生肉ベースのペットフードは細菌にご用心 フィンランド・ヘルシンキ大学から報告
生肉はカンピロバクターやサルモネラ、エルシニアなど、人に胃腸炎などを起こす可能性のある細菌に汚染されていることがあります。これらの細菌について、今まで報告された論文は少なかったのですが、2017年にフィンランドのヘルシンキ大学から市販されている生肉ベースのフードからどのくらい菌が検出されているのか、またそれらを与えられている犬猫のウンチにどのくらい菌が排出されているか調査した論文が出ましたので、獣医師の福地が解説します。
近年、犬や猫などのペットに生肉を与えることが健康に良いと一部の飼い主さんの間でムーブメントになっています。英語では「Raw Meat Based Diets(RMBDs)」などと呼ばれています。生肉ベースのフードは牛、豚、家禽(鶏など)、馬、狩猟対象動物、魚の肉、脂肪、内臓、軟骨、骨など、動物由来の原料を加工しないあるいは加工を控えたフードのことです。
さらに、「カンピロバクター」と言っても実は1種類の細菌を指すのではなく、いろいろな種類があります。例えば人に胃腸炎を起こす原因として有名な「カンピロバクター・ジェジュニ」や「カンピロバクター・コリ」という菌種がいます。犬や猫によく存在し、人に対しあまり悪さをしないと言われている「カンピロバクター・ウプサリエンシス」という菌種もいます。
ヘルシンキ大学の研究では、まず大きな仲間としてカンピロバクター属の菌がいるかどうかの検査をし、当てはまったものに関して人に病原性がある「ジェジュニ」や「コリ」について追加検査をしています。
カンピロバクター、サルモネラ、エルシニアとは
もしかしたら皆さんの中には食中毒のニュースなどで「カンピロバクター症」「サルモネラ症」「エルシニア症」などの名前を聞いたことがある方がいらっしゃるかもしれません。人に胃腸炎を中心とした症状を起こす菌として有名ですが、実は生の鶏肉や豚肉の表面に存在していることがあります。よく「肉を食べる時はよく火を通して」と言われるのは、これら食中毒の原因になる菌をやっつけましょうということなのですね。さらに、「カンピロバクター」と言っても実は1種類の細菌を指すのではなく、いろいろな種類があります。例えば人に胃腸炎を起こす原因として有名な「カンピロバクター・ジェジュニ」や「カンピロバクター・コリ」という菌種がいます。犬や猫によく存在し、人に対しあまり悪さをしないと言われている「カンピロバクター・ウプサリエンシス」という菌種もいます。
ヘルシンキ大学の研究では、まず大きな仲間としてカンピロバクター属の菌がいるかどうかの検査をし、当てはまったものに関して人に病原性がある「ジェジュニ」や「コリ」について追加検査をしています。
生肉ベースのフードで多かった原料は?
生肉ベースのフードの原料として多く使用されていたのは牛肉(43%)、鶏などの家禽の肉(41%)、豚肉(27%)でした。88製品のうち、21製品は1種類以上の肉を使用していました。どの部分が使用されたかは記載がありませんでした。カンピロバクターやサルモネラ、エルシニアなどの胃腸炎を起こすことが多い細菌は、12の製造元から作られた28%の製品で検出されました。検出された最近の中で最も多く見られたのがカンピロバクター属の細菌でしたが、人の食中毒で有名なカンピロバクター・ジェジュニやカンピロバクター・コリなどは検出されませんでした。生きている細菌がいるかどうか検査する培養検査では、全ての製品が陰性でした。これは冷凍という厳しい条件に一定期間さらされたためであると考えられます。
生肉ベースのフードから検出された菌はどれくらい?
細菌の遺伝子検査は生肉ベースのフードを与えられていた犬29匹の糞便と、ドライフードを与えられていた21匹の犬の糞便で行われました。どの犬たちも下痢などの症状はありませんでしたが、生肉ベースのフードを与えられていた犬の55%、ドライフードを与えられていた犬の33%からカンピロバクター属の菌が検出されました。統計学的には「どちらの群でも検出率に違いはない」ということですが、カンピロバクターの多くは犬や猫で一般的で、人に対して病原性は低いと考えられているカンピロバクター・ウプサリエンシスでしたが、生肉ベースのフードを与えられていた犬2匹(6.8%)でのみ人に病原性のあることが知られているカンピロバクター・ジェジュニが検出されました。
また生肉ベースのフードを与えられていた犬ではサルモネラとエルシニア・エンテロコリティカが検出されました。カンピロバクターは犬と猫両方で下痢などを出さずに存在すると考えられますが、人に対して病原性のあるカンピロバクター・ジェジュニは生肉ベースのフードを与えられている犬のみでみられたので、それが原因だった可能性があります。
猫では生肉ベースのフードを与えられていた完全室内飼いの猫2匹から採取した75サンプルの便について遺伝子検査が実施され、両方の猫で90%以上カンピロバクター・ヘルベティカという猫の腸からよく分離される菌で、人に病原性は低いと言われている種類のものが検出されました。
エルシニア・エンテロコリティカは同じ猫から2回だけ検出されました。サルモネラは2頭の猫から1回ずつ、同じ日に検出されています。エルシニア・エンテロコリティカは人では生の豚肉が感染源になることから、生肉ベースのフードが感染源となったのではないかと考えられます。1回だけ検出されたサルモネラも同じ日に2匹から検出されていたので、サルモネラが付いた生肉ベースのフードを食べたことで検出されたと思われます。
細菌検出率には国による差も。原料の生産国にも注意
フィンランドの小売店での鶏肉を調査したところ、カンピロバクター属やサルモネラの検出率がカナダやアメリカよりも低かったという報告があります。理由の一つに、フィンランドの農場ではサルモネラを持っている動物が1%未満と非常に低いためではないかと考えられます。飼い主さんは保管方法と糞便の片付けに注意
生肉ベースのフードを与えられている犬とそうでない犬に比べて、カンピロバクター属の検出率に統計的な差はないという結果でしたが、人に胃腸炎などの食中毒を起こす病原性のある細菌として知られるカンピロバクター・ジェジュニが、少ないとはいえ生肉ベースのフードから検出されました。これは人が生肉ベースのフードを与える過程で触るなどして感染源となる可能性があります。実際にそういった報告はまだありませんが、生肉ベースのフードでは「病原性のある菌がついている可能性がある」ということですので、与える時は直前まで冷凍するなど気を付けて扱いましょう。今回は複数の製品や動物で対象の菌の仲間たちが検出されましたが、症状を出していた動物はいなかったことから、「検出される=必ず症状を出すもの」ではなく、また必ず同じ空間で過ごしている人に移るものではありません。動物やフード、糞便の片付けをしたあとは手洗いをするなど一般的なことに気を付けていれば、十分予防できるでしょう。
調査概要
- 期間:2012年11月〜2017年5月
- 方法:RMBDs、犬猫の糞便をPCRという分子生物学的方法を用いた遺伝子検査並びに細菌培養検査。
- 対象:
- RMBDs:2015-2016年の間に12の製造元から生産された88種類の生肉ベースのフード。フィンランドで生産された原材料をフィンランド国内の製造元で加工販売してもの。
- 犬:2013年-2014年の間にRMBDsを与えられていた29匹の犬と、ドライフードを与えられていた21匹の犬の糞便。
- 猫:同じ家で飼養され、RMBDsを与えられていた2匹の猫。
- 1匹目:2015年11月3日-2016年11月28日までの47サンプル。
- 2匹目:2016年5月13日-201611月28日までの28サンプル。
- 出典:Raw Meat-Based Diets in Dogs and Cats