の略

猫の発情期とは

猫

まず「発情している」「発情していない」っていうけど、そもそも「発情ってなに?」というところからお話しなければなりません。「とりあえず結論が知りたい!」という方はこの項は飛ばしてもらって構いません。

発情の定義

広義には動物が交尾可能な生理状態にあることをいうが,狭義には成熟した哺乳類のメスが,オスの接近を許し,交尾に応じることのできる生理状態にあることをいいます。(平凡社/世界大百科事典 第2版)

つまり狭義に言えば発情はメスのものであって、オスは発情しません。そして獣医学的には狭義の意味を用いますので、ここでもメスの状態のみのこととして用いさせていただきます。

参考

  • estrus(発情)の定義:一般的な生殖感受性の周期的な状態のことで、その間、哺乳類の雌が雄を受け入れ、妊娠可能な状態であること(Merriam-Webster「estrus」
  • rut(発情)の定義:繁殖衝動に関連した行動が示される間の特定の動物の雄(シカやヘラジカなど)の毎年定期的に繰り返される状態(Merriam-Webster「rut」


では発情がどういうことかわかったところで、その時期や期間について解説します。

発情が始まる年齢

猫

発情が始まる時期は生後4~12カ月くらいです。オスの性成熟も同様の時期に生じてきます。短毛種長毛種に比べ、発情開始時期が早いといわれています。また、野良猫は飼い猫よりも発情開始時期が早い傾向にあります。体が小さいからと言って油断していると、いつの間にか子猫を産んでいるかもしれません。また、人と違って閉経はなく、避妊手術を実施しなければ発情は終わりません。避妊していない子で、「いつもくる発情が今回はみられないな」と感じることがあったら、もしかすると病気に関連して発情が来ていないだけかもしれません。基本的には生涯に渡って受胎可能でありますが、高齢になればなるほどその確率は減少していきます。

発情期が起こりやすい時期・季節

横たわっている猫

猫は長日繁殖動物のため、日照時間が平均12時間以上になると発情するといわれています。そのため2月~9月の間に発情期となり、排卵されない限り、平均21日周期で発情期が繰り返されるといわれています。ただし、平均60日前後の妊娠を含めて、年間およそ3~4回程度発情が訪れることが一般的なようです。また、発情期の開始から次の発情期の開始までを発情周期と呼びます。猫の場合ですと、発情前期(0〜1日)→発情期(2〜6日)→発情間期(8〜15日)→発情前期→……というサイクルをたどります。

基本的には交尾刺激がなければ排卵せず、平均21日の発情周期があります。日照時間は自然光だけでなく人工光の影響も受けるため、都会の野良猫や、室内飼いの猫は発情期間が長くなっているといわれています。また、完全室内飼いで光を浴びる時間が12時間以上でも、冬期の発情は散発的です。また必ずしも一回の交尾で排卵が生じるとは限らず、交尾の日、質、間隔、回数などに影響を受けます。そのため猫は短時間の間に複数回交尾を行い、受胎率を高めています。

オスに関してですが、オスは年中繁殖可能な状態にありますが、発情期のメスのフェロモンに誘発されてのみ繁殖行動を示します。なので、オス特有の周期は存在しませんが、繁殖に関連した行動はメスと同期しており2~9月あたりに限られます。

猫の発情期の行動

威嚇してる猫

ではそんな発情周期をとる猫たちの発情期の行動は一体どういうものが挙げられるのでしょうか? オスとメスで行動が多少異なってまいりますのでそれぞれについて解説します。飼い猫がオスでもメスでも、日常生活で気を付けなければならないことは「どんなに鳴かれても絶対外には出さないこと」と「異性の猫と触れ合わせないこと」の2点です。

オスの行動

メスを求め活動的になり、放浪するようになります。また、夜に多いようですが、激しく鳴き、競合するオスとケンカになることがあります。また、消極的な猫では他のオス猫の脅威から不安に関連した行動がみられることもあります。こういった時期に外に出ている猫は怪我を負いやすいかもしれません。

メスの行動

発情前期では懐っこくなり、甘えてくることが増えます。体を擦り付ける行動やローリングといった体をくねらせる行動も認められます。発情期にはオスを求めるようになるため、活動が亢進したり、オス猫をおびき寄せるため、わめくようなうなり声をあげたりします。ロードーシスといったおしりを突き出すようなオスを受け入れる姿勢をとったり、尿スプレーによりフェロモンを強調したりする猫もいます。発情間期には繁殖に関連した行動は示しません。犬ほど多くはないと感じますが、中には発情期に食欲減退する猫もいます。

余談ですが、猫に発情出血(いわゆる生理)はありません。人間や犬は周期排卵ですが、猫の場合は交尾排卵のため、交尾してから排卵が生じ着床の準備が始まります。そのため、周期的に子宮内膜が剥がれ落ちる生理という現象がありません。また猫に偽妊娠はありえますが、ごくごくまれです。何らかの刺激により、下垂体からLHサージ(※)が生じることにより排卵が惹起され、体が妊娠したと勘違いすることにより起こりえます。
※黄体形成ホルモン が一過性に放出される現象


猫の発情期行動の対策

猫

さて、発情の全容がみえてきました。では発情に際してできる対策はどういったことがあるのでしょうか? 第一選択として避妊手術・去勢手術があります。そもそも繁殖に関連して生じる行動は、「メス猫が発情期になってしまう」「オス猫が発情期のメス猫に誘発されてしまう」といったことでした。つまり、メス猫であれば「発情させないようにする」、オス猫であれば「性的欲求を感じさせないようにする」ということが根本的な解決方法で、それが避妊去勢手術となります。避妊手術・去勢手術をすることによって、メリット・デメリットそれぞれありますので、それぞれ確認の上で検討してください。

子宮卵巣・精巣に関わる避妊去勢手術で予防できる病気

  • 子宮卵巣・精巣の腫瘍
  • 子宮蓄膿症(犬よりも発生率は少ない)
  • 乳腺腫瘍(猫の場合ほどんどが悪性) など


避妊去勢手術のメリット

  • 生殖器に関連した病気が生じなくなる・生じにくくなる
  • 繁殖行動に関連するスプレー行動が軽減される
  • メス猫の発情が来なくなる
  • メス猫の発情に際するフェロモンに対してオス猫が関心を示さなくなる
  • オス猫の尿の臭いが軽減される
  • 母性に関連した問題行動がなくなる


避妊去勢手術のデメリット

  • 太りやすくなることがある
  • 全身麻酔による予測不能な副反応が極々稀にある


野良猫・野良犬の対策として、避妊去勢手術に対して助成金を出している自治体もあります。去勢手術は2万円前後、避妊手術は3万円前後、と決して安いものではありません。特にTNRや地域猫を考えている方は費用的な問題が出てくるはずです。そういった方も、そうでない方も申請を検討してみてはいかがでしょうか。詳細については各自治体に直接問い合わせてください。

避妊去勢手術をしない場合

見つめる猫

どうしても避妊去勢手術できない、したくないという方は以下の4つの対策が有効かもしれません。

  • 異性を感じさせない
  • たくさん運動させる
  • 甘えてきても放って置く
  • トイレシートをたくさん敷く


異性を感じさせない

繁殖に関連した行動で、異性を感じ取った際に出るような行動は、環境整備で多少軽減できるかもしれません。具体的にどういうことかというと、「外に出さない」「外を見せない」「発情期の鳴き声を聞かせない」「野良猫を家に近づけさせない」などです。ただし、メスのフェロモンは遠く離れていても感じ取ることができるため、完全に遮断することは現実的には不可能です。

たくさん運動させる

発情期に困る行動で多いのが、夜鳴きです。飼っている人は近隣に対する迷惑や自分自身に対する騒音でおちおち寝ていられません。そこで、日中に疲れさせておけば夜中に起きて鳴く行動も少なくなるかもしれない、という対策です。ただし、若くて体力が有り余っている子には効果が薄いかもしれません。



甘えてきても放って置く

繁殖に関連する行動に対して飼い主が反応してしまうと、よりその行動が強化されたり、関心を求める行動となったり更に飼い主を困らせるかもしれません。基本的にはそっと見守ってあげましょう。

トイレシートをたくさん敷く

スプレー行動が多くなることがあるので、スプレーしそうなところにトイレシートを敷いたり、絶対スプレーしてほしくないところにアルミホイルを敷いたり、スプレーした場所は酵素系の洗浄剤できれいにふき取るなどするとよいかもしれません。ただし、繁殖に関連したスプレーは避妊去勢しなければ無くすことは不可能です。



発情期行動の誤った対策

猫

以下の対策に関してはさまざまな情報がありますが、愛猫のためにしないほうがよいでしょう。

綿棒・またたび

綿棒による擬似交尾に効果があると言われている記事を散見しますが、基本的に会陰部はデリケートで、膣の近くには尿道もあります。万一傷つけてしまった場合は血尿が出たり、尿が出づらくなったり、誤って膣を貫通してしまう危険性もありとても危険です。また「綿棒で刺激して発情を止めてください」と動物病院に相談されてもまず実施されません。どこの動物病院でも避妊手術が第一選択としています。

またたびに関しても、一時的に性的興奮から気を逸らすことができるかもしれませんが、何回も与えていれば慣れてきますし、慣れてきたからといってたくさん与えすぎてしまう危険性があります。



繁殖に関連した行動のしつけについて

繁殖に関連した行動は全て本能的な行動なので、しつけでどうにかできるものではありません。叱責や体罰などはもってのほかで、猫に対してただ恐怖を植え付け、飼い主との関係性を崩すだけです。いくら粗相や大声で鳴かれたからといって、それが繁殖に関連する行動であれば、なおさら叱ることは絶対にやめましょう。

愛猫のための選択を

見つめる猫

以上発情について述べてきましたが、避妊していない猫は年数回妊娠の機会があり、交尾を行えばそのほとんどが出産するといって過言ではありません。そうやって野良猫が漠然と増えていっては生まれてきた子猫も報われません。また、完全室内飼育でも万が一外に出ていかないとも限りませんし、発情に際したストレスは我々が想像する以上に辛いものでしょうし、一緒に住む人間や近隣住民も年数回に渡って多大なストレスを感じて生活しなければなりません。

避妊去勢していない猫は犬ほど多くないにしても、年を取ってくると生殖器に関連した病気も出てきます。それらの事情を鑑みても避妊去勢しない理由はありません。一獣医師として、一市民として大切な愛猫のために避妊去勢手術の実施をお勧めします。この記事で1匹でも多くの猫が幸せに生きられるように願っています。

参考文献
  • 「犬と猫の問題行動の予防と対応」監修:水越美奈 発行所:緑書房
  • 「Feline Behavioral Health and Welfare」 ILONA RODAN,SARAH HEATH ELSEVIER
  • 「小動物の繁殖と新生子マニュアル(第二版)」監修:津曲茂久 発行所:学窓社


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