犬のニキビダニ(毛包虫)症|原因や治療法を獣医師が解説

犬のニキビダニ(毛包虫)症|原因や治療法を獣医師が解説

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犬のニキビダニ(毛包虫・アカラス)症は免疫力が低下することで脱毛や皮膚の赤みなどが起きる病気です。局所性であれば予後は良好ですが、二次感染を伴う全身性になると重症化リスクが高まります。今回はニキビダニ症の原因や駆虫薬・シャンプーを用いた治療法について、獣医師の佐藤が解説します。

犬のニキビダニ(毛包虫)とは

ヨークシャーテリア

ニキビダニは「アカラス」や「デモデックス」とも呼ばれ、毛の根元にある毛包に寄生することから「毛包虫」とも呼ばれます。実はほとんどの哺乳類の皮膚に常在する共生動物で、免疫機能が正常である限り害を及ぼすことはありません。発症すると脱毛や皮膚が赤くなるなどの症状が現れます。

免疫機能が未熟な子犬や低下したシニア犬(老犬)で多く見られ、成犬でもアトピー性皮膚炎や甲状腺機能低下症、腫瘍などの病気や薬によって免疫力が低下することで発症します。


犬のニキビダニは人にうつる?

犬のニキビダニ(Demodex canis)は生後数日において母親から授乳中の新生仔へ毛包虫が移行すると考えられています。日本では、人や猫など他の動物種にうつることは報告されておりません。非常にまれなケースとして、トルコで犬のニキビダニが飼い主にうつった症例が報告されています(※)


犬のニキビダニ(毛包虫)症の症状

ニキビダニ(毛包虫)症を発症した犬は脱毛やフケ、皮膚が赤くなるといった症状が見られます。脱毛は目の周りなど顔から始まり、強い痒みはありません。脱毛が局所的であることから「局所性毛包虫症」と呼ばれます。

細菌の二次感染を起こして悪化すると脱毛が全身に広がり、出血や強い痒みを伴うようになります。この場合は「膿毛包虫症」や「全身性毛包虫症」と呼ばれます。

犬のニキビダニ(毛包虫)症の原因

ボステリ

犬のニキビダニは、寄生されている母犬や他の犬から生後数日〜1年未満の子犬に感染します。ほとんどの犬に常在して通常は問題にならないため、感染を避ける必要はありません。

免疫機能が未熟な子犬ではストレス(環境の変化など)や消化管の寄生虫感染などが原因で発症し、成犬では発情や妊娠などのストレス、アトピー性皮膚炎や甲状腺機能低下症、クッシング症候群、糖尿病、腫瘍などの病気、免疫抑制剤やステロイドの長期使用などが原因になります。シニア犬(老犬)ではそれらに加えて老化による免疫力低下も原因になります。

傾向として2歳未満の犬で多く見られ、犬種ではフレブルやパグ、シーズー、テリア種に多いという報告もありますが(※)すべての犬種、年齢で起こる可能性があります。


犬のニキビダニ(毛包虫)症の治療法

ジャックラッセルテリア

毛包虫症の症状が見られる場合、皮膚を削り取ったり(掻爬検査)被毛を抜いたり(抜毛検査)して顕微鏡でニキビダニやその卵、幼虫などの数を調べて診断を行います。

局所性毛包虫症の治療法

ニキビダニ(毛包虫)症が初期の局所性であれば、イベルメクチンやドラメクチンなどを注射して駆虫します。ただ、注射は週1回の来院が必要になること、イソオキサゾリン系化合物に有効性があることがわかってきたことから、ネクスガード(アフォキソラネル)やブラベクト(フルララネル)などの内服薬が選択される場合もあります(※)

なお、イベルメクチンはコリーやシェルティ、シェパードなどの牧畜犬種に遺伝的な副作用を起こす可能性があります。毛包虫症の治療ではフィラリア予防より高用量のイベルメクチンを必要とするため、使用を避けるのが一般的です。以前はアミトラズという殺ダニ剤を使った薬浴も行われていましたが、副作用のリスクが大きいため現在は行われません。


全身性毛包虫症の治療法

局所性毛包虫症の治療法と組み合わせて治療を行います。全身性で膿皮症などの細菌感染を併発している場合は抗生物質を投与します。アトピー性皮膚炎や甲状腺機能低下症、クッシング症候群、糖尿病、腫瘍など免疫機能を低下させる要因が別に存在する場合は、それらを治療しない限り治療が長期化したり、再発したりする可能性が高くなります。大事なことは、免疫力を下げている原因を特定し、基礎疾患となる疾患を治療することです。


ニキビダニ(毛包虫)症のシャンプー療法

免疫機能が未熟な子犬で起こる局所性の毛包虫症は自然治癒することが少なくありません。毛穴を清潔に保ち免疫機能をサポートするためにも、薬用シャンプーを用いることは有効となります。


犬のニキビダニ(毛包虫)症の予後・再発リスク

成犬の局所性毛包虫症であれば予後は良好です。皮膚を清潔に保ち、駆虫薬を効果的に用いることで症状を改善することができます。全身性毛包虫症の場合は二次感染の原因を取り除くことで改善しますが、痒みや痛みが酷く重症化して敗血症になると死に至る可能性があります。

子犬やシニア犬(老犬)など免疫機能の未熟や低下が原因になっている場合は再発の可能性が高くなります。ストレスのない生活や衛生的な環境、栄養がしっかり摂れる新鮮なごはんを与えることで再発リスクを下げることができます。症状が見られた場合は早期に治療することが大切です。

まとめ

ミニチュアシュナウザー
ニキビダニは皮膚に常在する共生動物
犬から人にうつることは基本的に無い
局所性は予後良好だが全身性は要注意
免疫力を高める生活改善が再発を防ぐ
犬のニキビダニ(毛包虫)は皮膚に常在する共生動物であるため通常は問題になりませんが、免疫力が低下することで脱毛や皮膚の赤みなどの症状が見られるようになります。子犬やシニア犬(老犬)では再発リスクが高まりますので、日頃から免疫力を高める生活を心がけてください。