
【獣医師監修】犬の毛が抜ける脱毛の原因や病気は?病院に連れていくべき症状や治療法を解説
脱毛とは「生えている毛が抜けること」を意味します。健康な犬でも、生理的に毛が抜けることはあり「脱毛=病気」とは限りません。愛犬の脱毛が「生理的な脱毛」か「病的な脱毛」かを見分けることが重要です。今回は犬の脱毛(脱毛症)について、考えられる病気や治療法をシリウス犬猫病院院長の石村が解説します。
生理的な犬の脱毛症

犬は年に2回、体温調節をするために暖かくなる季節と、寒くなる季節の移り変わりの時期に毛が生えてきたり、抜け落ちたりします。この生え変わりの時期を「換毛期」と呼び、全体的に毛が抜けます。
犬種によっては、通年通して抜け毛が多いこともありますが、皮膚が丸見えになったり、毛艶が失われることはありません。
病的な犬の脱毛症の見分け方

皮膚の赤み、かゆみがみられた

脱毛部分が色素沈着している
- 皮膚が丸見えになるほど、毛が抜けていないか
- 脱毛以外に「痒み」「皮膚の赤み」「色素沈着」「ブツブツ」などの症状がないか
- 抜け毛の程度(皮膚が見えるくらいの脱毛なのか)
- 毛艶(ゴワゴワした毛になってないか)
- どの部分の毛が薄くなっているか(左右対称な脱毛ではないか)
愛犬が上記症状に当てはまる場合は病的な脱毛のサインです。
早急に動物病院へ連れて行きましょう。
犬の脱毛症で考えられる原因

毛の問題
遺伝的な原因などによって毛が脆くなってしまい、脱毛症を起こすこともあります。また、カビに感染して皮膚糸状菌症になると、毛が脆弱になり毛が抜け落ちます。
毛穴の問題
ダニによる毛包虫症や細菌による膿皮症、免疫疾患などにより毛穴が破壊され、毛が抜けやすくなり、かさぶたやフケとともに脱毛症を起こします。また、皮膚の血流が悪くなることによって循環障害が起こり、毛穴が萎縮して抜けることもあります。
毛周期の問題

トリミング後の脱毛
毛は生えて抜け落ちるという現象を繰り返しており「成長期 → 退行期 → 休止期」という一定のサイクルを繰り返しています。
何かしらの要因でこのサイクルに異常が見られると毛が生えてこなくなり、脱毛症を引き起こします。
原因としては「クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症状)」や「甲状腺機能低下症」などのホルモン異常や「栄養不良」「過度のストレス」などが考えられます。
ホルモン異常による脱毛の場合、左右対称性に生じることが多いです。
そのほか、毛刈りした後(トリミング後)に脱毛することもあり、これは毛刈りが刺激となって、毛周期が停止することにより生じます。
物理的な問題(痒み)
痒みや自傷行為により、物理的に毛が抜け落ちます。痒くなる皮膚疾患として「アトピー性皮膚炎」や「アレルギー性疾患」「疥癬などの感染性疾患(ノミ・ダニの寄生、細菌感染)」などが考えられます。
物理的な問題(ストレス)
ストレスにより、持続的に舐めたり咬んだりすることで、脱毛することもあります。ストレスの原因として、何か思い当たるものがないか探してみましょう。
「家族構成の変化」「同居動物との相性」「引っ越し」「運動不足」「スキンシップ不足」など、不安や不快に思うことが続いたりすることで、実は愛犬がストレスを抱えているかもしれません。
その他「アロペシアX」
アロペシアXは何が原因になっているかわからない脱毛症で「X」は原因不明という意味です。ポメラニアンに多く見られ、頭部と四肢の毛が残るのが特徴です。さまざまな治療法がありますが改善が見られないことも多く、一筋縄ではいかない脱毛症です。
犬の脱毛症の治療法

一般的に脱毛症はその原因に合わせた治療を行います。
「外部寄生虫が原因なら駆虫薬を使用」「細菌感染であれば抗生物質」「カビが原因なら抗真菌薬」と、治療を行います。
ストレスによる脱毛症の場合は可能な限りストレスになっている原因を取り除いてあげることが第一ですが、なかなかうまくいかないことも多いです。
抗不安薬などを処方する場合もありますが、できるだけ愛犬の気持ちに寄り添って、スキンシップの時間を多く取れるといいでしょう。
犬の脱毛症に良いフード・サプリ

毛の成長と維持にはタンパク質とカロリーが必要になってきます。栄養が不十分だと、毛は休止期へ移行します。
皮膚への栄養補給も大事になりますが、補給すべき栄養素としては大事なのは「必須脂肪酸(オメガ3、オメガ6)」や「ビタミンE」です。
「毛を生やす効果がある」といわれているサプリメントもありますので、試してみてもいいかもしれません。
サプリメントは副作用がほとんどないことが利点です。
犬の脱毛症は原因がさまざま

犬は年に2回「換毛期」があります
脱毛以外の症状があれば、病的な脱毛の可能性が高い
原因はさまざま考えられます
犬の脱毛に大事な栄養素は「必須脂肪酸」と「ビタミンE」です
美容上の問題のみで、QOL(Quality of Life、生活の質)に影響がない脱毛症があれば、残念ながら治らない脱毛症も存在します。
まずは原因を特定することが毛を復活させる第一歩となります。
少しでも愛犬に気になる点があれば、早めに動物病院に相談しましょう。
参考文献
- 岩崎敏郎監訳『犬と猫の皮膚疾患―カラーアトラス』文永堂出版
- 伊從慶太著『獣医皮膚科専門医が教える犬のスキンケアパーフェクトガイド』インターズー