猫の糖尿病|症状・かかりやすい猫種や年代・原因・治療法について獣医師が解説
糖尿病は人だけの病気ではなく猫もなり得ます。糖尿病になると多くの場合、一生涯にわたり治療と付き合っていく必要があります。愛猫が出している体の異常を早期にキャッチし、早い段階から治療に取り組んであげることが大切です。今回は猫の糖尿病について、獣医師の佐藤が解説します。
猫の糖尿病とは
糖尿病は、血糖値(血液中の糖度)が高い状態が続き、全身にさまざまな問題が生じる病気です。正常な猫では食事から接種した糖(グルコース)はインスリンというホルモンによって細胞に取り込まれ、エネルギーになったり、脂肪として蓄えられたりします。
しかし、糖尿病になるとインスリンの機能に問題が生じて高血糖になります。その状態が続くと全身で深刻な合併症が引き起こされます(ただし、人と同じではありません)。糖尿病は1型と2型の2つのタイプに分けられ、犬のほとんどが「1型糖尿病」なのに対して、猫はほとんどが「2型糖尿病」です。
- 1型糖尿病
- 体にインスリンを作る能力がほとんどない状態です。これは体の免疫システムが誤ってインスリンを作るβ細胞を攻撃し、破壊するために起こります。1型糖尿病は遺伝や自己免疫の問題により起き、猫では非常にまれです。
- 2型糖尿病
- 体にインスリンを作る能力があるものの、そのインスリンを適切に利用できない(インスリン抵抗性)、もしくは十分な量のインスリンを作れない状態です。これは、肥満や不適切な食事、運動不足など生活習慣の影響を強く受けます。
糖尿病になりやすい猫の特徴
どの猫種でも糖尿病になる可能性はありますが、ブリティッシュショートヘア、ロシアンブルー、ノルウェージャンフォレストキャットなどで多く見られる傾向があります。性別に大きな違いはありませんが、年齢では7歳を超えたシニア猫(老猫)で多くなります。生活習慣では「運動不足」や「肥満」の猫で糖尿病のリスクが高まります。高脂肪、高炭水化物の食事は避けるようにしましょう。
猫の糖尿病の症状
症状は糖尿病の進行具合によりますが、一般的に以下のような順序で現れることが多いです。
初期症状 | 多飲多尿、食欲旺盛 |
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中期症状 | 体重の減少、毛並みの劣化、運動量の低下 |
末期症状 | 神経障害、視力の低下、食欲の低下、黄疸、昏睡 |
糖尿病の初期症状
高血糖で吸収できなかった糖(グルコース)は尿とともに排出されますが、浸透圧(物質が濃度の高いところから低いところへ移動する力)によって水分が尿に引き寄せられて多尿になります。そして脱水状態を補うために多飲となります。食欲旺盛も糖尿病のサインかもしれません。これはインスリンが適切に働かず、体が十分なエネルギーを得られないため起こります。
糖尿病の中期症状
十分な食事量を取っているにも関わらず体重が減少する場合、糖尿病の可能性があります。これは体がエネルギーを得るために脂肪と筋肉を分解することで起こります。エネルギー代謝の異常は皮膚や被毛の状態を悪くしたり、運動量を低下させたりすることもあります。糖尿病の末期症状
高血糖の状態が続くと神経の損傷が起こり(糖尿病性神経障害)、ジャンプできない、立ち上がれない、よろけるなどの症状が見られる可能性があります。高血糖が眼の血管を損傷した場合、猫ではまれですが視力低下や白内障が見られることもあります。体が糖ではなく脂肪をエネルギー源として使用し始めると、その際にできる有害なケトン体が蓄積して血液が酸性に傾くケトアシドーシスと呼ばれる状態になります。本来は弱アルカリ性の血液が酸性に傾くことで、食欲不振や嘔吐、昏睡など全身でさまざまな問題が起こり、緊急性の高い状態になります。
皮膚や白目が黄色くなる「黄疸」が見られる場合、体が脂肪からエネルギーを得るため過剰な脂肪を肝臓に貯める「肝リピドーシス(脂肪肝)」が起こっている可能性があります。過剰な脂肪は次第に肝臓の機能を低下させ、胆汁(黄色い液体)の適切な排出ができなくなってしまうのです。黄疸は肝機能の低下を現す深刻なサインとなります。
高血糖≠糖尿病に注意
動物は身の危険を感じるとストレスホルモンが分泌され、肝臓に蓄えられていた糖(グルコース)が血流に放出されます。これにより血糖値が上昇し、「戦うか、逃げるか」に必要なエネルギーが筋肉や脳に供給されます。この状態を「ストレス誘発性高血糖」と呼びます。人間や犬でも起こりますが猫は特に起こりやすく、動物病院に行っただけでも一時的に高血糖になることが珍しくありません。高血糖だから糖尿病と決めつけ、本来する必要のないインスリン注射を打つと低血糖になってしまいます。猫の糖尿病は血糖値だけでなく、さまざまな情報をもとに慎重な判断をしなければいけません。
猫の糖尿病の原因
猫の糖尿病は、以下の要素が複合的に関係して起こると考えられています。
- 遺伝的要素
- 食事
- 肥満
- 高齢
- 運動不足
- ストレス
- 病気(膵炎、クッシング症候群など)
- 薬(ステロイドなど)
糖尿病の原因になる不適切な食事
猫は肉食動物のため、タンパク質を摂取することが最も重要です。炭水化物(糖質)を消化して効率的にエネルギーを作ることもできますが、高炭水化物の食事は肥満につながります。同様に高脂肪、高カロリーな食事も猫の体には良くありません。血糖値が急上昇(血糖値スパイク)してインスリンが大量に出る状態が続くと、細胞がインスリンに対する感受性を失い血液中の糖が取り込まれなくなってしまいます(インスリン抵抗性)。それを避けるために摂りたいのが食物繊維です。食物繊維は血糖値の上昇をゆるやかにし、腸内環境を整える働きもあります。
猫の運動不足解消
散歩をする犬と違い、室内飼育の猫を飼い主さんが運動させようとするのは難しいかもしれません。猫は縦の移動を好みますのでキャットタワーを設置したり、遊び相手になるよう多頭飼いしたり、以下のような動画を利用したりするといいでしょう。猫の糖尿病の治療法
糖尿病の診断は症状(多飲多尿、食欲旺盛、体重減少など)や血糖値(正常値は80-120 mg/dL)、血中のフルクトサミン値、糖化アルブミンなどの血液マーカー、尿糖や尿に含まれるケトン体の量などを総合的に診て判断します。猫の糖尿病は長期的な管理が必要な病気です。適切な治療と生活習慣の改善によって症状をコントロールできれば、血糖値を正常範囲内に維持することが可能です。そのための治療は「食事療法」「インスリン注射」「経口薬」が主な選択肢になります。
食事療法
猫に多い2型糖尿病では、インスリンの効果が低下するインスリン抵抗性が起こってもインスリン自体は問題なく作られていることもあります。この場合は食事療法だけで症状をコントロールすることができます。具体的には、高タンパク、低糖質、高繊維(肥満の場合)の療法食を使いながら適正体重を目指します。
ただし、療法食は総合栄養食と比べて特定の栄養が過剰、もしくは不足の状態であるため、糖尿病とは別の問題が起こる可能性もあります。療法食は動物病院で体の状態を定期的に確認しながら与えるようにしてください。飼い主さんの判断で療法食を意識した手作りごはんを与えたり、予防として療法食を与えることは勧めません。
インスリン注射
体内で作られるインスリン量で血糖値を下げることができない場合、体の外からインスリンを補給する必要があります。そこで1日に1~2回、ご家庭でインスリン注射を打っていただきます。過剰なインスリン注射は低血糖につながるため注意が必要です。低血糖は一刻を争いますので応急処置(ハチミツや砂糖を水に溶かして口に少量含ませる)ができる準備をしておきましょう。また、前述した「ストレス誘発性高血糖」や特定の条件下(ストレスや他の病気など)で一時的に糖尿病の症状が出たり、適切な治療で一時的に症状が出なくなったりする糖尿病の場合、インスリン注射で低血糖になるリスクもあります。インスリン注射は適切な診断と定期的なモニタリングの上で行わなければいけません。
糖尿病の薬(血糖降下剤)
人の糖尿病ではインスリン抵抗性を改善したり、尿中への糖排出を増加させて血糖値を下げたりする薬が使われますが、猫でも同じように経口の血糖降下剤(グリピジドなど)を使用する場合があります。定期的な血糖値のモニタリング
糖尿病の状態を管理するために、定期的に血糖値をモニタリングすることが必要です。それは家庭で行うこともありますし、動物病院で行うこともあります。糖尿病の予後
糖尿病になっても適切に管理できていれば進行を遅らせ、寿命に大きな影響を与えることなく過ごすことも可能です。しかし糖尿病の管理は簡単と言うことではなく、合併症を引き起こすリスクもゼロではありません。まとめ
猫の糖尿病は「2型」が多い
多飲多尿、食欲旺盛、体重減少に注意
肥満、高齢がリスクを高める
治療は食事療法が欠かせない