猫が暴れるのは病気? ストレス? 原因や対処法を獣医学的・行動学的に解説

猫が突然暴れてバタバタ走り出す! そんなことで困っていらっしゃる方はいませんか? 困るまではいかないにしても、暴れるように行動しているのを見たことがある飼い主さんは少なくはないと思います。それは正常な行動なのでしょうか? それとも何か病気なのでしょうか? 正常だとしたら、猫はそのときどういう気持ちなのでしょうか? 今回は「猫が暴れる」ことに注目して、獣医師の鵜海が原因や対処法を行動学的に解説します。

猫が暴れるときに考えられる原因

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まず、猫が暴れるとはどういう状況でしょうか? 一般的に「暴れている」と感じることとしては、「走り回っている」「手が出る(猫パンチ)」「鳴いている」ことが主に挙げられます。ではそういった行動が出てくる原因には何があるのでしょうか? そこで、暴れる原因によるパターン分類をしてみましょう。


パターン1. 猫は正常だが、身体的、精神的な活動のはけ口が欠如している。

暴れる原因として、まず猫自身が身体的、精神的に満足した生活を送れていないことによるものが挙げられます。そういった場合、猫は強くストレスを感じ、何かに八つ当たりしたり、大声で鳴いてみたり、自分の毛を過剰に舐めたり、スプレー行動をしたり、通常ではしない行動をみとめ、場合によってはそれが尾を追う行動や回転行動として出たり、その他の「暴れる」行動として出てくることもあります。

閉じ込められることに対して強い拒絶を示す「バリアフラストレーション」という場合もあります。バリアフラストレーションは「閉じ込められることへの恐怖症」ということもでき、例えば「クレートに閉じ込めることができない」「柵で仕切ることができない」といった状態を指します。

また、パニックや分離不安、音恐怖症などによって、「暴れる」といった行動を起こすようにもなります。 これらの行動の原因に医学的疾患が潜んでいるのであれば異常な状態から来るものといえますが、医学的疾患が無いのであれば猫は正常な状態であり、行動学的な治療が必要になります。


パターン2. 猫は正常だが、特定の行動パターンが強化されてしまった。

一部はパターン1の続きともいえ、狩猟行動や遊びの行動、尾追い行動、回転行動、関心を求める行動、懇願行動、トイレ後に異様なハイテンションになる、いわゆる「トイレハイ」などが強化されて、「暴れる」という結果になっている場合もあります。

パターン1も2も、医学的疾患があるわけではなく、猫の精神状態や行動の変化の一環として活動的になってしまう、つまり「暴れる」ことがあるわけです。

パターン3. 猫自身に問題がある。

パターン3は、医学的疾患によって「暴れる」場合に考えられる原因です。

  • 未避妊や卵巣遺残(発情が来てしまうことが原因となります)
  • 甲状腺機能亢進症(よくある症状として活動性亢進が挙げられます)
  • 門脈体循環シャント、門脈低形成(食後の血中アンモニア濃度の上昇による神経症状)
  • 脳神経疾患
  • 認知機能不全(認知機能の低下による不安恐怖感の上昇、見当識障害など)
  • 脳腫瘍(脳神経の異常や全般発作、部分発作)
  • 癲癇発作(全般発作、部分発作)
  • 先天性脳神経疾患(脳神経の異常や全般発作、部分発作)など……etc.

猫が異常に活動的な場合の検査・診断方法

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猫が暴れる場合の原因は前述した通りですが、次はそれぞれの診断方法について解説します。

パターン1の診断

パターン1の場合は、身体的もしくは精神的な活動のはけ口が欠如していることが原因ですので、猫の福祉や欲求が満たされているかどかで判断します。

そもそも猫ってどういう生き物なの? という方もいらっしゃるかもしれません。猫は

  1. 単独で生活する
  2. 警戒心が強くデリケート
  3. 視覚・聴覚・嗅覚を駆使してコミュニケーションを図る
  4. 捕食本能が備わっている
  5. 高いところを好む
  6. キレイ好き

という特徴をもっています。猫としての性質を十分に考慮されなければ、生活する上でフラストレーションを強く感じます。それらのバランスが崩れたときに場合によっては「暴れる」行動として、以下のような症状が出ることがあります。

  • 狩猟行動、遊びの行動:日常の遊び、狩りの様な遊びが足りているか。
  • 恐怖症、パニック、バリアフラストレーション:特定の不安や恐怖を感じるきっかけがないか。
  • 分離不安:親しい人が居なくなることがきっかけとなるか。
  • 尾追い行動や回転行動:身体的、精神的に満たされているか。

パターン2の診断

パターン2は特定の行動パターンが強化されてしまっているので、問題となっている行動を強化してしまうような要因がないかどうかにより判断します。

狩猟行動や遊びの行動、尾追い行動や回転行動、トイレハイなどは、これらの行動によって猫自身が何か報酬を得ることによって強化されます。例えば尾追い行動や回転行動、トイレハイなどによって気持ちが落ち着く場合は、猫にとってその行動自体が報酬となります。

関心を求める行動の場合は、特定の行動の後に飼い主さんが猫に関心を向けることによって強化されます。例えば、「走り回ったときに飼い主さんに追っかけられる(追っかけることが報酬となる)」「鳴いたときに飼い主さんに撫でてもらえる(撫でることが報酬となる)」などが強化する要因としてあります。 また、懇願行動の場合は、「扉をガリガリすると飼い主さんが開けてくれる(扉を開けることが報酬となる)」「ニャーニャー鳴くと飼い主さんが起きてご飯を用意してくれる(ご飯を与えることが報酬となる)」などが強化する要因としてあります。

パターン3の診断

パターン3は医学的疾患がある場合ですので、一般的な病院に行けばある程度までは診断がつけられるはずです。

未避妊や卵巣遺残を疑う場合は、手術歴や腹部正中に切開ラインがないかを調べます。もし卵巣摘出したかどうかわからない場合は、CT検査により卵巣があるかないか判断できます。甲状腺機能亢進症であれば一般的な血液検査のほか、血清中のT4(サイロキシン)という甲状腺ホルモンの濃度を測定します。

門脈体循環シャントや門脈低形成の場合は、一般的な血液検査のほか、食後のアンモニアや総胆汁酸の測定、エコー検査やCT検査によるシャント血管の確認、肝生検(門脈体循環シャントがなくて門脈低形成を疑う場合)を行います。

脳神経疾患の場合は、年齢、猫種、経過、状態、飼育環境などから総合的に判断したり、抗てんかん薬による治療的診断(てんかんがあることを想定して治療し、治療効果により診断をつけること)をしたりします。ただし、脳神経疾患に関してはMRIや脳波測定、剖検まで行わなければ確定診断には至らないことが多々あります。


暴れる猫の治療法・対策・治療薬

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さて原因がわかったのであれば次は治療と対策です。ここでは行動学的治療として、パターン1と2について解説します。パターン3については医学的疾患を特定し、それぞれ治療していきますので割愛させていただきます。

パターン1の治療法や対策

身体的、精神的な活動のはけ口が欠如していることが原因ですので、満たされていない欲求や猫の福祉を満たすことが最優先となります。例えば、日頃あまり遊ぶ時間をとってあげられていない場合は、今以上に遊んであげてください。不安恐怖を感じる接し方やそう感じる対象があるのであれば、取り除いてあげましょう。それであまり変わらない場合は、やらなければならないことが足りないか、パターン2や3を疑っていくべきでしょう。

パターン2の治療法や対策

特定の行動を強化しないようにすることが対策となります。例えば、猫が走り回ったときに飼い主さんが「大声で注意する」と、それが楽しかったり、嬉しかったりする子もいます。「大声で注意すること」が報酬になり、走り回る行動を強化しているかもしれないのです。

何か不安や葛藤やフラストレーションを感じていて、尾を追ったり回ったりすることでそういった気持ちが和らいでいるのであれば、その行動は猫自身にとって「不安感を取り除けた」という報酬となっているかもしれません。

猫によってもそれぞれの欲求の満足度は違うので、一概に「最低限1日これだけやったら猫が満足する」という基準はありません。猫がどの程度で満たされるか反応をみながら増減させましょう。

恐怖・不安・葛藤が原因と考えられる場合は、フェイシャルフェロモン(フェリウェイ®)や抗不安作用があるサプリメント(ジルケーン®)、抗うつ薬や抗不安薬を使用することもあります。特に、取り除けない恐怖・不安・葛藤があれば、お薬に頼らざるを得ないかもしれません。また、老猫の場合は認知機能不全(いわゆる認知症)の可能性も考えられます。そういった場合、まずは抗酸化成分を多く含んだサプリメント(AKTIVAIT® CAT)や頭脳を使わせる工夫(ビジーバディーや頭を使うおもちゃの使用)をすると良いと言われています。

特に活動的な猫種や年代

猫

一般的に活動的といわれる猫種は、アビシニアンコーニッシュレックスバリニーズベンガルキムリックデボンレックスなどが挙げられます(※)

あくまで経験測ですが、活動的な猫はそこまで食に貪欲でなく、どちらかというとスマートな子の方が多い印象があります。年齢はやはり若ければ若いほど活動的です。しかし、猫ごとに落ち着いてくる時期も違うので一概に何歳までには落ち着きますとは断言できません。少なくとも子猫が活発なのは元気な証拠ですので、遊びたい欲求を満たしてあげながら落ち着いてくるのを待ちましょう。

vetstreet.comにてenergy levelが最大のものを列挙。

猫が活動的にならないようにするための対応・対策

指を噛む猫

前項で「落ち着いてくるのを待ちましょう」と書きましたが、それは飼い主さんが猫のために最低限のことができていればこそです。必要最低限にしなければならないことは、「猫の欲求を満たしてあげること」と「十分な社会化をすること」です。

猫の福祉・生理的欲求を満たすためには水、ゴハンを十分に与えるのはもちろんのこと、トイレを猫の好みに合わせて常に清潔を保ち、好きな遊びを行い、好みの爪とぎを与え、安心できる関係と場所を提供しなければなりません。これに関しては「言われなくもわかっているよ!」という方がほとんどだと思います。

では社会化とはなんでしょうか? 犬のしつけで耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。社会化とは、人間社会で生活する上での必要最低限の情操教育を施すことです。もっと簡単に言うと、ちょっとやそっとのことではブレない心をつくる教育を行うことです。

「完全室内飼いの猫に社会化が必要なの?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。完全室内飼いといえど、動物病院には最低限行くことになるはずですし、場合によっては知人宅やペットホテルに預けたり、犬と一緒に飼うことになったり、家族が増えたりするかもしれません。そういった場合に上手く社会化されていない猫ですと、ちょっとした恐怖や不安から調子を崩したり、触ることができないような猫に豹変したり……といった問題が起こりやすくなります。

そういった問題が生じさせないようにするために行うのが社会化です。詳細に関しては本記事では述べませんが、社会化も暴れない猫にするために(もっと広く言うと人と猫が共生するために)必要な対策の一つであると頭の片隅にとどめておいていただければ結構です。

十分に対応対策しても、「ちっとも暴れる感じが減らない!」「原因がよくわからない!」という場合は他にできる対策がないか、思ってもみない原因がないかどうか、かかりつけの動物病院や行動診療の認定医に相談しましょう!(※「日本獣医行動研究会」公式サイト)。

猫が暴れるのは飼い主さんへのメッセージかも

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今回は行動学的観点から「暴れる猫」について書かせていただきました。毎度毎度述べていますが、交通事故や感染症のリスクが周知されたことなどにより、以前よりも完全室内飼いの猫が増えてきています。共同生活の中で、多少の暴れ具合であれば耐えられるかもしれませんが、かなり暴れられるといくら可愛い愛猫でも快適な共同生活は難しくなってきます。

走り回ったりすることもそうですが、動物のどんな行動であれ、その行動には生じる意味があります。猫たちは「病気を患っている」「人とのコミュニケーションが不足している」「生活環境に対して満足できていない」といった場合、異常行動や問題行動といった形で何かしらのサインを投げかけてきてくれます。そのメッセージを見逃さず、困ったことがあれば、まずは行動診療を扱っている獣医師に相談しましょう! この記事により、1人でも多くの人と1匹でも多くの動物が最良の形で共生できるよう願っています。

参考文献

  • 犬と猫の治療ガイド 2015 私はこうしている (SA medicine books)
  • 行動学「恐怖症」「パニック(パニック発作)」荒田明香著p1064-1070
  • VETSTREET内コンテンツFIND YOUR PERFECT BREEDより
  • 小動物臨床医のための5分間コンサルト 犬と猫の問題行動 診断・治療ガイド Debra F.Horwitz, Jacqueline C.Neilson著
  • 臨床行動学 森裕司 武内ゆかり 南佳子 著 株式会社インターズー出版

第2稿:2018年11月15日 公開
初稿:2016年3月23日 公開
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