犬のクッシング症候群|原因・症状・検査・診断・治療法・予防法などを獣医師が解説
犬のクッシング症候群は、副腎皮質ホルモンの過剰に起因する内分泌疾患です。症状が1つでなく、さまざまな症状がみられるため、診断方法や治療方法もそれぞれの犬で異なる複雑な病気です。犬に皮膚病や多飲・多尿・腹部膨満などの症状がみられても、食欲があるため、動物病院で診察しない傾向があるようです。しかし、この病気は突然死することもあるので注意が必要な病気なんです。今回は犬のクッシング症候群について野坂獣医科院長の野坂が解説します。
病名 | クッシング症候群 |
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症状 | 多飲多尿、多食、脱毛などさまざま |
原因 | 副腎皮質ホルモンの過剰 |
危険度 | 中。腫瘍が悪性の場合、一般に予後は悪い |
犬のクッシング症候群とは
クッシング症候群はアメリカの脳神経外科医のハーヴェイ・ウィリアムス・クッシング氏が、初めて「クッシング病」を報告したことからその名前がつけられました。
クッシング症候群は副腎皮質ホルモンの過剰に起因する病気です。副腎は「皮質」と「髄質」から構成されます。これらは機能的に異なります。
副腎皮質から合成・分泌されるステロイドである糖質コルチコイドは、生体を維持するために不可欠なホルモンです。このホルモンが体内で過剰となり、持続することで、さまざまな臨床症状あるいは臨床検査上の異常を示します。この状態を示した内分泌疾患の総称をクッシング症候群といいます。
クッシング症候群の種類
実際に副腎機能が高まった状態の「自然発生クッシング症候群」と、副腎皮質ホルモンを薬として過剰に投与した場合の「医原性クッシング症候群」があります。この2つは症状が似ていますが、機能が違っています。すなわち、「自然発生クッシング症候群」は、下垂体のホルモン異常で副腎が大きくなっていたり、あるいは腫瘍化して大きくなっていたりするので、本当に機能が亢進しています。しかし、「医原性クッシング症候群」は副腎が実際に萎縮しており、機能が低下しています。
クッシング症候群になりやすい犬種・年齢
クッシング症候群になりやすい犬種は以下などが挙げられます。
- プードル
- ダックスフンド
- テリア(すべての品種)
- ビーグル
- ジャーマン・シェパード・ドッグ
- ラブラドール・レトリーバー
また、中齢から老齢の発症率が高く、発症平均年齢は12歳(6カ月〜17歳の範囲)といわれています。性別に関係なく発症しますので上記犬種かつ中齢の場合は用心するに越したことはありません。
犬のクッシング症候群の症状
人のクッシング症候群の発症傾向は10万人に1人程度、猫では非常にまれです。そして、犬では500頭に1頭で、人や猫に比べ、比較的発症頻度が高いです。症状はさまざまですが、典型的な臨床症状は以下などがあります。
- 多尿
- 多飲
- 多食
- 沈鬱
- 腹部膨満
- 脱毛
- 筋肉虚弱
上記臨床症状だけでなく、「肺血栓塞栓症」「神経症状」「糖尿病」「膵炎」「皮膚感染症」「尿路感染症」「膀胱炎」「全身性高血圧症」などが続発することもあります。
犬のクッシング症候群の日常生活での注意事項
クッシング症候群に罹患している場合、日常生活で注意したいことは「シャンプー」と「ご飯の量」の2点です。
シャンプーのしすぎは皮膚に毒
シャンプーをしすぎることで皮膚バリアが障害を受けることがあります。シャンプーの仕方やその他、入浴方法や保湿の仕方、外用薬の使用方法などは動物病院の獣医師と相談しましょう。多食だからご飯の量を減らすべきか
食事は成分を考慮し、規定量を与えることをまず考えます。その次にご飯の量や回数を増減する場合は、動物病院の獣医師と相談しましょう。犬のクッシング症候群の原因
「自然発生クッシング症候群」には、大きく分けて「下垂体性(全体の80%~90%)」と「副腎腫瘍性(全体の10%~20%)」の2つのタイプがあります。
下垂体性クッシング症候群
下垂体性の副腎皮質機能亢進症は、脳の中の下垂体が腫瘍化し、副腎皮質刺激ホルモンを過剰に分泌します。すなわち、副腎へ糖質コルチコイドを作るように過剰な指令を送っている状態です。当然、その指令を副腎が受け取ると、過剰な副腎ホルモンが体内に放出されます。また、この病気は更に3つのタイプに分かれ、「下垂体小型腺腫(80%)」「下垂体巨大腺腫(15%)」「癌(5%)」のタイプがあります。
下垂体腫瘍自体は良性のことがほとんどです。通常、下垂体小型腺腫は内科療法に対する反応が良好ですが、下垂体大型腺腫は副作用が強く発現し、治療には危険性が高くなってしまいます。
また、ホルモンを大量に分泌するため、良性の腫瘍であっても、体にとって有害な腫瘍です。こういったホルモンを大量に分泌する腫瘍を機能性腫瘍といいます。癌については治療方法が完全にはわかっていません。そして、これらの鑑別にはCT検査が必要です。
副腎腫瘍性クッシング症候群
副腎腫瘍性の副腎皮質機能亢進症は、副腎が腫瘍化した状態です。腫瘍化していますので、糖質コルチコイドが過剰に産生されます。副腎皮質刺激ホルモンによる指令は関係なく産生します。副腎の腫瘍は、悪性と良性の割合が半分ずつです。この病気の鑑別には、エコー検査とCT検査が必要です。
犬のクッシング症候群の検査・診断
飼い主さんが獣医師に症状を伝えることで、仮説がたてられやすい病気です。例えば「多飲」「多尿」「多食」「腹部膨満」「左右対称の脱毛」などです。
次に、「医原性クッシング症候群」かどうかを判断するため、副腎皮質ホルモンの投薬歴を確認します。また、血液検査や血液生化学検査、血圧検査、尿検査、レントゲン検査を行います。
その後、クッシング症候群なのかどうかを診断するために、ACTH刺激試験(※)や低用量デキサメタゾン抑制試験(※)を行います。下垂体性クッシング症候群か、あるいは副腎腫瘍性クッシング症候群かどうかを診断するために、エコー検査を実施します。さらに、CT検査を行うこともあります。
※ACTH刺激試験:副腎皮質刺激ホルモンをわざと注射し、注射前後の血液中のコルチゾールの量の変化をみる試験のこと
※デキサメタゾン抑制試験:「デキサメタゾン」という薬を服用後、血液中のコルチゾールの濃度、または尿の中のコルチゾールの濃度などを翌日に測定する検査のこと
犬のクッシング症候群の治療法
主に「内科療法」での治療になります。トリロスタンやミトタンといった飲み薬で副腎皮質ホルモンの産生を抑制します。治療薬に対する反応には個体差があるので、個体ごとの投薬量で治療します。
その他に、「外科療法」や「放射線治療」も行うこともあります。癌の場合を除き、ほとんどの場合は寿命をまっとうできます。
犬のクッシング症候群の予防方法
腫瘍性疾患は、食事の見直しや運動不足の解消などでなりにくくする(予防する)ことはできるかもしれません。しかし、完全に予防することはできません。クッシング症候群の症状を疑う場合、早めに病院に行くようにしましょう。また、定期的な健康診断を行うことで、早期発見、早期治療につながります。
犬のクッシング症候群は早期発見を心がけましょう
犬のクッシング症候群は放置した場合、突然死することもある恐ろしい病気で、さらにさまざまな症状が複雑にみられます。診断方法や治療方法も1つではないことを理解していただいたら幸いです。
普段から愛犬の様子をよく観察することで、早期発見・早期治療につながります。この病気だけでなく、少しでも愛犬の変化や異常に気がついたら、速やかに動物病院へ連絡し、獣医師と診察方法や治療方法について相談しましょう。
参考文献
- Feldmanら, Canine and Feline Endocrinology & REPROD 3rd Edition(2003)
- Richardら, Small Animal Internal Medicine 4th Edition 2008