猫エイズ|症状・原因・人への感染リスク・治療法・予防法などを感染症専門獣医師が解説
猫にもエイズがあります。猫免疫不全ウイルス感染症が発症し、病気のステージが進行すると、猫の免疫機能を低下させ、他の病気にかかりやすくなります。人間のエイズと良く似ているので、猫エイズともいわれています。感染してもすぐに発症しないので、発病しないまま寿命になる猫や、発病しても長寿で死亡する猫も多いです。また、検査したり、ワクチンを使用することで飼い猫をこの病気から予防することでき、人間には感染しません。今回は猫のエイズの症状や検査・治療方法、予防法、多頭飼いの場合の注意点などについて、野坂獣医科院長の野坂昭文が解説します。
猫エイズとは
人の場合、ヒト免疫不全ウイルス(HIV;human immunodeficiency virus)感染によってHIV感染症や後天性免疫不全症候群(AIDS;acquired immunodeficiency syndrome)が生じます。これに対して猫の場合は、猫免疫不全ウイルス(FIV;Feline immunodeficiency virus)の感染によって、猫免疫不全ウイルス感染症、いわゆる猫エイズを生じます。
猫免疫不全ウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の仲間であり、ヒト免疫不全ウイルスの研究が盛んに行われていた1986年に米国ではじめて分離されました。仲間といっても、猫免疫不全ウイルスは人に感染しません。FIV感染症は、世界中に存在しており、もちろん国内にも存在しています。日本での感染率は10%から30%といわれています。
猫エイズの潜伏期間
FIV感染には、長期間の潜伏期、あるいは無症候期という特徴があります。FIVに感染した猫は、一般的に数年間、臨床症状が認められない状態が続きます。FIV感染症の病期は5つのステージがあります。臨床症状が最も多くみられる時期が、FIV感染症の末期であるAIDS期といわれる時期です。FIV感染症は感染後、このAIDS期になるまでの期間が長いのです。ここまでの潜伏期間が長いため、感染猫のなかには、飼い主さんが発症に気付かないまま寿命を迎える猫も存在するのです。
FIV感染猫の病期ステージと主な臨床症状
初期症状〜末期症状まで以下の5つの病期が存在します。
- AP期(急性期)
- AC期(無症候キャリア期)
- PGL期(持続性全身性リンパ節症期)
- ARC期(エイズ関連症候群期)
- AIDS期(エイズ期;後天性免疫不全症候群期)
AP期(急性期)
ウイルスに感染し、数週間で血液中のウイルス量が多量に増え、一時的に発熱、食欲不振、下痢などの症状を示しますが、その後正常になります。AC期(無症候キャリア期)
急性期に血液中で増えたウイルスの量が減少します。そのため、この時期を無症候キャリア期と呼びます。この時期が数年以上続くと考えられており、この時期のまま、生涯を終える猫も存在します。PGL期(持続性全身性リンパ節症期)
この時期に入ると、血液中のウイルス量が再度増加します。そして、全身のリンパ節が腫大していることに気づきます。この時期は、まだ臨床症状が見られない時期で、期間は数カ月間といわれています。ARC期(エイズ関連症候群期)
この時期に入ると、免疫低下がみられ、飼い主さんが異変に気づき始めます。臨床症状は、口内炎、上部気道炎、発熱、皮膚病変、消化器症状、体重減少、貧血などです。AIDS期(エイズ期;後天性免疫不全症候群期)
末期であるAIDS期は、免疫不全によってさまざまな症状を呈します。貧血、汎血球減少症、著明な削痩、衰弱、日和見感染、腫瘍、脳炎による神経症状などがみられ、この状態になれば死亡する確率が高くなります。FIV感染症の猫のステージが進み、AIDS期になれば、さまざまな症状が見られ、他の病気と鑑別診断することが難しくなります。また、感染しても、無症候キャリア期には症状を示さないため、病気に気づかないこともあります。そのため、定期的に健康診断を受けることで病気を発見したり、どの病期ステージにいるのかを確認することができます。
猫エイズの原因・感染について
猫免疫不全ウイルスはネコ科動物に感染し、人には感染しません。感染時期については、すべての年齢で感染し、年齢とともに減少するわけではありません。そのため、子猫に関わらず、すべての猫が感染の予防対象になります。
主な感染経路は猫同士の喧嘩による噛み傷に付着した唾液中のウイルスが体内に入る直接的な感染です。すなわち、行動範囲が広くなり、喧嘩する可能性が高くなれば、感染の可能性も高くなります。そのため、メスの感染率よりもオスの感染率が約2倍高く、室内飼育猫の感染率よりも屋外へ出る猫の感染率が約20倍高くなります。
また、唾液中のウイルスによって感染するので、猫同士の舐め合いや授乳、家庭で食器などのお皿を共有することでも感染します。そして、猫の口内に傷などの病変があれば、感染する可能性がさらに高くなります。その他の感染経路として、母猫が感染猫の場合に胎盤感染や経乳感染を引き起こすこともあります。
猫エイズの検査・診断方法
血液中の抗体を検出することで診断します。そして、国内には簡易キットが販売されていますので、動物病院内で採血し、その場で検査をすることができます。猫を飼育したとき、臨床症状があるとき、感染した可能性があるときや手術前などには検査しておくとよいでしょう。検査をして、抗体が検出されなくても、安心してはいけません。
感染し、抗体ができるまでに2カ月かかることもあります。したがって、しっかりと検査するためには、初めての検査から2カ月以上の間隔をあけて、もう一度検査することが必要です。子猫の場合、母猫の抗体を持っていることがあります。抗体がなくなる時期(およそ6カ月齢)が過ぎた時期にもう一度検査する必要があります。
猫エイズの治療方法・予後
主な治療方法は、抗ウイルス薬、抗炎症薬、免疫調整剤や二次感染を考慮した抗菌薬、抗真菌薬、駆虫薬などの投与です。これらの薬の副作用については、動物病院の獣医師によく話を聞きましょう。また、併発疾患のための対症療法も必要になります。治療中に免疫異常がみられた場合には、薬の投与量や回数をみなおします。猫エイズの予防
主な感染経路は猫同士の喧嘩による咬み傷からの直接感染です。したがって、猫を完全室内飼いにすることで、感染リスクが低くなります。また、この病気の検査があることを知り、1回だけでなく、複数回検査を行う必要が理解することで、しっかりと検査を行うことができます。
しっかりと検査を行い、感染猫をみつけることができれば、ワクチンを注射したり、感染猫を隔離したりすることで、他の猫への感染を予防することができます。
猫エイズに良い食事・サプリメント
発症猫に口内炎や歯肉炎、上部気道炎、消化器症状、貧血などがみられれば、食欲や食餌の量が減ってきます。その場合、ご飯の香りが強い食事や消化のよい高栄養の食事などを与えましょう。猫エイズに正しい理解を
今回の記事を読むことで、猫にもエイズがあり、それがどんな病気か理解することができます。また、複数回検査を行ったり、ワクチンを使用したり、感染猫と隔離することで感染していない猫を感染予防することができます。もしも、感染しても、すぐに発症しないことや、発病しないまま寿命になる猫もいること、発病しても長寿で死亡する猫もいることも理解することができます。病気を理解し、その他の感染症も含めて、予防していきましょう。