犬の交配|相手の探し方や交配料金、発情・出産の注意点まで【プロが解説】

交配は、新たな命を生み出すということです。産まれた子犬の体質や性格は、両親の遺伝によって大きく影響を受けることになります。健全な繁殖のために必要な事を知り、生まれた子の生涯についてり良く考えて判断する必要があります。健全な交配について、トイプードル専門ブリーダー「といぷーはうす」の上田が解説します。


犬の交配を決める前に考えるべきこと

トイプードル
交配を決める前に考えておかなければならないことは、産まれた子犬の生涯に責任が持てるかということでしょう。犬の出産は多頭で生まれることが多いため、あらかじめ生まれた子犬たちの行き先を決めておくことや、万一、奇形など先天的な問題を抱えて生まれた場合、飼育し続けることができるかなどをよく考えておく必要があります。

環境省の統計によると平成28年度に殺処分された犬の数は1万0424匹で、その内1943匹がまだ離乳もしていない幼齢犬です。生まれて間もない子犬が殺処分になるのは、不慮の妊娠やよく考えずに交配を行ったことにより、行き場の無い子犬たちを生み出してしまっていることになります。

繁殖には、命への責任が伴います。ご家庭の環境など諸事情を十分考慮し、不安がある場合には、ブリーダーなどの専門家とよく相談して、さまざまな状況に対応できる十分な準備を行う事が必要となります。

交配から出産までの知識

交配を行う際は、普段より厳密な母体の健康管理や生まれた幼齢犬のお世話が必要になります。また、出産には母子ともにさまざまなリスクが伴います。ヒート(生理)中は、ホルモンの変化により免疫が低下するため、生活環境を清潔に保つ必要があります。ヒート中は、行動や反応に違いが出る場合もあります。散歩に行きたがらないことや不従順になることもありますが、ホルモン変化による一過性のものなので、ある程度考慮して接してあげてください。詳しくは後述しますが、胎児の生育に必要な栄養管理もしなくてはなりません。

出産の主なリスクとしては、新生児の死亡、児頭骨盤不均衡による帝王切開、大量出血、未熟児出産、奇形などがあります。これらのリスクは、高年齢、太り過ぎ、やせ過ぎなどの体型によって高まる傾向があります。また、高血糖や高血圧など体調に問題がある場合もリスクが高まります。

愛犬の繁殖適正

繁殖には健康な母体でなければならないことは言うまでもありませんが、交配や出産によるリスクを回避するため、交配を行う前に母体の健康診断と先天的な問題をチェックしておく必要があります。

健康診断項目としては、
  • 血液検査(栄養状態・血糖値・肝機能など)
  • ブルセラ症検査
  • 触診(膝蓋骨脱臼・泉門異常など犬種特性の先天的弱点を確認)
  • 検便(内部寄生虫)
  • 子宮や産道の異常(女の子の場合)
  • 停留睾丸(男の子の場合)

その他の適正については、
  • 適正年齢(小型犬:18~72カ月、中型犬:20~66カ月、大型犬:26~60カ月)
  • 体格(犬種標準より小さすぎないか)
  • 体型(太り過ぎやせ過ぎはないか)
  • 性格(極端な問題行動が無いか)

これらの他、遺伝性疾患の検査としてDNA検査をしておく必要があります。現在わかっている範囲でも遺伝性と考えられる犬の疾患や形質は、499の症例があります。この内、DNA検査が可能な症例は、おおむね50症例にまつわる検査です。それぞれの犬種特性により、特に重要とされる症例については、交配前に検査をすることによって、子犬への遺伝的なリスクを知ることができます。

どんな動物でも五体満足であることは生涯の幸せに大きく影響します。産まれてくる子犬の生涯を考えた時、これらの遺伝適正に疑問がある場合は、繁殖するべきではありません。遺伝適正の確認や判断は、生まれてくる子犬の生涯に責任を持つ上で、最も重要なことといえます。

犬の交配の手順と流れ

交配を行うには、相手探しをして発情のタイミングを合わせる必要があります。

相手探しの方法

交配相手はウェブ検索で探すか、知り合いのブリーダーに相談する流れが一般的です。交配はコツがあるため、依頼先はプロのブリーダーや獣医師となるでしょう。一般の飼い主さん同士で交配する場合は別ですが、プロに依頼する場合、原則的に女の子の飼い主さんがブリーダーの男の子に交配を依頼するのが一般的で、男の子の飼い主さんが女の子に交配を依頼するケースは成立しません。

生まれてくる子犬は、母親と父親の遺伝的影響を受けることになります。従って、母親同様に父親の遺伝的リスクについてもチェックする必要があります。ブリーダーだからといって、必ずしも遺伝的に望ましい父犬を保有しているとは限りません。プロのブリーダー所有の男の子であっても、できる限りの繁殖適正の確認は必要です。遺伝適正の質問に納得できる回答が得られない場合、見送るべきかもしれません。

交配相手は見た目の可愛らしさだけで決めるのではなく、遺伝適正の確認や遺伝の管理をしっかり行っているブリーダーの男の子を選ぶことが賢明な選択です。交配相手は、ヒートが来る前にあらかじめゆとりをもって探しておくといいでしょう。
遺伝子検査の様子


犬の発情

適正年齢になって交配を実施するタイミングは、ヒートが始まってから10日前後となることが普通です。通常は、6カ月~8カ月周期でヒートが来るので、ヒートを見逃さないように観察する必要があります。一番分かりやすいヒートの発見は、陰門からの出血です。トイレやベットマットの血痕を見つけたらヒートを疑がってください。

ヒートに気付いたら、動物病院や依頼するブリーダーに連絡を取り、膣スメア検査の時期について相談するとよいでしょう。受胎するためには、排卵日を予測してタイミングよく交配することが最も重要です。綿密に専門家と連携を取ることが成功のポイントとなります。犬の発情について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

犬の交配の方法

交配は、膣スメア検査や陰部の状態などを観察し、排卵日を探りながらおおむね2~3回行います。交配の方法は、大きく分けて以下の三つの方法があります。

自然交配

文字通り、自然界で行われる通常の交配方法です。自然交配は、まれに相性や男の子のコンディションによってうまくいかないケースがあります。また、女の子側に交配によるストレスが生じることがあります。

人工交配

人工交配は、男の子の精子を採取し、シリンジやカテーテルによって膣内に精子を注入する方法です。交配の際に生体間の接触がないため、感染症リスクが少ない方法です。また、交配によるストレスはほとんどありません。

人工授精

一般的には、レアケースですが、卵子に精子を注入する外科的手段の交配方法です。産まれた子犬の血統証明書登録のルール設定(JKC)のため、日本では、輸入凍結・解凍精子に限り2008年1月1日から運用されています(全犬種適用)。国内犬の凍結・解凍精子による人工授精は、2013年1月1日からブルドッグフレンチブルドッグに限り、条件付きでJKCの血統証明書が発行されるようになり、事実上の運用が可能となりました。血統管理の観点からは、その他の犬種に関する人工授精は認められていません。

犬の出産までの準備とプロセス

トイプードル
出産までの準備とプロセスとして、食餌量の管理や出産に向けたケア、生活上の留意点、着床の確認を解説します。

食餌量の管理について

交配により受胎が確認できるのは、早くても交配から40日ほどしてからしょう。受胎していればその間も胎児が成長していることになりますから、念のため胎児の成長や母体に必要な栄養を取らせておかなくてはなりません。

交配後は、タンパク質や脂質を多く含み、カルシウムや葉酸など妊娠に必要なミネラルやビタミンが含まれたフードを与えることが必要です。以下の通り、妊娠の過程で必要な量も大きく変化します。
  • 給餌量の変化(平常時を100%として)
  • 妊娠1週から4週まで:110%
  • 妊娠5週から6週まで:140%
  • 妊娠期後期:190%
  • 授乳期:220%
ただし、着床頭数によっては栄養過剰により過大胎児にならないよう、妊娠後期から体重推移をみながらコントロールする必要があります。

出産に向けたケアについて

ヒート(生理)中は、ホルモンの変化により免疫が低下します。感染症予防のため、「他の犬との接触を控える」「生活スペースを清潔に保つ」など、普段よりも衛生管理に気を付ける必要があります。交配して安定期になるまでの3週間程度は散歩や平坦な場所での運動は問題ありませんが、激しい運動をさせないようにします。特に飛び跳ねや飛び降りなどの衝撃は、着床の妨げとなるため注意する必要があります。

交配から妊娠の安定期入るまでしばらくの間、トリミングシャンプーができません。交配前に短めにカットして於いた方がいいでしょう。

交配から妊娠までの生活上の留意点

交配から3週目までの妊娠初期は、受精卵が子宮に着床をするかどうかの大切な時期です。この期間は、流産しやすい不安定な期間となります。そのため他の犬と激しく遊んだり、腹部を圧迫するような動き、飛び跳ね、シャンプー、トリミングなどは控えるようにしましょう。ストレスも着床を妨げる要素となりますので、適度にお散歩をしたり、コミュニケーションの時間を増やしたり、愛情を傾ける時間も大切です。

妊娠中の冷えは、免疫低下や正常な代謝に影響します。室温は、26~27度程度に調整しましょう。妊娠期間中は胎児への影響のため、ワクチン接種や投薬に制限があります。交配を行う前には、必ずワクチネーションや駆虫を済ませておきましょう。

着床確認

受胎からおおむね63日が出産予定日となるのですが、前述のとおり複数回交配するため、受胎日を特定できません。初日の交配日を基準に計算し、45日目位から腹部のハリ、乳首の肥大が見られることで、着床が確認できることがあります。見た目から分かりにくい場合は、同時期にエコー検査やレントゲン検査で確認してください。詳しくは以下の記事をご覧ください。

犬の出産介助

初日の交配から55日目にレントゲン検査によって胎児の頭数、胎児の大きさを確認しておきます。胎児の頭数を知っておくことで、出産のプロセスごとの時間やすべての胎児が生まれ、出産が終了したことが認識できます。胎児の大きさの確認は、頭がい骨の大きさと骨盤の幅を比較し、正常な自然分娩ができるかを確認します。同時に胎児の頭からしっぽの付け根までの長さからおおむねの胎児の大きさを確認することで、正常な自然分娩ができるサイズであるかを確認します。

犬種や母体の体格などを考慮して判断しますが、専門的な判断が必要なため、獣医師の見解をよく聞いておきましょう。

犬の出産は正常な場合でも人の手による介助が必要です。出産にはさまざまなトラブルの可能性があるため、目を離さずに監督し、異常事態に備えなければなりません。難産など母体や胎児に危険がある場合、直ちに帝王切開を行う必要があります。犬の出産について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

生まれた子犬(幼齢犬)のお世話

トイプードルの赤ちゃん
交配を行う上で最も大変なことは、産まれた子犬のお世話でしょう。出生して14日程度までの子犬はとてもナイーブです。体重推移、排便や排尿の状況、室温管理、移行抗体や免疫の管理など厳密に行われていないと死亡するリスクが高まります。特に生後7日までは、排便、排尿をさせた後の体重推移を3時間単位でモニターすることが望ましいでしょう。幼齢犬のお世話が交配をお考える際の最も大きなハードルとなっています。

普通分娩の出産介助や幼齢犬の飼育は、ブリーダーや獣医師と特別な人間関係がない限り、ほとんど依頼できるところがありません。どうしても依頼先が見つからない場合、以下の連絡先からご相談ください。

犬の交配に掛かる費用

犬の交配には、交配料や交配証明書の交付、医療費などの費用が掛かります。

交配料金

受託するブリーダーによって費用は異なりますが、おおむね5~10万円程度の交配料がかかります。

着床しない場合や死産の場合

交配料は、着床の有無に関わらず交配を行うことに対する費用なので、着床しない場合や死産となった場合でも支払う必要があります。ただし多くの場合、着床しなかったときは次回のヒートの際に無料または低価格でリトライできる契約が多いようです。

交配証明書(一胎子登録証明書)

交配を行った証明として、男の子の所有者が交配証明書を交付します。交配証明書は血統証明書登録に必要なもので、血統証明書の発行団体によって書式やルールが異なります。日本では、社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)の血統証明書がスタンダードですが、愛犬が他の団体の血統証明書である場合、子犬の血統証明書が発行されないことがあるため、あらかじめ確認しておく必要があります。

医療費等

犬の交配や出産は、さまざまな検査や医療行為が伴います。生まれた子犬の犬籍を登録するための費用も必要となります。主な検査項目と費用は以下の通りです。
  • 母体の健康診断(5000~1万5000円)
  • ブルセラ症検査(2000~3000円)
  • DNA検査(5000~1万8000円)
  • 検便(1000~4000円)
  • 膣スメア検査(2~3回程度)(2000~3000円/1回)
  • エコーおよびレントゲン検査(1~2回)(5000~1万円/1回)
※費用は目安です。医療機関により大幅に異なることがあります。

医療行為は、状態によって大幅に異なりますが、以下に代表的なケースを記載します。
  • 帝王切開(5~10万円)
  • 陣痛促進(4000~6000円)
  • 出産介助(7~8万円)
  • 幼齢犬保育(2000~3000円/1泊)
※費用は目安です。施術内容や医療機関により大幅に異なることがあります。

血統証明書登録費用

血統証明書は、生まれた子犬の犬籍を登録できる制度です。血統証明書により純粋犬種であることや両親からさかのぼって3代祖の先祖犬が記録されます。子犬が大人になり、血脈を残す際にとても重要となります。産まれてくる子犬とその子孫の将来のため、血統証明書の登録をお勧めします。

発行団体は多数ありますが、日本で最もスタンダードな発行団体は、社団法人「ジャパンケネルクラブ」(JKC)です。JKCは国際公認血統証明書であることから、海外でも通用する証明書となります。

血統証明書を登録するためには、発行団体に加入し、所定の届け出しが必要となります。産まれた子犬を登録する際に必要な届け出しと費用は以下の通りです。
  • 入会申込み(入会金2000円)
  • 年会費納付(1年目4000円)
  • 犬舎名登録(国際犬舎名登録料金を含む6600円)
  • 母犬の名義変更(3400円)
  • 一胎子登録(子犬1匹に付2200円)


避妊のメリット、デメリット

交配を行わない場合、あるいは1度の出産以降に避妊を考える際、知っておくべき避妊手術のメリット、デメリットがあります。避妊手術は、卵巣のみを摘出する場合と子宮と卵巣を摘出する術式があります。全身麻酔で、腹部を2~3cm切開して摘出します。手術による体の変化は、子宮や卵巣にまつわる疾患リスクが無くなるメリットや、ヒートのお世話が不要となることが挙げられます。当然ですが、不慮の妊娠を防ぐことができるメリットもあります。

デメリットとしては、生殖器官を切除しますので性ホルモンの分泌が無くなります。性ホルモンは、骨の形成に影響するため、骨粗しょう症のリスクが高まり、心臓血管肉腫のリスクが5倍になるというデータもあります。開腹手術は神経や血管が集中している腹部にメスを入れる訳ですから、手術そのもののリスクが伴います。避妊手術については、獣医師と相談し、十分理解した上で行いましょう。

不妊の予防

犬

犬も体質により、不妊や妊娠しにくい場合があります。体質が起因した不妊の場合、妊娠はとても困難です。体調や栄養状態が原因で妊娠しにくい場合は、生活環境を改善することで不妊の予防となることがあります。主な不妊の原因や予防について解説します。

栄養不良(栄養不足や栄養バランスが望ましくない場合)

犬と人では、3大栄養素のバランスや必須ビタミン、ミネラルに違いがあります。体質により不足しがちな栄養成分があることもあります。母体に必要な栄養量やバランスに注意することが重要です。

体型(太りすぎや痩せすぎ)

太りすぎや痩せすぎは、着床率が低下する傾向があるとともに、健康な出産の妨げとなることがあります。日頃から標準的な体型を維持するように、運動や給餌量をコントロールすることが効果的です。

ストレス

ストレスは、あらゆる体調不良の要因となり、正常な排卵や胎児の生育にとって大敵です。運動やスキンシップ、快適な生活環境の整備など適度に欲求を解消しておくことが必要です。

感染症

ブルセラ・カニスやトキソプラズマなど病原微生物の感染によって不妊となることがあります。散歩中やドッグランで他の犬の便に近付かせないことや、フェロモンが出るヒート中の外出を避けるなどの注意が必要です。

犬の交配は、命に責任を持てるか熟慮してから

犬

愛犬の二世の出産は、素晴らしい出会いに感動を与えてくれることでしょう。繰り返しになりますが、交配を行うことは、産まれてくる命への責任が伴います。また、多くの苦労や手間が生じます。交配を行うには相応の覚悟がいることを認識し、熟慮して決断することが必要です。